躍進する切削工具! 「2011年“超”ものづくり部品大賞」受賞工具はコレだ!

 日本モノづくり日本会議と日刊工業新聞社が共催する「2011年“超”ものづくり部品大賞」。本年大賞に選ばれたのはJX日鉱日石エネルギーの「パラフィン系潜熱蓄熱材エコジュール」。
 切削工具業界からは日本力(にっぽんぶらんど)賞に日進工具の「極微細ねじ加工用エンドミル マイクロねじ切り工具 MMTS」が、機械部品賞 に日立ツール/日立製作所の「AVアーバ(防振アーバ)」が、奨励賞にオーエスジーの「超硬油穴付きWDOドリルシリーズ」がそれぞれ受賞した。ハイクオリティな加工に貢献する切削工具メーカーの受賞工具を紹介する。

世界最小の呼び径0.1mm! 日進工具の「マイクロねじ切り工具」(日本力[にっぽんぶらんど]賞)

工具外観(左) 工具刃部拡大(右)
工具外観(左) 工具刃部拡大(右)
 日進工具は、直径0.1mmから1.4mmまでの小径ねじ用工具を製作しているが、今回受賞したのは、“世界最小”の呼び径0.1mmねじ加工用の工具「マイクロねじ切り工具」だ。
 ねじのJIS規格では、メートル並目ねじとしてM1(ねじ呼び径1mm)からM300(ねじ呼び径300mm)があり、その下にミニチュアねじとしてS0.3(ねじ呼び径0.3mm)からS1.4mm(ねじ呼び径1.4mm)の規格がある。ミニチュアねじは、時計や電気機器、測定機などに用いられているが、微小であるため加工が難しい、使用時の作業性が悪い等の理由から、一般的に使用されるのはS0.5以上のサイズである。また、今回同社が製作したS0.1はJIS規格にないため、寸法やピッチなどはS0.3以上の寸法に則して独自に設定している。
 よくあるねじの加工法は、おねじの場合は鍛造や旋削加工、めねじの場合はタップを使用した加工だ。切削タップも転造タップも共通している問題点はタップの折損である。タップが折損すると加工中のねじ穴に工具が詰まってしまい再加工するのが容易ではない。 
 この様な背景から、最近ではマシニングセンタに専用工具を取り付け、切削加工によりねじ加工を行うスレッドミーリング方法も多く採用されている。この方法は、穴径よりも工具が小径なので、①加工中に工具が折損しても容易に取り出せること、②切削抵抗が小さいため高硬度材や難削材への高精度な加工が出来ることを特長としている。
φ1mm円柱状部のおねじSEM写真(左) S0.1おねじSEM写真(右)    
φ1mm円柱状部のおねじSEM写真(左) S0.1おねじSEM写真(右)    
 「マイクロねじ切り工具」はスレッドミーリング用工具である。同社では極微細ねじの加工が、工具も微細化するために工具剛性が著しく低下することや、加工精度の観点から、スレッドミーリング法が有利であると考え採用している。
 「マイクロねじ切り工具」を使用によって、S0.1(呼び径0.1mm)のおねじ及びめねじの加工が可能なる。被削材は、樹脂やアルミニウム合金に加え、医療機器や宇宙・衛星関係機器で多く使われるステンレスやチタンにも対応しているのが嬉しい。さらに特殊な機器は必要なく、一般的に使用されている高速マシニングセンタで使用することができる利点もある。
S0.1おねじ髪の毛との比較(黒い線が髪の毛)
S0.1おねじ髪の毛との比較(黒い線が髪の毛)
 「マイクロねじ切り工具」の最大の特長は、世界最小の直径0.1mmのおねじ、めねじを切削で加工できること。これを可能にする工具は、刃径60μm、首径30μm、有効長150μmの極小径サイズである。一般的に髪の毛の太さは80μmとされており、髪の毛よりも細い工具なのだ。
 経済効果も高く、加工に際し特殊な機械を新たに導入する必要はない。一般的な高速マシニングセンタとこの工具があれば加工ができるので、設備投資、加工コストの観点からも優位性を誇るといえよう。この加工には、セミドライ加工が用いられているため、特別な溶液や大量の切削油剤を必要としないので環境にも優しく、また、使用部品の微細化が進むことで、組み上がる製品の微小化にも貢献できるということは、近年、価格高騰や埋蔵量の減少で問題視されているレアメタルの使用量も削減することができ、資源確保にも一層期待がかかる。
 なお、同社では、小径サイズ、極小径サイズの超硬エンドミル、cBNエンドミル、超硬ドリルを得意としており、最小刃径10μmのエンドミルも世界で初めての量産化に成功している。

L/D=6以上の突き出し長さの加工のビビリ振動を抑制した日立ツール/日立製作所「AVアーバ(防振アーバ)」(機械部品賞)

