日本のものづくりは全員参加型! ニッチな特殊形状の工具で“難易度の高い加工を行う”現場に貢献するイワタツール

日本で初めてセンタードリルの国産化に成功したイワタツール(社長=岩田昌尚氏、本社:名古屋市守山区花咲台2-901-1テクノヒル名古屋E-3)といえば、切削工具マニアを唸らせるニッチな特殊形状の工具が有名だが、その歴史は古く、今年で85年を迎える。

岩田社長は2010年に中国販売拠点愛思路精密工具(大連)有限公司を、翌年の2011年にはタイ生産・販売拠点 Iwata Tool(Thailand)をそれぞれ設立し、「難易度の高い加工を行う人」の満足する工具を供給し続けている。
画期的かつユニークな視点をもつ製品の数々は、『トグロン』をはじめ、『SPセンター』、『極小径工具』にも表れており、その製品づくりの裏には頑張る社員がいる。中小企業特有のフットワークの良さを強みに精力的に活躍している岩田社長を訪ね、お話を伺った。


働きやすい環境づくりに注力

イワタツール本社 
イワタツール本社 
製造業界―――といえばなんとなく汚くてキツイ、女性が働きにくい環境、といったイメージがあった。残念ながらそのイメージがまだ根強く残っているのも事実だが、それは昔の話。われわれの生活が豊かになるモノが生み出されるということは、国力そのものを意味しており、さらにモノをつくるためのモトを生み出す生産財の世界では優秀な社員がバリバリ働いている。

最近は女性が働いていると“女性なのに頑張っている”という視点で捉えられやすい。女性なのに・・・という言葉に女性は保護の対象であるという概念も感じられる一方で、現代において社会は様々な年齢層で構成されており、ライフスタイルも多様化している。実際、製造業界では当たり前のように女性が活躍しており、出産や育児をしながら仕事をこなしている従業員も増加している。

イワタツールも当然ながら女性従業員が働いている。働く女性は結婚を機に出産することもあるが、近年は従業員が働きやすい職場環境づくりに注力している企業も多く、イワタツールもやる気のある優秀な社員は性別を理由に離すことはしない。

岩田社長は女性の活用について「今は生活や価値観も多様化しています。働きたい理由に男女の差はありません。古い業界ですので、昔は、女性が営業に回ると、“おい、なんだよ、女性を回しやがって”と嫌悪感を示した方もおられたようですが、今はそれもなくなりました。女性でも男性でも仕事をきちんとできる人はできるんだ、ということを示せる時代になったのだと思います」と話す。

「まだまだ頑張ります!」と明るく前向きな布目さん
「まだまだ頑張ります!」と明るく前向きな布目さん
同社にも出産し、育児をしながら働いている女性がいた。営業業務課の布目美和さんだ。笑顔が素敵な1才ともうすぐ3才になるお子さんのママである。2010年6月に産休に入り、翌月1人目を産んで4月15日まで育児休暇をもらった。そしてなんと、育児休暇あけに2人目の赤ちゃんがいることを会社に報告したという。布目さんは、「こういった場合、正直、会社に迷惑がかかるのでは、と悩みました」とそのときの心境を話してくれた。

女性にとって、いや、夫婦にとって人生の重要な出来事に子どもが生まれる、ということが挙げられる。子どもを産む女性の雇用をどうお考えか岩田社長に聞いてみた。

「産休や育児休暇ののち、会社に復帰してきた社員だからこそ分かることもあるのです。たとえば、業務のやり方が変わっていた場合、それは改善して変わったのか、なし崩しに変わったのか、など。ある分野で仕事を任せているからこそ、良くも悪くも時間が経過して社内の中が見えることもある。頼れる先輩社員がいることは後輩達にとっても安心感に繋がります。せっかく仕事を覚えて頑張れる方が出産や育児によって今後の選択肢が狭くなったり、やる気がなくならないようにするのも私の務めだと思っています」(岩田社長)

現在、今年で勤務9年目の布目さんは時短制度を使い、育児をしながら働いている。
ところがこういった場合、経営者側からみるとリスクが高いのも事実である。産休も育休も労働者が求められる権利であるが、“時短”となると、ひとりの社員が短い時間の中でどれだけの業務をこなすかが鍵になる。

酷な言い方をすれば権利を主張して、会社側が望む義務を遂行できないとなれば、これもまた会社を運営しなければならない経営者としては、考えなければならない。経営者は頭では分かっていても、心を鬼にしなければならないこともある。従業員を時短で雇うリスクについて正直なところどう感じているのか。

