平成31年 世耕弘成 経済産業大臣 年頭所感

(はじめに)
 平成31年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。

 この30年間で、経済・社会構造は大きく変化しました。そしてその変化は、今尚、大きなうねりとして続いています。例えば、企業を取り巻く競争環境は劇的に変化しています。第4次産業革命により、AIやIoT、ロボット技術が進展。従来の、産業ごとのモノ売りだけではなく、こうした技術を活用した、業種を超えたサービスとの連動が拡大しています。また、所有ではなく共有という消費者マインドの変化とシェアリングサービスの台頭は、既存のビジネスモデルに変革を迫っています。

 通商政策を取り巻く環境も大きく変化しています。多くの国々が、グローバル化、国家主権、民主主義のトリレンマに直面し、外交と内政の難しいかじ取りを迫られています。こうした中、世界的に保護主義的な動きが広まり、貿易摩擦などの問題が発生するのと同時に、データ流通や電子商取引など、新たな国際枠組みが求められる分野が生まれています。

 さらに、経済・社会の基盤も、変化の必要に迫られています。例えば、2020年から適用されるパリ協定は、今世紀後半に温室効果ガスの排出を正味ゼロにすることを目指すとしており、エネルギー政策には、脱炭素化がより強く求められています。また、少子高齢化をはじめとする経済、社会構造の変化により、労働人口の減少や生産性向上の必要といった課題への対応が必要になっています。

 以上を踏まえ、経済産業省としては、大きく5つの取組を進めていきます。

「Connected Industries」の実現

 1つ目に、変革する競争環境の中で勝ち残り、世界をリードしていく企業を後押ししていきます。そのために重要なことが4点あります。

 まずは、「Connected Industries」の実現です。このコンセプトは、データを介して、様々な繋がりが生まれることで、新たな産業や付加価値の創出、社会課題の解決につなげていくものです。例えば、日本の強みはものづくりの現場にある、と言われますが、日本の製造業は深刻な人手不足に直面しています。こうした現場に、AI、IoTなどの技術を導入することで、人材育成や技能の伝承などを実現していきます。

 これまで、Connected Industries重点5分野を設定し、各分野でのデータ共有や、AIなどによるデータ利活用の取組を進めてきました。引き続き、IoT投資に対する法人税減税などを通じ、データ連携を推進します。

 次に、IT人材の育成やサイバーセキュリティの確保といった、データの利活用を進める上での基盤の整備です。IT人材の育成については、第四次産業革命スキル習得講座認定制度を活用し、データサイエンスやサイバーセキュリティなどの社会人のリカレント教育を進めます。また、サプライチェーン全体でサイバーセキュリティを確保するための指針を策定し、産業への実装を進めます。

 世界で活躍するスタートアップを生み出すことも不可欠です。有望な技術やサービスを提供するスタートアップを、J-Startup企業として選定した上で、大企業との連携や、国内外のスタートアップイベントへの出展を支援し、グローバル展開の後押しをします。また、政府調達の門戸を広げ、これまで限定的だったスタートアップの採択を増やし、その活躍の場を更に拡大させます。

 最後に、知的財産権制度の強化です。新しい技術や市場のサービス化に対応し、スタートアップをはじめとするイノベーションの促進にこれまで以上に貢献できるよう、インターネット上の画像など新たなデザインの保護や、知財訴訟制度の充実を図っていきます。

通商・対外経済

 2つ目に、国内政治・経済問題に起因して、世界的に保護主義の動きが広まる中、日本としては、自由で公正な国際ビジネス環境構築のため、様々な取り組みを進めます。

 まず、TPP11の更なる拡大を目指します。また、2月1日に発効する日EU・EPAを含め、EPAを活用した中堅・中小企業の海外展開を積極的に支援します。RCEPについては、今年中の妥結を目指して交渉を進めていきます。

 WTO改革の議論や、有志国間での電子商取引についてのルール形成を、日米欧の三極貿易大臣会合や、我が国が議長国となる今年6月のG20を活用し、主導します。

 米国とは、貿易・投資の更なる拡大に加え、インフラやエネルギー、デジタルの分野で協力を推進し、両国の関係を更に深化させます。

 中国とは、首脳会談の成果を踏まえ、幅広い分野での経済関係の強化を図ります。昨年開催された「日中第三国市場協力フォーラム」を手始めに、国際スタンダードに基づいた民間企業のビジネス展開を後押しします。

 日露関係については、これまでに、8項目の「協力プラン」の下で、150件以上の民間プロジェクトが生まれ、その半数以上で具体的なアクションが始まっています。さらに労働生産性向上やデジタル経済分野での協力に取り組み、日露経済関係の深化に取り組んでまいります。

