平成23年度超硬工具協会賞が決定!

 超硬工具協会(理事長=田中啓一氏・日立ツール社長)はこのほど、平成23年度超硬工具協会賞の受賞者を発表した。同賞は同協会創立30周年を記念して設けられた表彰制度に基づき、毎年実施されているもので、今回は通算34回目にあたる。
今年度の受賞者は業界功労賞1名、技術功績賞18件、作業・事務・生産技術等の改善賞5件。
表彰式は来年1月12日(木)、東京丸の内の銀行倶楽部で開催する同協会の新年賀詞交歓会で行われる予定。

業界功労賞 (1名)

○吉村寛範(よしむらひろのり)氏(三菱マテリアル)
昭和23(1948)年2月3日生まれ 満63歳
功績の概要
 理事長在任中、超硬工具業界が幾多の困難を乗り越え今日の市場拡大に至った過程の一つに技術開発、開発技術によって成し得たことから、超硬工具協会賞の技術功績賞並びに作業・事務・生産技術等の改善賞の応募増加対策について主導され、受賞功績の報道関係者や、JIMTOFなどの展示会を通じ、内外への積極的なPRと受賞功績の技術交流(発表)会での発表を推進された。
 また、同会の基本理念である全員参加で相互信頼、切磋琢磨そして親睦・協調の伝統をあらゆる機会で推し進められ、創立60周年記念式典では内外の関係者300余名の参加者のもと成功裡に開催された。また、記念出版となった『超硬工具用語集』全面改訂版を24年ぶりに発刊し、最新の技術用語をはじめ、日本工具工業会と共同で検討した「切削条件、工具寸法の統一記号」を確立、掲載されるなど、技術の振興と全員参加の基本理念の具体化に著しく貢献された。

技術功績賞 (10社18件) 

①技術の特徴 ②新規性/独創性 ③協会に対する啓発度 (社名五十音順・氏名敬称略)

鋳鉄旋削加工用CVD工具 『CA45シリーズ』 の開発 京セラ 機械工具事業本部

・鹿児島川内工場 谷渕栄仁(たにぶちたかひと)/鹿児島川内工場 児玉芳和(こだまよしかず)/鹿児島川内工場 久保隼人(くぼはやと)。

 ①鋳鉄部品を加工する業界向けのCVDコーティング工具材料であり、国内市場での更なる生産性向上や、急拡大する新興国市場の厳しい高能率加工への適用を目指した。長寿命化および安定加工を目的として、従来製品で不足していた被膜の密着性と、耐溶着性を飛躍的に改良した点に特徴がある。
 ②従来のCVD技術には、被膜の微粒化、微細柱状化などの組織制御技術、被膜表面の平滑化があったが、被膜の密着性や鋳鉄に対する耐溶着性が不十分であった。α-Al2O3層の結合手法の新たな開発や、専用母材表面の特殊処理により被膜の密着性を改善し、さらに特殊表面層により耐溶着性を改善した。
 ③近年増加しているFCD600以上の高強度難削材の安定加工や、高能率加工おいて優れた性能を発揮して、お客様の生産性向上および品質向上に貢献した。

高能率フェースミルMFPN型の開発 京セラ 機械工具事業本部

滋賀八日市工場 古賀健一郎(こがけんいちろう)/滋賀八日市工場 石寛久(いしひろひさ)/滋賀八日市工場 徐永波(じょえいは)。


 ①「切削抵抗が低い」「欠損に強い」「切りくず排出性に優れる」高能率フェースミルを提供することにより、ユーザーの生産性向上に貢献。「5角形10コーナチップ」により、コスト削減に貢献することを目的とする。
 ②ヘリカル切刃構造の採用により、A.R.を最大+10°確保し、びびり振動を抑制した。切込み角の異なるダブルエッジ構造の採用により、刃先先端の衝撃負荷を低減し、優れた耐欠損性を実現した。特殊3次元ブレーカの採用により、スムーズな切りくず排出を実現し、切りくず詰まり、噛み込みによる突発欠損を解決した。
 ③高能率加工の課題であった「びびり振動の発生」「刃先欠損」を解決した。これにより加工効率の向上、無人化の実現につながり、ユーザーの生産性向上に貢献した。また、5角形10コーナチップによりコーナ当たりのコストを低減し、ユーザーのコスト削減に貢献した。

