【年頭所感】「新たな価値を日本から生み出す」経済産業大臣 梶山弘志

(はじめに)
 令和2年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。

 令和初めての新年を迎え、7月には東京オリンピック・パラリンピックがいよいよ開幕します。

 1964年の東京大会では、戦後復興を見事に成し遂げた日本の姿を世界に示しました。その主役の一つは、先端技術の粋の結晶である新幹線です。当時、「鉄道の高速化は時代錯誤」との批判もあるなか、先人たちは努力と叡智を結集させ、長距離移動にイノベーションを起こしました。56年の時を経て、日本の新幹線技術は、国内のみならず海を越え、世界の人々の移動を支えるに至っています。

 2020年という時代を1964年当時想像し得なかったように、いつの時代も先人たちは予測不能な未来と向き合いながら、時代を切り開いてきました。今の時代を生きる我々も、新幹線のように、世代を越えてもなお世界に誇れるイノベーションを生み出し、将来に残していかなければなりません。

 世界に目を向ければ、米中の覇権争い、ブレグジット、気候変動など地球規模の課題が日本を取り巻き、足下では少子高齢化による人手不足、デジタル化への適応、エネルギー制約、原子力災害からの福島復興など乗り越えるべき課題は山積みです。

 課題克服の鍵は、AI、IoTなどの新しい技術を活用したイノベーションに他なりません。我々が向き合う未来は、今まで以上に複雑で、予測困難なものですが、イノベーションを生み出す新しい発想、新たなチャレンジによって、後世に繁栄のバトンをつないでいかなければなりません。こうした強い覚悟をもって、経済産業省は次の5つの取組を進めてまいります。

「Society5.0」の実現

 一つ目は、「Society5.0」の実現です。企業価値の源泉ともいえるデジタル技術やデータを、あらゆる産業や社会生活に取り入れる「Society5.0」を世界に先駆けて実現することで、様々な社会課題を技術により解決し、新たな価値をここ日本から生み出します。

 特に、今年から商用化を開始する5Gサービスは、「Society5.0」の基盤です。携帯電話だけでなく、スマート工場、自動運転、遠隔医療など、広範な産業に活用され、社会を一変させる可能性を有しています。法律、予算、税制等による前例のない大胆な支援策により、安心、安全な5Gシステムの構築を目指します。

 また、デジタル技術やデータがもたらす成長の果実をより大きなものにするためには、既存企業に集中するヒト・モノ・資金といったリソースを最大限活用しなければなりません。この流れを強力に後押しするため、今回新たに、「オープンイノベーション促進税制」を創設し、既存企業からスタートアップへの出資を促進することで、成長につなげていきます。

 新たな時代のデータは、信頼あるルールのもとで自由に流通されてこそ、価値を発揮します。「データフリーフロー・ウィズ・トラスト」をコンセプトに、国際データ流通網の構築も目指していきます。また、デジタル・プラットフォーム企業と利用者間の取引の透明性や公平性を確保するための具体的なルール整備を加速します。

通商・対外経済

 二つ目は、自由貿易の旗手としての通商政策の推進です。米中対立の激化や、英国のEUからの離脱など、日本を取り巻く世界の経済・社会情勢は不確実性を増しており、世界的に保護主義の動きが広まる今こそ、通商国家として発展してきた日本の真価が問われています。今後も、自由貿易の旗手として、自由で公正なルールに基づく国際経済体制を主導する役割を果たします。

 日米欧の三極貿易大臣会合も活用し、WTO改革や、大阪トラックの下での電子商取引等のルール作りを推進します。また、RCEPについては、16か国での年内の署名を目指して、引き続き交渉をリードしてまいります。

 二国間の経済関係強化にも取り組みます。米国との関係では、日米貿易協定及びデジタル貿易協定が発効します。日本企業がその成果を最大限に活用できるよう促し、日米経済関係を更に深化させます。加えて、英国のEUからの離脱を踏まえ、昨年発効した日EU・EPAの活用促進と共に、EUとの更なる連携強化を進めます。中国とは、第三国市場協力や省エネルギー・環境分野での協力など、経済関係の強化を図ります。日露関係については、ロシア経済分野協力担当大臣として、8項目の「協力プラン」の更なる具体化を進めてまいります。

中小・小規模事業者

 三つ目は、中小・小規模事業者が直面する課題の克服です。昨年は、8月末の九州豪雨、9月の台風15号及び10月の台風19号など、全国各地で大きな自然災害が相次ぎました。
人手不足など厳しい経営環境に悩みつつも、必死の思いで地域経済を支えてきた事業者の方々が、こうした天災を理由として事業継続を断念するようなことがあってはなりません。

 被災した事業者の方々を徹底的にお支えする。こうした思いで、昨年11月に「生活・生業支援パッケージ」をとりまとめ、前例のないレベルで、被災事業者への支援を充実させました。被災された事業者の皆様が、一刻も早く事業再開し、再び地域経済の支え手となっていただくことを期待します。

 「本当は事業を誰かに続けてもらいたいが、やむを得ない。」こうした声は全国各地で聞かれます。素晴らしい技術を持った企業の後継者不足による廃業は、日本経済にとって大きな損失です。親族内承継への支援に加え、今後は、「第三者承継支援総合パッケージ」に基づき、後継者不在事業者の承継も後押ししていきます。また、後継者候補がいても、個人保証が障害となり、事業承継を断念するケースもあります。個人保証の慣行は今の世代で断ち切るとの決意を持って、事業承継時に個人保証を不要とする信用保証制度を新たに創設するなど、大胆な政策を実施します。

