ものづくりという言葉をなるべく使わない理由

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 ものづくり、という言葉が悪いというわけではないのだけれど、ものづくり、という言葉をなるべく使わないようにしている(←本文を分かりやすくしたり、依頼した原稿を掲載したとき、屋号や製品名等で使うことはある)。
 
 確かにものづくりというのは、ものをつくること、という意味なのでイメージしやすいかもしれないが、ここ数年、ものづくりがカオス状態だ。とにかく、ものづくりと言えば、汗を流して製品をつくる=正義、と連想しやすく悪いイメージがない。こうしたことから、最近はブームのようにものづくりの言葉が溢れている。現在起こっている課題や問題をぶっ飛ばして、「なんだかよく分からないんだけど、頑張ってるし、いいんじゃね?」的な気分にさせてしまう“ものづくりマジック”すら感じている私。もうね、「ものづくりで10才若返る」、「ものづくりで痩せる」というタイトルの書籍があってもおかしくない勢いだもの。ああ、そういえば「リケジョでモテ女」的なものもあったわね(笑)

 こうしたものづくりブームの中で使われているワードの多くに、女子力、逆襲等がある。長年(←本当は5年ほどと言いたいところだが)製造業の取材をしているなかで、どうもピンと来ない。

 高度成長期の良い時代を思い出して「あの時代は良かったな」と、その大量生産でたくさん儲かった時代を懐かしんでも、すでに時は流れている。今や地球上を人・もの・金が自由に行き来できる時代だ。本当に考えなければならないのは世界情勢にみる政治的リスクだったり、グローバリズムを背景とした企業格差等の拡大だったり、製造業を取り巻く環境のほうに注目しなければならないのではないか。そんな時代でありながら、女子力がものづくりを変える、元気にするっていうのも、いまいちセンスが感じられない。男子はものをつくることを変えられないのか、女子にしかできないものなのか、という話にも繋がる。逆差別にもなりかねない。ましてや優秀な人材に性別は関係ないわけで、製造業が元気になるには、儲かることが1番である。なんだか良く分からない生っちょろいカラ元気よりも、受注量増加で笑みがこぼれるのが現実なのだ。

 常日頃しつこく言っているが、これは人間の多様性を尊重したダイバーシティの考え方が普及している中において、時代錯誤も甚だしく嘆かわしい話だ。老人だって子どもだって、中年だって、どんな方でも製造現場を変える力を秘めている。製造現場である近年の工場革新は目覚ましい進歩があり、その進歩の元にあるのは人間の知恵。知恵はいつの時代も必要だ。こうしたことに疑問を持たずに、注目させることにやっきになっていると、なんのための女子力だか、なにに訴求しているのかよく分からない。とにかく注目させれば良い、という考え方の蔓延は、混沌としたものづくりのイメージを増幅させる一因であると考えている。女性が活躍して成功した事例も多くあると思うが、それは性別うんぬんよりも、ご本人の能力の高さとニーズが合致したことで成し遂げたことであり、女性だからうまくいったわけではない。こうしたことから、〇〇女子といって騒いでいるうちは、まだまだ社会が時代についていっていない証拠だと感じている。

 さて、ものをつくる方がどこから攻撃されているのかよく分からないのが、逆襲だ。過去に良い思いはしなかった、という皮肉を込めて方々で使われているように感じるが、そこには製造業が弱者であるという前提がつきまとう。もちろんビジネスは先述のとおり環境に左右されやすいが、製造業を取り巻く環境が絶好調の景気でも、悪い景気でも、万年「製造業の景気が悪い」と主張する方がいるならば、それは製造業でも社会の問題でもなかろう。

 多くのメディアも近年“ものづくり”を捉えており、トレンドに乗っかればなんとなく、賢明さを装える、という安易な考えが、世の中に蔓延しているのではないか、と感じることもある。製造業は国の政策にも影響を受ける上、多くの知識が要求される場合もあるから、簡単に旗幟を鮮明にできない。注目されるのはいいが、旗幟を鮮明にしたところ、ひょんなことから、「こいつ、あまり勉強していないな」と批判にさらされる場合がある。それを避けるために有効なのは、女子だったり逆襲だったりするのではないか。なぜなら、この言葉からは、弱い、嫌な思いをさせられた、という人間が持つ感情に訴えることができるからだ。こうなるとなんのために訴求しているのかさっぱり分からなくなる。

 物事が間違いだろうが正しかろうが概念を植え付けやすいツールでもあるメディア(書き手)は、“無意識”に価値観を植え付ける効果がある。したがって、書き手は間違った認識が垂れ流されぬよう細心の注意が必要であり、その努力を怠ることをしてはならないと思っている。

 なにをつくるか、それがどんなところで役立つのか、という部分に重要性を感じているので、一般ウケをしないことも充分承知をしているが、製造業の重要部はマニアックなのでそれでいいと思っている。全く使わない、ということはないが、なるべく“ものづくり”という言葉を使わないようにしているのはこうした理由からである。