高圧クーラント用ヘッド コロターンHPの開発 サンドビック コロマントカンパニー

営業技術部 内藤啓史(ないとうひろふみ)

 ①高圧にすることによって高められた流速および流量をもつクーラントが刃先に供給された場合、熱分布、切りくず処理、刃先の摩耗状態に著しく影響する。適正な箇所にクーラントを当てることで、切削熱の影響を大きく受けるチップとワークとの接触面の温度が劇的に低下する。また、これにより切りくずが分断されやすくなり、切りくず絡みが減少する。この結果、良好な切りくず処理、仕上げ面、生産性の向上、および長い工具寿命が得られる。
 ②コロターンHPに対応したカッティングヘッドには複数のノズルがあり、この部分から高圧クーラントが噴射される。これらのノズルは工具の種類、用途や切削条件に応じて、適正に配置される。刃先ではこの噴射したクーラントの流速と流量によって工具とワークとの間で水圧クサビのようになり、高速加工でもチップすくい面と切りくず接触部分に浸透し、温度を下げながら切りくずを持ち上げ、切りくず、工具寿命および生産性を改善する。
 ③切りくず処理の改善によってCNC旋盤を使った大量生産等の無人運転の生産が可能となる。またクーラントを正確な位置に供給することによってチップの摩耗を抑制することができ、切削速度は最大30%も増大できる。難削材では、工具寿命を最長50%も延ばすことができ、切削速度の増大も可能とする。高圧クーラントを適正に使用するコロターンHPによって、顧客の生産性向上に寄与する事に成功した。

鋼旋削用サーメット 『T1500A』 の開発 住友電工ハードメタル

コア材料開発部 広瀬和弘(ひろせかずひろ)/コア材料開発部 津田圭一(つだけいいち)/コア材料開発部 山縣一夫(やまがたかずお)。

 ①自動車や産業機械等の鋼部品の仕上げ切削加工に用いられる旋削用サーメットチップで、特に顧客から強く要望され続けている仕上げ加工での加工面品位の大幅な改善を狙った製品。高性能化と安定性向上のためにサーメット母材の組織制御技術を開発し、耐摩耗性と耐欠損性を従来製品比1.5倍以上に向上させることに成功。専用開発した滑らかな刃先処理との組み合わせで光沢のある仕上げ面を実現した。
 ②粒度と特性の異なるTiCN原料から、二層硬質相に加えて、耐摩耗性を担う種々の粒度のTiCN系硬質相と靭性を担う複合硬質相を生成、点在させるという従来に無い組織を作り出し、靭性の向上と安定した耐摩耗性を両立させることに成功。さらに新たに技術開発した滑らか刃先処理形状を適用することで、光沢のある仕上げ加工面が得られる。
 ③ニアネットシェイプ化の進む鋼部品加工の分野では、粗仕上げ一発加工による工程削減により加工コストを削減する。さらに断続切削用等の既存のサーメット材種との組み合わせで、広範囲の鋼旋削の仕上げ加工が可能となり、省W化に大きく貢献。

