三菱日立ツールが「グローバルソリューションセンター 東部ステーション」オープン ~金型総合技術ステーションを目指して~
三菱日立ツール(社長=増田照彦氏)が、金型加工ユーザーに対する技術サポート強化を目的として、千葉県成田市の成田工場内に「グローバルソリューションセンター 東部ステーション」に新社屋をオープンした。10月23日に開所式を行い、11月1日より稼動している。
同社では“お客様の夢の一歩を走り続け、道の領域にも果敢に挑戦する”ことをモットーに、金型業界にさらなる“加工イノベーション”をもたらす決意を込めて、2017年5月に新ブランド『MOLDINO(モルディノ)』をスタートさせている。東部ステーションに新社屋をオープンしたことで、金型業界への新たな課題に対し加工検証機能の充実を図り、国内だけでなく海外の顧客へのより細かなソリューション提案の実現を目指す。新しくなったグローバルソリューションセンター 東部ステーションを取材した。
金型業界にさらなる加工イノベーションを!
去る10月29日、稼働に先立ち会見が開かれた。同社のソリューション活動は、前身の日立ツール時代の2013年、野洲工場を拠点として開始し、その後、三菱マテリアルグループとなった2015年からは、成田工場にも分室を開設し、現在はグローバルソリューションセンター東部ステーションとして活動している。
坂本 靖 理事・開発技術本部長は、あいさつの中で、「切削検証や実演を行うショールームが非常に手狭で、設備的な拡充が難しい状況の中、ソリューション活動にも制約があった。東部ステーション新建屋の完成により、野洲工場の西部ステーションに加え、この東部ステーションにおいてもお客様と向き合いながら課題を解決していくソリューション活動ができる環境が整ったことになる。成田工場では国際空港に近い立地条件を活かして、海外のお客様をお迎えしてセミナーや実演の場としても力を入れていきたい。周辺機器を巻き込んだ総合ソリューションを提供する場として、金型総合技術ステーションを目指して活動をし、金型に関しては工具だけでなく、周辺機器を含めて様々な情報が手に入るソリューション拠点として、MOLDINOブランドを象徴する活動の場にしていきたい。」と意気込みを示したあと、同社が注力している金型業界については、「近年の活況な市場環境により年々金型生産台数が増加傾向にあり、金型加工時間の短縮による生産性改善やコスト削減への要求が非常に高くなっている。自動車の電動化に伴い、新たな高精度部品の要求や軽量化のために部材変更などが発生しており、金型加工においても高精度化や難削化など新たな技術課題にチャレンジしていかなくてはならない。」と見解を述べた。加工の新たな課題については、「切削工具だけでなく、加工方法を含めたトータルソリューションを提供していく。」とした。
勢いのある金型業界における現状と課題
金型の生産推移は、景気の悪化により落ち込んでしまった2008年~09年からみると、現在は生産数も大きく上がっている一方、金型メーカーの事業所数は減少している。こうした現状を、日畑忠広 グローバルソリューションセンター長(以下日畑センター長)は、「これは生き残られた金型メーカーが技術的に工夫をされながら、より多くの生産をされていることの表れではないか。設備投資にも積極的で、ある統計によると本年度は前年に対して約70%のお客様が設備投資や技術改善に前向きに動いている。」との見方を示す。同社ブランドの『MOLDINO』はMold&Die(金型)+Innovation(革新)の意味がある。金型業界に加工イノベーションをもたらす決意を込めたブランドであり、金型に特化した活動を展開しているが、金型業界が求めているものといえば、生産能率の向上であろう。なにより現在、受注が旺盛だ。
日畑センター長は、勢いのある金型業界の課題について、「生産能力を高めたいがなかなか設備が入ってこないといった現状で、現有設備を使って生産能力をいかにアップさせるかに苦慮されている。また、人手不足や人材不足も悩ましい。全体的な労働人口の減少はもちろんのこと、若手技術員の加工離れもある。人を育てるというところに不安をもたれているようだ。」とし、「最近では、働き方改革が盛んなこともあり、夜間、休日にも自動運転に興味を持たれている。」と、課題解決の糸口について触れた。
製造現場が人手不足と働き方改革を背景に生産能率をいかに高めるか―――となると、非加工時間をいかに減少させるか、が鍵となる。そこで、段取り替え等の時間を考慮すると、5軸加工機の活用に注目が集まるわけだが、同社では、『ガレアシリーズ/異形工具シリーズ』を展開している。5軸加工機と併せて用いると従来に比べ大幅な能率アップが図れるとのことだ。
もうひとつは後工程の低減。金型は加工して終わりではなく、そのあとに磨きの工程や調整の工程がある。こうした工程は、人によるスキルが要求される部分である。
