従来比6倍速で銅コーティング可能な青色半導体レーザー複合加工機を開発 ~NEDO、大阪大学、ヤマザキマザック、島津製作所~

200720マザック1

 NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、高輝度青色半導体レーザーおよび加工技術の開発に取り組んでおり、このほど大阪大学、ヤマザキマザック、島津製作所と共同で、高輝度青色半導体レーザーを活用し、銅を高速・精密にコーティングできるハイブリッド複合加工機を開発した。

 開発した加工機は、200W高輝度青色半導体レーザーを3台装着した600W級マルチビーム加工ヘッドを搭載することで、レーザー集光スポットにおける高いパワー密度が達成でき、ステンレスやアルミニウムなどの金属材料への銅のコーティング速度が従来に比べて6倍以上に向上した。これにより人が接触する金属製の手すり、取っ手やドアノブなどに銅をコーティングすることで、細菌・ウイルスによるリスクを低減する公衆衛生環境の実現や、航空・宇宙・電気自動車などの産業で必要とされる高精度な部品加工への活用も期待ができる。

概要

 青色半導体レーザーは、金属に対する吸収効率が高く、従来の近赤外線レーザーでは困難だった金や銅などの加工に適しているため、金属向け次世代加工機の光源への応用が期待されている。特に、銅素材は、高熱伝導性や高電気伝導性を持つことから、高い精度が要求される航空・宇宙・電気自動車など多くの産業からの活用が期待されている。また、銅あるいは銅合金は、古くから細菌に対して殺菌・抗菌作用、ウイルスに対しては不活化作用があることから細菌やウイルスによるリスクを低減させる有効な方法の一つとして知られており、病院、介護施設、学校、電車などのあらゆる施設で手すりやドアノブなどへの利用が期待され、すでに一部の施設では利用されている。手すりなどの銅製品は、バルク材(素材)からの削り出しや鋳造などで製作されているが、銅材料の使用量が多く、価格も高くつくことから普及には課題があった。これらを解決する方法として、表面や必要な部分だけに銅をコーティングする技術が有効と考えられる。

 NEDOが管理法人を務める内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP1期)革新的設計生産技術/高付加価値設計・製造を実現するレーザーコーティング技術の研究開発(2014年度~2018年度)」(以下「SIP1期レーザーコーティングPJ」)では、大阪大学が中心となり、金属の精密レーザーコーティングを可能とするマルチビーム加工ヘッドを開発した。当初、近赤外線の半導体レーザーを用いていたが、2016年5月、銅の加工に優位性のある青色半導体レーザーをマルチビーム加工ヘッドに6台装着し、ステンレス基板などへの銅の精密レーザーコーティングを実現した。しかし、1台の青色半導体レーザーの出力が20W程度で総出力も100W程度と限られていたため、レーザー集光スポットにおけるパワー密度が低いことによりコーティング速度が低下し、装置としても3次元構造物への十分なコーティング機能がなかった。

 このような背景の中でNEDOは、2016年度から高輝度青色半導体レーザーおよび加工技術の開発に取り組んでおり、大阪大学接合科学研究所の塚本雅裕教授らの研究グループ、ヤマザキマザック、島津製作所は、日亜化学工業と村谷機械製作所の技術協力を受け、2018年10月には、100W高輝度青色半導体レーザーを3台装着した300W級マルチビーム加工ヘッドを開発、このほど200W高輝度青色半導体レーザーを3台装着した600W級マルチビーム加工ヘッドによって複雑な形状の部品などに銅を高速・精密コーティングできるハイブリッド複合加工機を開発した。

 SIP1期レーザーコーティングPJでは100W程度だった総出力が、本事業では600Wに増大したことで、レーザー集光スポットにおける高いパワー密度が達成でき、ステンレスやアルミニウムなどの金属材料への銅のコーティング速度が6倍以上に上がった。今回開発された成果により、人が接触する金属製の手すり、取っ手やドアノブなどに銅をコーティングすることで、細菌・ウイルスによるリスクを低減する公衆衛生環境の実現や、航空・宇宙・電気自動車などの産業に必要とされる高精度な部品加工への活用も期待できる。 

今回の成果

(1)高速・精密コーティングできるハイブリッド複合加工機の特徴
 今回開発した加工機は、3台の200W高輝度青色半導体レーザーから成るマルチビーム加工ヘッドを搭載している。青色半導体レーザーの高輝度化によって鉄系、ニッケル系などの金属に加え、純銅や銅合金などの銅材料を従来よりも6倍以上の高速度でコーティングすることができる。さらにレーザー集光スポットにおけるパワー密度も6倍になったことから、従来困難であった銅の多層コーティングも可能となった。また、同加工ヘッドを一回走査することで得られるコーティング領域の幅の最大値は、従来の400μm程度に対し、1000μm程度まで増大可能であることが明らかとなった。この加工ヘッドを用いると、噴射される銅粉末材料を直接加熱することで母材表面の溶融を必要最小限とし、母材金属の混入が少なくゆがみの小さな精密コーティングが可能。このような性能を有する同加工ヘッドは、直交するX・Y・Zの直線3軸とB・Cの回転2軸を有し、工具回転機能を持つハイブリッド複合加工機に搭載、各軸は同時5軸制御が可能で、複雑な形状の部品に銅をコーティングすることが可能となった。

(2)細菌やウイルスによるリスクを低減する公衆衛生環境実現に向けた応用展開
 具体的なユーザーを想定したレーザーコーティング技術開発については、SIP1期レーザーコーティングPJの参画機関である石川県工業試験場および参画企業である大阪富士工業で同PJ終了後も進められた。それぞれの機関・企業は、NEDOの「高輝度青色半導体レーザー及び加工技術の開発」をもとに製品化した100W高輝度青色半導体レーザーをすでに導入し、銅コーティングのための基礎データベースの構築および銅コーティングした部材開発(図1)を推進している。大阪大学とヤマザキマザックは、今回開発した加工機を用い、石川県工業試験場および大阪富士工業と連携し、想定されるユーザーを見据えドアノブに対し殺菌・抗菌・ウイルス不活化作用のある銅の高速・精密レーザーコーティング(図2)を開始した。 
 

200720マザック2
図1 バー状取っ手へのコーティング 画像提供:大阪富士工業

 同加工機を用いると、既存のステンレスやアルミニウム製の手すり、取っ手だけでなく、複雑形状のドアノブなどにも銅の高速・精密コーティングが容易になる。さらに同加工機は、さまざまな金属粉末にも適用可能で、例えばより高い殺菌・抗菌・ウイルス不活化作用を有する銅合金粉末の開発に合わせて、手すり、取っ手やドアノブなどの金属部品に銅合金コーティングを応用できる。

200720マザック3
図2 ドアノブへのコーティング

 

〈今後の予定〉


 NEDOプロジェクトでは、さらなる青色半導体レーザーの高輝度化を進めており、ヤマザキマザックは、2020年末にはkW級青色半導体レーザーマルチビーム加工ヘッドを搭載することで、10倍以上のコーティング速度を可能とするハイブリッド複合加工機を開発し、2021年の製品化を目指すとしている。
 

moldino_banner

 

JIMTOF2024