天田財団が「平成30年度助成式典」を開く
公益財団法人天田財団(理事長=岡本満夫氏)が12月1日、神奈川県伊勢原市のFORUM246で「平成30年度助成式典」を開いた。今回の助成総数は100件で、助成金総額は2億6,367万円。うち、研究開発助成の合計は90件、2億6,018万円、国際交流助成の合計は10件、349万円。昭和62年の設立以来、31年間で累計助成件数は1,683件、助成金総額は26億9,084万円となった。
この財団は、1987年に(株)アマダ(現(株)アマダホールディングス)の創業者であり、当時同社会長の天田勇氏を設立代表者として、財団法人天田金属加工機械技術振興財団が設立。金属等の塑性加工分野における機械・加工システム技術に関する研究開発助成事業並びにその普及啓発事業を通じて、塑性加工機械に関する技術の向上を図り、広く金属加工業界および経済の発展に寄与することを目的として設立された。2007年からは、研究開発助成の対象を時代のニーズに合わせて、レーザプロセッシング分野へと拡大した。2011年には公益認定を受け、公益財団法人天田財団へと名称を変更し、現在に至っている。
「科学技術のイノベーションを絶えず起こし続ける努力を」
岡本理事長によるあいさつの概要は次のとおり。「本年度の助成は、過去最大となった。今年のノーベル賞は医学生理学賞の京大の本庶先生が受賞された。われわれの特に近いところにある物理学賞だが、ツールとして、高強度・短パルスレーザーに関する研究分野でも助成しており、大変誇らしい。現在、超スマート社会という、その実現に向けて各分野が取り組んでおられると思うが、産業の分野では、コネクテッドインダストリーズによる、企業、人、機械、そしていろいろな技術がオープンで、それ全体がつながっていくという新しい付加価値を創出することが期待されている。天田財団も、このような世の中の変化に対応するように、大きくその波に乗っていく必要があるのではないかと思っている。本年度は、単に助成金の規模だけを拡大するのではなく、より中身を濃く、解くべき課題を提示する助成、あるいは現在進行形の研究への助成、そして未来を支える若手研究者への助成と、助成の目的と役割を明確化にしてきた。わが国が持続的な発展を実現して、これから世界で指導的な役割を果たすためには、科学技術のイノベーションを絶えず起こし続ける努力というのが必要だと思う。金属などの加工に関する優れた研究活動、国際交流への助成、そしてその助成の研究成果を実際に使える形にするように産業界へ普及の啓発をしていくということは、当財団の社会的な使命でもある。本日の助成式典では、皆さまに天田財団の思いを、受け取っていただき、この研究の取り組みを行うための大事なスタートであると考えている。今後もこのような研究が進展していくように心から期待している。」
来賓祝辞
来賓を代表して岡本繁樹 経済産業省素形材産業室長と、磯部 任(株)アマダホールディングス社長が祝辞を述べた。 岡本経済産業省素形材産業室長のあいさつの概要は次のとおり。
「素形材産業は、自動車、電機などをはじめとする、あらゆるユーザーに部品として供給する、わが国ものづくりの優れた技術力と高い信頼性の基盤を支える重要なサポーティングインダストリーである。現在、わが国ものづくり産業は大きな転換点に直面している。これまでもさまざまな試練を乗り越え、わが国の経済が堅調さを取り戻しつつある現在、モノ自体に伴う競争のみではなく、モノを通じて市場にいかなる付加価値をもたらすかといった競争が生じており、わが国のものづくり産業が十分に即応していくということが求められている。このような世界的な産業構造の変革に当たって、IoT、AI等の時代に対応した取り組みが不可欠であり、企業や業種の枠を超えて産官学が連携し、よりオープンな関係を構築していくことが重要である。これはまさに、貴財団が30年以上にわたり推進してこられた、産官学の連携と目的を同じとするものである。経済産業省でも、さまざまな業種、企業、人、機械などがつながることにより、新たな付加価値、価値創出を図り、顧客や社会の課題を解決するわが国産業の未来像、これをコネクテッドインダストリーズと呼び、掲げている。IoT、ビッグデータ、AIなどをフルに駆使し、データという新たな経営資源を有効活用できる環境整備に取り組み、皆さまをしっかりと支援していきたい。昨今、高く評価されてきた日本のものづくりに対する信頼を揺るがす事態が、残念ながら製造業において起こっている。わが国のものづくりへの高い信頼を損なわれかねない状況にある。製造業自ら日本のものづくりの信頼を考え、その向上に努めることが重要であるだけでなく、ここにお集まりの研究者各位が長年にわたり培ってこられた研究成果を再認識し、さまざまな経験を強みに変え、改めて日本のものづくりの信頼獲得に、ひいてはわが国製造業の発展にご貢献いただくことを切にお願い申し上げる。」
