「グローバル化の持つ光と影を認識して冷静に対処」日機連が賀詞交歓会を開く

 

 日本機械工業連合会(会長=岡村 正 東芝 相談役)が1月7日、都内のホテルオークラで賀詞交歓会を開催した。岡村会長のあいさつの概要は以下のとおり。

 昨年は、国内内外で大きな異変が相次いだ。なかんずく二つの大きなサプライズがあった。一つは英国のEU離脱が決することになり、また米国では、TPPに反対を唱えるトランプ候補が予想に反して大統領選に勝利した。1980年前後に精研についたサッチャー首相とレーガン大統領が新自由主義的な経済政策を唱える中で、本格化したグローバリズムの流れに対して、30年が経過をした今、その震源地であった米英において逆転の動きが始まったかのように見えるのは誠に皮肉なことである。

 私たちは、このように不確実性が高まる時代の中で新年を迎えているわけだが、こういう時代であるからこそ、グローバル化の持つ光と陰の部分をよく認識して冷静に対処する必要があると考えている。

 米英を中心とした所得格差の急激な拡大や、ドイツを除く大陸ヨーロッパ諸国における若年層を中心とした極めて高い失業率などがあった。反グローバルリズムの動きの背景に長期的、構造的な課題が隠されていること言わざるを得ない。企業経営においてもその政治的リスクを相当深く考えて対処していかなければならない時代に突入したのではないかと理解をしている。

 また、今日のグローバル化においては、人・モノ・金の移動に加えて情報のリアルタイムな自由移動が、ネット革命を通じて飛躍的に高まってきていることにも改めて注目する必要がある。情報とともに課題意識が世界中で共有される中で、技術革新への取り組みも、世界的にシンクロナイズされるような時代となってきた。とりわけ、IoT、AI、サイバー・フィジカル・システム、ロボティックス等に象徴される、デジタル化の潮流に沿った技術革新の取り組みは、あらゆる国を巻き込んだ世界的な流れとなっている。

 この新たな技術革新は、グローバリズムの光の部分であり、様々な社会的課題を解決する上で極めて重要な手段である。ユーザーにとってはますます便利な社会になると予想される。しかし他方のサプライサイドでは、独占的なプラットフォーマーが出現して利益を総取りしかねない、新たな企業格差、国家格差の時代に突き進む可能性もあるわけであるから、このことをよく認識してわれわれも対処しなければならないと考えている。

 日機連では、こうした問題意識のもと、3年前から会員の皆様の参加を得て特別の専門部会を設置し、世界的なパラダイムシフトの動きについて研究を行ってきた。また、一昨年にはこうした取り組みを基礎として、各企業に広範な呼びかけを行う中で、ロボット革命イニシアティブ協議会を創設した。ドイツにおけるインダストリー4.0の推進母体との連携を含めて具体的な活動を展開してきた。さらに本年からは、IECを中心にスマート・マニュファクチャリングの国際標準化の作業が開始されることに伴い、これに対応したわが国における国内審議団体の役割をロボット革命イニシアティブ協議会(RRI)が担うこととした。日機連本体としてもこのRRIの活動を前面的に支援する。本年は、いよいよ具体的なアクションが始まる年となる。政府、関連業界及び学界の関係各位の協力を得て、国際的にも栄誉ある地位を築けるよう、頑張っていきたい。

 また、技術革新の推進に向けて、研究開発税制の強化が求められる中で、IoT時代に即応した制度の充実を製造業関連の他団体とも連携して関係方面に強く要請をしてきたが、政府・与党の理解をいただき、昨年末には税制大綱において、新たな設備投資促進の税制とともに実現の運びとなった。関係各位のご尽力に対し、心より感謝申し上げる次第である。

