【年頭所感】経済産業省 藤木製造産業局長/玉井産業機械課長

「産業構造や社会システムの転換へ」
●経済産業省 製造産業局 局長 藤木俊光

210101藤木局長はじめに

明けましておめでとうございます。令和3年の年頭に当たり、一言御挨拶申し上げます。

 まず、新型コロナウイルス感染症でこれまでにお亡くなりになられた方々の御冥福をお祈り申し上げるとともに、健康面や生活面などで影響を受けておられる方々に、心からお見舞い申し上げます。また、産業界の皆様からは、医療・生活物資の増産など、様々な形で御協力をいただき、改めて感謝申し上げます。

 この感染症の拡大という未曾有の危機を乗り越えるため、私たちは生活様式のみならず、産業構造や社会システムを転換させていかなければなりません。ウィズコロナ・ポストコロナの時代に向け、我が国製造業においては、特に、①「グリーン社会」への転換、②「デジタル化」、③サプライチェーンの再構築をはじめとする「レジリエンス」の強化について重点的に取り組んでいく必要があります。

2050カーボンニュートラルの実現

 まず昨年、我が国は「2050カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言致しました。

 これを実現するためには、エネルギー分野だけでなく、鉄鋼、化学などの産業分野も、革新的なイノベーションを推進し、製造プロセス等を大きく転換させていくことがカギとなります。これを支援するため、昨年は、第3次補正予算案において、重点分野における技術開発・社会実装に向けた取組を10年間に渡り支援する2兆円基金の創設を決定しました。

 環境対応は、もはや経済成長の制約ではなく、新たなビジネスチャンスにつながる成長戦略そのものです。昨年末にお示ししたグリーン成長戦略と、分野ごとの「実行計画」に基づき、産業界の皆様とともに、経済と環境の好循環を実現してまいります。

デジタル社会の実現

 また、デジタル社会の急激な進展への対応も不可欠です。非接触や非対面といった「新たな日常」の実現や、ポストコロナ時代における我が国製造業の国際競争力強化に向けて、この潮流に乗り遅れぬようアクションを起こしていく必要があります。

 例えば、自動車産業においては「CASE」と呼ばれる大変革を迎えており、対応を加速していかなければなりません。様々なプレイヤーが、インターネットを通じた情報と車の接続、自動走行、シェアリングサービス、電動化などを進めるグローバル競争の中で、我が国の自動車産業が競争力を確保することが重要です。また、MaaSの推進により、少子高齢化といった課題にも対応し、地域・高齢者を含めた移動の自由を確保するためのモビリティサービスの実現にも取り組む必要があります。このため、引き続き、関係省庁とも協力しながら、全国各地の自治体で実証実験を行うなど、地域の交通の課題をMaaSで解決する取組を進めてまいります。

 ロボットやドローンを取り巻く環境も大きく変化しています。これまでは、主に工場の生産性向上のためにロボットが導入されてきましたが、コロナ禍を背景とした自動化・省人化・遠隔化のニーズの高まりから、工場のみならず、小売業や物流分野等でのロボットの導入が重要になっています。これを進めるためには、ユーザー側がロボットを導入しやすい環境、いわゆる「ロボットフレンドリー」な環境を構築することが必要です。また、ドローンは、人手不足の課題を抱えるインフラ点検や離島物流、災害への対応などで、急速に利活用が進んでいます。これをさらに後押しすべく、地域と連携した実証を進めるとともに、セキュリティの確保された安全安心なドローンの普及を進めてまいります。さらに、「空飛ぶクルマ」についても、2023年の事業開始、2025年の大阪関西万博での活用を目標に、制度整備や社会実装を進めてまいります。

 さらに、個々の製造現場においても、デジタル化の重要性はますます高まっています。新型コロナウイルス感染症だけでなく、世界各地での地政学的リスクや自然災害等、サプライチェーン寸断を引き起こす不確実性が高まる中、こうした不測の事態に柔軟・迅速に対応するダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)の強化が喫緊の課題です。近い将来、製造業においても5G等の無線通信技術の本格活用が見込まれる中、生産ラインの柔軟性を高めることで、仮に不測の事態が生じた際にも製品の増産や代替生産等を可能とすべく、研究開発をはじめとした取組を進めてまいります。

