金型加工をレベルアップする切削工具「エアタービンスピンドルを用いた精密加工」

製造現場では、いかにコストパフォーマンスに優れた加工を行うかが問われている。高価な設備導入も大きな資金が必要となるため、なかなか手がでないのが現状のようだ。一方、既存の設備を有効活用し、クオリティーの高い品質を保ちながら高能率に生産することは可能である。
今回、金型加工をレベルアップする秘策を大昭和精機の協力を得て、“金型加工をレベルアップする切削工具「エアタービンスピンドルを用いた精密加工」をテーマに掲載する。

緒言

近年、金型業界においては高付加価値を生む精密な微細加工への要求が高まっている。精密微細加工を行うために小径・微細工具の使用は必須であり、小径工具の使用するためには高速回転するスピンドルが求められる。最近では工作機械メーカより3万回転以上回るスピンドルを搭載したマシニングセンタも増えているが、専用機的な使用に限定される高価な機械への投資は容易ではない。そこで汎用性の高い一般的な回転数のマシニングセンタでさまざまな加工を行い、微細加工時には高速スピンドルアタッチメントとしてエアタービンスピンドルを使用すれば非常にコストパフォーマンスの高いシステムになることが期待される。
そこで、本稿ではエアタービンスピンドルの性能および使用例について紹介する。

エアタービンスピンドルの優位性

精密金型加工に求められる高速アタッチメントとして次のことが挙げられる。
・高速回転することができる。
・動的回転精度が良い。
・Z軸方向に変位しない。
・ATCが可能である。
・騒音が少ない。

エアタービンスピンドルはこれらの要素について非常に高いレベルでクリアすることを目指して開発した。以下に順にその特長を説明する。

高速回転

供給エア圧力と回転数
供給エア圧力と回転数
エアタービンスピンドルは圧縮空気を供給しホルダ内部に供給することにより、高速回転を得ることができる。エアタービンスピンドルには最高8万回転のRBX7と最高回転数が5万回転のRBX5の2種類があり、最大使用エンドミルサイズとしては、RBX7がφ1.0mm、RBX5がφ1.5mmである。





動的回転精度

マシニングセンタ主軸(ダイナテスト使用)とエアタービンスピンドル(テストバーー16mm先端部)リサージュ波形
マシニングセンタ主軸(ダイナテスト使用)とエアタービンスピンドル(テストバーー16mm先端部)リサージュ波形
一般的に振れ精度はテストインジゲータなどの接触式変位計を用い、機械主軸や工具の静的な振れ精度を確認するが、実際の微細加工では回転中の動的振れ精度が重要となる。エアタービンスピンドルは静電容量型の非接触変位計を用い全数検査を実施して出荷している。
微細加工では工具径が小さく、動的振れ精度が工具寿命や加工精度に大きな影響を与える。エアタービンスピンドルはこの動的振れ精度を高めたことが、最大の特長であり、そのために、徹底的にバランス修正を行っている。

Z軸方向の変位

スピンドル回転時間とZ軸変位
スピンドル回転時間とZ軸変位
マシニングセンタでは主軸モータ自身の発熱や大きな径の主軸ベアリング回転による発熱により、Z軸方向の伸びが発生する。微細加工、精密金型、小径穴加工などの高精度を要する場合には、この主軸の伸びが飽和状態になるまで、数十分間の暖気運転を行わなければならない。

このエアタービンスピンドルは、エアを駆動源にしているため、歯車や電気モータなどの発熱源がなく、小径セラミックス玉軸受での玉の転がりによる発熱が若干生じるものの、駆動エアが軸受の冷却を行うため実際の発熱はなく、主軸の伸びもほとんどない。したがって暖気運転なしですぐに最高回転での微細切込み加工が可能である。

ATC可能

ATCの様子(赤丸内は位置決めブロック)
ATCの様子(赤丸内は位置決めブロック)
近年、金型のリードタイム短縮のため、放電レスが主流となり、最終仕上げのボールエンドミルはますます小径化している。小径ボールエンドミルでは一回転当たりの切削体積が微小なので、トータルの加工時間を削減するためには、荒取り、中仕上げで最適な工具Rを使用し、最終仕上げエンドミルの取り代を少なくすることが望まれており、ATC機能は不可欠なものとなる。

エアタービンスピンドルは、電気モータ式の高速ホルダと比較した場合、駆動源がエアであることから、安全かつ容易にATCに対応させられる。ATCはマシニングセンタ主軸端面に取り付けた位置決めブロックにエア配管を施し、エアのON/OFFをNC制御することにより行う。また、シャンク部はテーパ・端面の2面拘束のビッグプラスシャンクを標準採用しているため、ATC時の繰り返し精度が安定している。最近ではHSKシャンクタイプも標準化している。

低騒音

騒音レベルの比較
騒音レベルの比較
微細精密加工においては使用工具が小径であるため切削音が小さく、わずかな切削音の変化を聞き分けるために、騒音が小さいことは安定した加工をするために重要な要素となる。一般のエアモータを用いたスピンドルは、タービン自身の風きり音やエアの排気音により、独特な大きな騒音を発生するものが多い。そこでエアタービンスピンドルではこの騒音発生にも着目し、エアの経路、タービン形状、排気マフラーに工夫を凝らし、音圧レベルの大幅な削減を実現した。

加工事例

加工事例①

加工事例①
加工事例①
厚さ0.065mmの薄肉リブ加工
使用スピンドル:RBX7
ワーク:A2017 刃具:φ0.5深リブ用エンドミル 回転数:70,000min-1
送り:1500mm/min  切込み:0.02mm フィンの厚み:0.065mm
フィンの高さ:4mm
効果:高速回転による切削抵抗の軽減と高い動的振れ精度により薄肉フィンが倒れない。


加工事例②
加工事例②
加工事例②
ミニカー金型 
使用スピンドル:RBX7
ワーク:NAK80(HRC40) 刃具R0.2ボールエンドミル
回転数:70,000min-1 Ad=Rd:0.02mm 送り:1000mm/min
効果:加工後の面粗さが向上し、加工時間が半分以下になった。


加工事例③
加工事例③
加工事例③
テーパリブ加工
使用スピンドル:RBX5
ワーク:NAK55(HRC40) 刃具:φ1.5テーパリブエンドミル
回転数:40,000min-1 切込み:0.05mm 送り:1,000mm/min
効果:切削抵抗の高いテーパエンドミルで深さ10mmの深溝を加工できた。




加工事例④
加工事例④
加工事例④
ドリル加工
使用スピンドル:RBX5
ワーク:SUS304 ワーク厚み:4.2mm 刃具:φ0.5ドリル 
回転数:35,000min-1 送り:150mm/min ステップ:0.2mm
センタ穴なし 加工穴数:500穴(貫通穴)
効果:高い動的振れ精度のため難加工であるSUSの小径穴あけをバリの発生もなく従来より3倍以上の工具寿命になった。

結言

今回紹介したエアタービンスピンドルを通じて、微細精密加工が特別な分野の加工から更に身近な加工分野に普及し貢献できれば幸いである。
(文:大昭和精機 大阪技術部 岩村 卓)

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