「彼女は時短でも、その範囲でできることを精一杯行っています。もし、育児を理由にこちらの要求する仕事ができなくなってしまえば、それはまた別の問題になってしまいます。つまり、権利だけを主張して義務を放棄するようなことでは仕事は勤まらない。もし、権利だけを主張して義務を放棄するような従業員が増えれば、間違いなく会社の経営は傾きます。そんな甘い世の中ではありません。会社にとっても従業員にとっても双方、不利益になるようなことは避けたい。優秀な社員は時短だろうが与えられた時間内にしっかり結果を出してくれる。私が育児中の彼女に時短で働いてもらっている理由はこれです」(岩田社長)

布目さんは現在、与えられた時間内で精一杯働いている。ママさんでありながら事務所内では頼れるお姉さんといったところだ。

職人技を現代に受け継ぐためにしたこと

このマシンでカツ丼を食べながら最近まで頑張っていたのはなんと79才の女性だった!
このマシンでカツ丼を食べながら最近まで頑張っていたのはなんと79才の女性だった!
本来、製造業はサービス業とは違い、様々な年齢の方が広く働ける土壌がある。
ちなみにイワタツールでは、働く年齢層も多様だった。この古いマシンを使って頑張っていたのはなんと79才のおばあさんだったという。

「この79才の女性は残念なことに最近、退職してしまいましたが、お昼にカツ丼を食べながら仕事を頑張っていました。長い間、イワタツールに貢献してくれていたメンバーです。私が入社した20年ほど前の平均年齢は60才だったけれど、みんなリタイアしました」(岩田社長)

岩田社長が入社した20年ほど前、同社の平均年齢は60才だった。職人技とされる技術を習得するため、若者への引き継ぎが必要でもあったが、孫ほど離れているメンバーが技術を習得するには難しいこともある。

「職人技とされるほとんどは人間の手の技です。習得するには個人差もありますが5年~10年はかかる。若者が高齢者に教えて頂いても、正直、もう間に合わないと感じました。職人さんが活躍していた時代背景と今は違います。精度はどんどん厳しくなりますし、品質にバラつきが出てしまうなどはメーカーとして問題外です。工具を製造するにあたり安定品質を保つことは最も重要なことですから、そこでNCを入れて今まで職人に頼っていたところを改善しました。良いマシンと環境があれば手の技も現代の技術によって再現できる。機械ですから品質のバラツキがありません。」(岩田社長)

イワタツールはセンタードリルなどの特殊工具がメインだが、なんと、当初NCでつくる技術はなかったという。岩田社長は当時を振り返り、苦労をこう話した。

「エンドミルやボールエンドミルと違い、特殊工具をつくるのは困難でした。当時、某輸入機械メーカーに相談に行ったんですが、“値段も安くてソフトもないのに”って断られましてね、参りました。“じゃあ、こちらでソフトウェアを造りますから、マシンのプログラミングを教えて欲しい”とお願いしましてね、それが20年前です。ドイツにいって教えて貰いました。だから機械を購入しても1年はほとんど生産せず、その機械のソフトウェアをつくり込んだり、試作品をつくったりしていたんですよ」(岩田社長)

もともと岩田社長はソフトウェア専門の技術者だったから出来たワザでもあるが、ここで諦めなかったことが、今のイワタツールに繋がったことは言うまでもない。今では、『イワタに行けば、特殊なものでもつくってくれるよ』という加工現場の高い評価に繋がっている。

現場が欲しているモノを細かく聞いて、顧客の考えているものを形にする工具メーカー、それがイワタツールなのだ。

世界初の高硬度用深穴あけ工具『トグロンⓇハードドリル』はボール盤でも焼入鋼に穴があく!

トグロン
トグロン
イワタツールといえば、そのユニークな形状とネーミングで一度聞いたら忘れられない『トグロンⓇ』シリーズが有名だ。特に世界初の高硬度用深穴あけ工具『トグロンⓇハードドリル』は、HRC40~72の焼入鋼に加工が可能で被削材の硬度が高いほど他の製品に比べて圧倒的な性能を発揮するのが特長。また、従来の高硬度加工用ドリルに対し、HRC50以上の被削材においては、5倍以上の加工速度と、3倍以上の高寿命を達成している。

昨年のJIMTOF2012では、20D以上の深穴加工が行える『トグロンⓇハードロングドリル』を発表したが、この製品は、樹脂金型のイジェクターピンや、冷却穴などの加工がマシニングセンターのみで集約して行えるのでワイヤカットや、細穴放電の工程が必要なくなり、リードタイムを短縮することが可能になったとして、多くの注目を浴びた。

イワタツールは大手メーカーではない。だが、様々なタイプの工具を広く取り揃えられる大手にはないニッチな視点で得意分野を極め、差別化を図っている。
これがイワタツールの強みであり、存在価値でもある。

85年の歴史に裏付けられた確かな技術力は、まさに顧客のニーズから汲み上げ、社内が一丸となって研究開発に注力する仕組みから成り立っている。

優秀な企業は規模で決まらない。
自社の強みを活かしてどんどん展開していく岩田社長の姿に現代を生きる経営者の姿をみた。

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