【令和4年 年頭所感】経済産業省 藤木俊光 製造産業局長/安田 篤 産業機械課長

「官民一体となった取り組みが必要」
●経済産業省 製造産業局 局長 藤木俊光

220101経産省藤木局長■はじめに
 明けましておめでとうございます。令和4年の年頭に当たり、一言御挨拶申し上げます。

 まず、新型コロナウイルス感染症で健康面や生活面などで影響を受けておられる方々に、心からお見舞い申し上げます。また、産業界の皆様には、テレワークの推進や時差出勤、職域接種によるワクチン接種の加速など、様々な形で御協力をいただき、改めて感謝申し上げます。

 昨年は、先進国を中心にワクチン接種が進み、経済活動の回復の兆しが見えた一方で、東南アジアでロックダウンによるサプライチェーンの混乱が生じるなど、コロナの影響が残る1年でした。こうした中、経済産業省としては、中小・中堅企業の経営支援に全力で取り組むとともに、生産拠点の集中度が高い製品・部素材や国民が健康な生活を営む上で重要な物資の国内生産拠点等整備を促すべく、令和2年度補正予算等において措置した「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」により、これまでの二度の公募で合計約350件、約5,100億円を採択するなど、蓄電池や半導体を含む重要物資のサプライチェーン強靭化を進めてまいりました。

 こうした足下の措置を着実に進める一方で、ポストコロナも見据えた対応も進めていかなければなりません。特に、国際的な脱炭素の流れや人権への関心の高まりなど、サステナビリティに対する認識が強まっているほか、経済安全保障をめぐる国際情勢の変化や、更なるデジタル化の加速など、製造業を巡る環境変化は速度を増しており、官民一体となった取組が必要です。

■2050カーボンニュートラルの実現
 国際的な脱炭素の流れが加速しています。こうした中一昨年、我が国も「2050カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言し、昨年には、2030年度の新たな温室効果ガス削減目標として、2013年度からの46%削減、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けるという新たな方針を示しました。

 これを実現するためには、エネルギー関連分野に留まらず、自動車、航空機、鉄鋼、化学などの様々な産業分野においてチャレンジをしていかなければなりません。そのため、昨年には、「グリーン成長戦略」を具体化し、産業・運輸部門を含む14の重要分野について実行計画を策定しました。

 例えば、自動車分野においては、「2035年までに乗用車の新車販売で電動車100%を実現する」という野心的な目標を設定しました。今後、この目標の実現に向け、充電・水素インフラの整備や購入支援を通じた電動車の普及促進、蓄電池の大規模製造拠点の立地や研究開発の推進、さらにはサプライヤー等の業態転換支援など、総合的に取り組んでまいります。また、電動化だけでなく、水素、e-fuelを含む合成燃料などあらゆる技術の選択肢を追求し、幅広くイノベーションを促してまいります。

 さらに、我が国のCO₂排出量の約1/4を占める鉄鋼、化学などの基礎素材産業分野における脱炭素化推進に向けた研究開発・調査事業等の支援や、水素航空機・電動航空機といった次世代航空機で求められる技術開発の促進など、個別産業分野の脱炭素に向けた取組についても、グリーンイノベーション基金をはじめとしたあらゆる予算措置を活用しながら、強力に推進してまいります。

■人権尊重に向けた取組
 近年、国際社会において人権問題への関心が高まる中、企業による人権尊重に向けた取組がより一層求められております。昨年10月に開催されたG7貿易大臣会合においては、グローバル・サプライチェーンにおいて強制労働が行われないよう取り組んでいくとの共同声明がとりまとめられました。日本企業は、その原料の調達をはじめとするサプライチェーン全体について、自らの事業における人権に関するリスクを特定し、対策を講じる必要に迫られております。

 こうした中、我が国政府においても、一昨年10月には「ビジネスと人権」に関する行動計画を策定し、「人権デュー・ディリジェンス」の導入を期待する旨を表明しました。さらに、製造業における先行的取組として、繊維産業においてサステナブルな取組を促進すべく、昨年、「繊維産業のサステナビリティに関する検討会」を設置し、ビジネスと人権への取組を含む「持続可能性」に関する取組についての報告書をとりまとめました。

