第9回(平成23年度)新機械振興賞 経済産業大臣賞にマツダ「高圧縮比高効率ガソリンエンジン」

 機械振興協会(会長=庄山悦彦氏)は、平成23年度の新機械振興賞の受賞者を決定した。
 新機械振興賞は、従来の機械振興協会賞(昭和40年度創設)と中堅・中小企業新機械開発省(昭和45年度創設)を統合し、平成15年度に発足したもので今回が9回目にあたる。
 新機械振興賞の表彰対象は独創性、革新性及び経済性に優れた機械工業技術に係る研究開発およびその成果の実用化により新製品の製造、製品の品質・性能の改善または生産の合理化に顕著な業績をあげたと認められる企業等及び研究開発担当者である。

 今年度は、経済産業大臣賞に「高圧縮比高効率ガソリンエンジン」(マツダ)、中小企業長官賞に「省エネ型精密空調装置」(オリオン機械)、機械振興協会会長賞に「チップソーを用いた3次元加工CNC木工旋盤」(旭川機械工業/北海道立総合研究機構/旭川産業創造プラザ)、「1モーター2クラッチ式パラレルハイブリッドシステム」(日産自動車)がそれぞれ受賞した。
表彰式は平成24年2月24日、機械振興会館ホール(地下2階)にて行われる。

経済産業大臣賞 「高圧縮比高効率ガソリンエンジン」 マツダ

推薦:日本自動車工業会

●業績の概要
 近年ハイブリッド車や電気自動車の開発が活発化し、電気デバイスによる燃費改善技術の採用が進んでいるが、2020年時点でも自動車の多くは内燃機関を動力源として搭載していると考えられている。さらに、今後、アイドリングストップや減速エネルギー回生等の電機デバイスが量産効果によるコスト低減で普及していくと思われるが、その効果を十分発揮させるためには、ベースとなる内燃機関の効率向上が重要である。そこで、理想の燃焼を追求した高圧縮比の新燃焼コンセプトを中心に、吸廃棄システムや機械抵抗損失を徹底的に見直すことで、高効率で高トルクなエンジンを開発した。その結果、デミオクラス(1.3Lエンジン)では10-15モードで30㎞/Lという他社のハイブリッド車と同等の燃費を実現した。

●技術上の特長
 高圧縮比化によって効率向上を図る場合、全負荷付近において温度・圧力が高くなりすぎて燃料と空気の混合気が通常の点かプラグからの火炎伝播を待たずに自己着火するノッキングが発生し、激しい音やピストン溶損をもたらす。そのため、ノッキング防止のために着火時期を遅らせる必要が生じてトルクが低下するため、現行の圧縮比は10~11程度が商品化されるに留まっている。そこで、本開発では、高圧縮比化に伴い現れる点火前の化学反応を新たに見出したことにより、その活用と従来からのノッキング改善手法である急速燃焼と混合気冷却に最新技術を導入し、高圧縮比ガソリンエンジンを成立させるための燃焼技術を開発した。

 ①燃焼室形状によるノッキング改善
 高圧縮比化でノッキングが発生しやすくなるのは、圧縮比の向上に伴って燃焼室形状が扁平になり火炎伝播に障害をお呼びし燃焼速度が低下することにある。そこで、筒内流動を元帥させないことと、点火プラグ直下の初期火炎面をピストンに接触し難くして初期火炎をスムーズに成長できるよう圧縮比を14.5にして、ピストン頂部のキャビティーを考案し、燃焼速度の向上を図った。
 ②噴霧によるノッキング改善
 燃料と空気の混合気を噴霧の気化潜熱によって効果的に冷却して温度を下げるため、従来のスワールインジェクターから、噴射方向に自由度のあるマルチホールインジェクター(MHI)を新たに採用し、ピストンからではなく混合気から熱を多く奪える噴霧配置にした。その結果、ノッキングの発生しやすい吸気側の温度を平均で約10K低くでき、ノッキングを防止できた。
 ③排気系による出力/燃費向上
 低コストでハイブリッド車同様の燃費を得る為、冷却EGR(排気再循環)システムを開発した。EGRクーラで冷却された排気ガスを吸気に還流させ、自己着火発生までの時間を長くすることでノッキングの抑制とポンピング損失の低減を図り、3.5~5.0%程度の燃費改善を実現している。

●実用上の経済性
 エンジン本体の燃費を約15%改善し、デミオクラスでは10-15モードで30㎞/Lという他社のハイブリッド車と同等の燃費をモーターなどの大型の電機デバイスなしで実現することができる。そのため、燃費面のみならずコスト面・重量面からも大変経済的な車づくりに貢献できる。