焼入鋼加工用CBN焼結体 『BN2000』 の開発 住友電工ハードメタル

 コア材料開発部 原田高志(はらだ たかし)/超高圧技術開発部 寺本三記(てらもと みのり)/コア材料開発部 久木野暁(くきの さとる)。

 ①CBN焼結体工具による焼入鋼の切削は、従来の研削加工に比べて設備投資費の削減や高能率化の効果によって、研削から切削への置換が進んできた。近年は、高精度な小物部品や複雑形状部品、難削な焼入鋼に対しても切削化が望まれている。結合材組織の抜本的改良で、より鋭利な刃先を生成し、耐摩耗性を維持しつつ優れた耐欠損性を得ることができ、従来比約2倍の工具寿命も達成。
 ②焼結体の製造プロセスを根本から見直し、結合材中の不純物を1/10まで減少させ、高純度化に成功。従来比1.5倍の欠損寿命を示すとともに、摩耗発生後も良好な刃立ち性を維持するため安定した面粗度が得られ、浸炭焼入鋼ではRzで3.2μmや1.6μmの実用切削を可能にする性能を発揮。
 ③CBN焼結体の開発において、セラミックス結合材を高純度化するという新しい技術の方向性を示した。ノンコート材種のため、ISOチップ以外に小径ボーリングバイト等の特型工具にも容易に適用可能である。焼入鋼の小径内径加工や溝入れ加工において研削から乾式切削への置換を促進し、研削廃液の削減、加工時間短縮による電力削減などにも貢献。

高能率仕上げ加工用 『Sヘッドエンドミル』 の開発 ダイジェット工業

開発技術部切削工具開発室 行成伸二(ゆきなりしんじ)/生技部三重工具生技課STグループ 梶章宏(かじあきひろ)/生技部三重工具生技課STグループ 阿蘇品茂史(あそしなしげふみ)

 ①Sヘッドエンドミルは、先端エンドミル部が交換可能な超硬大径ソリッドエンドミルである。超硬合金の持つ高強度な特性を活用した、勘合部に鋼材を用いないオール超硬シャンクに取り付けが可能な構造を合わせ持つことにより、ヘッドおよびシャンクがオール超硬となり、ソリッドエンドミルに匹敵する剛性を有し、振動抑制効果により長寿命化を実現し、かつダブルポジ多刃仕様により低抵抗で高能率加工が可能なことを特徴とする。
 ②従来の先端部が交換可能な刃先交換式ヘッドでは実現できない刃数と切削性能と精度を合せ持つことにより、仕上げ加工における高能率加工を実現出来る。また、工具刃長(L)=工具外径(D)のショート刃長およびねじれ角45°を採用し、同時加工切刃長さの低減を図り加工時のびびりを抑制している。Sヘッドの取り付け部は、研削加工による高剛性ネジにより従来からあるオール超硬シャンクに直接勘合が可能である。
 ③一体型ソリッドエンドミルに対し、レアメタルの使用量を大幅に削減でき、省資源化が可能であり、環境にやさしい製品である。超硬シャンク部をホルダーから外すことなく、ヘッドのみの交換が出来るとともに、従来の刃先交換式ヘッドとの交換が可能であり、段取り時間の短縮も可能である。壁部側面仕上げ加工において、従来品に対し6倍の加工能率向上で優れた性能を発揮し、加工時間の短縮と加工精度向上に貢献した。

レアメタル(WC、Co)を用いない工具材料の開発 ダイジェット工業

大阪事業所合金工場新材料センター 手塚一博(てずかかずひろ)/耐摩工具技術部技術課 梶岡彰(かじおかあきら)/大阪事業所合金工場製造第2グループ 宇都宮和成(うつのみやかずなり)。

 ①主に金属の切削加工、塑性加工等に用いられる従来の超硬合金はWC、Coを主原料としたものであるが、本件はこれらの原材料(レアメタル)を全く使用しない硬質工具材料、及びその材料を適用した工具の開発・量産を目指したものである。
 ②本件工具材料「CT500サ-メタル」は炭窒化チタンに金属系助剤を用い焼結した新しい材料で、超硬合金に匹敵する硬さと靭性を有する。鉄系の被加工材との摩擦が非常に小さく、耐焼付き性に優れる。また熱伝導度は超硬の約1/10であり、熱間加工で用いた場合の材料の冷却が抑制され、耐熱温度が800℃以上のため高温大気雰囲気で使用される金型材料にも適する。   
 ③絞り・シゴキダイスで使用した場合、耐焼付き性に優れるため寿命の向上が図られる。また摩擦力の低下によりプレス圧力が低減される。熱間鍛造金型としては加工材の温度低下が抑えられ、低荷重での加工が可能である。また高温領域では、従来超硬合金や耐熱合金で酸化が問題となった様な場合でも良好な結果が期待できる。