中小企業・小規模事業者への支援・消費増税対策

 3つ目に、経営者の高齢化や人手不足といった深刻な課題に直面する、中小企業・小規模事業者への支援を行います。

 法人の事業承継税制の抜本的な拡充に続き、今年は、10年間限定で、個人事業者の事業承継における贈与税・相続税の負担をゼロにする制度を創設します。また、設備投資やITツール導入、販路開拓の支援など、生産性向上に資する幅広い取組を切れ目なく行います。

 昨年相次いだ自然災害の教訓を踏まえ、事業者による防災・減災対策を促進するため、立法措置を視野に税制・予算を含めた支援措置を講じます。

 今年の10月1日から、消費税率が現行の8%から10%に引き上げられる予定です。国民生活や経済活動に混乱が生じることのないよう、あらゆる施策を総動員します。

 具体的には、昨年11月に公表した柔軟な価格設定に関するガイドラインを周知するとともに、需要の落ち込みを抑えるよう、中小・小規模事業者へのキャッシュレス対応やポイント還元等を支援するほか、商店街の支援を行います。また、軽減税率制度に円滑に対応できるようレジ・システム補助金の措置や周知・広報を実施するとともに、転嫁Gメンを増員し、転嫁対策に万全を期します。

全世代型社会保障の実現

 4つ目に、人口減少などの社会構造の変化に対応するため、全世代型社会保障の実現に向けた政府全体の取組に貢献していきます。昨年9月には、産業構造審議会に2050経済社会構造部会を設置し、高齢者活躍の場の整備や中途採用の促進、保険者による生活習慣病・認知症予防の促進について議論を始めました。厚生労働省とも協力し、未来投資会議での議論を通じて全世代型社会保障の実現に取り組みます。

エネルギー政策の推進

 5つ目に、変化に対して柔軟、強靭なエネルギー政策を構築します。北海道胆振東部地震における大規模停電の教訓を踏まえ、地域間連系線の強化や、燃料供給インフラへの自家発電設備の導入を含む対策を講じ、強靭なエネルギー供給体制を構築していきます。

 次に、地球温暖化対策も重要です。環境と経済成長との好循環を実現し、日本が世界のエネルギー転換・脱炭素化を牽引するためには、従来の延長にないイノベーションの創出が不可欠です。「企業の脱炭素化の取組を「見える化」することでグリーン・ファイナンスを活性化する」。「さらに環境性能に優れた製品や技術の海外展開を促進することで世界全体の排出削減に貢献する」。そうした決意の下、成長戦略として、パリ協定に基づく長期戦略を策定します。

 そのためには、新しい技術のイノベーションが不可欠です。日本が世界のトップを走る水素技術について、各国と連携した技術開発や規制見直しを進めるため、昨年10月に、世界初の水素閣僚会議を日本で開催し、東京宣言を発出しました。再生可能エネルギーについても、主力電源化に向け、昨年成立した新法に基づく洋上風力発電の新たな展開にチャレンジします。さらに、原子力については、小型炉を含む海外の開発動向も踏まえながら、官民を挙げて安全性の向上などを実現するイノベーションを推進していきます。

福島の復興

 時代の変化にかかわらず、福島の復興と、安全かつ着実な廃炉・汚染水対策は、経済産業省の最重要課題です。廃炉・汚染水対策については、「中長期ロードマップ」に基づき、安全確保の最優先・リスク低減重視の姿勢を堅持しつつ、地域・社会とのコミュニケーションを一層強化しながら進めていきます。

 既に帰還困難区域を除くほとんどの地域で避難指示が解除され、残る区域においても新たなまちづくりが始まるなど、復興・再生に向けた動きが着実に進んでいます。こうした流れを本格的な福島の復興につなげていくためには、生活の再建と産業の復興が必要です。引き続き、官民合同チームによる事業・なりわいの再建に向けたきめ細かな支援や、福島イノベーション・コースト構想の推進による新たな産業基盤の構築を進めます。

結言

 昨年11月には、2025年の国際博覧会について、大阪・関西で開催されることが決定しました。今後は、万博を成功させるため、政府、自治体、経済界が一体となり、オールジャパンで準備を進めていきます。また、今年は6月に、G20が日本で初めて開催されます。さらに、9月にはラグビーワールドカップが、加えて来年は東京オリンピック・パラリンピックが開催されるなど、日本が世界から注目を浴びる機会が立て続けにあります。だからこそ、山積する国内外の課題に対して、日本が他国に先駆けて、新たな一歩を踏み出すことが重要です。

 先が見通せない時代だからこそ、最初の一歩を踏み出すには、強い突破力が求められます。今年は、「亥(いのしし)」年。経済産業省の職員一丸となって、思い切った挑戦ができるよう、「亥」のような突破力をもって、職務に邁進してまいります。日本が大きな変革の時代を乗り越え、飛躍できる1年になるよう、願っております。

 皆様のより一層の御理解と御支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

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