世界初! スペースデブリを衛星で観測! オーエスジーが「IDEA OSG 1(イデアオーエスジーワン)」プロジェクトのメインスポンサーに!


写真:左から大沢二朗オーエスジー常務、石川則男オーエスジー社長、宇宙飛行士 山崎直子氏、大沢輝秀オーエスジー会長、岡田光信アストロスケールCEO、演出家 宮本亜門氏、九州大学 花田俊也教授、経済産業省 徳弘雅世氏、東京理科大学 木村信一教授

 オーエスジー(社長=石川則男氏)が12月15日、豊橋市内のホテルアークリッシュ豊橋で、シンガポールに本社を置く衛星開発ベンチャーのASTROSCALE(アストロスケール、CEO=岡田光信氏)が手掛けるプロジェクトに、メインスポンサーとして参画すると発表した。役目を終えた人工衛星やロケット、その残骸などの爆発や衝突でできたスペースデブリ(宇宙ゴミ)は、秒速7.5kmという驚異の速さで進んでいる。例えると東京名古屋管を約40秒で飛ぶ速さだ。宇宙空間を高速で漂うスペースデブリは、小指の第一関節ほどの大きさでも人工衛星に衝突すると、故障はもちろんのこと経済的ダメージも大きく、世界的にも対策を練っている機関は多いが、まだ誰もアクションをおこしていないのが現状である。そんな中、世界に先駆け、宇宙ゴミのデータを集積するための観測衛星「IDEA OSG 1(イデア オーエスジー ワン)」が打ち上がる。打ち上げ予定は2016年後半から2017年前半。

 今回の発表にあたり、石川オーエスジー社長、岡田アストロスケールCEOのほか、宇宙飛行士の山崎直子氏、演出家の宮本亜門氏、九州大学の花田俊也教授を交え、大沢二朗オーエスジー常務の司会のもと、パネルディスカッションも行われた。今回の製造現場ドットコムでは、スペースデブリと世界初のスペースデブリ観測衛星「IDEA OSG 1」の概要、開催されたパネルディスカッションの詳細、そしてこのプロジェクトに携わる方々の熱い思いを掲載する。

われわれの生活を脅かすスペースデブリ問題とは

 21世紀の今、われわれは宇宙の恩恵を存分に受けている。GPSや天気予報もそうだし、衛星放送もある。人間の暮らしを陰ながら支えてくれる重大な役目が人工衛星にあるのだが、その存在を脅かすもののひとつにスペースデブリ(宇宙ゴミ)がある。デブリは地球の表面から高度600km~1000kmに最も多く存在し、大きなものだけで2万3000個以上、微細なものを含めると無数にあるという。このデブリの大元は寿命を終えた古い人工衛星やロケットの上段。役目を終えた衛星は指定された軌道からさらに高度の高い位置に外さされるか移動制御が出来ない場合、爆破される。それらがデブリとなって地球上をぐるぐると廻り、それらが爆発したり衝突したりして出来た破片もデブリとなる。中には宇宙飛行士が宇宙空間上で手を離してしまい飛んでいったカメラもある。もちろん二度と手元に戻ることはなく、飛んでいったきりだ。それらが時速7.5kmで飛んでいるというから、活躍中の人工衛星や宇宙飛行士に当たったとしたら、ひとたまりもない。

