世界初! 三菱マテリアルが高いAl含有比率と硬さを兼備するTiAlN膜を開発

説明する長田開発本部長
説明する長田開発本部長
 三菱マテリアル(取締役社長=竹内 章氏)は、切削工具用の表面被覆材料としてTi(チタン)とAl(アルミニウム)およびN(窒素)からなる(Ti, Al)Nコーティング膜(以下「TiAlN(チタンアルミナイトライド)膜」)の性能を向上するための開発を進めていたが、このほど世界初の高いAl含有比率と硬さを兼備するTiAlN膜『Al-rich(アルミリッチ)コーティング』の開発に成功したと発表した。

 会見で、長田 晃 開発本部長(工学博士)は、「ミーリング加工は工具本体が回転し、複数のインサートにより被削材を切削加工をする。刃先に使われるコーティングインサートは基体として超硬合金を使っている。表面に恒温でも高い対摩耗性を保持する硬質材料、主にはセラミックス材料だが、これをコーティングすることで切削工具の性能、寿命を大幅に向上させる役割を担っている。特にミーリング加工では硬さ、靱性の両立が求められており、それには両特性に優れたTiAlN膜が幅広く用いられている」とコーティングインサートについて触れたあと、今回開発に成功した新開発のコーティングの特長を次のように示した。

(1)従来膜を張るかに凌ぐ高い硬さと新技術により高いAl含有比率と高い膜硬さを両立した。
(2)酸化物膜(Al₂O₃等)に劣らぬ耐酸化性。切削加工中に膜表面に保護膜が形成され酸化を抑制。
(3)硬質材料の常識を覆す耐クラック進展性。ナノレベルの組織制御によりクラックの進展を抑制。

新開発『Al-rich(アルミリッチ)コーティング』のココが凄い!

図1
図1
 切削工具用のTiAlN膜においては、金属成分(Ti、Al)総量に対するAlの含有比率を高めることが、耐摩耗性や耐熱性の向上に効果的であると知られていたが、その比率が60%を超えると、これらの特性を低下させる異相(AlN(アルミナイトライド)相)が析出しやすいという問題があった(図1参照)。

 そのため、同社では、従来よりも高いAl含有比率においても異相が生じず優れた切削性能を発揮するTiAlN膜を開発し、この技術を応用した新製品MP9005、MP9015を2013年11月に発売し、多くのユーザーから好評を得ていたが、同社が今回、開発に成功した『Al-richコーティング』では、さらに高いAl含有比率においても前記技術では成し得なかった異相の析出抑制を可能とし、TiAlN膜の飛躍的な特性向上を実現している。

 「このコーティング技術は、同社独自設計によるコーティング装置や、従来とは異なるコーティングプロセスや複数の新技術の融合により開発され実用化に至った」(長田開発本部長)

 切削工具の性能向上に有効な『Al-richコーティング』の優位性については下記のとおり。

1.従来膜をはるかに凌ぐ高い硬さ
 独自技術による新しいコーティングプロセスにより、TiAlN中のAl含有比率を極限まで高めても軟質のAlN相が生成しない『Al-richコーティング』を開発し、高いAl含有比率と膜硬さを維持することに成功。同社はすでに“アルミリッチテクノロジー”を開発しており、すでに2年ほど前から商品を展開しているが、順次、新製品へ展開応用している。今回、この技術をさらに飛躍的に向上させ、より高いアルミ含有比率でも硬さ低下を起こさずにより高い硬さを実現していることが世界初となった。

2.酸化物膜(Al2O3等)に劣らぬ耐酸化性
 『Al-richコーティング』は、膜中のAl含有比率が従来製品と比較し大幅に高くなっていることから、刃先が極めて高温になる高速切削や高送り切削等の高能率切削においても、膜表面に耐酸化性に優れるAlの酸化物を形成しやすく、これが保護膜となって超硬合金母材の酸化を抑制するとともに高い硬さを維持する。また、耐酸化性を高める目的で従来使用されているAl2O3等の酸化物膜はチッピングしやすいという欠点を持っていたが、『Al-richコーティング』は窒化物をベースとした酸化物層が形成されるため、膜の強度が高くチッピングを起こしづらい特徴を有する。

3.硬質材料の常識を覆す耐クラック進展性
 『Al-richコーティング』は、従来のTiAlN膜と異なりナノレベルの結晶組織構造を制御している。この組織構造により、膜へのクラック生成および生成後のクラック進展を抑え、膜の破壊を伴う工具損傷を抑制することができる。

『Al-richコーティング』を適用した製品の第一弾! ミーリング加工用のコーテッド超硬新材種「MV1020」

MV1020
MV1020
 同社は、上記の特徴を持つ世界初の新技術『Al-richコーティング』を適用した製品の第一弾として、ミーリング加工用のコーテッド超硬新材種「MV1020」の販売をこのほど開始。

 長田開発本部長は、「「MV1020」は様々な被削材に対応でき、特に各種鋼や鋳鉄の高速加工および湿式加工において極めて優れた耐摩耗性と耐熱亀裂性を発揮し、従来製品をはるかに凌ぐ切削性能を実現した。例えば合金鋼SCM440(切削速度300m/min)の乾式正面フライス加工やダクタイル鋳鉄FCD700(切削速度300m/min)の湿式正面フライス加工において従来製品の4倍以上の寿命を示し、お客様の加工コストの低減に大きく寄与し、また、従来製品よりも高い切削速度や送りでの高能率加工が可能なため、加工時間の大幅短縮を実現できるようになった」と述べた。

 このほど販売を開始した「MV1020」の詳細は以下の通り。

1.汎用正面削りカッタ「ASX445」シリーズ用インサート「JMブレーカ」および「JHブレーカ」
品番: SEMT13T3AGSN-JM,SEMT13T3AGSN-JH

2.汎用肩削りカッタ「ASX400」シリーズ用インサート「JMブレーカ」および「JHブレーカ」
品番: SOMT12T308PEER-JM,SOMT12T308PEER-JH

 なお、同社では、順次アイテム数の拡大を実施していく予定。2016年度中に1億円/月の販売を目指す。

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