 米欧の政治変化の中で、長期的には保護貿易主義のリスクが増大する一方で、足元では日米の金利差等を背景に円安が進み、株価も上昇してきた。また、OPECと非OPEC諸国が15年ぶりに原油の協調減産をする中で、資源経済にも一定の秩序が戻ろうとしている。こうした中で政府においても、年末に決定した来年度経済見通しについて、経済成長率、物価動向ともに改善の見通しが示された。来年度の完全失業率が2.9%と予測され、3%を切る20数年ぶりの低水準が予想されている。今後の成長戦略においては、こうした労働力不足をいかに克服するかが大きな課題となる。そのための機械化、システム化が大きな課題となっており、新たな成長に向けて機械産業の果たす創造的な役割への期待はますます大きなものになると考える。

 わが国機械産業にとって、2017年はリスクを伴った年であることは間違いない。

第四次産業革命の気になるポイント

 来賓を代表して糟谷敏秀 経済産業省製造産業局長があいさつをした。あいさつの概要は次の通り。

 機械産業はわが国の輸出の2/3を占める日本の稼ぎ頭である。日本機械工業連合会では安倍政権が掲げるロボット革命の担い手としてロボット革命イニシアティブ協議会の事務局を担っている。改めて感謝申し上げる。

 昨年はドイツと政府やプラットフォーム(日機連とドイツのプラットフォーム)との間で、MOUを結び、国際連携、第4次産業革命に関する国際連携が本格化した。さらにフランスやアメリカなど他の主要国とも今年は国際連携をさらに進めていきたいと考えている。2017年からは、IECを中心にスマートマニファクチャリングの国際標準化の議論が本格化をする見通しである。これに対応した国内審議団体をロボット革命イニシアティブ協議会に担っていただく予定であり、ますます重要な役割を果たしていただくことになる。

 さて、第4次産業革命の対応をするうえで日頃気になっている点をいくつか挙げたい。
 一つ目は、学、アカデミアとの連携である。ドイツをみると、フラウンホーファー研究所がある。ここは2万人を超える研究員がいる組織であり、大学ともクロスアポイントメントが進んでいる。フラウンホーファー研究所や大学から毎週のように複数件の提言や研究成果が公表される。その背景には産業界と学会との人的交流が非常に活発であることが挙げられる。日本がこれに相当するのは産総研だが、産総研の規模はフラウンホーファーの1/10。学会にも横幹連合という学会が集まった組織があって、問題意識を持った一部の先生方を中心に研究会が始まった段階で、まだまだこの違いの隔たりが大きく、これを埋めていく努力が必要だと思っている。

 二つ目は標準化の進め方について。もともと国際標準化には言葉の壁がある。これはどうしても乗り越えていかなければならない。外国語が母国語の人材を活用するということが今ではより現実的な選択肢となっている。そういうことも含めて考えていけば乗り越えていける。人材の計画的育成が課題であるが、標準関係の国際会議で年齢別参加者の構成をみると、50才未満の割合は中国が6割、韓国が5割近くで、日本は5%。もちろん日本は95%の方々が50才以上で経験豊富の方々にやっていただいているので今は安心だが、計画的に若手の人材を育てていかなければ20~30年後に中国や韓国との関係でどうなるのか、と非常に心配である。

 第4次産業革命関係の標準は、ビジネス数の戦略と密接な不可分になってきていることに注意しなければならない。標準の専門家に任せるだけでは不十分である。企業の戦略を理解したチームで臨んでいく必要があると思われる。

また、企業経営に関するスピードとビジネスモデルについてだが、デジタル化の進展を背景に製品やサービスのライフサイクルが短くなっている。よりスピードが求められる時代になっており、他社の後追いでは利益は上がらない。無いものを生みだそう、という競争が激しくなってきている。既存の商品を改良するだけでは追いつかず、全く新しいビジネスモデルを創り出すという競争を世界中の主要な各社がしのぎを削っている。