スペースデブリ問題について説明する岡田アストロスケールCEO
スペースデブリ問題について説明する岡田アストロスケールCEO
 なぜ、このスペースデブリが地上から高度600km~1000kmに多く存在するのか。
 岡田アストロスケールCEOは、「このゴミが多い領域は、人工衛星を飛ばすには人気の軌道なんです。あまり大気の影響を受けず、ほどよく地球に近いので、より解像度が高く地球の写真が撮れるという理由があります」とその理由を説明した。スペースデブリが大きな問題となる理由にも触れ、「有人のスペースシャトルや国際宇宙ステーションは、この最もスペースデブリが多い軌道の下、高度400kmにゴミを避けるようにいます。人類がこの低軌道上帯を超えたのは、アポロ17号が最後になった。無人の衛星が爆発したり衝突したりして、そこから生まれた微少な破片ですら秒速7.5kmで飛んでいるので、当たると連鎖的な爆発が起きる。大きいサイズのゴミだと地上からレーダーで観測できるが、細かくなると観測不可能になり、手の施しようがない。これを放置すると、連鎖的に衝突を繰り返したデブリが細かくなって増え続け、宇宙が使えなくなってしまうのではないか、というのが宇宙業界の合意です。具体例では、エクアドルが最近初めて人工衛星を打ち上げ成功し、国を挙げて拍手喝采だったんですが、1カ月後にゴミに当たって壊れてしまった。次はアメリカの衛星イリジウムとロシアの衛星コスモスが衝突したけれど、これが宇宙空間で人類が起こした初めての正面衝突だった。もちろん細かい破片となって地上を飛んでいるのですが、これを機に宇宙業界は目の色をかえるようになった。天気予報や衛星放送、GPSはもちろんのこと、今や魚を探すのもワインの育成状況等も全て人工衛星頼みになっている。もし、今、宇宙が使えなくなると、すぐさま電気が止まったり、インターネットが使えなくなることはないけれど、おそらく24時間以内に物流が止まり、小売りからモノが無くなっていく状況に陥るかと思います。そのくらい深刻な状況です」と、われわれの生活を脅かすスペースデブリの深刻な状況を述べている。

 

「スペースデブリ問題に真正面から向き合い挑戦する姿に心を打たれた」

石川オーエスジー社長は、「スペースデブリ問題に真正面から向き合い挑戦する姿に心を打たれ大きな感銘を受けた」と話す。
石川オーエスジー社長は、「スペースデブリ問題に真正面から向き合い挑戦する姿に心を打たれ大きな感銘を受けた」と話す。
 世界初の宇宙空間に漂うごみの位置観測を行う「IDEA OSG 1」だが、さまざまな産業分野でものづくりに貢献するオーエスジーが、今回、アストロスケールの活動を応援し、さらなる宇宙開発、製造業の発展を願ってこのプロジェクトのメインスポンサーとなった。  
 
 そのいきさつについて、石川オーエスジー社長は、「今年の6月にパリで開催された航空ショーに出展しており、その会場で弊社の大沢(常務)がアストロスケールの山崎様と出会い、今回のお話しを伺ったのが始まりです。アストロスケールは宇宙開発の大きな課題となっている宇宙ゴミ、デブリ問題の解決のための観測衛星を来年飛ばす計画をされており、メインスポンサーを探しているというお話でした。人類は宇宙開発という名の下にロケットや人工衛星、宇宙ステーションなど、様々な取り組みを行ってきましたが、その残骸である宇宙ゴミが宇宙開発の大きな妨げになっていること、また、その問題は大変深刻であり、私どもの日常生活を大変便利なものにしている人工衛星を脅かすという、今すぐそこに迫る危機であると知った次第です。われわれは、“ものづくりを通して世界中の人々が幸せに暮らしていける社会づくりに貢献したい”との願いを掲げ、地球上の環境問題に関してはなんらかの貢献をしていたつもりではありました。しかし、地上の世界、宇宙という空間が大変なことになっていることを知り、ショックを受けた次第です」とした上で、「オーエスジーのブランドイメージは“Shaping your dreams~お客様の夢をカタチに~”ですが、これは、
石川オーエスジー社長によるミッションステイトメント宣言が行われた
石川オーエスジー社長によるミッションステイトメント宣言が行われた
世界中の皆様の幸せのために役立つような企業で有り続けたい、という創業以来の願いをブランドイメージとしたものです。アストロスケールの関係者や研究者の皆様、宇宙開発に携わる全ての皆様が今、まさにスペースデブリ問題に真正面に挑戦しようとする姿に弊社は大きな感銘を受け、この大きな挑戦になにかお役に立つことができるのではないか、とそんな気持ちに突き動かされました」とスポンサーとなった理由を話した。