「近年、わが国産業、特にものづくりの現場は大変革の時代を迎えている。少子高齢化、生産年齢人口の激減、働き方改革など、労働環境の変化に加え、環境への配慮、エコロジーへの対応等はますます加速している。さらには大量生産を望めない日本では多品種少量、変種変量の中で、いかに付加価値を入れていくかという課題を抱えており、メカ的な構造のみならず、ITやソフト、制御を含めた技術革新によって、なんとか解決策を見いだそうと競合ひしめく中、われわれ機械メーカーとしては切磋琢磨しているのが現状である。われわれの業界では、2年に1回大きな世界的展示会がある。今年は10月に欧州、そして日本では11月に日本国際工作機械見本市JIMTOF2018など非常に来場者が多くて活況を呈している。それだけ製造業に関わる方々は多くの課題を抱え、なんとか新しい技術や商品を見いだして、自分の会社なり職場で解決をしていきたいという要望が非常に強いということを実感した。しかしながら、なかなか画期的商品というのが簡単に出るわけではない。例えばレーザーだと発振器という電源、ここの基本的な部分は、それほど各社差はない。そういう中で、要素技術・加工技術等、アプリケーション、センサー等を駆使して、なんとか新しい現場に役に立つ商品、加工技術というものを提供できないか、という視点が非常に重要になっている。皆さまの研究成果は、最終的には社会実装されて役に立つよう種をまかれていると認識している。ますますご研究にまい進されることを期待している。」
総評
天田財団評議員 小原 慶應義塾大学 名誉教授による総評の概要は次のとおり。「天田財団の目的は、金属等の加工に関する学術の振興と新しい科学技術の創出を図り、わが国の産業および経済の健全な発展に寄与することである。金属等とは、産業界で重要な材料を広く捉えている。わが国の産業、経済の発展に寄与する塑性加工、レーザー加工の研究開発を助成している。わが国の産業は、部材を購入し、加工し、部品、モジュール、システム等を製造し、付加価値を得ることで経済的利益を得ている。すなわち、アウトカムの視点、社会的インパクトの視点から、有益かつ、革新的かつ、創造的な加工技術の研究を助成している。論文、特許申請等のアウトプットに終わらず、実効性のあるアウトカムを達成し、社会にインパクトを与えていただきたいと期待している。事業として、加工技術に関する研究助成ならびに加工技術に関する国際交流の助成に加えて、研究成果の普及啓発の事業を実施している。貴重な助成の成果の普及啓発は、事務局の努力で年間を通じて研究成果報告会等を実施し、社会、産業界に天田財団の研究成果を普及させている。」と述べたあと、平成30年度の助成プログラムの特徴を4つ挙げた。
(1)助成金総額は過去最高の2億6,450万円と予算化した。
(2)重点研究開発助成の1,000万円口は、最新の技術動向や社会的ニーズを研究課題、キーワードとして提示し、その技術課題を解く、テクニカルソリューションを達成する研究を対象としている。キーワードにはIoT、AI等を含んでいる。
(3)一般研究助成、天田財団の助成対象分野の研究開発を広範囲に支援。
(4)奨励研究助成、国際会議参加助成。国際シンポジウム等、準備および開催助成に、若手研究者育成に特化した若手研究者枠を設けた。今後のわが国の加工技術の発展には、若手人材の参入、育成が必須なので、研究分野の間口を広くして、若手研究者枠を設けた。
塑性加工分野への研究開発助成実績は、解くべき課題を提示した重点研究助成において、2件助成した。現在進行形の研究の一般研究助成は31件。未来を支える若手研究への助成・奨励研究は16件助成した。なお、今年度は申請額を満額助成している。
レーザー加工分野への研究開発助成実績については、解くべき課題を提示した重点研究助成を5件助成した。現在進行形の研究の一般研究助成は19件。未来を支える若手研究者への助成、若手の奨励研究は16件助成した。全て意欲的な研究課題申請であり、成果を期待して申請額を満額助成している。