焼入れ鋼加工用CBN材種 『BXMシリーズ』 の開発 タンガロイ

技術本部材料開発部 三浦浩之(みうらひろゆき)/技術本部材料開発部 福島雄一郎(ふくしまゆういちろう)/技術本部材料開発部 工藤貴英(くどうたかひで)。

 ①従来のコーテッドCBN材種は、切削初期に生じた被膜剥離を起点に異常摩耗や突発欠損に至る場合があり加工数量は安定せず、生産性向上の障害となっていた。被膜剥離機構や工具損傷進行形態を詳細に検討し、加工数量の安定かつ長寿命とする新規技術を適応した専用被膜および専用母材を開発した。安定した加工を実現した2材種で、広い加工領域をカバーした。
 ②被膜構造をCBN専用密着層と耐摩耗層の2層構造とすることで、剥離剥離の抑制と高耐摩耗性の両立を達成した。特にCBN上でも被膜を強く密着させる新コーティング技術を開発することにより、CBN含有比率が高く断続切削でも使用可能な汎用グレードBXM20の工具寿命の安定延長を実現した。また、刃先温度が上昇する高速切削領域においても、熱変態しにくい被膜と耐クレータ摩耗性に強い母材との組み合わせたBXM10により、安定した長寿命を達成した。
 ③焼入れ鋼の高速加工や断続加工における工具寿命の安定化および長寿命化を図ることにより、お客様の生産性向上に貢献して好評を得ている。特に、突発欠損による異常停止やワーク不良の低減に大きく貢献している。

超高送りカッタ DoFeed Mini の開発 タンガロイ

技術本部切削工具開発部工具開発グループ 佐治龍一(さじりゅういち)/技術本部切削工具開発部工具開発グループ 今田静恵(こんたしずえ)/製造本部生産管理部生産技術グループ 坂内由昌(ばんないよしまさ)。

 ①主軸のトルク・剛性は低いが、テーブル送りは速いという#30・#40クラスのマシニングセンタの特徴に着目した。あえて最大切込み量を1mmに制限し、多刃化すること、超低抵抗3次元刃形とすることで、小型マシニングセンタの能力を最大限に活用した超高能率加工を実現した。
 ②ネガティブ両面4コーナ使いチップで、低コスト化と多刃化を両立した。最大切込み量1mmに最適設計された切れ刃で、超低抵抗化と低振動化を達成した。さらに、ボディ剛性の向上と未使用コーナの保護を両立させるポケット形状で、信頼性も向上させた。#30・#40クラスのマシニングセンタで業界No.1の高能率加工を達成した。削り残しが少なく、後工程の短縮にも有効である。
 ③小型のマシングセンタにおける高能率加工は、これからの日本のものづくりにとって大きなテーマの一つである。DoFeed Miniは、小型マシニングセンタで使用したときに、既存の高送りカッタを大きく上回る高能率加工を実現しており、お客様の生産性向上に大きく貢献した製品である。

内径加工用工具 『モーグルバー』 の開発 日本特殊陶業 小牧工場 セラミック関連事業本部

機械工具事業部開発部 磯部健二(いそべけんじ)/機械工具事業部開発部 北川修介(きたがわしゅうすけ)。

 ①小型CNC自動旋盤での内径中ぐり加工は、切屑噛み込みによるチップ折損や加工面品位の低下、切屑がワーク内やホルダに絡まる等、安定した加工には切屑処理が重要である。また、シャンク径も小さいため、剛性不足によりびびりが発生しやすい。モーグルバーは、良好な切屑処理性能と高いホルダ剛性を両立した工具であり、切屑処理トラブルや加工面品位の向上を実現した。
 ②従来の内径中ぐり工具は、切屑を分断するブレーカや穴奥に排出するブレーカを使用すると、切屑がワーク内に詰まり、加工面が荒れるなどの問題が発生しやすい。モーグルバーは、刃先側に大きなチップポケットを設け、同時開発した専用ブレーカと組み合わせたときに、連続した切屑を刃先側から穴手前に排出可能な設計とした。また、剛性と振動減衰解析から、たわみ量を約20%減少させ、びびり振動を緩和できる理想的な工具形状とした。
 ③モーグルバーは切屑処理性能と耐ビビリ性能に優れるため、従来品では困難だった小径・深穴加工において、切屑噛み込みによるチップ折損やワーク内での切屑詰まりを抑制することが可能であり、安定した長時間稼動を実現できる。また、加工面品位が改善できるメリットも有するため、ユーザー製品の高精度化にも貢献できる。