それぞれが熱い思いを語ったパネルディスカッション ~スペースデブリは人間が造ったゴミである~

司会をする大沢オーエスジー常務
司会をする大沢オーエスジー常務
 今回のパネルディスカッションでは、大沢二朗オーエスジー常務の軽快な司会のもと、石川則男オーエスジー社長、岡田光信アストロスペースCEO、スペースデブリの専門家である花田俊也教授、宇宙飛行士の山崎直子氏、演出家の宮本亜門氏が行った。

 大沢: 今年6月にパリの航空ショーでアストロスペースの山崎さんとお会いして、スペースデブリの説明を受けました。われわれの生活は、宇宙から送られているデータで成り立っている部分もあります。真剣に話しを聞いているうちに、われわれは関係ないからなにもしなくていい、ということはないと感じたんですね。それで、オーエスジーの役員に相談し、このプロジェクトのスポンサーになりましょう! と話をしたんです。オマエあほか! なにを言い出すか! って言われるかと思いましたが、役員揃って、面白い! ぜひやってみようじゃないか! ということになりました。石川社長はオーエスジーとしてこの話を聞かれたときには、正直どう思いましたか?

話を聞いて最初は驚いたという石川オーエスジー社長
話を聞いて最初は驚いたという石川オーエスジー社長
 石川: 最初は正直引いたんですが(笑)。最初に1人は引く人がいないと・・・(笑)しかし話を聞いて感銘を受けました。世界では具体的にスペースデブリ問題についての動きが無く、今回のプロジェクトが初めてということを知り、最初に手を挙げた人を応援することは価値があると思いました。

 大沢: われわれ素人ですらスペースデブリ問題の話を聞くと、深刻な問題だ、と思います。九州大学でスペースデブリ問題を専門的にやられている研究室があります。花田教授に専門的な見識から少し説明をしていただきたいと思います。

花田教授によるとスペースデブリは砂粒ほどの大きさのものを含めると無数にあるという。
花田教授によるとスペースデブリは砂粒ほどの大きさのものを含めると無数にあるという。
 花田: 地上から観測できる宇宙ゴミの大きさは、人間の握り拳ほどの大きさだと思って下さい。アメリカが主に観測しているんですが、その公開データによるとスペースデブリは約1万7000個です。しかし軌道の分からないもの、公開されていないもの等を含めると約2万3000個といわれている。私たちデブリの研究をしているコミュニティが一番驚いたことは、2009年2月に起こったアメリカのイリジウム33号とロシアのコスモス2251号の衝突でした。この時、私たちのシミュレーションによると、小指の第一関節ぐらい、約1cmほどですが、この衝突事故で6万個以上発生したと言われています。0.1ミリほどの砂粒のようなデブリまでを含めると無数です。これらが宇宙を漂い衛星にぶつかろうとしているのですから、将来かなりの被害が予想されます。

