日進工具 新開発センターを竣工! ~生活振動すら寄せ付けない超ハイテク開発センターを見た!~

新開発センター外観

 微細工具で名高い日進工具(社長=後藤弘治氏、本社:東京都品川区)が、同社仙台工場(宮城県黒川郡大和町)隣接地で兼ねてから建設を進めていた「新開発センター」がこのほど竣工した。投資額は13億円。同センターの特長は、免振装置に微小振動対策ダンパーを加えることで、微振動を減衰させる“オールラウンド免震”が採用されていること。この構造が実際に加工を行う工場内で活用するのは、日本でも類を見ないだろう。同社の開発・生産統括を担う後藤隆司副社長にお話しを伺い、稼働する前の新開発センターを見学した。

大震災を経験して気付いたことが新開発センターに生かされた

「建物の中にある大切な設備を守ることを考えた」という後藤副社長
「建物の中にある大切な設備を守ることを考えた」という後藤副社長
 小径工具の製品開発に注力している日進工具といえば、国内生産へのこだわりが挙げられる。2013年に行った取材でこの理由を「円高に負けないことと技術流失を防ぐため」と話していたことを思い出した。常に時流に流されない冷静な目をもって、工具設計、切削試験などによる評価を実施し、製品における高い信頼性を確保している。同社の強みは安定品質。同社独自の生産技術で世界最小エンドミルを生産している。

 ところで、同社の仙台工場といえば、2011年3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震で被害に遭ったが2週間ほどで通常体制に戻ったところ、翌月の4月7日に発生した震度6弱の余震に襲われるという出来事があった。この大きな余震のあとでもわずか10日ほどで全マシンの稼働を開始し、震災後60日でピークの90%以上の生産量を復活させている。なぜ、こんなことができたのかというと、仙台工場を設立する際に、地震対策をしっかり行っていたことが幸いしたのだ。同社は、揺れを感知すると、信号を飛ばして機械を止めるというシステムを採用していた。この効果は見事に力を発揮し、設備が守られたこともあって、早期の復旧が実現したのだ。こうした経験も踏まえ、今ではさらなる地震対策を行っている。

解放感溢れるエントランス
解放感溢れるエントランス
 この開発センターも設計時には、通常の耐震構造を考えていたが、「どうせやるなら免震にしたい。」と考え直したという後藤副社長。

 単純に免震というと、近場を走る車や風の振動も拾ってしまうという側面がある。免震付きといえば高層マンションをイメージするが、人間が感知しづらいものでも、ほんのささいな振動や温度変化を嫌う超精密加工現場となると話は別だ。微細工具を生産している同社としては、なかなか画期的な発想ではないか。

 後藤副社長はこの発想に至った経緯を、「奥村組技術研究所管理棟が免震装置の経年変化を検証していることにあった。」と話した。「奥村組の技術研究所は建物を揺らして研究しているのですが、通常はピタリと動きません。この仕組みを拝見し、これだったら工場自体も耐震&免震ができるのではないか、とぶつけてみたのです。」

常時モニターで管理をしている
常時モニターで管理をしている
 奥村組といえば、免震技術のパイオニアと言わしめるほど、30年以上も前より免震技術の研究を行っており、つくば市にある技術研究所は振動専門の高度な研究開発を行っている。

 後藤副社長の話によると、3.11の大震災で実害を受けたのは建物の中だったという。「建物の外見はまったく問題がなく、機械は止まりましたが動いたり、モノが落下したり、影響があったのは建物の中だった。耐震構造のため、地上から深いところに杭を打っており、その振動が中に影響したのかもしれません。耐震は建物を守ることはできますが、それだけだと建物の中にある大切な設備に影響が出ることに気付いたのです。」

「なんとかできませんか。」とお願いをしつつ、アイデアを出していった後藤副社長。大きな震災を経験しているからこそ、知恵が浮かぶ。日進工具のニーズと奥村組のノウハウを摺り合わせて、このアイデアは形になっていった。そうして出来上がったのが、斬新で画期的な、微振動を減衰させる日進工具新開発センターオリジナルの“オールラウンド免震”である。大地震から微小振動まで様々な揺れに強くカスタマイズされている。

微細加工を行う上で邪魔な微小振動をシャットアウト!

多層のプレート間に粘生体を満たした微小振動対策ダンパー
多層のプレート間に粘生体を満たした微小振動対策ダンパー
 新開発センターの地下にある日進工具オリジナルにカスタマイズされた“オールラウンド免震”のシステムを見学することができた。

 風による振動や交通振動、設備機器などの微小振動を抑えるため、免震装置に加えられた“微小振動対策ダンパー”が、新開発センター内に2基設置してあった。これは、多層のプレート間に粘生体を満たしたもので、粘生体の抵抗力で日常的に発生する揺れを吸収し、精度の高い超硬小径エンドミルの開発に貢献するという。

 揺れを減衰させる機能に優れている“高減衰積層ゴム支承”が10基、変形を元に戻す復元力に優れている“天然ゴム系積層ゴム支承”が8基、滑り板に特殊樹脂製の滑動材を装着した“弾性すべり支承”が6基。弾性すべり支承の役目は、中小地震時には積層ゴムのみが変形し、大地震時には積層ゴムがすべり板の上を滑り、摩擦により地震エネルギーを吸収するという。そして、地震エネルギーを熱エネルギーに変換して揺れを吸収する大きなオイルダンパーがあった。

今後はさらに画期的な集中生産の仕組みが生まれる
今後はさらに画期的な集中生産の仕組みが生まれる
 3.11の時にはダメージを受けつつ早期復旧を実現した同社だったが、設備が動いてしまったことをヒントに、今度は微振動すら寄せ付けない強い仕組みを構築していた。現在、製造現場のトレンドはAIやIoT、ロボットを活用した自動化だが、設備の高度化に伴い、こうした万全かつ画期的な工場が実現すると、「工場のリスク分散をする必要がなくなる。」と後藤副社長。高い精度を誇る微細工具の安定品質のあくなき追求を見ることができた。

 最後に「今は、たくさん売れば良いという時代ではなくなった。ものをつくりあげることをトータルで関係する皆様と一緒に考え、一層、良い方向にもっていくことが、ものづくりそのものを充実させることだと思っています。」と話した後藤副社長。同社の画期的な集中生産の仕組みや、高い品質の維持とともに高効率な稼働による高い経済効果も期待できる。

 なお、同社では、1月29日(水)~30日(木)に「NS TOOLプライベートショー2020」を、パシフィコ横浜・展示ホールCで開催する。(無料・事前登録制)。

↓事前登録はコチラ↓
https://www.ns-tool.com/nstool2020/

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