【トップインタビュー】タンガロイ 木下社長に聞く ~加工現場を魅了する高能率工具を生み出すための企業努力とは!?~

 タンガロイ(社長=木下 聡氏)は、昨年、同社の長い歴史の中(今年で88年)でも最大のキャンペーン『TUNGFORCE(タングフォース)キャンペーン』を世界規模で展開し、生産性の高い最新工具を市場投入して話題を呼んだ。新型工具や各製品ラインをさらにグレードアップし、旋削加工、転削加工、突切り&溝入れ加工、穴あけ加工とあらゆる加工に対応するインサートの材種と形状で、工具の長寿命化を実現するとともに驚異的な加工能率を可能にした切削工具の数々は、昨年11月に開催された「JIMTOF2016(日本国際工作機械見本市2016)」でも大きな注目を集めた。
 工作機械の隠れた能力を引き出すことに重点を置いている点も見逃せない。たとえ機械が古くても加工の生産性を向上する切削工具の数々は、加工を商いとしている者にとっては魅力的な製品であろう。

 精力的に技術革新を行っている同社に対し、最近、イメージが明るくなったとの声をよく聞く。同社の取り組みに着目し、木下社長にお話しを伺った。

根は現場のプレイヤー

 ―顧客に情報を届けるための様々な企業努力がみてとれます。以前は若干、近づきがたいイメージがあったのですが、最近、親しみやすく変化しています。ブランディングについてのお考えをお聞かせ下さい。
 木下 ブランディングは重要だと考えています。モノが良ければいい、という考え方もあるのですが、クオリティーは高くて当たり前です。歴史だけでも商売はできません。タンガロイ、という社名を広く社会に認知していただくことも重要ですし、その一方でタンガロイ内部の“人のモチベーション”も大切です。歴史を守ることも大切ですが、グローバル化が加速する中、世界を考えながら日本をおろそかにしない、という考えでいます。
 ―良い製品、サービス、労働力の強化もブランディングによって得られるメリットですが、会社が広く認知されることによって社内が活気づき、社員のモチベーションアップもつながります。社内で変えたことはありますか。
 木下 役職で名前を呼ばないようにしました。私も社長と呼ばれないですよ。
 ―えっ? なんと呼ばれるんですか?
 木下 新入社員からもベテランも皆、木下さんです。ポジションパワーをほぼ使わないようになりました。規模が小さいので、どれだけ情報を交換するか、をスピーディにやらないと世の中についていけません。都合が悪い情報が目上の人の耳に入らないといった文化がなんとなく日本にありがちでしたが、そういうことを無くしたかった。
 ―社内において情報を共有化する下地をつくられたのですね。
 木下 情報の共有化は大切だと思っています。マネージャーもプレイングマネージャーという考え方です。私は社長ですが根は現場のプレーヤー。そうしたほうが社内の力を集結できると感じています。投資を決断するスピードも早くしました。増産や開発投資についても、従来は意見を聞くのに、いちいち会議を開いていた。今ではほとんど会議もしなくなりましたね。タンガロイは開発製造販売業です。スピーディに物事をすすめていかなければ、今の世の中にはついていけません。それだけ決断するときは責任もありますが。
 ―こうしたお考えのもと、精力的な新製品開発が実現したのですね。
 木下 どの世界でも様々なリスクを考える立場の方がいらっしゃいます。もし、それぞれがそれぞれの立場でリスクを回避しながら会議室という席上で話しをしていても、責任を取らない集団になる可能性があります。売れるものは売れていくし、売れないものは淘汰されていく。売れると思っているから開発もするし、つくるんですね。そのあとに、“このひと工夫を加えればもっと売れる”などのポジティブな意見がバンバン出て欲しいですよね。否定することは誰でもできるので、皆さんがポジティブなコミュニケーションをどんどん取るべきだと思っています。アイデアを評価するのではなく、クリエートしていくようなコミュニケーションが理想ですね。そのためにポジションパワーは不要だと考えています。

最大の強みは基礎開発力 サービスにも投資!