『エポックDスレッドミル』 の開発 日立ツ-ル 野洲工場

製造センター生産技術グループ 田口宣(たぐちわたる)/製造センターエンドミルグループ 左野稚通(さのまさみち)/商品開発センター 居原田有輝(いはらだゆうき)。

 ①金型の高硬度化にともない高硬度直彫りのニーズが増加しており、あらかじめ完成品硬度に事前熱処理された高硬度金型材に対し、安定した効率のよいねじ切り加工を行うことを目的としたねじ切り工具を開発した。高硬度金型材に対し下穴なしで安定して効率よくねじ切り加工を行えるため、従来の放電加工と比較し高能率加工が可能となった。
 ②下穴なしで高硬度金型材にねじ切り加工を行う過酷な加工環境に耐えうるために、刃先強度を最大限向上させた特殊底刃形状と、耐摩耗性・耐酸化性を向上させた高硬度被膜を採用している。従来の放電加工によるねじ切り加工と比較し、工具寿命が約30倍、加工時間が1/60となり、加工費を大幅に削減することが可能となった。
 ③高硬度金型材へのねじ切り加工は課題が多く、切削での安定した高能率加工が非常に困難な状況であった。本開発品によってその課題が解決し、下穴なしで高硬度金型材へ高能率かつ安定したねじ切り加工が可能になったことで、金型製造のリードタイム短縮や、金型不良低減に貢献できる。

AVアーバ (防振アーバ)の開発 日立ツ-ル 成田工場

商品開発センター 高橋勇人(たかはしはやと)/ 商品開発センター  永渕憲二(ながふちけんじ)/ 日立製作所 横浜研究所・ 生産システム第二研究部 小野塚英明(おのづかひであき)。

 ①大型金型・大型機械部品加工等における、突き出し長さと工具径の比(L/D)が6以上の工具を使用する加工で問題となる工具のビビリ振動を低減し、高能率加工に貢献する事を狙った工具である。その目的を達成すべく、内蔵するダイナミックダンパーの最適設計技術を開発した。
 ②従来のダイナミックダンパー設計理論は錘の上下運動のみを考慮したものであるが、実際には工具に内蔵するダイナミックダンパーの錘の動きは振り子運動をしており、従来理論の設計手法では不十分と判断した。内蔵する錘の振り子運動(2自由度運動)を考慮した設計理論を開発し、工具内蔵ダイナミックダンパーの性能を向上させた。
 ③従来組み立て構造や溶接構造で製作していた大型部品が信頼性向上、コスト削減要求から削り出しの一体構造に変化してきており、使用する工具は突き出し量の長い工具が必要となる。また、大型金型製作でも同様コスト低減が求められ、これらの加工で問題となる加工能率が本工具により大幅に改善され、加工コストの大幅低減と、CO2削減に貢献した。

フジロイ合わせガラスカッターの開発 冨士ダイス

九州事業部 門司工場 製造課 尾方一仁(おがたかずひと)/生産開発本部 生産技術部 輪竹暢久(わたけのぶひさ)/九州事業部 熊本製造所 多田隈豊(ただくまゆたか)。

