バーチャルとリアル

 今年はコロナ禍により人との対面が激減した。企業にとっては営業チャンスになる大きな展示会もオンラインに変わり、今までにない変化に関係者は対応に追われ、神経をすり減らしているのが分かった。オンライン展示会といえば、ネット通信環境さえあれば、誰でも見られるメリットがある反面、情報収集のためとはいえ、職場で画面を見ていると、どうも〝サボっている感〟が滲み出てしまい、正々堂々と画面を見ることができないといったデメリットもあるようだ。

 リアルな展示会の良さは、お客さん、同業他社、関係者など、顔見知りが展示会場内ですれ違った時に挨拶がてら「○○(企業名)にあった○○(商品名)、見ましたか? なかなか面白いですよ!」的なナマ情報が飛び交い、その場の口コミ延長線上で実物を拝見することができることだ。人気のブースに人だかりができれば、来場者も「なんだろう?」と足を止める。人が人を呼ぶという現象は、大きな営業チャンスになる。

 バーチャル展示会で気付いたことがあった。リアル展示会の場合、企業規模で見学することも多いが、バーチャルだと個人単位で画面を見ることになる。リアルでは製品購入の決定権を持つ責任者も決定権のない者も入り交じりながら製品を見ることができるが、バーチャル展示会の場合、ほとんどは、1つの画面に1人が向かっている。少々面倒なのは〝名刺交換〟という名目のもと、ブース毎に自分の所在の入力を促されることだ。後日、営業の電話がかかってくるのはアリだとしても、中小零細企業の場合、責任者ではない社員に大量の電話やメールがやってくると、上司に叱られてしまうといった風土も拭いきれない。

 リアル展示会はみんなで楽しく情報収集が出来る場という場でありながら、古い職場風土がある場合、オンライン展示会を見ていることがバレると「仕事もしないで何やってんの?」という上司の圧を感じる、とヒラ社員の悲しい声も聞く。こうした話を聞くと、リアル展示会は業界においてお祭りでもあり、円滑なコミュニケーションを図る役目もあるのだと実感する。そして、大規模展示会に訪れる〝設備導入の責任者〟は、来場者全体からみると少ない。

 しかしながら、今後、オンラインでも5Gの普及により、コンテンツが大容量化することで大型設備などを例にとると見えない部分も動画やVRなどを活用することで、多彩できめの細かい情報をイメージで伝えられることになり、より詳細な製品説明が可能になる。これこそバーチャルならではの最大のメリットであり、また、メーカー主催によるオンラインセミナーなどは他の出席者を気にすることもなく、チャットの活用で質問も見える化する。集中して知識を仕入れるにはもってこいだと思った。

 話は変わるが、アパレル関係もコロナ禍の影響で全体的には下火だが、ネット販売は伸びを見せているようだ。販売員が自社ブランドの洋服を着こなしてアップし、読者に訴求する。素敵な着こなしを見た読者の購買意欲に火を付けて、オンライン上で注文できる仕組みも多く見られるようになった。近年では、個人の観覧履歴と紐付けし、AIを活用して個人の好みに合致した提案も当たり前に行われるようになっている。画面を見て、クリックすれば、ものは買えるという便利な時代だ。

 私は見かけ通り(嘘)、案外慎重派なので洋服を購入する際は実店舗で、手に触れて生地の質感や、着心地を確認し、体型にあったシルエットかどうか確認する。頑張った自分へのご褒美に、あるいはストレス発散のため、といった理由を付けては、お気に入りの店内に入り、品物を手にとって吟味するワクワク感も大切だ。外出をするきっかけをつくり、五感で楽しむことができる買い物でほんの少しの時間でも非日常を味わうことができれば、生活の楽しみが増え、明日の活力にもなる。こうした機会が減っていく世の中はどこか味気ない。

 さて、2020年はコロナウイルスの感染拡大の影響で皆様にお会いするチャンスに恵まれませんでしたが、来年のワクチンに期待して、また元気で再会できることを心より祈っております。

 今年も製造現場ドットコムをご愛読いただき、ありがとうございました。来年も引き続き、よろしくお願いいたします。

 

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