「人材不足もあいまって後工程はできるだけ短縮し、できるだけ磨きを少なくしていきたい、という動きがある。また、自動化に際して、IoTを活用した自動化の促進もある。現在、デジタルデータが多くなっており、これを拡張して、いかに自動化していくか。工具の切削条件だけ、または工具だけの提案では新規のソリューションの創出というのが難しくなっている。」(日畑センター長)
三菱日立ツールが目指す総合ソリューションとは
こうした時流を受け、新しいソリューションの創出を目指して、グローバルソリューションセンター 東部ステーションの新建屋がオープンしたわけだが、多様化する金型加工の課題に対して、当然、最新工具を市場に提案するだけでは、難しい。加工を取り巻くものには、マシニングセンター、工具をホールディングするツーリング、被削材、クランピング、CAMソフト、測定器など様々な周辺技術が必要だからだ。
これは一例だが、IoTを活用した自動化の促進の観点から、同社ではZOLLER製のツールプリセッタを取り入れている。ネット上とデジタルデータをコネクトして中に取り込むことで、工具選定がよりスムーズに行える仕組みだ。例えば、要求する首下長を探すとき、カタログをめくるのではなく、より簡易的により早く、工具が見つかるといったデータベースを利用したツールプリセッタである。また、後工程の低減では、“工具でトータルに加工法を進化させる”という考えのもと同社が推奨する『Hi-Pre2( ハイプレツー)』の考え方がある。これは、荒加工から高精度を追究し、磨き・調整まで含めたトータル工程での最適化を狙うというもの。その一環として、より簡易的に荒加工の工具の測定を行うことで、より正しい、仕上げ加工ないしは中仕上げ加工を行っていけるという工具の測定による基礎加工高精度化をあげている。
また同社では今後、基礎加工が終わったあともワークを機上で測定をして、どこにどのくらい余分な取りしろが残っているのか、この部分も測定をしながら、実際の現象にあった改善を進めていくとした。
これが東部ステーションだ!
1Fはカッティングラボと測定室、分析室がある。カッティングラボにある加工設備だが、マシニングが7台、うち3台は新しいマシニングセンターを導入している。(なお、[新]は新しく導入した設備)。オークマ「Miltus U3000」、牧野フライス製作所「D800Z」[新]、安田工業「YBM950」、牧野フライス製作所「IQ300」[新]、OKK「OKK VM660R」、牧野フライス製作所「V77」、キタムラ機械「Mysenter-3XiG」がズラリ。これは一例だが、ベベルギア型の高能率側面切削加工のデモでは、安田工業「YBM950」で、被削材:YXR33 59HRC、サイズ:100×100×45mmを加工。従来工具での等高線荒加工と比較して、加工能率が5.4倍となったことを披露した。2Fは会議室が5部屋(130名)、応接室が1部屋(5名)と安全実習室「安全道場」があった。どの会議室も内装や机や椅子などのインテリアが違うことが面白い。グローバル展開ということもあり、世界を意識して各会議室には海の名前を付けているとのこと。
画期的だったのは「安全道場」の存在だ。設置した目的は、机上の安全教育のみでは伝えきれない災害の怖さを実際の設備を使用し、危機を体感することで、作業者が危険予知能力を身に付け、労働災害を未然に防ぐこと。ここでは災害を“擬似体験”できる仕組みがあった。挟まれ体験では、作動中の機械または停止中の残圧により作動した機械に挟まれる想定をし、人間の骨に近い硬さの割り箸を使って体験。一瞬にして割り箸が乾いた音を立ててバキッと乱暴に折れた! これは怖い! 機械式ロック機構を設けたり、モータ駆動の場合は電源オフ、油圧またはエアシリンダでは残圧を抜いた状態で作業することの重要性が身に沁みる。
もうひとつ、巻き込まれ体験では、回転する工作機械(ボール盤・旋盤)などの作業での巻き込まれを軍手を使って行った。これまた一瞬にして軍手がギュンッ! とトグロを巻いた。自分の手だったら・・・と思うとゾっとする。もちろん取り出した軍手はボロボロだ。巻き込まれないためには、回転体作業で手袋等は装着しないことはもちろん、ベルトとコンベヤーのプーリーとベルトのある部分に囲いなどを設ける、あるいは非常停止装置を設置するなどの予防が必要だ。
これほどインパクトの強い危険体感ができる設備も珍しい。災害を擬似体験することで、危険を危険と感じられる、言い換えれば、危険感受性を高めることが期待できる設備の数々。これも東部ステーションで体験できる。新しくなった三菱日立ツールのグローバルソリューセンター東部ステーション。多くの金型加工に関連する方々が集い、新しい課題に挑戦し続ける金型総合技術ステーションを目指している。
■新建屋概要
拠 点 名:グローバルソリューションセンター 東部ステーション
所 在 地:〒286-0825 千葉県成田市新泉13-2 三菱日立ツール(株)成田工場内
事業内容:加工提案、切削試験、ミクロ分析、教育研修
保有設備:5軸マシニングセンター(1台)、縦形マシニングセンター(5台)、複合加工機(1台)、ツールプリセッタ―、マイクロスコープ、3次元プリンタ、電子顕微鏡、電子線マイクロアナライザー、各種測定器