平成29年 世耕弘成 経済産業大臣 年頭所感

(はじめに)
 平成29年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。
 昨年は、英国のEU離脱の動きなど、グローバル化への反発や既存の政治・経済の枠組みへの不満が世界各地で高まりました。この大きな変動の背景となる中間層の二極分化が進む中、世界で最も安定した通商国家・日本がリーダーシップを発揮し、自由で開かれた経済を守り抜くことこそ、世界経済の内向き志向を打破する鍵を握っています。

 これまで、日本はグローバル化によるメリットを享受しながら、勤勉な中間層の奮闘を梃子に、成長を続けてきました。世界経済の不透明感が増し、第四次産業革命による産業構造の変化に直面した今、中間層の不安を払拭し、未来に希望を持てる社会を作ることが、平和と繁栄の礎となります。

 世界的企業を一代で築きあげた松下幸之助は、こう言います。「他人の道に心を奪われ、思案にくれて立ちすくんでいても、道は少しもひらけない。道をひらくためには、まず歩まねばならぬ。心を定め、懸命に歩まねばならぬ。」
 日本は、保護主義の風潮に戸惑うことなく、今年もアベノミクスを力強く前に進めてまいります。

 日本が世界に先駆けて「成長と分配の好循環」を実現させ、持続的な成長モデルを提示します。第四次産業革命に対応した未来への投資を促進するとともに、働き方改革の実現、賃上げのための環境整備等により、全国津々浦々にアベノミクスの果実を分配し、中間層をしっかりと維持・強化してまいります。

 また、未来を見据え進化し続ける日本の姿を世界に示すため、昨年のリオデジャネイロからバトンを引き継ぎ、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて、日本の強みを伸ばします。その先2025年には、大阪・関西での万博の開催を目指し、立候補に向けた動きを官民で加速します。本格的な高齢社会やスマート社会の到来を前に、第四次産業革命がもたらす未来の姿を日本が提案し、この革命の中心地になれると確信しております。

未来への投資の促進

 安倍内閣が発足してから4年が経ち、名目GDPは約44兆円増え、雇用は110万人近く拡大し、企業収益は過去最高水準を記録するなど、経済の好循環は着実に回りはじめています。この好循環を加速させ、日本経済を成長軌道に乗せるため、未来への投資を進めます。

 まず、IoT、ロボット、人工知能といった技術革新があらゆる産業や社会生活を変革する「第四次産業革命」の実現に取り組みます。グローバルな競争を勝ち抜くため、人や物の移動、健康維持、ものづくり等の重点分野で官民の戦略となるロードマップを策定し、突破口となるプロジェクトで規制・制度改革や国際標準獲得を進めます。また、人工知能に関するグローバル研究拠点の整備、産学連携の強化、新たな知財システムの確立などにより、イノベーションを促進します。

 ITを活用した挑戦と表裏一体として、守りを固めることも重要です。電力等の重要インフラ分野におけるサイバーセキュリティ対策の強化や、人材育成のための拠点整備を進めます。あわせて、クレジットカードの安全性を高める改正割賦販売法の施行に向けた準備を進めるとともに、日本の技術の流出を防ぐため、機微技術の適切な管理を確保する仕組みを検討します。

 さらに、政権の大きなチャレンジである「働き方改革」に取り組みます。少子高齢化と産業構造の転換を前に、従来の日本型雇用システムの変革が急務です。第四次産業革命の鍵を握る技術を使いこなす「最先端の人材育成」、フリーランスや兼業・副業、テレワーク等の「柔軟な働き方」、「生産性の高い分野への労働移動」の3つをキーワードに、経済産業省が先頭に立って産業界を牽引し、働き方改革の輪を広げてまいります。

 アベノミクスの果実が全国津々浦々に届くためには、4巡目の賃上げが不可欠です。とりわけ、中小企業が賃上げしやすい環境を整えるため、下請取引の条件改善に引き続き取り組みます。親事業者が負担すべきコストを下請事業者に押しつけることがないよう、昨年末に関係法令の運用を強化しました。産業界に対しても、自主行動計画の策定を要請しており、本年はそれぞれの業界で着実に実を結ぶことを期待しています。

 日本経済の屋台骨である中小企業・中堅企業の生産性向上を力強く支援します。地域経済を牽引する事業に対して重点支援を行う新たな仕組みを構築し、予算・税制を総動員しながら未来投資を促進します。加えて、信用補完制度については、中小企業の資金繰りに十分配慮しつつ、信用保証協会と金融機関の適切なリスク分担を促し、中小企業の経営改善・生産性向上に一層つながる仕組みにします。さらに、中小企業の人手不足等の課題に対して、ITの活用等による生産性向上や、事業承継の支援体制を強化してまいります。

通商・対外政策

 各国で保護主義的な動きが広がりつつある今、自由・公正・オープンな自由貿易を基本姿勢とする通商国家たる日本の真価が問われています。アジアの「地域リーダー」として、TPPのように21世紀の経済実態に合わせた高いレベルの貿易・投資ルール作りを先導し、日EU・EPAの早期の大枠合意や質の高いRCEPの実現等に向けて、力を尽くします。

