愛のない外食産業とクーポン

近年、よく見かける外食産業のクーポン。
簡単にいえばグルメ情報を扱う媒体に協賛している店の割引やなんらかのサービスを受けられるチケットのようなものだ。

「暑い! ビールを飲みながら肉が食べたい!」

我慢できなくなったのでコテコテの肉を食すべく、すでに高齢に達している身内をそそのかして、先日、近所の某外食チェーン店に行ってきた。

はやる気持ちを抑えてネットで開店時間を調べると、クーポンがあった。
そのクーポンは飲食代が一定金額を超えると会計時に1000円も値引きがされるものだった。

ヤッタ―――☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆―――!

「ねぇねぇ1000円も値引きされるんだよ、行こうよ!」と、肉をあまり食べたくなさそうな高齢者に1000円値引きを強調した私。

「高級店じゃないし、高くつかないから大丈夫だって! 白米をいっぱい食べるからさ!」と、暗に、①財布のダメージが少ないこと、②こちらから誘ったくせに支払いをする気持ちがこれっぽっちもないこと―――を匂わせた。

まんまと目的の店に行くことに成功し、席に座ると勢いよく注文した。すっかり欲望を満たした私は、膨れたお腹をさすりながら、なんともいえぬ幸福感に包まれていた。

(食った食った~~あぁ~~幸せ~~♪)

幸せいっぱい腹一杯、私のお腹はポンポコポン♪ 
財布は出さぬが割引クーポンがある。会計時に店員さんに提示した。

すると意外な答えが爽やかに返ってきた。
「あぁ、これは入店時に提示してくれないと使えないんですよねぇ」
 
なんですってぇええええええええ!!!!!!!!!!! 

一瞬にして“ムンクの叫び”にソックリな表情になったわれわれ。

「え? そんなこと書いてあったっけ?」
もう一度クーポンを確認する。
確かにクーポンには、入店の際に見せなければ効力がないとひっそり書いてあった。私は膝から崩れ落ちた。なんてこった!

肉とビールにすっかり支配されてしまった私の脳は、ド派手な1000円値引きの文字しか目に入らなかったようだ。疑い深い性質なので、このような文言には隅々まで目を通すはずだが、空腹になると注意力に欠けるという恥ずかしい癖がそのまま出てしまった。

まあ、これはこちらが見落としてしまったのだから、クーポンが使えなくても文句は言えまいが、フと疑問に思ったことがある。

もし、この店が客にサービスをする気があって、提供する食べ物が同じ量・クオリティのものであれば、サービスは一定金額を超えた場合、会計から1000円を値引きするというものだから、クーポンを食後に見せようが、入店時に見せようが、問題はないだろう、と言う点だ。
これだと、クーポンを先に見せたら質か量を低下させる、と、疑われても仕方ない行為だと感じる。遅出しジャンケンのようなアンフェア感が拭えないのだ。

最近、10年以上通っていたレストランでも不快なことがあった。
そこはサービスも良く美味しくて、私はここで食事をするのが楽しみだった。
ところが最近、ある日を境にスタッフがほとんど変わってしまった。噂ではオーナーが変わったらしい。

メニューと値段はそのままに、味が変わっている。簡単に言うと、食材をケチりはじめたのだ。私はシーザーサラダにアンチョビが抜かれていたのを見抜いた。魚介が使われていたピッツァもむきエビが半分にされていた。美味しかったレバーのパテも全く味が違っていたし、毎度、添えられているスライスして焼いたパンはクラッカーになっていた。

商売を続けていると苦しいこともあるのは当然のこと。生き残るためにはいろんな方策を考えなければならないことも分かる。でもこれじゃあ、あまりにも能がないんじゃないか。

経営難だったら、メニューをイチから考えるとか、色々考えることはあるだろう。メニューはそのままで食材をケチってクオリティを落とし、利益回復を目指す行為は、長年通っていた客を騙し討ちにするようなものだ。長年通っている客の舌は料理の味を覚えているんだぞ。

ははぁ・・・口うるさい近所の者より、小洒落たカップルなどに重点を置いて回転数を上げる作戦に出たんだな、と思った。お洒落な店なので、その手法もしばらくは通用するのだろうが、値段以上の付加価値を求めるのが人というもの。特にレストランの場合、店の味がリピートの決め手になる。

このレストランのある地域は、こぢんまりとしているけれど、同じような値段で素晴らしいサービスと味を提供するレストランがたくさんある。長年通っていた客を騙し討ちするような考えでは、客が離れるのは時間の問題であろう。

食べることは、人間の身体が生命を維持するために必要なこと。
だからこそ、食事は、楽しく、おいしく食べたいもの。
財布の事情もあったり、時間の事情があったり、健康上の問題があったり、その時の食卓は人様々で、毎日満足にいくことは難しい。

外食産業は、人間の根本に触れる商売だと思っている。客の空腹だった胃袋が満たされ、幸せな気分を味わえるようにと、そういった部分をもう少し大切にしてくれても良いのではないか。

値引きされればサービスの低下は仕方ないという考え方もあり、否定はしない。
だが、それ以前に、“フェアじゃない商売”は良くないと思っている。

どういうわけか、最近、この手の手法がまかり通っているようで、ものすごく残念だ。

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