NEDO 渡邉理事に聞く ~日本発 循環型社会に向けた方向性とは~


 「21世紀は環境の世紀」と言われて久しいが、地球温暖化問題や廃棄物問題をはじめとする地球環境問題は年々深刻化し、現在、環境保全にはグローバルかつ継続的な取り組みが緊急な課題とされている。今年は大阪でG20サミットが開催され、日本が初めて議長国を務めた。新エネルギー・産業技術総合開発機構(通称:NEDO)渡邉政嘉 理事は、「今まで以上に、地球環境問題の解決および持続可能な開発に対する日本の取り組みが注目されるでしょう。」と話す。

 製造業と地球環境保全は密接な関係もあることから、これら課題解決のための方策について、渡邉理事を訪ねお話しを伺った。

日本が得意とする技術分野でイノベーションを加速!

出所:新エネルギー・産業技術総合開発機構
出所:新エネルギー・産業技術総合開発機構
 ―世界で2050年以降にはCO₂排出量を実質ゼロにする必要があるとの動きがあります。これらの問題解決において、日本は技術イノベーションを加速し、世界のCO₂問題解決を目指すとしています。
 渡邉 現在、全世界で500億トンの温室効果ガスをCO₂換算で出していますが、これがこのまま自然体でいくと、2030年までに570億トンまで増えてしまいます。2015年のCOP21でのパリ協定では、世界における平均気温上昇を2℃より低く保つとともに1.5℃に抑える努力をしよう、という目標が掲げられました。この1.5℃の目標を達成するためには、2050年頃にはCO₂の排出量を実質ゼロにする「ネット・ゼロ・エミッション」を実現する必要があります。
 ―なかなか厳しいと思いますが、それを実現可能にする技術があるのでしょうか。
 渡邉 そう簡単に問題解決ができるものではありません。たとえ、石油や石炭等を使わない「持続可能なエネルギー」に向けて様々な開発をし、それだけを追い求めても実現はできず、同時に、「サーキュラーエコノミー」や「バイオエコノミー」の考え方を取り入れたこの3つの柱の総合戦略で考えていかないと達成は困難です。持続可能な循環型社会に向けた方向性としてNEDOは世界のCO₂問題解決を目指すとして、ここ1年ほどこれらの3本柱を提唱し続けています。
 ―バイオエコノミーにはどんな技術例がありますか。
 渡邉 簡単にいうと、森林資源を使います。木のチップや残渣などを分解してアルコールをつくったり。最近ではユーグレナが注目されていますね。
 ―わたしも飲んでます!
 渡邉 ユーグレナは健康食品としても注目されているようですが、画期的な新技術としては、飲むためのものではなく、ジェット燃料をつくって飛ばそうという計画があります。大きなプールのような所でどんどんユーグレナなどの藻を培養すると油のようなものができます。それを原料にしたジェット燃料をつくって飛行機を飛ばそうというものです。要するに、植物や藻のようなものは、空気中の二酸化炭素を吸収して、光合成をし、固定化しているので、それをもう一回使ったり燃やしたりしても、カーボンニュートラルなんですね。CO₂が新しく出たことにカウントしないというメリットがあるのがバイオマス資源なのです。セルロースナノファイバーもそうですね。
 ―最近ではプラスチックのストローも廃止する動きが盛んになりました。
 渡邉 木を細かくナノ状まで分散させて、数パーセント樹脂に混ぜると、すごく強くなる。石油由来型の資源を使うプラスチックを、どんどんとバイオマス由来の材料に替えていこうという動きに変化しています。セルロースナノファイバーは、今年の10月24日~11月4日まで開催される東京モーターショーに環境省のプロジェクトで、セルロースナノファイバー部品を使用した新型車を展示で出すそうです。
 ―環境保全にはカーボンニュートラルの考え方が必要なのですね。
 渡邉 バイオマス資源は、空気中の二酸化炭素を吸収するので、それを使っても、後で燃やしても、ノーカウントになるという考え方です。化石燃料を燃焼すると二酸化炭素が放出され、地球の炭素循環のバランスが崩れてしまいますが、木は5年、10年で成長します。生きている間に吸収して、たとえ燃やしても放出されるだけなので、短期サイクルはニュートラルだと考えよう、という考え方なのです。
 ―持続可能な循環型社会に向けて、さらにサーキュラーエコノミーが加わるのですね。
 渡邉 次にバイオマス以外の様々な社会にあるものをできるだけ使用量を少なくしたり、再利用することをサーキュラーエコノミーと言いますが、最近は、カーボンリサイクルという概念も経済産業省は出しています。リサイクルは日本の得意分野ですが、カーボンリサイクルはこの考え方をさらに大きく発展させたもので、CO₂に様々な化学反応をさせて化学品や燃料に転換しよう、というものです。燃焼ガスなどからCO₂を分離・回収し、地中に埋めるだけでなく、炭素資源として有効活用するための技術革新は、まさに日本が世界に先駆けリードしていく分野だと思っています。CO₂は世の中のやっかいものという捉え方ではなく、有用物質に変換する役目として、今後技術が発展していくでしょう。NEDOはこうした技術革新を加速していく役目を担っています。持続可能な循環型社会実現の鍵は、「持続可能なエネルギー」、「バイオエコノミー」、「サーキュラーエコノミー」。この三位一体で、イノベーションを達成させるものと考えます。
 ―日本は地球規模で将来有望な技術を掴んでいるようですね。
 渡邉 今年の秋には、経済産業省とNEDOとの共催で「カーボンリサイクル産学官国際会議」を開催しますが、これは世界の主要各国から関係者が集まり、最新の知見と国際連携の確認をしつつ、イノベーションを推進するための議論を行うことを目的としています。NEDOではこうした国際会議の開催や研究開発の推進を図っているんです。