 機械部品賞を受賞した日立ツール/日立製作所の「AVアーバ(防振アーバ)」。
これは大型機械部品加工、大型金型加工及び工作機械製造分野でのL/D=6以上の突き出し長さの加工において問題となるビビリ振動を抑制し、大幅な加工能率向上が図れるとして高い評価を得ている。
 ビビリが発生すると、加工面精度が悪化したり、工具寿命を短くしたりと品質や加工能率に悪影響を与える。したがって加工現場は常日頃、防振対策を考えなければならず、頭を痛めているとえいよう。クオリティの高い加工面に仕上げるためにはビビリをいかに回避するかがポイントになる。
 ところが、L/D=6以上の突き出し長さの加工の問題点をあげると、ビビリ振動が生じ易いという点が挙げられる。このため切り込み量及び送り速度を小さく設定せざるを得なく、能率の低い加工が当たり前となっていた。同社では、このような現場の悩みを解決すべく、アーバ本体内にダンパー(動吸振器)を内蔵することで、減衰比が通常アーバの約6倍にした大きな特長をもつ。これにより、従来工具ではビビリ振動を発生する切込み量でも切削が可能になり高能率加工が実現し、安定した加工状態のためインサートの寿命が大幅に向上する。
 AVアーバーは従来アーバーに比べて加工能率2.5倍、工具寿命10倍(φ50×L400mm時)の性能が得られるのだ。仕様も、φ40xL300mm、φ50xL350,400,450mm、φ63xL350,400,490mmと豊富であり、現在、多くの部品加工ユーザーで高能率加工を実現し、コストダウンに寄与している。 この製品は加工現場の生産性、経済性に大きく寄与するといえよう。

生産性を大幅に向上したオーエスジー「超硬油穴付きWDOドリルシリーズ」(奨励賞)

WDO-3D(上) WDO-30D(下)
WDO-3D(上) WDO-30D(下)
 穴を加工するドリルは、加工される穴の径と深さにより最適なドリルの種類が一点一葉で必要となる。幅広く顧客の要求を満たすには、豊富なラインナップと同時に、用途に応じた形状が要求される。加工現場で目指すものは“生産性向上”であり、そのため“サイクルタイムをいかに短くするか”が問われる。オーエスジーの「超硬油穴付きWDOドリルシリーズ」は、サイクルタイムを30%も短縮する高い生産性を安定して実現することを可能にしたうえ、工具交換頻度を減らしたことで加工現場に喜ばれている工具だ。
同製品は、径でφ3~φ20、対応出来る加工深さを径の30倍までと豊富なラインナップを揃え、加工深さ別に刃型の設定を行い、より多くのシチュエーションで工具の性能を安定して最大限発揮できるようにしている。
 
新ウェーブ刃型
新ウェーブ刃型
多くの構造部品は組立用にねじが用いられるが、これらを加工するにはタップ加工が不可欠であり、前工程として下穴が加工される。これらの比較的浅い穴加工用向けの3D深さ、5D深さのドリルには、新ウェーブ刃型形状を採用し、切れ味を重視した工具性能を確保。またエンジン部品加工などに用いられる10D深さ、15D深さ、20D深さ、及び30D深さ用のロングドリルには、直線刃型形状とM(Middle)マージン形状を採用し切れ刃強度と安定性を実現した。
単層構造(左) 複合多層構造(右)
単層構造(左) 複合多層構造(右)
 全シリーズに新開発のコーティング(WDⅠコーティング)の採用で、耐久性の向上を図り従来工具に対して約6倍の耐久性能を実現したことにも注目したい。「WDOシリーズ」は、穴加工の効率を飛躍的に向上させ、自動車をはじめとする各産業において生産性向上と加工費低減を実現していることが認められ高く評価されている。また、新開発の「WDⅠコーティング技術」だが、複合多層構造である特長を持つ。従来の単層コーティング製品と比べて複合多層構造にするメリットに、ドリル加工時に発生しやすいクラックの伝播を抑制し、硬層と軟層を組み合わせることで内部応力が緩和され衝撃に強く靭性を向上させることがあげられる。これにより高速加工での耐久性(工具寿命)の向上やMQL加工などの低潤滑状態での使用に耐えられる仕様を実現した。高硬度&耐熱性にも優れており、同社従来品の被膜硬度2700(HV)に比べて、WDⅠコーティングは3300(HV)と20%以上の高硬度化に成功している。独自の熱拡散性被膜構造で、切削熱の滞留を回避させ、酸化開始温度は1100℃を誇る。(同社従来品は800℃)したがって発熱が懸念される高速加工、高送り加工、MQL加工でも十分に被膜特性を発揮する。
 

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