サプライチェーンの強靱化

 また、今回のコロナ禍では、生産拠点の集中度が高い製品や、国民が健康な生活を行う上で重要な製品などのサプライチェーンの脆弱性が顕在化しました。

 これを踏まえ、サプライチェーン強靭化のため、令和2年度1次補正及び予備費において国内投資促進事業費補助金を約3,000億円措置し、既に約200件の取組の支援を決定しております。これに加えて、第3次補正予算案では、約2,000億円の追加措置を閣議決定致しました。これにより、サプライチェーンの一層の強靭化を進めてまいります。

 さらに、米中対立を背景とした、米国による輸出管理強化の動きや、昨年12月1日に施行された中国の輸出管理法も注視しなければなりません。自社のサプライチェーン上のリスクを把握するなど、海外市場におけるビジネスが阻害されることのないよう万全の備えをお願いいたします。仮にサプライチェーンが不当に分断されるようなことがあれば、経済産業省が前面に立って産業界の皆様をサポートしてまいります。

下請等取引適正化

 また、サプライチェーン全体での取引適正化や、取引条件の改善も重要な課題です。2016年9月に発表した「未来志向型の取引慣行に向けて」に従い、昨年は、型管理問題や働き方改革に伴うしわ寄せ防止などの取組を精力的に進めてまいりました。具体的には、2月に「素形材産業取引適正化委員会」を設置し、「素形材産業取引ガイドライン」の改正案や普及のための対応策などについて議論を行いました。また、5月には「未来を拓くパートナーシップ構築推進会議」において、取引先との新たな連携や望ましい取引習慣を遵守することを宣言する「パートナーシップ構築宣言」の仕組みを導入し、大企業と中小企業の共存共栄の関係を構築することで合意しました。産業界の皆様には、引き続き「パートナーシップ構築宣言」を作成・公表していただけるよう、改めて御協力のほどお願い申し上げます。

 福島

 福島の復興は経済産業省の最重要課題です。昨年9月には「福島イノベーション・コースト構想」の中核となる福島ロボットテストフィールドの開所式が執り行われました。福島ロボットテストフィールドは、ドローンの飛行試験や災害ロボットの実証実験を行える場としてニーズが高く、全施設が供用開始されてから研究棟には福島県内外から20の企業・大学等が入居され、既に260件の実証試験が行われております。福島ロボットテストフィールドが立地する地域は、ロボット産業との関わりが深い、機械加工産業が盛んな地域として知られており、福島ロボットテストフィールドが地域の新たな雇用や地元企業の取引拡大を生み出し、新たな産業を育む拠点となることを期待しています。

通商

 また、昨年、我が国は8年間の交渉を終え、RCEPに署名しました。これにより、世界全体のGDP及び貿易総額の約3割を占める巨大な自由貿易圏が成立することとなります。また、日英EPAにも署名し、英国のEU離脱後、日EU・EPAに代わるものとして、日英間のビジネスの継続性が確保されました。これからも自由貿易の旗手として、自由で公正なルールに基づく国際経済体制を主導する役割を果たしてまいります。

おわりに

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、我が国経済は戦後最大の落ち込みを記録し、「新たな日常」への模索が続くなど、我々は多くの課題に直面しています。こうした中、今年は延長された東京オリンピック・パラリンピックが予定されています。人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証しとして、また東日本大震災から復興しつつある姿を世界に発信する場としてこれが開催できるよう、私自身も皆様とともに全力を尽くしてまいります。

 最後に、産業界の皆様の益々の御発展と、本年が素晴らしい年となることを祈念して、年頭の御挨拶とさせていただきます。

「国際競争力強化にデジタル技術は重要なツール」
経済産業省製造産業局 産業機械課 課長 玉井優子

令和3年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。

 昨年は、新型コロナウイルスが全世界に激震をもたらした一年でした。新型コロナウイルス感染症でお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈り申し上げるとともに、健康面や生活面などで影響を受けておられる方々に、心からお見舞い申し上げます。また、産業界の皆様からは、医療・生活物資の増産など、様々な形で貢献いただいており、改めて敬意を表し、感謝申し上げます。

