技能士合格者数100人超え達成! ~テクノ小千谷名匠塾の取り組み~ 

金属加工業で有名な新潟県の中でも小千谷市は特定分野で高いシェアと技術力を持つ企業が豊富であることが有名である。以前、小千谷市内にある企業を取材したときに、「小千谷の製造業はリーマンショックが起きる前も起きた後も現在も従業員数の変動がない」と聞いた。このことからも、この地域が基礎体力のある優良企業が多いことが分かる。

小千谷市の製造業がなぜ時流が悪くなっても従業員数の変動が少ないのか―――。
団塊世代の退職や熟練技能者の減少により技術力の低下や技能の伝承が危ぶまれている現代において、これらの課題に対応する組織「テクノ小千谷名匠塾」(理事長=木村敬知氏)の活動に注目せずにはいられない。小千谷鉄工電子協同組合・事務局の櫻井貴将氏をはじめ、講師陣にもお話しを聞いた。

人材育成が鍵を握る

櫻井氏
櫻井氏
テクノ小千谷名匠塾創立のきっかけは平成16年10月に起きた中越大震災であった。小千谷市内の多くの企業が震災復旧で財政が圧迫し、当時の理事長だった丸山春治氏(帯広電子社長)が平成19年度より若手社員の技能継承を目的とした教育機関として立ち上げた。奇しくもこの頃は、団塊世代の大量退職による技能低下や技能伝承が問題視された時代でもある。

櫻井氏は、「超高精度のものづくりや厳しい品質管理を得意とする企業が多い小千谷ですが、顧客のニーズに迅速に対応できるのも、研ぎ澄まされた技能を持つ職人が多数在職し、切磋琢磨できる環境にあるからです。この後継者育成のために産官学協力態勢のもと、『心を磨く』、『物を磨く』、『技を磨く』の3つの柱を掲げて2007年4月に発足したのがテクノ小千谷名匠塾なのです。ここでは経験や知識だけではなく、道具や設備などを大切にする心や洞察力、未来へ向かって力を発揮できる後継者を育てることを目的として、汎用旋盤、NC旋盤などの工作機械ごとに実技・学科を学び、国家技能士の資格習得を推奨しています。お陰様で、平成26年度、設立から8年目に技能士合格者数も100人を達成することができました」と話す。

平成26年度前期技能競技大会受賞者のうち、1位 普通旋盤、1位 円筒研削盤、3位 数値制御旋盤ともに受賞したという快挙を遂げたテクノ小千谷名匠塾。毎年必ず受賞者がいるとのことで、ここに来れば合格率が上がるという。

「初心者ではない会社の中で訓練された方が来られるので自社においての教育も充実している側面もあります。名匠塾に来ていただくと、さらに技が磨かれて技能検定にあるとおり力の証明に結びつくのでしょうね」(櫻井氏)

学ぶ姿勢は真剣そのもの。
学ぶ姿勢は真剣そのもの。
技能を大切にする小千谷地域では、検定合格者の信頼性は増す。

技能士1級の資格を取ることができれば、よほどのことがない限り食いっぱぐれることはない―――とも言われている。技能士の資格は力量の証明でもあるから、もし、なんらかの理由で退職をしたとしても、また同じような職種で転職しやすい。この小千谷の技術レベルが高いまま維持できるのはこういった背景もあるのだろう。

現在、受講希望者が増加する反面、若干講師の数が足りないという課題があるようだが、退職者などに声をかけて講師を確保している。名匠塾を卒業して成長した塾生が講師として戻り、また新しい技術者を育てるといった環境があるのだ。

夢は小千谷に技能士集団をつくること。知識や技能が継承される仕組みづくりに講師陣も注力!

旋盤担当講師の南雲氏
旋盤担当講師の南雲氏
旋盤担当講師の南雲克義氏も立ち上げ当初の名匠塾生だという。1級の資格を持つ。
加工現場の経験は40年以上、中でも汎用旋盤は30年以上という大ベテランである。図面を見ながら、先方の要求するものをつくりあげてきた。

南雲氏は、「今では当たり前の様にコンピュータ制御で加工を行っていますが、われわれの頃は手作業だった。穴開けひとつにしろ、手でドリルを研いでたという時代。そこから比べると、刃物も進化してきました。切削条件も加工のスピードを上げた中で加工できるようになった一方、様々な形状のものを汎用旋盤で一からつくりあげるということが少なくなったので、その分、応用が難しくなったなあ、と感じることもあります。ものづくりの現場では応用のきく人材を必要としているので、ここではそれを学ぶことができる。現場で重宝される人材に育って欲しい」と受講生に期待を込める。

受講生が旋盤を回している。机の上が整理整頓されている。
これは、身体が道具のありかを直感的に覚えるためである。見ないでもモノが取れるよう、訓練の一貫でもあった。

学科担当講師の西ノ入氏
学科担当講師の西ノ入氏
学科担当講師の西ノ入 彰氏は、勤め人として15年、独立して30年ほど機械設計に携わってきた。名匠塾の設立当初、団塊の世代が大量に抜けたということで、技術力の低下や技能伝承に陰りがないようにと、この考えに賛同したという。

「昔の技術といっても今はもう通用しません。ものづくりは常に進化しているので、わたしも常に皆さんと一緒に勉強しなければと、そういう気持ちでいます。今の若者に必要なことは、創造力を養うことだと思っています。創造力はものを生み出す源です。みんなここに来る方はとても勉強しており、優秀です。時間は限られているので短時間で効率良く学んでいます。わたしは長く現場にいましたが、現場の経験が長いからこそ、皆さんの悩みも共感できることがある。人を育てる、というのは、技術だけではなく精神的な部分も育てる、ということ。名匠塾は、学んだ技術・技能を発揮できる人材に必要な精神力なども含めて鍛錬する場なんですよ」(西ノ入氏)

ものをつくる、という意識を強め、知識と技を継承していくことは、競争力強化にもつながり、この小千谷地域が発展していくことにもなる。

企業に求められるのは、ユーザーニーズを素早くキャッチする感度の良さだ。
的確に物事を捉える洞察力も必要である。また、品物を安定供給しなければ信用問題にもかかわる。

世界規模からみて製造業は技術の高度化は鈍化することはなく、地域企業間での情報交換は新しい価値創造を生み出すヒントがつまっている。

テクノ小千谷名匠塾の活動は、打ち上げ花火のような派手さはないが、製造業が抱える根本的な課題を解決するヒントが満載であった。今後の展開が楽しみである。

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