 中小・小規模事業者の皆様が、高齢化や人手不足、人口減少などの構造変化に加え、働き方改革や賃上げなどの制度変更を乗り越えて躍進できるよう、革新的な製品・サービス開発のための設備投資など、生産性向上の取組を継続的に支援します。加えて、キャッシュレス決済の普及により、中小・小規模事業者の生産性向上を図り、更なる成長へとつなげます。

 また、中小・小規模事業者を取り巻く競争環境は一層激化し、商品企画、調達、製造、販売といった一連のバリューチェーン全体で、イノベーション創出や国際競争力が問われる時代が到来しています。こうした状況を踏まえ、昨年立ち上げた大企業と中小企業の経営者による「価値創造企業に関する賢人会議」において、大企業と中小・小規模事業者が互いに稼げる「共存共栄モデル」を議論し、あわせて、個別取引の適正化対策についても、コスト負担の適正化や知財・ノウハウの保護等について検討を進めてまいります。

全世代型社会保障の実現

 四つ目は、全世代型社会保障の実現です。一億総活躍社会を掲げる安倍内閣にとって、全世代型社会保障への改革は、最重要課題です。少子高齢化と同時にライフスタイルが多様となる中で、人生100年時代の到来を見据えながら、お年寄りだけではなく、子供たち、子育て世代、更には現役世代まで広く安心を支えていくため、年金、労働、医療、介護など、社会保障全般にわたる改革を進めていく必要があります。

 経済産業省としても、70歳までの就業確保や兼業、副業など、柔軟で多様な働き方の実現や、それを支える産業基盤の構築に、関係省庁とも協力し取り組みます。

エネルギー・環境政策

 最後に、あらゆる事業活動の土台となる、安定したエネルギー供給の実現です。資源に乏しい日本にとって、エネルギーコストを抑制し、海外依存構造から脱却することは不変の要請です。エネルギー制約を抱えながら、安定供給を達しつつ、パリ協定を踏まえた脱炭素化の取組を果たすことが、次の世代に持続可能な社会をつなぐ、我々の使命です。

 パリ協定実現のため、実効的な脱炭素化にどのように取り組むか、各国が知恵を絞っています。日本は、徹底した省エネルギーと再生可能エネルギーの主力電源化に加え、CO2の排出削減に根本から取り組みます。この鍵を握るのが、水素技術や、CO2を資源として利用し尽くすカーボン・リサイクル等の革新的技術の開発・普及です。グリーンファイナンスの推進等を通じ、非連続のイノベーションを加速することで、「環境と成長の好循環」を実現します。

 北海道胆振東部地震・大型台風など、相次ぐ自然災害への対応も急務であり、有事の際にも電力供給への影響を最小限に抑えるため、迅速な復旧を行うことが重要です。また、送配電網等への必要な投資を促し、電源の特性を活かした再生可能エネルギーの導入を拡大するとともに、資源・燃料の安定供給を確保しなければなりません。原子力についても、原発依存度を可能な限り低減する方針の下、安全最優先で再稼働を進めます。こうした点も踏まえ、強靭で持続可能なエネルギー供給体制を構築してまいります。

福島復興・廃炉汚染水対策

 原子力災害からの福島の復興は、いかなる時でも経済産業省の一丁目一番地の最重要の政策課題です。廃炉・汚染水対策については、「中長期ロードマップ」に基づき、国も前面に立って、安全かつ着実に進めます。

 福島の復興については、帰還に向けた環境整備が着実に進んでいます。昨年末に策定した基本指針に基づき、官民合同チームによる支援を通じた事業・なりわいの再建に加え、福島イノベーション・コースト構想の実現を通じてあらゆるチャレンジを呼び込み「Society5.0」を先導的に実現できる地域社会の実現に向けて、全力で取り組んでまいります。

結語

 今大会の聖火リレーは、福島からスタートします。水素・ロボット・ドローンなど新たな産業の創生を通じ、未曾有の大災害からの復興はこれから本格化します。大会では、福島生まれの再生可能エネルギー由来の水素が燃料電池自動車などで活用されます。56年前に戦後復興を進める日本の姿を世界中に示したように、今度は、最先端分野でのイノベーション創出により、復興への歩みを進める福島の姿を世界中に示します。

 そして2025年には大阪・関西万博を迎えます。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、万博会場を「未来社会の実験場」として多様なプレーヤーが大阪・関西に集い、新たな技術を実証するテストフィールドを目指します。ここから5年間が勝負です。日本が目指す社会像や、イノベーションの数々を世界中に示す機会となるよう、政府、自治体、経済界が一致団結した、オールジャパン体制で取り組みます。

 今年は、十干十二支の「庚子(かのえね)」にあたり、「新たな芽吹きと繁栄の始まり」という意味を持つそうです。この60年に一度の年に、前例にとらわれない新しい発想で、新たなチャレンジに乗り出そうではありませんか。経済産業省一丸となって、あらゆる分野で成長を後押しします。

 皆様のより一層の御理解と御支援を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。