刺激的な製造現場

町工場は町工場であるから、町工場の経営陣には町工場な日常が潜んでいる。
そこには決して大手メーカーの製造ラインではあり得ないだろう、くだらなさと切なさがあるのだ。

金属加工現場につきものなのは切粉である――――。

「俺はムカついた奴には必ず飛ばしてやったね(←切粉の意味)。近づいてきたら、一気に送りをかける」(注意:良い大人は決してマネをしないでください)

零細の加工現場における人間模様は単純かつ複雑である。混沌とした空間で淡々と作業をこなす者に必要なのは協調性ではなく集中力だ。営業マンが腰を屈みながら周囲に笑顔を向ける性質があるように、町工場における作業者は寡黙になり口下手になる(←このような人ばかりではないが)。

某地方都市――――。
機械部品を製造する町工場で刺激的な日常が繰り広げられている。

「あちあちあち熱っつい!! 後ろから降って来やがった!!!」
作業者がフェイスミルを使用していたらしく、降ってきたのは切粉だ。
制服が焦げたと主張するA氏。

熱で穴が! 恐怖の切粉スプラッシュ!!

(ちきしょう・・・・エンドミルで手を切ればいいのに・・・・)←心の声。

切粉をぶっ飛ばしつつ加工をした者は、腹が立つと即、行動に出る人物らしいが、口下手のほとんどは己の感情を表現する方法が言葉ではなく態度である。A氏は「先ほども出入り業者が気に入らなかったらしく、アルミを叩いて大きな音を出していた」と嘆いた。

切粉攻撃で作業着に穴があき、少しイライラしていたA氏はポケットの中から小銭を探した。きっと缶コーヒーでも飲みたいと思ったに違いない。ところがモソモソと探ったポケットから出て来たのは小銭ではなく切粉だった。


(ちっ、ポケットからも切粉が出てきやがった。なんかムカつく)

床に飛び散った切粉をジャリジャリと踏むA氏。彼の悔しそうに唇を噛む顔が目に浮かんだ。

そんなA氏に切粉を飛ばすチャンスが訪れる。ミーリング加工をするチャンスが巡って来たのだ。A氏はその心境をこう表現した。
☆゚ *。(✝`∀´)ケケケ

喧嘩覚悟で相手の安全靴の裏に切粉が食い込むよう密かに願いながら、何食わぬ顔をして切粉を飛ばすA氏。
(やったっ! 飛んで逃げた!)

A氏と周囲の戦いはまだまだ続くようである―――――。