生産加工システムの自動化に貢献する研究者!

電気通信大学情報処理工学部知能機械工学科・機械システムコースに森重研究室がある。
森重功一准教授は、「日本の製造業は今大きな岐路に立たされている。海外へ企業の生産拠点が移り、これまで培ってきた生産技術の流失も急速に進んでいる。この流れに対抗するためには“流出するものに代わる新たな高付加価値産業の創出”と、それを実現するための“高付加価値生産技術”の確立が不可欠です」と力強く話した。



コンピュータと各種ロボット(加工ロボット、計測ロボット、多関節ロボット)を活用して、生産加工システムの自動化、効率化、高精度化、知能化に関する研究を精力的に行っている森重氏を訪ねた。

森重研究室の主な研究テーマのひとつに“多軸制御工作機械を利用した新加工法と生産ソフトウェア基盤技術の開発”がある。つい数年までは5軸制御の工作機械は加工現場から嫌煙されていたのが嘘のように最近は5軸の工作機械も当たり前のように市場に出回るようになった。航空・宇宙産業に利用されるような複雑形状の部品を能率よく製造するためには、従来にない加工方法が必要になる。森重氏がまだ学生だった頃、すでにこの「5軸加工」に目をつけ、研究をスタートさせていたというから、先見の明があったのだろう。
「以前は5軸加工というと、まず“高価”なうえに“遅い、”“加工プログラムの作成が難しい”などのイメージがつきまといましたが、今は違います。複雑な形状の加工は段取り替えをしなくて済むので、工程数の削減ができます。これは加工時間の短縮に結びつくうえ、取付け誤差が減少から加工精度が維持できます。すでに欧米では金型や部品加工をはじめ、あらゆる加工分野で当たり前のように5軸加工機を使われています」(森重氏)

「加工インターフェイス」で加工の自由度を広げる

操作すると生々しい感触が手に伝わる
操作すると生々しい感触が手に伝わる
ところで、NC加工のメリットは“高精度”、“無人化”、“大量生産”という点だが、課題もある。複雑形状を加工する場合、専用のCAM等の手段を検討しなければならないうえ、多軸制御加工になるとさらにCAM操作が煩雑かつ難度が高くなる。つまり、NC加工機は複雑な動作を高い精度で実現するが、プログラム無しでは実行できないということだ。森重研究室では、この点にも注目して開発を行っている。
「データを作成することなく、直感的かつ安全に加工部分にアプローチできれば、加工の自由度が広がります。バーチャルリアリティに利用される触覚デバイスを用いた新しい加工インターフェイスは、一品ものの荒加工や追加高に有用なうえ、視覚と力覚により仮想空間に様々な情報を展開してくれます」(森重氏)

他にも、わが国は世界第一の産業用ロボットの生産国だが、その利用技術は未だに成熟していないと指摘する森重氏。現在、6軸多関節型ロボットの構造や産業の特性を考慮した加工面の自動評価や特殊な加工のための新しい装置の開発など、様々なアプローチで産業用ロボットの知能化に取り組んでいる。

子供の頃に見学した宇宙博に大きな影響を受けた

森重氏が、子供の頃に大きな影響を受けたのが宇宙博。
「展示されていたロケットを観て衝撃を受けました。あまりの感動で涙が出たほど。両親もビックリしたようでしたが、この時に、工学系に進みたいと強い思いのもと、そのまま大人になりました。近年、子供たちの“工学離れ”が懸念されていますが、たくさん好奇心を持って刺激を受け欲しい」と話す。

昨年開催された「JIMTOF2010」で森重研究室では“簡単コンピューター加工体験”を展開した。これは、所定の用紙に好きなように絵を描くだけで、スキャンした画像データから自動的に工作機械を動かすためのデータが作成されるというもの。ちょうど記者も今回、体験することができた。目の前にある小型の工作機械によってみるみるうちに自分の描いた絵が彫刻されていく様子に圧巻されたのだが、未来を担う子供たちが「ものづくり」に興味を持つためには、“ものをつくる”楽しさを理解させることも重要なのだろうと感じた。

森重氏が掲げるテーマに「ものづくりを人のそばに」がある。専門的な知識を持たない人でも安全に、楽しく、自分自身でものをつくることができる―――そのような仕組みのあり方について積極的に提案していくとしている。

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