 ①本工具は、主として自動車のフロントガラスなどに用いられている合わせガラスの破断除去を容易にし、自動車のリサイクルをし易くする工具である。
 ②合わせガラスは、2枚以上の板ガラスをPVBなどの樹脂製の中間膜で接着したもので、安全性に優れるが、リサイクル時に自動車から外す場合は容易に破断できず、かつ、安全および寿命の両方で問題とされていた。本工具は、破断特性および耐摩耗性に優れ、自動車のフロントガラスのリサイクルを容易にした。
 ③本合わせガラスカッターは、共同開発者に限って応用していた為、それ以外ではあまり知られていない。最近の省資源運動の高まりから、改良された最新形状のものを、フジロイ合わせガラスカッターとして発表することで広く普及し、資源リサイクルに対しても貢献している。

ステンレス鋼用超硬ソリッドドリルMMS形の開発 三菱マテリアル 岐阜製作所

合金ドリルセンター 松田信行(まつだのぶゆき)/合金ドリルセンター 東裕之(ひがしひろゆき)。

 ①ステンレス鋼は熱伝導率が小さく切削熱が蓄積されやすいため、従来ドリルでは切削条件を低く設定する必要があった。この課題を解決するため、超硬素材へのクーラント穴付与技術を開発した。従来比2倍のクーラントを高速に吐出させることが可能となり、安定した高能率加工を実現した。ステンレス鋼加工に特化した切刃デザインと専用PVDコーティング材種を採用し、優れた切りくず処理性と長寿命加工を実現した。
 ②一般的な丸形クーラント穴形状を、ドリルの溝形状に沿った三角形状とした三菱独自のクーラント穴形状"TRI-coolingテクノロジ-"は、ドリルの剛性を落とすことなくクーラント穴の断面積を広げ、吐出するクーラント流速を増加させることを可能にした。
 ③超硬素材製造技術の革新により「ドリルのクーラント穴は丸形」という固定観念を打破した。これにより発生する切削熱を速やかに除去する効果が大幅に向上し、ステンレス鋼の穴加工において高能率加工を実現した。

鋼高能率旋削加工用材種UE6105の開発 三菱マテリアル 筑波製作所

生産技術部 原央(はらひさし)/材料開発部 河野和弘(かわのかずひろ)/生産技術部 大森弘(おおもりひろし)。


 ①鋼系部品の高能率加工を目的として開発された旋削用のコーティング材種である。 UE6105はCVD法によるアルミナ(Al2O3)コーティング層を有するが、アルミナの耐摩耗性を十分引き出す手法として、『最もこすり摩耗が進行しにくいアルミナの結晶方位』を研究したうえで、その結晶方位にアルミナが結晶成長するよう、CVD成膜プロセスを制御した点に大きな特徴をもつ。
 ②六方晶構造のアルファアルミナ(α-Al2O3)は熱膨張係数に異方性を有することなどから、α-Al2O3層の摩耗形態の方位依存性について種々研究を行なった。その結果、特定の結晶方位に成長させたα-Al2O3層は摩耗面からのAl2O3微粒子の脱落が顕著に抑制され、コーティングの耐摩耗性が大幅に向上した。当該方位への成長制御技術および方位を維持した状態での厚膜化技術を確立した。
 ③UE6105は、本コーティング技術により極めて高い耐摩耗性をもつに至った。特に高速切削において従来材種と比較した場合、摩耗進行が顕著に抑制されるため、加工条件の高速化による工作機械の稼動時間短縮あるいは電力削減などで、社会、顧客に貢献できる材種であると期待している。

