安田工業が約10年ぶりに内覧会を開く ~圧巻の5軸マシンがズラリと並ぶ!~
安田工業(社長=安田拓人氏)が7月5日、本社工場(岡山県浅口郡里庄町)で工場見学やセミナーを兼ねた内覧会を開催した。今回は、同社の5軸マシンがタイミング良く一斉に組み上がったこともあり、同社では約10年ぶりの内覧会となった。
最近は工作機械が絶好調。売れてしまえばモノがないうえ、展示会があっても会場内で大型マシンを展示するのは難しい。このような時流の中、今回はマシンが一斉に並ぶ様は滅多にない機会とあって大盛況。103社233名が足を運んだ。
10年ぶりの内覧会をレポートする。
今回は航空機産業がターゲット! YASDAの高剛性をアピール!
「この機会にYASDAの原点をぜひご覧頂きたい。」と話す守谷登貴保 取締役営業本部本部長(以下守屋取締役)。
今回の目玉となる機種は、チルトテーブルの付いた5軸MC「YBM8T−63TT」、さらに大型の「YBM10T-100TT」は来場者を圧倒していた。難削材から高精度な形状加工まで高品質かつ高能率に稼動するこのマシンは、両サイドに高剛性、高精度ロータリーテーブルを配置した完全対象構造で、ポジションタンデム制御によって高精度割出を実現しているという特長を持つ。
他にもインコネルのような難削材加工に威力を発揮する「YBM950V」にも注目が集まった。このマシンには画期的な技術の詰まったシステムがあった。これは、切削点に最小径のドライアイスパウダーを噴射し、ドライアイスの温度と気化熱で切削点を冷却する仕組み。これにより熱の発生を抑制するのだ。ドライアイスパウダーは全て気化するため、残渣物がないので切屑の除去効果も認められ、工具の寿命向上に貢献する。大気中のCo2を再利用するエコなシステムが嬉しい。
この画期的なドライアイスパウダー冷却装置を使えるのは「剛性のあるマシン。」ということで、ここでもマシンの剛性の高さを存分にアピール。来場者も興味津々だった。
さて、このように大型、難削材加工向きのマシンが並ぶ同社だが、守屋取締役は、「現在、2度目の航空機ブームが到来している。弊社でも特に航空機産業でご活躍されている皆様にぜひ見ていただきたい。1500℃ほど温度が上がるエンジン回りや、脚回りの加工などに威力を発揮する機械の特長には、われわれの原点がつまっています。」としたうえで、今後航空機分野での売上目標を「今後5年で倍増したい。」と、今後、航空機産業分野を強化していくとの意欲を表した。今回のセミナーの内容は、第一部が「機械講座」。機械一般知識、計測、加工など工作機械全体に関する内容で、第二部が「挑戦するなら今! 航空エンジン参入のチャンスとステップ」がテーマだった。
工業デザイナーの救世主! 昨年大注目だった3Dリアルトランスレータの最新バージョン「Labonos LDR 200」はさらにコンパクト! ~加工機をスマホのように扱う~
3Dリアルトランスレータとは、“専門知識が不要で直感的・簡単操作で、3Dデータをリアルなものにトランスレートするシステム”を指す。「仮想空間上のものをリアルな空間のものに翻訳する、ということを意識している。」と、同社。要するに、このマシンは、3Dプリンタでは実現できなかった意匠性、質感確認、強度確認ができるという、工業デザイナーや設計者の強い味方なのだ。
STLデータ(3次元形状を小さな3角体の集合体として表現するシステム)は、データ構造が簡単な性質上、3Dプリンタの分野では標準フォーマットとなっているが、「Labonos」はこのデータ形式にも対応している。また、オブジェクトの形状は3つの頂点の座標と法線ベクトルにより定義される三角形ポリゴンのfacetの集合により表現しているとのこと。主にサーフェスの受け渡しが得意な中間ファイルであるSTEPのデータ形式やIGES形式にも対応している。現在、製造業における製品サイクルはどんどん短くなっており、より一層の開発スピード向上が求められている。同社では、「樹脂成形品による機能部品や製品開発のFEM(Finite Element Method)や樹脂流動解析などを用いて試作レスを進めているかと思いますが、その一方で完全な試作レス化は非常に難しく、特に機能性だけではなく、意匠性を求められるような部品や製品の場合、試作で評価・検証されていると思います。そこで、われわれは“3Dプリンタでは実現できなかった!”を切削加工で実現しました。」と開発の背景についてコメントした。
切削加工機でありながら、3Dプリンタと同等の使いやすさで、“今まで切削の知識、ノウハウ、特殊な環境やCAMなどがなく導入ができなかった”と悩んでいた設計者や工業デザイナーにとっては救世主となるほど、操作は簡単。工具は指示に従い決められた向きにセットするだけで自動認識してトランスレートを開始する。また、多数個取りも可能だ。なお、ノウハウをデータ化したプロセスデータ(材料種や面性状および形状毎に提供されるトランスレータ用プロセスデータ)を安田工業から有償で提供する。
材料種は樹脂に限っているが、プロセスデータは材料種ごとに持っている。例えば、ポリアミド樹脂(MCナイロン)、ABS、ポリエチレン、ポリカーボネート、といった具合だ。これらはいずれも同じ加工面品位を得られていることを確認している。もちろん、2次元的な形状だけでなく、3次元形状でも対応しており、最大加工サイズはφ200×190mm・□200mm×190mm(条件あり)となっている。
設計者は実際の製品の最終形態を予測できない部分もあるので、試作にかかる時間が嵩む。
同社では補聴器を例に出して、「最近の補聴器は基板が小さくなっていく一方、集音性はもちろん風切音まで感じるよう性能は高くなる。コンパクトな補聴器に要求される部品が入るかどうかも問題だ。様々な工程を経る補聴器は、耳への感触や形状等を予め確認できれば、工程が短縮できる。」と説明した。
狙いは、試作開発品にかかる工程をいかに短縮するか――。
「最大ではなく、最高をめざす―――」という不変のスローガンを掲げる同社では、「新しい産業は新しい技術を要求し、新しい技術は新しい産業を誕生させる。この時代に対応するためには、柔軟な発送が欠かせない。」としている。ユーザーの潜在的な要望に速やかに対応し、最善策を提案していくことがYASDAスピリッツなのだ。現在、顧客の業績向上に貢献するため、工場環境を強化し、開発能力の向上に注力している。
そして、「Labonos LDR 200」を誕生させた新進気鋭の部隊である新規事業開発部。彼らが見つめる先にある新時代の技術に期待したい。