『「守り」ではなく「攻め」の姿勢で臨む一年に』 経済産業大臣 枝野幸男

「攻め」の一年に向けて

新しい年を皆様と迎えられることを嬉しく思います。本年が、皆様にとって実り多い年となるよう祈念申し上げます。

昨年は東日本大震災、秋の数度の台風、そしてタイの大洪水など、自然災害の恐さを思い知る一年となりました。さらに、東京電力福島第一原子力発電所の事故により、福島県を始め広い地域に被害が及び、大変な御苦労をおかけしました。また、震災直後に計画停電を実施するなど、電力の需給も厳しい状態が続きました。私自身、内閣官房長官として、また、経済産業大臣としてこれらの事態に対処し、原子力発電所の安全確保の大切さ、エネルギーの安定的な供給の重要性を痛感いたしました。

こうした中、世界経済は不確実さを増し、欧州の経済危機と米国経済の低迷を前に、急激な円高が続いています。ドーハ開発ラウンドが停滞する一方で、二国間や地域内の経済連携や自由貿易協定が拡大しています。さらに国内では、少子化・高齢化の影響がいよいよ顕在化しており、現状を放置したままでは社会保障の安定的な提供や財政の健全化が滞って活気ある社会を営むことが早晩困難になります。震災前から抱えていたこれらの課題の解決に向け、今年は「守り」ではなく「攻め」の姿勢で臨む一年にしたいと考えています。

原発事故への対応と大震災からの復興

そのためには、まず、目の前の問題の確実な解決が不可欠です。昨年12月、東京電力福島第一原子力発電所の全ての原子炉が冷温停止状態となり、いわゆるステップ2は完了しました。しかしながら、原発事故で避難を余儀なくされた方々に豊かで活気ある暮らしを取り戻していただくまで、この戦いは終わりません。発電所内では、「中長期ロードマップ」に沿って廃炉に向けた作業が始まります。長い道のりですが、一日でも早く達成できるよう、安全・安心を第一に取り組みます。これと併行して、生活や事業の再建、健康管理、モニタリング、除染などを実施し、避難区域の段階的な解除を目指します。また、原子力損害賠償支援機構も活用し、損害を被った方々に東京電力から速やかに賠償がなされるよう努めてまいります。原子力被災者の方々の御苦労と御心痛を常に胸に刻みながら、こうした取組を進めてまいります。

事故の反省に立ち、全国の原子力発電所の安全確保を強化することも喫緊の課題です。原子力安全規制の強化に道筋をつけ、本年4月に設立が予定される原子力安全庁(仮称)にしっかり引き継いでいきます。ストレステストについては、原子力安全委員会やIAEAと協力して適切に実施します。点検済の原子力発電所の再起動は、地元の御理解が得られることが前提であるとの方針に変わりはありません。一方、この冬、そして今夏の電力需給が厳しくなると予想されます。計画停電を回避するため、供給力の最大限の積み上げを行うとともに、特に民生用・業務用を中心に省エネルギー・節電対策の強化を呼びかけてまいります。皆様の御協力をお願いいたします。

大震災からの復興に向けては、事業者の皆様が被災事業の再建に希望を持って取り組んでいただけるよう、資金繰り支援や二重債務問題の解消を重点的に実施します。必要な資金は累次の補正予算により確保されました。各地の地方公共団体や金融機関と連携し、個々の事業者の方々に丁寧に支援を届けていきます。また、地域の絆を支えにした事業再建を応援するため、引き続き、中小企業等へのグループ補助金等によって施設・設備の復旧・整備を支援します。被災地で新しい事業を産み出すことは雇用創出のためにも重要であり、東北地方、特に福島県を中心に医療分野や再生可能エネルギー分野の研究開発拠点を整備し、既に形成されている産業集積の拡大を図ります。

エネルギー政策のゼロベースの見直し

大震災からの復興を進めつつ、我が国が中長期的に抱える課題の解消に向け、「攻め」の経済産業政策を展開していきます。その第一の柱がエネルギー政策のゼロベースの見直しです。昨年、様々な立場の方の参画を仰いで総合資源エネルギー調査会基本問題委員会を新設し、年末に論点を整理しました。これを出発点に、エネルギー・環境会議と連携しながら国民的な議論を深め、今夏までに新たな「エネルギー基本計画」を策定します。特に、電力システム改革については、既に検討を進めている電気料金制度の見直しに加え、震災の教訓も踏まえた「開かれた電力市場」の構築に向けた検討を集中的に行います。

電力需給を早期に改善させるためには、エネルギー利用の合理化が有力な手段となります。省エネというと我慢する発想になりがちですが、私は、無理をせず同じエネルギーでより多くの付加価値を生み出す、つまり、エネルギー生産性の向上というプラス思考で取り組むことが重要だと考えます。蓄電池や自家発電、エネルギーマネジメントシステムなどの技術を活用したピークカット(使用最大時の電力需要の抑制)や、住宅・建築物の省エネ性能の底上げを進めるため、新たな制度の導入を図ります。今年は、再生可能エネルギーの固定価格買取制度がいよいよ始まります。地熱発電の普及に向けた補助を大幅に拡大するなど、支援策を総動員して新エネルギーの利用拡大を促進します。