AI、IoTに頼るな、無視するな

 ―話は変わりますが、渡邉理事は、以前、経済産業省の素形材産業室長というお立場を経験されています。お話しにあったような最先端の取り組みがどんどん加速していく中、日本の製造業は今後どうしていくべきだと思われますか。
 渡邉 昔と違い、これからはIoTもAIも無視はできないでしょうね。就職と同じで、「コネに頼るな、無視するな」と同じで「AI、IoTに頼るな、無視するな(笑)」ということだと思います。
 ―頼るな、無視するなとは、なかなかインパクトがあります。
 渡邉 頼るな、というのは、ものづくり・製造業の現場が消滅することはなく、必ずどこかにあるわけです。金型も鋳造工場もなくならない。私は「現場を制するものはものづくりを制する」と思っています。現場を制する方法として、IoTやAIをツールとして取り入れるという姿勢も重要な要素ですが、ものづくりの全てがそれらのツールに乗るだけで済むのかと思ったら大間違いなのです。IoTやAIだけでは、ものづくりの現場において新しいアイデアや発想がどんどん生まれてくるとは思えない。ヒントは出てくるでしょうけれど。
 ―IoTやAIはトレンドですが、なんのためのトレンドなのか、を考えることも必要だということですね。
 渡邉 AIやIoT技術を駆使し、現場から取ったデータで新しい加工方法など、様々な暗黙知が形式知化されたとしても、ある時、現場で取り組んでいる全てをやめてしまったら、それ以上進化をしなくなる。つまり、ものづくりの現場におけるコア・コンピタンスの部分を生み出し続ける強みというのは何なのかということをしっかり見極めた上で、それをさらに主体的に高度化させる、あるいは改善させるというツールとしてAIやIoTをどう使っていくのか、を考えることが重要だと思うのです。だから、現場を制するものはものづくりを制する。IoT、ビッグデータは、頼り過ぎるな、無視するな、と申し上げたい。さらにいうと、製造業という、ものづくりの現場のみのビジネスモデルではなくて、現在問われているのは、流通やBtoB、BtoCまでを含めて、ユーザーとの大きなネットワークの中で生産の最適化やニーズの取り込み等の必要性です。これに伴い、従来培ってきた事業ドメインを情報技術とAIを使って広げていきながら取り組むという、多少ビジネスモデルの変更を伴うようなことも当然必要になってくると思われます。現場を大切にして、あとは自社の守備範囲を広げていく。加工メーカーも加工賃だけを取っているのではなく、付加機能を付けたデバイスにして部品メーカーになり、収益率を上げようと頑張っている会社もあります。ビッグデータやAIを使いながら、川上川下のビジネスパートナーと一緒に組んで、生産性の向上等に取り組んでいくという流れは、競争力強化のためにも重要なことだと考えています。
 ―ありがとうございました。

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