中小企業長官賞 「省エネ型精密空調装置」 オリオン機械

推薦:長野県工業会

●業績の概要
 電子デバイスや精密加工機械ではより高精度に制御された温度かでの加工生産が要求されている。しかし従来の冷凍機とヒータを用いた温調制御では、消費電力が大きくなるという問題があった。この問題を解決するために、ヒートポンプバランス制御による省エネ型精密空調装置を開発した。ヒートポンプバランス制御とは、1台の空調機で冷房と暖房を同時に運転・制御しているイメージである。冷凍サイクル装置において、冷媒圧縮機の吐出側に配した制御自在バルブを備えた分配手段によって、過熱流路と冷却流路とを流れる熱媒体の分配比率を変更することにより、流体の過熱量と冷却量とを調整できるため、温度調整が可能になる。これにより、電気ヒータを用いることなく精度の高い温度調整ができ、従来の冷凍機とヒータを用いた温調制御方式により、最大80%の省エネルギー化を実現した。

●技術上の特長
 従来の冷凍機とヒータを用いた温調制御方式では、冷却器で冷やし、その後電気ヒータで加温し調整する。その際、電気ヒータは吸込空気温度より高い設定温度の場合を想定し、装置が保有する冷却能力の約1.5倍の容量のものを搭載しなくてはならないため、消費電力が大きくなるという問題があった。この問題を解決するために、ヒートポンプバランス制御による省エネ型精密空調装置を開発した。装置の冷凍サイクルにおいて、圧縮機の吐出側に配した電磁弁によって、加熱流路と冷却流路とを流れる熱媒体(冷凍冷媒)の分配比率を変更する(分流制御を行う)ことにより、加熱手段と冷却手段とを通過する温度調整対象の流体に対する過熱量と冷却量とを調節することができるため、精度の高い温度調整が可能となる。さらに冷却流路の凝縮器で放熱した熱エネルギーを加熱流路のヒートポンプ手段(蒸発器)で吸熱して圧縮機に戻すため、冷凍サイクルの能力が高くなる。この分を加熱流路に供給できるため、広範囲の温度調整が可能となった。また、電気ヒータを用いることなく温度調整を行うことが可能となり、従来の冷凍機とヒータを用いた温調制御方式より、最大80%の省エネルギー化を実現した。
 精密空調機PAPシリーズでは、18~30℃の広範囲温度設定域と±0.1℃を性能保証した高精度制御と、さらに設定温度に対して±7℃までの吸込空気温度に対処できる高機能精密空調機が実現できた。

●実用上の経済性
 従来の冷凍機とヒータを用いた温調制御方式と比較すると、小型精密空調機の2馬力クラス(処理風量:20m3/min)において、11.7KWの消費電力に対し3.2KWに抑えることに成功し、73%の省エネ効果を得た。また、軽負荷時には最大80%の省エネルギー化を実現した。
 その経済効果は、以下のように見積もられる。
 24時間運転/日、300日/年、従来機負荷率:85%、電力料:12円(電力会社8社の概算および平均値)/Kwhとすると、((11.7Kw×0.85Kw)-3.2Kw)×24時間×300日=48,564(Kwh/年間)
⇒582,768円/年間の節電が見込まれる。Co2(温室効果ガス)の削減は、以下のように見積もられる。
 48,564Kw/年間×0.410㎏/Kwh(電力会社8社の概算および平均値)=19,911(㎏Co2/年間)削減。

機械振興協会会長賞 「チップソーを用いた3次元加工CNC木工旋盤」 旭川機械工業/エーリンクシステム/北海道立総合研究機構/旭川産業創造プラザ

推薦:北海道立総合研究機構

●業績の概要
 本装置は、北海道立総合研究機構(道総研)林産試験場で研究開発された、高速回転するチップソー(丸のこ)の動きと主軸の回転をコンピュータ制御することにより複雑な3次元(3D)形状の加工ができるCNC(Computer Numerical Control)木工旋盤を実用化に向けて開発した工作機械装置である。実用化にあたっては、障がい者の方々にも簡単かつ安全に作業が行える装置として開発した。