天然資源の多くを輸入に頼る我が国にとって、その安定的な確保は極めて重要です。昨年末にまとめた「資源・燃料の安定供給確保のための先行実施対策」に沿って、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)による資源開発時のリスクマネー供給機能の強化や、災害時等の石油製品の安定供給に取り組みます。地球温暖化対策は、国際交渉に積極的に取り組むとともに、エネルギー政策の検討と表裏一体で進めてまいります。

活力ある経済の再生

「攻め」の政策の第二の柱が、活力ある経済の再生です。急激な円高や、これに伴う産業空洞化の懸念を克服するため、23年度第3次補正予算に5000億円規模の国内立地補助を盛り込みました。サプライチェーンの中核を占めながら代替が効かない部品・素材分野の海外流出を食い止めるため、予算の執行を急ぎます。また、国内自動車市場の活力維持のため、第4次補正予算で3000億円のエコカー補助金を創設しました。年度末に向け、中小企業の資金繰り対策にも万全を期します。

(1)潜在的な内需の掘り起こし
しかし、こうした「守り」の対策だけでは不十分です。現状の日本経済は、縮小均衡・じり貧が継続する、いわば「やせ我慢の経済」になってしまっているのではないでしょうか。この状況を脱し、新たな付加価値を創造し拡大する経済に転換することが必要と考えます。鍵となるのが「潜在的な内需の掘り起こし」です。少子化・高齢化やエネルギー環境問題による制約の存在は、観点を変えれば、これらを解消するための新事業のニーズがあるということです。経済産業省の試算では、こうした課題解決型産業で15兆円の消費拡大が見込まれます。潜在的な需要に応じた事業創造を制約なく促し、新たな雇用の創出につなげるため、経済産業省では新しい法律の提案を含め、支援策を増やしていく予定です。

活発な事業活動を支える環境整備にも努めます。法人実効税率については、復興財源としての期限付き付加税が課されるものの、引き下げが実現いたしました。車体課税や原料用途免税については、平成24年度税制改正大綱で、国際水準に一歩近づけるための措置を盛り込むことができました。これをしっかりと実現してまいります。我が国の競争力の源であるイノベーションの強化も手を緩めることなく進めます。平成24年度予算には、十年後、二十年後に向けた未来開拓型の研究開発を盛り込みました。これと併せ、研究開発税制による民間研究開発支援、国際標準の迅速な獲得や国際的な知財インフラの整備も継続します。

(2)グローバル需要の取り込み
活力ある経済を築くためには、成長著しい新興国を始めとする世界中の需要を取り込み、海外の富を国内に循環させることも重要です。日本が規格製品の大量生産で他国と価格を競える時代は終わりました。日本にしかできない、日本で創るからこそ魅力がある製品やサービスで海外市場を開拓していかねばなりません。その意味で、「クールジャパン」の推進をより多くの分野で展開したいと考えています。また、日本が強みを持つインフラ・システムや環境技術・製品の海外展開を促進します。

こうした輸出強化の土台として、主要貿易国・投資相手国との高いレベルの経済連携が重要となります。日韓・日豪EPA交渉を推進するとともに、日中韓FTAや、日EU・EPA、ASEAN+3、ASEAN+6などの経済連携を戦略的かつ多角的に推進し、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定については、昨年11月に決定した方針に沿って、交渉参加に向けて関係国との協議を進めていきます。貿易や投資の自由化による影響を懸念する意見もある中、経済産業省としては、それぞれの経済連携につき、担当する個々の交渉分野の効果を具体的に説明し、仮に懸念される影響があるならば、それをどのように緩和できるか提案していきたいと思います。

あわせて、資金の環流を妨げる制度の改善・撤廃も進めていきます。さらに、世界のグローバル企業のアジア本社や研究開発拠点の国内誘致を支援すべく、「特定多国籍企業による研究開発事業等の促進に関する特別措置法案」の早期成立を目指します。

(3)中小企業の支援
日本経済の活力を担う主役は何と言っても中小企業です。昨年末、中小企業政策審議会は、中小企業が持つ潜在力・底力を最大限引き出すための具体的施策を示しました。その中で、地域の金融機関や税理士の方々に、中小企業の経営支援の担い手としてこれまで以上に活躍していただくことを期待しています。このための法的措置を講じるつもりです。また、中小企業が培ってきたものづくり技術や日本独自の知恵・技・感性をいかした製品の海外展開も支援していきます。時代の転換点にある中、次の時代を担う新産業・新事業の芽は、中小企業にこそ存在します。その芽を見いだし、育てることを、「攻め」の経済を作る上での最大の課題と位置づけ、全力で取り組みます。

結びに
今年は以上の柱に沿って、「攻め」の姿勢で経済産業政策を運営し、国民の皆様の暮らしが生き生きとしたものとなり、少しでも将来に向けて「明かり」が差すよう、職員一丸となって努力していきます。一層の御支援と御協力を賜りますようお願い申し上げます。 

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