 大沢: 宇宙飛行士の山崎直子さんは、15日も宇宙に滞在されましたが、実体験としてはいかがですか。スペースデブリの驚異はいかがなものですか。

ディスカバリー号で宇宙に15日間滞在した宇宙飛行士の山崎直子氏は「スペースデブリは宇宙飛行士にとっても大きな課題」と話す。
ディスカバリー号で宇宙に15日間滞在した宇宙飛行士の山崎直子氏は「スペースデブリは宇宙飛行士にとっても大きな課題」と話す。
 山崎: 私は2010年4月にディスカバリー号に乗り国際宇宙ステーションに15日間滞在しました。スペースシャトルや宇宙ステーションは地上から400kmのところを廻っております。デブリの多く漂うところよりは少し下を廻っているのですが、それでも15日間の滞在中に小さな破片がスペースシャトルの窓ガラスだけで3箇所は当たっているんです。一つは軌道上にいるときにわれわれが発見しました。貫通はしていませんでしたが、その写真を撮り、地上の管制センターに送ったところ、地球に再突入するには大丈夫だろうということで、われわれは地球に戻ってきたんですが、もしかしたら地球に戻れなかった可能性もあります。宇宙ステーション自身は大きな施設で長さが100メートル、奥行きが75メートル、サッカー場と同じくらいの大きさがあります。端には75メートルのながい太陽光電池パネルが4枚付いていて、そこで電力をすべて発生しているんですが、ここでも2007年の時にデブリの衝突と思われるキズができてしまった。デブリが当たると電流が途絶えるので、その部分を修理するのに私たちは船外活動をしなくてはなりません。かなり大きな作業になります。今後、ますますデブリに当たる確率は高くなりと思われ、それが驚異になっていて、なにか当たる度にメンテナンスや修理をしなければならないとなると、われわれの作業にとっても大きな課題となります。デブリの破壊力は小さな破片でもものすごく威力があり、この問題について、われわれも課題として長年感じていたことですが、なかなか打つ手がなかったのが現状でした。今回、世界に初めて先駆けて民間の企業や研究者が力を結集したことは、ものすごく画期的なことだと思っています。

 大沢: ありがとうございました。本日は演出家の宮本亜門さんが来て下さっていますが、宮本さんは、このスペースデブリ問題をみなさんに知って貰いたいという思いから、本日、ここに来て下さいました。

熱い思いをひしひしと感じたという演出家の宮本亜門氏。
熱い思いをひしひしと感じたという演出家の宮本亜門氏。
 宮本: 今年6月にシンガポールで岡田さんたちと会って、一緒に中華を食べようということになりました。大好きな北京ダックが運ばれ、さぁ食べよう、という矢先、岡田さんが「ちょっといいですか?」といってプレゼンを始めました。わたしも最初、石川社長と同じ、引きました(笑)。北京ダックが食べたかったからです(笑)。ところが話を聞いているうちに、スペースデブリの現状を理解しました。私はその頃、まだスペースデブリのことをあまり知らなかったんですが、デブリの現状に驚きました。さらに驚いたことはまだスポンサーがついていないという時期にもかかわらず、岡田さんたちはこの問題を解決すべく立ち上がり、そして、そのためのロケットを買ったというじゃないですか(笑)。最初、この人達はなにを考えているのかと理解できなかったのですが、岡田さんたちの熱さと真剣さをひしひしと感じて、日本も捨てたもんじゃ無い、チャレンジャーがここにいるということで、わたしも熱くなりました。そして、その後、なんとオーエスジーさんがスポンサーについたとのこと。最初、日本の会社がスポンサーについたことに驚きました。無駄なモノにはお金を出すな、という時代でありながら、オーエスジーさんが決断をした、という話を聞いて、もう、身震いがしました。

 大沢: ありがとうございました。さて、岡田さんはベンチャーを立ち上げる前は今とはまた違ったご経験をお持ちですが、宇宙事業を立ち上げた理由をお聞かせ下さい。

宇宙事業に乗り出したのは最近のことだという岡田アストロスケールCEO。15歳の貴重な体験がベースだ。
宇宙事業に乗り出したのは最近のことだという岡田アストロスケールCEO。15歳の貴重な体験がベースだ。
 岡田: 私が宇宙事業を始めたのは実はごく最近の話です。もともと15歳でアメリカのNASAでスペースキャンプというジュニア向けのプラグラムがあり、参加させていただきまして、その時に宇宙飛行士の毛利衛さんにお会いし、影響を受けました。猛勉強をした末、結局、全然違う道を歩いていたのですが、40代になる直前にミッドキャリアクライシスといいますか、俺の人生これでいいのかな、なんて考えていたときに、そうだ、俺、宇宙が好きだったんだ! 15歳でNASAに行ったじゃないか! と思い出しました。それから宇宙の学会に出入りするようになり、宇宙ゴミの問題を知ったのですが、どういうわけか、この一番解決しなければならない問題に関して、コンセプトとシミュレーション、セオリーなどは出てくるんですが、アクションがないことに気付きました。その時、あ、これだ! 俺の居場所はこれなんだ! と居場所を見つけたわけです。宇宙業界で活躍している皆様の力が結集して今があります。この事業は決して1人ではできることではなく、多くの方の共感をいただけたことに感謝しています。

