「安売りはしない!」現場がサジを投げる加工をやってのける日成工業の技術がすごい!

自動車や航空機、医療やエネルギー産業は次世代成長分野として期待されているが、これらの技術は年々高度化し、国際競争力を高めるための重要な役割を果たしている。

今では世界規模で経済性の高さと環境に配慮した製品が求められ、これらのニーズを満たすためには“軽量・小型化のための加工技術”が最も重要になる。

神奈川県川崎市にある「日成工業」(社長=野田照男氏 川崎市中原区宮内2-24-1)は、加工現場がサジを投げるほどの“難度の高い加工”をやりこなす試作加工メーカーとして高い評価と信頼を得ている。

「安売りをしない」という姿勢には、技術に裏付けられた自信と信頼があった。



他社がやらない難度の高い加工で、目先の100円よりも遠くの1000円を狙う!

航空宇宙分野で有名なあの会社の難度の高い加工。材料は高耐熱性に優れたPBI(セラゾール)だ。
航空宇宙分野で有名なあの会社の難度の高い加工。材料は高耐熱性に優れたPBI(セラゾール)だ。
同社をまとめている野田宜志営業部長は創業者である照男社長の長男である。
営業部長―――となっているが、技術屋でもある。過去に証券マンを経験したこともあって数字にも強い。要するに何でもやる。

同社の強みは、同時5軸加工などの複合加工や小径工具を使った微細加工で差別化を図っているところだろう。
“加工の駆け込み寺化”をしているだけあって、「忙しくて断っている案件もあるくらいだ」と野田部長は話す。

名前を出せないのが残念だが、誰もが知っている大手メーカー数社からも絶大な信頼を得ているうえ、最近の時流から増加している難削材や複雑形状の加工も、同業他社から注文が寄せられている。しかもその仕事は繁忙を極めており、嬉しい悲鳴をあげているのだ。

野田部長は、「厳しい時代にわれわれが生き残るために必要なことは難度の高い加工をやりこなすことです」と言い切る。

「現在、残念なことに価格が非常に下がっています。ですが先方が指定する値段で仕事を受けることはまずありません。先日も図面に値段が書いてありましたが、驚いたことにうちの半値の価格です。こういう場合は逆に値段を訂正して送り返すこともあります(笑)他所でもできる加工であれば、わざわざウチに持って来なくてもいい。技術の安売りはいたしません」(野田部長)

同社の優位性のひとつに“同時5軸加工”がある。

3方向の直進する軸に加え、旋回する2つの軸5つを同時に制御することができる同時5軸加工は、加工面や工具を連続的に角度変化させることができる特長を持つ。ワンチャッキングなので、段取り上での誤差が生じることもなければ、段取り工数の大幅な削減も可能だ。したがってマシンとワークが干渉してしまうような複雑形状の加工時間も短縮できるうえ、最適な方向から加工することで、能率よくクオリティが高い加工が実現するというわけだ。

この最新の設備に加え、独自の高度な“秘密のノウハウ”が加わり、取引先から“引っ張り凧”、“引く手数多”ともいえる難度の高い加工が出来あがる。

ここまで来るには、たくさん試練もあったようだ。受けた仕事以上に工具代金がかかってしまったことも代金を取り損ねたこともあった。そんな経験も「よい勉強でした」とポジティブに笑う。

“親の仕事はやりたくなかった”という理由から大学卒業後、証券マンとして働いた野田部長は、「20代は体力があるから数字に追われ、ノルマ解消のために必死でかけずり回ることもできますが、30代、40代になった自分を想像したときに正直しんどいと思った。給料が良くても面白くない、と思って株専門の出版社に転職したんですが、これまた〆切に追われる毎日に疲れ果てた。それでやっぱり親の仕事を手伝おうと思って、そこからは覚悟を決め、父や工場長にノウハウを徹底的に叩きこんでもらった。そのうち数値化する、自動化することに目覚めて、現在の状態に着手していったんです。もともと数字に強かったのが良かったのかもしれません」と当時を振り返る。

下請けの概念はない! 開発型中小企業ここにあり! 