昨年11月に開催されたJIMTOF2016でも連日賑わいをみせた。
昨年11月に開催されたJIMTOF2016でも連日賑わいをみせた。
 ―貴社の最大の強みは?
 木下 材料の開発力といいましょうか、われわれは全て自社で基礎研究から開発をしています。様々な新しい形状の工具を提供していますが、自分たちで材料開発をしているからこそ、高能率な製品を生み出せることができると思っています。
 ―製品の魅力を広めるために注力されていることはありますか。
 木下 弊社の営業マン数はコンペティターと比較しても多いと思います。お客様あっての会社なので、技術サービスには人材を投入し、力を入れています。また、日本はしっかりした流通網がありますから、良い特約店・販売店の方々がタンガロイを信用して下さっている面もあります。
 ―海外の流通と比較して違いを感じることはありますか。
 木下 海外は専門販売店ですからタンガロイ製品を売ろうとしたらタンガロイしか売らない。日本国内は他メーカーも揃えられますから、競争が厳しくなります。
 ―このような厳しい競争の中でも売上げを伸ばしている理由を教えて下さい。
 木下 これはもう、“他にないもの”を開発しているからでしょう。もし、他社と同じような製品を提供していたらお客様は、「どれでもいいから持って来い!」と言います。他にはないものをどんどん他社に負けないスピードで市場に提供していくことが、選択される道だと思っています。
 ―木下社長は開発部長も兼務されているバリバリの技術畑です。さまざまな視点から市場をみることができるのでマーケットに関しても強みを発揮しているように見受けられます。
 木下 お陰でものすごく社内はオープンです。私が良い、と言っても発売しないものがある(笑)。毎日技術者と話しをしながら、加工現場に必要な工具について、マーケットの観点と技術を融合させながら製品を生む努力をしています。1人でも多くタンガロイの工場を見に来てくれる、タンガロイの工具を1人でも多く使ってくれるというのは、先述のとおり、ブランディングの結果が出ることにつながる。しかしながら、この結果というのは、決して売上だけを指すものではありません。信頼を得ることがなによりで、例えばそれは、お客様が“困った時にタンガロイに相談する”といった真っ先に思い出してもらえるような会社になるということを意味しています。
 ―輸出比率を65%と増加させましたがその狙いは?
 木下 なぜかというと国に依存せず、バランス良く世界に売るためです。例えばなにかの産業だけ、とか、どこかの国だけ、に依存していると経営は難しくなる。どこかが悪くてもどこかが良ければバランスは取れますし、アップダウンが少なくて済みます。
 ―最近はIoTを利用した自動化が注目されています。
 木下 コスト競争力のために自動化は避けられません。われわれの工場ではある程度構築しています。日本でものをつくっていくためにも、付加価値の高い商品の開発をすることと、それをいかに自動化していくかということに対する投資に相当のエネルギーを注いでいると自負しています。これについては、お客様にも工具をつくっているところを拝見してもらうのですが、そこで“品質の良さのキモには自動化あり”と納得されます。バラつきのない安定した品質を提供するためには自動化が必要なんですね。
 ―貴社では、倍速切削を実現する最新イノベーションを掲げ、“ソリッド工具を刃先交換型へ”と提案していますがそのメリットを教えて下さい。
 木下 ソリッド工具は再研削となったり手間がかかるうえ、資源のことも考慮すると刃先交換型のほうがお客様にとってもメリットがあります。経済性を最大限に環境保護は最優先に、ですね。
 ―ありがとうございました。

倍速切削を実現する最新イノベーション

木下社長イチオシの工具「DrillForce-Meister」
木下社長イチオシの工具「DrillForce-Meister」
 タンガロイが提案する“倍速切削”を実現する切削工具『TUNG FORCE』シリーズだが、この中で、昨年11月に開催されたJIMTOFで来場者の注目を浴びた商品は、φ30~φ40mm程度の大径穴あけ加工で2枚刃仕様、高い生産性を発揮する「DrillForce-Meister」。生産性を劇的に改善する製品だ。最適化された切れ刃形状と溝設計によりバツグンの切りくず処理・排出を実現する。タンガロイ独自の非対称クランプ形状により、ドリルヘッド交換時の優れた繰り返し精度と高い振れ精度を実現しているところも魅力だ。木下社長も「ソリッドドリル並みの高精度な穴あけ加工が実現する」と自信の一品。

 「TurnLine」より、新母材と新コーティングを採用した鋳鉄加工に最適な高汎用性材種「T515」も要注目だ。この製品は「T5115」の補完材種として設定したもので、特殊表面処理技術を採用したことで表面平滑性が向上、これにより耐チッピング性及び耐剥離性が向上した。また、高速加工というとすぐに工具がボロボロになりそうだが、この嫌な現象を回避するため、コーティング層の全体厚さを変更せず、Al2O3層を従来よりも1.7倍も厚膜化している。

 ちなみに『TUNG FORCE』の“G”は引力(Gravity)のG。引力は物体を引き寄せる力であることから、“加速化”を意味する。また、この“G”は材種(Grades)と形状(Geometries)のGを指す。工具の長寿命化を実現すると同時に驚異的な速度での加工を可能にするという意味が込められている。

 

moldino_banner

 

 

intermole2024_大阪