 大沢: 山崎さん、スペースデブリがシャトルに当たったとのことですが、船外活動をしている宇宙飛行士に当たる可能性はあるものでしょうか。

IDEA OSG 1を囲んで。
IDEA OSG 1を囲んで。
 山崎: はい、あります。宇宙船は1cm未満のものであれば当たっても壊れないように元々頑丈につくっています。10㎝以上のものは地上からでも分かるので、デブリが近づいてくると「避けなさい」と警報を貰い、私たちが避けるんです。しかし、1cmより大きくて10cm未満であれば地上でも分かりません。したがって当たったら貫通してしまうというリスクがあるんです。船外活動をするために宇宙服を着て外に出るんですが、宇宙服は宇宙船ほど頑丈じゃありません。ですから宇宙服にデブリが当たった時には空気が漏れてしまうだろうと考えられます。そうなる前にもなんとかしなければなりませんね。宇宙船から地球に戻ってきたときに、空気が本当に美味しかった。自然のそよ風や草の香り、普通のことですが、ものすごく愛おしく感じました。当たり前だと思っていたことが当たり前ではないんですね。当たり前の世の中は、きっと誰かがなんとかしているから成り立っているわけで、オーエスジーさんとアストロスケールさんが、今回、解決に向けてなんとかしようと手を挙げられたことに感動しました。

 宮本: 私が個人的に驚いたことは、このスペースデブリは全部人間がつくったゴミだということ。1950年前後はひとつも宇宙ゴミなど存在しなかったとお聞きしました。今も2日に1度はロケットが上がっている。このままいくと、本当に宇宙は大変なことになってしまいます。私は、人間は愚かではないということを信じたい。

 大沢: 「IDEA OSG 1」はわれわれのつくったパーツ、思い、夢というものを一緒に宇宙に運んで頂ける、というプロジェクトになってきました。どんどん後付けで様々な思いが乗り、非常に大きなプロジェクトになりつつあります。どうもありがとうございました。

これが「IDEA OSG 1」のミッションだ!

観測のキモはスペースデブリモニターにアリ! デブリがフィルムを貫通すると銅線の一部が切れるようになっている。
観測のキモはスペースデブリモニターにアリ! デブリがフィルムを貫通すると銅線の一部が切れるようになっている。
 スペースデブリは砂粒のような大きさから数メートル級のものまであるが、大きいモノについてはその数も把握できるが、小さいものは正確な数が分からないというのが現状だ。そこで極小のデブリは観測をして一体どこにどのくらいの小さいものがあるのかということを正しく理解しなければならない。そこで微小なデブリマップが必要になるが、それが世の中に存在しないものである。そこで、立ち上がったのが「IDEA OSG 1」だが、世界初のスペースデブリ観測衛星「IDEA OSG 1」がどういう働きをするのかというと、観測のキモは、スペースデブリモニター。JAXAが主導で開発したセンサーになる。この原理は、薄さ約20μmのシートの上に50µm幅の銅線が3300本プリントされており、銅線なので電気を通す。砂粒サイズのデブリがこのフィルムを貫通すると銅線の一部が切れるようになっている。その銅線の状態を定期的にスキャンすることによって、いつどこで切れたか、切れた本数からデブリの大きさも推定することができるという原理だ。大きさは35cm×35cm。重さは約20kg。
 「できるだけ効率よく観測したい」というアストロスペースのエンジニアである上津原正彦氏。そのためには、デブリが飛来して来やすい方向にセンサー向けさせるという。
 