チタン合金加工用刃先交換エンドミルVFX形の開発  三菱マテリアル 筑波製作所

工具開発部 作山徹(さくやまとおる)/工具開発部 北嶋純(きたじまじゅん)/材料開発部 淺沼英利(あさぬまひでとし)。


 ①本製品の開発では、『低切削抵抗』・『高剛性』・『刃先冷却性能』というチタン合金の加工で重要とされる要素を最適化した。 VFX形は、例えばエンドミル径φ80の場合、切りくず量で500CC/minを超えるという、従来チタン合金の加工の常識では考えられないレベルの排出性能を有することが特徴である。また新開発したインサート材種「MP9030」との組み合わせで、大幅な工具寿命の延長を可能とした。
 ②当社独自の「ダブルV座クランプ機構」および「高剛性と低抵抗を高次元で両立させたモールデッドブレーカ付き縦刃」を採用したことで、高能率かつ安定な切削を可能とした。また、「切りくず」にクーラントを確実に当てる工夫(ノズル式クーラント噴出機構)と新積層コーティング技術を利用したインサートMP9030の組み合わせにより、加工能率を引き上げた場合でも充分実用に耐えうる刃先の長寿命化を実現した。
 ③チタン合金の加工は、工具刃先に加工熱が集中し、溶着によるチッピングが発生し易いため、工具交換を頻繁に行う必要がある。しかし、長寿命かつ高能率加工が可能な本製品は、工具交換頻度を低減させることが可能となった。

PCB工具用DLC皮膜 『ULF』 の開発 ユニオンツール

工具技術部 PCB工具開発課 星幸義(ほしゆきよし)/技術統括部技術開発課 諏訪浩司(すわこうじ)/技術統括部技術開発課 渡辺裕二(わたなべゆうじ)。

 ①近年PCBドリルの極小径化が進んでいるが、工具寿命の延長、および加工効率改善のためのPCB重ね枚数増加の試みに対して、耐折損性の改善が最大の課題である。そういった極小径PCBドリルの耐折損性を飛躍的に改善するDLC皮膜『ULF』を開発、量産化に成功しドリルの長寿命化を実現できた。
 ②極小径PCBドリルの穴あけ加工に適した耐久性、潤滑性を持つDLC皮膜『ULF』の開発、また独自の製膜方法による量産化、低価格販売を他社に先駆けて実現できた。またULFコートドリルは、皮膜の特性を最大限に活かせるよう刃形状を最適化し、高精度、長寿命化に成功した。
 ③近年PCBの極小径穴あけ加工に、レーザー加工技術が利用され始めているが、メカドリル加工に比べて飛躍的に高速加工できる一方、穴品質面で課題が残されている。ULFコートによるドリルの長寿命化実現により、レーザー加工に対して穴品質面でメリットのあるメカドリル加工でユーザーのコスト低減に寄与できるとともに、超硬工具の市場拡大に貢献している。

PCB用制振型コンポジットドリルの開発 ユニオンツール

工具技術部 PCB工具開発課 小林透(こばやしとおる)/生産技術部 技術一課 堀口貴之(ほりぐちたかゆき)/工具技術部 PCB工具開発課 渡邉昌英(わたなべまさひで)

 ①限りある資源である超硬合金を95%削減したソリッドタイプと同等の制振性を持ったコンポジット型プリント配線板用超硬ドリルを開発した。制振性ばかりではなく、特殊な拡散接合方式を開発し、信頼性の高い工具となっている。
 ②超硬合金の特性、及び接合するステンレスの特性に着目し、従来ストレートであったステップ部をフロントテーパ形状に設定する事で、コンポジット型においても動的振れを大幅に抑制する事が可能となった。また、使用する極小の超硬合金は、特殊な拡散接合方式によりステンレスと強固、かつ容易に接合する事が出来、制振設計に必要な極小さい接合面積でも十分な接合強度を保持している。
 ③貴重な資源である超硬合金の使用量を最小限にする事で、環境への負荷も大幅に緩和している。同時に、高価な超硬合金の使用量を大幅に減らしつつも、ソリッドタイプと同等の工具寿命を得る事が出来た為、ユーザーの穴加工コスト低減へも大きく寄与している。

作業、事務、生産技術等の改善賞 (5件5社)

(社名五十音順・氏名敬称略)

■回転式炭化炉のカーボン製治具の寿命延長 アライドタングステン
製造部精錬工場炭化チーム 河越浩晴(かわごえひろはる)/技術部生産技術グル-プ 松本明英(まつもとあきひで)。