町工場を取り巻く環境は厳しい。厳しいがゆえに、例えば「100万円の仕事を80万円でやって欲しい」と頼まれても「分かりました」と安請け合いをしてしまう会社が多いのが現状だ。適正な価格を無視した値下げ合戦は、結局、加工業界全体の低下に繋がってしまう。

「このような時流はいかがなものでしょう。自分の足を食べてしまうタコ足商売になりかねない。うちは絶対にそれをやりません。そのためには他ではできない技術を高め続けたいと思っています。お取引先が製品に適した材料を相談に来ることもあるので、常に一緒に考えていく・・・という姿勢を持っています。何度でもいいますが安請け合いは絶対にしません」(野田部長)

さて、大手メーカーからも技術相談を受ける同社だが、近年の産業トレンドといえば、エネルギー分野や医療分野などを思い出す方も多いと思うが、コスト競争力を視野に入れたエネルギー生産の高効率化によって、加工形状の複雑化は日々進んでおり、耐熱合金など難削材もますます増加する一方だ。医療分野においても安全性の高い材料と、複雑形状加工を可能とする複合加工技術が求められ、これらのニーズに対応するためには、高度な技術を持つ工場が必要不可欠になる。

それでは日成工業の加工品の数々をご紹介しよう。

写真(A)=5軸加工後に鏡面仕上げ。芸術的な作品だ。材料はアクリル、樹脂加工のレベルの高さが判る。
(B)=PI(セプラ)加工品。耐熱温度が460℃と非常に高く、材料も非常に高価。放射線にもっとも強い材料とされている。
(C)=ダブルギア(同時5軸にて一体加工)、電子顕微鏡部品である。
(D)=アルミ加工品(一眼レフカメラ部品、5軸加工)、NAK加工品(金型コアピン、同時4軸加工にて加工)。
(E)=バルブ部品、アミューズメント部品、自動車部品(同時5軸、同時4軸にて加工)。
(F)=微細加工品、真鍮、アクリル、PI(べスペル)など
(G)=PEEKの複合加工品。

写真はほんの一部である。守秘義務があるので、ほとんどが闇のベールに包まれているが、ここからでも難度の高い加工を知ることができる。誰もが知っている大手からのあんな仕事やこんな仕事の依頼も多い理由がお分かりになるだろう。

「だからといって、1社に依存するような下請け体質にならぬように気を使っています。経済は動いています。売上の多い1社に集中してしまうと、その1社の売上が落ちた時にとんでもない痛い目を見る」(野田部長)

町工場は守秘義務も多く、それが営業を阻害する要因のひとつでもあろうが、町工場の営業マンは「つくる製品」そのもの。精度の怪しげなシロモノを口先だけでうやむやにし、先方に売りつけることは不可能である。だからこそ妥協のないクオリティの高い加工は適正な価格で先方に納得してもらう―――。この揺るぎない強い意志を野田部長から感じることができる。

「ウチに見積り依頼がきても安価なところに仕事が流れることがあるけれど、難しい加工の場合、失敗すると戻って来る。ひどいところだと、相手が仕事をブン投げちゃう場合もあるんです。価格交渉能力のないところは、一度、よく考えていただきたい。仕事が欲しいからといって、指値で仕事をするのもよくありません。しっかりとした意見を取引先に言えるためには技術で応えるしかない。私は人に媚びるのが嫌だから努力しています(笑)」(野田部長)

“困ったら日成工業”と言わしめる同社の努力は細かいところにもある。なんと梱包まで目を光らせ細心の注意を払っているという。

高い技術力に裏付けられた底力の中に、ブレない考え方があった。
大手と堂々と渡り歩く同社の企業姿勢に、戦後の急激な高度経済成長の産物、“町工場=大手の下請け”という概念はない。

「あそこに頼めば間違いない」と、周囲からの信頼は大きな自信に繋がる―――。

『技術力で勝負する』
日成工業の社名の由来は日々成長するように・・・という意味合いがあるとのこと。
同社は今日も優良顧客で溢れ、利益ある繁忙を極めている。

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