 この未曾有の危機を乗り越えるため、私たちは、生活様式のみならず、産業構造や社会システムを転換させていかなければなりません。これは大変なことであると同時に、大きなチャンスでもあります。特に、「グリーン社会」への転換、「デジタル化」、サプライチェーンの再構築をはじめとする「レジリエンス」の強化について重点的に取り組んでいく必要があります。

 昨年、我が国は「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言致しました。「グリーン成長戦略」に基づき、洋上風力産業、水素産業、自動車・蓄電池産業などの各分野での取組に加えて、各分野を支える産業機械・装置についても取組を進めていく必要があります。世界でも、先進国を中心に多くの国や地域がカーボンニュートラルの旗を掲げて動き出しています。カーボンニュートラルの実現は、経済成長の制約ではなく、むしろ成長戦略そのものです。あらゆる政策を総動員し、経済と環境の好循環を実現してまいります。

 また、デジタル社会の急激な進展への対応も不可欠です。非接触や非対面といった「新たな日常」の拡大や、地政学的リスクや自然災害等の不確実性の高まりに対応し、我が国製造業の国際競争力を強化する観点からも、デジタル技術は一つの重要なツールです。

 産業機械業界においては、昨年、様々なデジタル技術を活用した動きが見られました。製造現場へのロボット導入やIT活用による工場の自動化や遠隔監視の導入の加速に加え、立ち会いや据え付け業務のオンライン化、遠隔での機械の保守・予防保全サービスの提供、オンライン・ショールームやウェブ展示会の展開など、新たな可能性が拡がりました。

 また、近い将来、製造現場においても、5G等の通信技術の本格活用も見込まれます。生産ラインの柔軟性を高め、仮に不測の事態が生じた場合にも、製品の増産や代替生産等を容易にする可能性が拡大します。これを実現すべく、研究開発をはじめとした取組を進めてまいります。

 さらに、コロナ禍を背景とした自動化・遠隔化へのニーズは、ロボットやドローンを取り巻く環境も大きく変化させています。従来の工場の人手不足や生産性向上に対応したロボット等のデジタル技術の活用のみならず、物流や小売業等でのロボット導入や、インフラ点検や離島物流、災害対応でのドローン活用など、新たな技術の活用の場が拡大しています。より豊かな社会を実現していくためにも、ロボットを導入しやすい環境の構築や、セキュリティの確保されたドローンの普及を進めてまいります。また、「空飛ぶクルマ」についても、2025年の大阪関西万博での活用を目標に、制度整備や社会実装を進めてまいります。

 今回のコロナ禍では、サプライチェーンの脆弱性が顕在化しました。第3次補正予算案で閣議決定された国内投資促進の補助金を活用し、生産拠点の集中度が高い製品などのサプライチェーン強靱化を進めてまいります。

 さらに、米中の技術覇権争いを背景とした米中の輸出管理の動向も注視が必要です。産業界の皆様に、タイムリーに情報を発信してまいりたいと思います。産業界の皆様におかれましては、自社のサプライチェーン上のリスクの把握など、海外市場におけるビジネスが阻害されることのないよう万全の備えをお願いいたします。仮に、サプライチェーンが不当に分断されるようなことがあれば、経済産業省が前面に立って産業界の皆様をサポートしてまいります。

 福島の復興は、継続して経済産業省の最重要課題の一つです。昨年、「福島イノベーション・コースト構想」の中核となる福島ロボットテストフィールドが全面開所致しました。地域の新たな雇用や取引拡大につながり、ロボット産業・ドローン産業を育む拠点となることを期待しております。

 日本の製造業は、急速に変化し続ける環境の中で、複雑で困難な課題に多く直面しています。しかし、それらに果敢に取り組みイノベーションを続けることで、成長を続けられると確信しております。引き続き、皆様の現場の生の声をお伺いし、それを政策に活かしていきたいと考えております。

 本年が、皆様にとって素晴らしい1年となることを祈念いたしまして、新年の御挨拶とさせていただきます。
 

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