【目的】回転式炭化炉のカーボン製治具(以下治具と言う)の寿命延長と治具交換での段取りロスの短縮を図り、操炉一回当たりの稼働時間を増やして製造量の向上を目指す。また発生するカーボン廃棄物の削減を狙う。【解決するための手段】1.消耗メカニズムの解析2.金属管で消耗を回避3.分割数を増やして交換範囲を限定4.交換範囲を最小化し廃物を削減
【効果】1.消耗が進んでも治具が破損することが無くなり、寿命が1.5倍に延びた。(月当たりの交換回数1回削減)2.治具の小型軽量化により交換時間が2割減少した。3.製造量が30%増加した。4.廃棄物量が一回の交換当たり 約60%に減少した。

■フライスの端面等の加工方法改善 ダイジェット工業
生技部三重工具生技課ITグループ 浦上賢一(うらがみけんいち)/三重事業所IT工場製造グループ 佐々木健(ささきたけし)/生技部三重工具生技課ITグループ 守瀬元気(もりせげんき)。

【特徴】フライスの端面・キー溝・内径・外周研削加工でマシニングセンタを使用 してワンチャッキングで加工できるように改善した。
【効果】直径φ50フライスの端面・キー溝・内径・外周研削加工を10台加工する段取含めての作業時間が合計約330分と50%低減した。4工程で作業者2人必要だったのが、1工程で作業者1人に改善、従来の汎用機では作業者が機械の前から離れることはできなかったが、マシニングセンタの自動運転中は他の仕事に移ることができる。(多台持ちが可能になった)。
■帳票類処理業務の効率化 富士精工
経営管理部 志賀かおり(しがかおり)/内部監査室 山田仁史(やまだひとし)。

【背景】帳票類処理業務をベテラン社員から新人へ移管するに当り、従来は経験則による業務対応のみで作業手順の明文化がなされていなかった。
【改善点】請求書の内容突合せ確認をPC画面上にて対処出来る方式へ改善・宅配業者から請求書記載内容の電子データ取得 (業者作成済データの活用)・送り状受取時の処理ルールの周知などを盛り込んだ作業手順書を策定し運用した。
【効果】月次必要工数45.6%(480 分)低減を実現し課内業務効率化に貢献した。

■研削精度向上に寄与する被研削物の固定装置 冨士ダイス
生産開発本部生産技術部 木村貴紀(きむらたかのり)/東日本事業部郡山製造所製造4課 石井仁 (いしいひとし)/東日本事業部郡山製造所製造4課 上野敏栄(うえのとしえ)。

【特徴】通常、被研削物用ホルダとツルーアホルダは別の回転軸にあるが、それぞれその軸の振れあるため、高精度な機械でしか高精度は得にくかった。また、小型装置はワークゾーンが狭く、2軸とすることが難しい場合もある。そこで、砥石研削される被加工物を回転可能にする被研削物用ホルダ軸と同軸上に、砥石のツルーイングに用いるツルーアホルダをとりつけた「被研削物の固定装置」を考案した。
【効果】被研削物とツルーアが同軸にあるため、ツルーイング精度が最も高い状態となり、高級な機械でなくても高精度の加工が実現。機械のワークゾーンが狭くても、本固定装置では1軸で2役ができ、省スペースおよび機械の小型化、省エネも実現した。

生産活動に関連した廃棄物のゼロエミッションの達成 三菱マテリアル 筑波製作所
安全環境管理室 福村昌史(ふくむらまさふみ)/安全環境管理室 水田哲郎(みずたてつろう)。

【特徴】 生産活動で発生する不要物の有価回収の推進および産業廃棄物のリサイクル処分の推進により埋立となる産業廃棄物をゼロにし、ゼロ・エミッションを達成した。  
【内容】塩ビ製保護手袋などのリユース推進、廃油の有価リサイクル、従来埋め立てとなっていた廃棄物(塩ビ、分別困難物など)をリサイクル可能な業者に切替え、更なる社内リサイクル推進により、ゼロエミッションを達成。
【効果】産業廃棄物の最終埋立廃棄物原単位 (重量/生産高)1160kg/億円 ⇒ 0 kg/億円、リサイクル率 5 % ⇒100 %、社内リサイクル率0 % ⇒ 53 %。       

moldino_banner

 

JIMTOF2024