●技術上の特長 
 椅子などの家具では、平面や縁系のみならず自由な曲面などの3次元的デザインを取り入れる蛍光があり、家具以外の木工クラフト品においても同様の傾向があるが、家具ほど進んでいないのが現状である。その原因は、形状を変更するときには新たに型を作り直す必要があること、厚みの熱い刃物を用いているので作用する力が大きく材料を破損させる恐れがあることである。そのため薄くて細い形状を加工することができないという問題があった。このような問題を解決するために、型の代わりにコンピュータ上で作られた3Dモデルを用いること、刃物の代わりに市販の丸ノコ、すなわちチップソーを用いることで解決した。
 開発したCNC木工旋盤は、安全確保のため、装置全体を箱状のケースに収納することともに、加工中は扉を開けることが出来ず加工終了もしくは非常停止にてチップソーが停止していないと開けることが出来ないといった安全装置(インターロック制御)の装備や市販のゲームコントローラーを用いての操作も可能とし、障害者の方々にも簡単かつ安全に作業が行える装置になっている。本装置では、材料の端面を自動検知し、端面を自動で切り落としてから、自動加工を開始するため、長さの不揃いの材料でも毎回位置合わせをする必要がない。また、正方形になっていない四角の角材や木材の端面が斜めにカットされたもの、他で使用されて残った半端材などを使用し、主軸のチャックに原材料をセットする際、主軸の中心に対して斜めにセットされてしまうことがあるため、水平・垂直にレーザーラインを材料に照射し、極端に材料が偏心しないように補助線を表示している。
 本装置は、一度の送りで直径1mmの円柱を切削することが可能であり、通常の木工旋盤では非常に困難な、らせん状のスクリューやねじれを加えたような形状の加工を行うことができる。

●実用上の経済性
 社会就労センターは全国に約2900施設あり、うち木工や工芸の事業を行っている施設は約800施設存在する。一施設あたりの木工機械に係る設備投資額を500万と想定すると、社会就労センターにおける木工機械の市場規模は約40億円と積算できる。その中でも、本格的に木工製品の製造を行っている中規模施設では、木工設備や専門スタッフが整備されており、テーブルの脚や木製玩具などの部品を製造するために本装置を導入したいとの意見を得ている。同様の施設は、全国規模では50施設程度あると推測され、将来的には障がい者施設だけではなく、本事業のノウハウを活かし、木工クラフト企業や職業訓練を行っている教育訓練施設など、さらに多くの市場に広がると予想できる。

機械振興協会会長賞 「1モーター2クラッチ式パラレルハイブリッドシステム」 日産自動車

推薦:日本自動車工業会

●業績の概要
 これまで様々なハイブリッド車両が開発されているが、1モータ2クラッチパラレル型は、走行中のエンジン停止・軌道、変速、発進などにおいて乗用車に求められるスムースさを実現することが難しく、普及していなかった。今回、独自のモーター制御技術、リチウムイオンバッテリーなどを開発することで、これらの課題を解決し、3.5Lエンジンを搭載する高級車において、1.5Lクラスの小型車並み燃費性能を実現した。開発した1モーター2クラッチパラレル型は、乗用車用古フルハイブリッドとして最も軽量シンプルで燃費特性に優れ、さらにトルクコンバータを廃し効率を高めた世界初のシステムである。

●技術上の特長
 1モーター2クラッチパラレル型は、エンジン走行時には、クラッチ1と2がつながり、エンジンの動力とモーターの動力によりパワフルな走りが実現できる。モーター宗浩司には、クラッチ1が切り離され、停止したエンジンがモーターと切り離されることによりモーターへの負荷がなくなり、低燃費な走行が実現できる。このように1モーター2クラッチパラレル古ハイブリッドシステムは工藤性能、燃費において優れた性能を示すが、エンジン始動時の振動等、スムースさに問題があった。この問題を解決するために、モーターのみによるスムースなシフトチェンジとエンジン始動、スムースな発進とクラッチ耐久性の両立を図る高速で正確なモーター制御技術を開発した。また、モーター制御に応える高出力で素早い充放電が可能なリチウムイオンバッテリーを開発した。
 発進制御において、高応答のモーター制御による回転速度とクラッチトルク容量の二つのフィードバック構成を採用することによりスムースさと耐久性を両立させている。すなわち、クラッチ2のトルク制御精度を向上させることにより、クラッチ耐久性が向上している。スムースさとレスポンスを両立するシーンでは、1秒に満たない時間に、6種のモーター制御要求に高精度で応答する必要がある。このような急な制御では、サージにより発振してしまうが、内部モデルをもつロバスト制御により高速且つ振動しないモーター制御を実現している。また、この制御は高速で電力の出し入れが可能な新開発のリチウムイオンバッテリー技術により、実現している。

●実用上の経済性
 本ハイブリッドシステムにより既存のガソリンエンジン車に対し大幅な燃費向上(+90%)を実現し、1.5Lクラス小型車並みレベルを達成した。また以下前提条件ではガソリンエンジン車と比較して年間燃料使用量▲464L削減、年間Co2排出量▲1068㎏削減となる。
(前提条件)
・ハイブリッド車19.0㎞/L(3.5Lガソリン、7AT)10-15モード
・ガソリン車 10.0㎞/L(3.7Lガソリン、7AT)10-15モード
・日本全国の年間走行距離:9,807㎞
・ガソリンのCo2排出量:2.3㎏/L

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