 今月発足する米国新政権と、普遍的価値を共有し信頼関係を築くため、働きかけてまいります。日米同盟は、国際社会が直面する課題に両国が互いに協力し、貢献していく「希望の同盟」です。トランプ次期大統領の下、日米間で様々な分野における協力を進め、世界の直面する諸課題に取り組んでまいります。また、「ロシア経済分野協力担当大臣」を兼務し、ロシアとの経済協力強化に全力を尽くしてまいりました。先月のプーチン大統領の来日に際しては、8項目の「協力プラン」の多くのプロジェクトが合意に至りました。日露両国首脳の強い信頼関係の下、両国が経済分野においてWin-Winの関係を発展させるべく、取り組んでまいります。資源国・新興国を含めた重要な二国間関係についても、エネルギー、インフラ、中小企業、健康・医療等の多角的な経済関係の発展を目指します。

災害からの復興

 昨年は、4月の熊本地震や夏の台風等、自然災害に多く見舞われました。被害に遭われた方に、心からお見舞い申し上げるとともに、引き続き、被災された中小企業への復興支援等に努めてまいります。

 東日本大震災からは6年が経とうとしていますが、引き続き、福島の復興は経済産業省が担うべき最重要課題です。住民の方々の帰還に向けては、これまで南相馬市など7つの市町村で避難指示解除が決定し、また帰還困難区域についても復興拠点を整備していく方針が決定されるなど、一歩ずつ前へと進んでいます。早期帰還に向け、インフラや生活環境の整備を加速し、事業・生業や生活の再建・自立に向けた取組を拡充するとともに、福島を未来のエネルギー社会をひらく先駆けの地とすべく、新たな社会モデルの構築に取り組みます。

 福島の復興なくして、東北の復興なし。東北の復興なくして、日本の再生なし。私も、着任以来、福島を3回訪れ、このことを痛感しています。昨年末に策定した「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針」に基づき、住民の方々の帰還に向けた環境整備を加速し、安心して戻れるふるさとを1日も早く取り戻せるよう、全力で取り組んでまいります。

エネルギー政策

 福島の教訓を胸に刻みながら、日本経済の根幹を支えるエネルギー政策を、着実に進めます。
 原子力については、依存度を下げながらも、安全性が確認された原発は、地元の理解を得ながら再稼動をするという政府の方針に沿って、活用してまいります。

 福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策については、「中長期ロードマップ」に基づき、国も前面に立って安全かつ着実に進めてまいります。一方で、東京電力は、非連続の経営改革に取り組み、その果実をもって、福島への責任を果たし、国民に還元していかなければなりません。東電改革の姿を、政府が認定する東京電力の「新・総合特別事業計画」の改定に反映し、その実現に向けて力を尽くします。

 エネルギー市場については、昨年4月の電力小売自由化に引き続き、本年4月にはガスの小売自由化が始まります。システム改革を貫徹するため、ベースロード電源への新規参入者のアクセス確保といった競争活性化のカギとなる仕組みや、安全・防災、廃炉・事故収束、環境への適合といった公益的な課題への対応が促される仕組みなど、総合的な制度改革を具体化します。

 資源の乏しい日本は今後も核燃料サイクルの推進を基本的方針としており、再処理等事業が着実かつ効率的に実施されるように取り組みます。高速炉サイクルについては、昨年末に決定した「高速炉開発の方針」を具体化するため、「戦略ロードマップ」の策定に着手します。

 昨年策定した「エネルギー革新戦略」に基づき、徹底した省エネ、再エネの拡大、新たなエネルギーシステムの構築を加速します。再エネについては、本年4月の改正FIT法の円滑な施行、系統問題への対応等に取り組みます。あわせて、産業トップランナー制度の拡充、複数事業者による連携省エネといった、投資を促す形での省エネ強化の仕組みを構築します。

 引き続き、最大のエネルギー源である化石燃料の安定供給確保にも取り組みます。現在の原油価格低迷は、石油・ガスの資源権益を獲得する好機です。改正JOGMEC法等を活用し、企業買収の促進など上流開発企業の国際競争力を強化するとともに、LNG市場の整備や取引柔軟化を進め、エネルギーセキュリティを更に強化します。

結言

 今年は、「酉」年。
 酉とは本来、酒壺を意味し、熟した果実を発酵させて酒を作る行為に由来したとされます。4年にわたるアベノミクスで種を蒔き、手塩にかけて育ててきた政策は、着実に熟してきています。本年こそ、熟した果実を収穫し、「デフレからの完全脱却」という成果を作りあげる年にするため、経済産業省一丸となって職務に邁進いたします。保護主義に揺らぐ世界の荒波を飛び越え、日本が大きく飛躍できるよう、その一翼を担ってまいります。

 皆様のより一層の御理解と御支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

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