IDEA OSG 1の概要を説明するアストロスケール エンジニアの上津原氏
IDEA OSG 1の概要を説明するアストロスケール エンジニアの上津原氏
 「デブリは正面から飛んでくるというのが軌道の関係上導かれているので、IDEAが進む方向に対して正面を向ける制御を行います。制御を行ったりセンサーのデータを取得したりするオンボードコンピュータ、通称OBCと呼ばれる装置がこのIDEAに搭載されています。パソコンでいうCPUに当たる部分ですね。この部分は東京理科大学の木村信一教授が開発を担当しています」(上津原氏)

「IDEA OSG 1」を飛ばすために使用するロケットはロシアのドニエプル。このドニエプルを購入したアストロスケールの岡田CEOは、ドニエプルの優位性について、「成功率は世界最高だと思っています。通常のロケットは第一弾が切り離される際に、ポンっと前に出る。ところが、ドニエプルは違います。われわれの衛星で一番重要なことは、ある軌道に入れて貰うこと。この軌道に入れて欲しい! という要求に確実に入れて貰う必要があるんですが、従来のポンっというタイプは誤差が生じてしまう。ドニエプルは突然逆向きになり、燃料を積んでいたところが加速して去って行く。ポンっと出すより静かに処理し、確実にバシッと軌道に飛ばしてくれるロケットなんですよ」と軌道に乗せるためのこだわりを説明してくれた。

 「IDEA OSG 1」は大きな衛星に相乗りをして打ち上げられる衛星ということから自由に軌道が得られるとのこと。

 「親衛星の軌道があり、それより低いところを飛ぶ。先述の説明にあったとおり、高度が低いとデブリが少ない。密集しているのが高度800km前後といわれているので、その軌道に近づくためにロケットの加速する性質を利用してできるだけ遅い順番のところで切り離して貰います。そうすることで、IDEA OSG 1は高度600kmから800kmの間を行き来するような軌道を周回する。できるだけたくさんのデブリを検出する狙いがあります」と上津原氏。花田教授も「600km~800kmというのは有用な軌道。デブリが少し少ないところから多いところまでをスキャンすることになる。砂粒くらいの0.1mm以上のデブリが年間40~50個ほど当たると期待できます」と補足した。

 ちなみにアメリカのロケットは日本円にしておよそ72億円。その半額くらいが今回のドニエプルロケットの金額とのことだが、いくつかの衛星と一緒に乗っていくので、請求書を割っているという。

重要なアダプターはOSGが開発。水平度を保ちつつ削り出すことが難しかった

アダプターの開発を担当したオーエスジーの藤井氏。
アダプターの開発を担当したオーエスジーの藤井氏。
 このミッションで最初に重要な任務を担うのは分離機構。衛星はロケットに搭載されて宇宙空間に打ち出されるが、そのロケットに搭載される部分がアダプターになる。この部位はオーエスジーが開発したものだ。開発を担当したオーエスジーのエンドミル開発チームの藤井尉仁氏は、開発の苦労について、「この部位は、一枚のアルミの板から削り出しました。表裏横から加工しなければなりませんので、3軸加工機では出来ない加工もあり、同時5軸加工機を使って加工しています。無垢の状態から削り出すのは簡単にできますが、どんどん削り込んでいくうちに剛性が無くなってきます。軽量化のため等、設計の意図もありますが、削り込んでいくと精度が出しにくくなってきます。この部位は燃焼物が付くということで、部品自体の水平度が非常に重要になり、水平度を保ちつつ仕上げなければならず、この大きな板材を曲げないようにして削り出すというのが一番難しいポイントでした」とコメントしている。

 発表後、懇親会が開かれ、 徳弘雅世 経済産業省宇宙事業室 室長補佐、ビデオレターで大村秀章愛知県知事がそれぞれお祝いの言葉を述べた。乾杯の発生を山脇 実 豊川市長が行った。だるまの目入れを大沢輝秀 オーエスジー会長が行った。

願いを込めてだるまに目を入れた大沢会長(右)

 今回のプロジェクトは世界で誰も手をつけていない領域である。世界各国が注目する中、オーエスジーは、宇宙開発の発展と人類の幸せのために果敢に挑戦するアストロスケールの「IDEA OSG 1」プロジェクトを応援していく。
 

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