アメリカのインテルでは、“失敗してもいいから試してみろ、試し損ねるな”という言葉が流行っていると聞いた。試行錯誤を重ねていくことが非常に大切であると感じている。完璧さよりもスピードを重視する考え方は、ある意味、日本のこれまでの考え方とは対照的である。問題がないよう時間をかけて慎重に検討する、問題が起きるくらいなら着手をしない――こういう考え方とは対極にある考え方である。完璧であるよりもスピードを重視する考え方の企業が海外では増えているが、スピードを出すためには、経営資源には限りがあるので、全てを自前で開発するのではなく、自らの強みを維持しつつ、他社の強みを活用する競争と強調の使い分け、協調領域の最大化、あるいはオープンイノベーションが不可欠になる。

ただ、いろいろと拝見していると自前主義からの脱却はなかなか簡単ではないと感じる。協調のために共同で出資して会社を設置するというところまで漕ぎ着けられたケースでも新しく造った会社の意志決定がなかなか進まないといった事例も見聞きしている。もちろん、アメリカのIT企業を真似るのではなく、“日本は日本独自のやり方があるんじゃないか、現場重視でものづくりをちゃんとやっていけばいいんじゃないか”、という意見があることもよく分かっているが、海外のものづくり企業、ドイツであればシーメンス、アメリカであればGEなどが次々とソフトウェア企業を買収していることがずっと気になっている。

 日本のメーカーではあれほどの規模でソフトウェア企業を買収しているという事例がなかなか見られないが、こうした海外企業のある方に、“ソフトウェアの思考自体がものづくりの考え方とは全く違うんだ”と言われた。ソフトウェア企業を買収して取り込んだ多様な外部の人材に権限を任せて事業を変革している。ソフトウェアの思考の違いは、ソフトウェアの開発が抽象化によって小さな違いを捨象することが基本にあることである。抽象化しないとスピードと拡張性が得られない、利益も上がらない。抽象化をどうやって進めるか、ということにしのぎを削っている。抽象化は多様な人々が一緒に暮らして共通して理解が得られるレベルまで抽象度を上げられることが常に求められている欧米の社会では抽象化能力が鍛えられるが、日本企業は社員の大半が日本人であり、組織ごとに仕事のやり方も言葉も異なり、また、それぞれに応じたITプログラムがある。こうした中で、日本人は抽象化能力が乏しいと言われても仕方がないと思われる。

 しかしながら、こうした欧米企業のやり方が成功するかどうか、は、誰もまだ分からない。ただ、こうした中で日本の企業が今までのやり方でやっていく、ということで大丈夫かどうか、ということが気になっている。

 日本ではなかなかプラットフォームが生まれない、という指摘もある。なぜなんだろう、とずっと考えている。第4次産業革命はデータに価値があるといわれており、データを得る仕組みが大切なのだが、この仕組みが日本にはなかなか無い。他方で“データを得たいのだが相手がデータを出してくれない”、というボヤキも多くの企業から伺っている。データを出す側からの企業からすると“データを出して相手方を利するだけにならないか”、という警戒もごもっともな話である。どうもこの背景には、モノを売る、という物売りの思想があるのではないか、と思っている。

 自社の製品を拡販するためには、他社の製品と差別化して壁をつくる、という囲い込みが不可欠になるが、ただ、囲い込んで壁をつくるだけではデータは集まらず、WINWINの構図も得られない。他社と繋げると自社の売上げを減らすことになるのではないか、という恐れから踏み切れない、というのが正直なところではないか。サービスソリューションから収益を上げるビジネスモデルに切り換える決断がなかなかつかないのは、そこで悩んでおられるのではないかと考えている。

 製造、製品という枠に捕らわれすぎる限り、大胆なビジネスモデルやプラットフォームは生まれないんじゃないか、と最近はそんな気になりはじめている。既存の製品事業を時には否定をして考えるということも必要ではないか。

 政府がやってきていることも十分だ、というつもりもなく、まだまだわれわれも努力が足りないと思っている。ぜひ、皆様方のご意見を聞きながら今年はさらに汗をかいて政策を充実していきたいと思っている。

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