 この通り、経済産業省としては、関係省庁や産業界とも連携しながら、企業の人権尊重に向けた取組を引き続き推進してまいります。

■経済安全保障
 昨今、AI・量子といった安全保障上のインパクトを有する新興技術や、それを支える先端半導体等の基盤技術を巡る覇権争いが激化しています。さらに、米中をはじめとする主要国・地域が戦略的物資の確保や重要技術の獲得に向けて、巨額の産業政策を打ち出すなど、経済と安全保障が密接不可分な領域における対応が重要になっています。

 このような状況を踏まえ、我が国としては、経済安全保障政策の大きな方向性として、経済構造の自律性の向上、技術優位性ひいては不可欠性の確保、基本的価値・ルールに基づく国際秩序の維持・強化を掲げ、政府を挙げた対応を進めているところです。経済産業省としては、半導体・重要鉱物などのサプライチェーン強靭化や重要技術基盤の強化、輸出・投資管理による機微技術管理、エネルギーなどの基幹インフラにおける脅威の低減等の取組を進め、我が国の経済安全保障に貢献していきます。

■デジタル社会の実現
 新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、リモートワークといった日常生活におけるデジタル化が浸透したことに加え、行政においてもデジタル庁が設置されるなど、社会全体のデジタル化への取組が進んでおります。こうした中、我が国製造業においても、非接触や非対面といった「新たな日常」への対応、そして新たな付加価値の創出に向けて、より一層デジタル技術を活用していくことが求められています。例えば、既に自動車産業は「CASE」と呼ばれる潮流の中にあり、自動運転やシェアサービスなどデジタル技術を生かした価値創造が進んでいます。

 また、昨今は、製造業のみならず、小売り・サービス分野等でのデジタル化の進展も顕著になっております。例えば、これまで工場への導入が主だったロボットについても、小売業や物流分野等での普及が進んでおり、生産性の向上や省人化につながっています。これをより一層進めるため、経済産業省では、ユーザー側がロボットを導入しやすい環境、いわゆる「ロボットフレンドリー」な環境の構築に向けた研究開発や実証実験に取り組んでおります。その取組の一環として、昨年11月、経済産業省内においても、コンビニエンスストアにバックヤード作業を行うロボットを導入しました。こうした成果も活用しながら、引き続き、更なる環境整備に努めてまいります。

 さらに、ドローンについては、昨年に国土交通省が航空法を改正し、本年中に、第三者上空での目視外飛行、いわゆるレベル4が実現可能になる予定です。経済産業省としても、複数のドローンの同時運航を支えるための運航管理システムの研究開発を実施しており、ドローン運航のための基盤整備を進めているところです。また、セキュリティの確保が求められる政府機関や重要インフラでのドローン活用に向けては、高い安全性や信頼性を確保した安全安心なドローンの開発を推進しており、昨年12月には政府や企業向けに機体販売も開始されました。こうした取組により、インフラ点検や離島物流、そして災害対応など様々な分野でドローンの利活用が進むことを期待しています。

 「空飛ぶクルマ」については、2025年の大阪・関西万博での商用運航開始を目標とし制度整備を進めるとともに、来年度より社会実装に向けた研究開発プロジェクトを開始する予定です。経済産業省としては、こうした取組を通じて、未来の豊かなモビリティ社会を構築してまいります。

■賃上げ・下請等取引適正化
 成長と分配の好循環を生み出す、新しい資本主義を実現していくためには、民間部門による分配の強化が重要です。政府としては、民間企業の賃上げを強力に支援するため、税額控除率を大企業で最大30%、中小企業で最大40%に拡充するなど、思い切った税制措置を講ずることを決定しました。産業界の皆様におかれましても、是非御協力を頂きたいと思います。

 また、取引先も含む多様なステークホルダーへの分配を実現するためには、サプライチェーン全体での取引適正化や、取引条件の改善も重要な課題です。昨年は、9月を価格交渉促進月間と設定し、セミナーや講習会、広報活動などを通じて、発注側企業に対する取引環境の改善に向けた取組の普及・啓発を進めました。

 さらに、各業界団体の皆様には、昨年改正した下請中小企業振興法・振興基準の内容等を踏まえた、自主行動計画の策定・改定を実施いただき、取引適正化に向けた自主的な取組を進めていただきました。加えて、2020年に導入した、企業が取引先との新たな連携や望ましい取引慣行を遵守することを宣言する「パートナーシップ構築宣言」の仕組みにおいては、目標としていた2000社を大きく超える企業の皆様に宣言いただきました。この場を借りて、産業界の皆様の御尽力・御協力に心より感謝申し上げます。

 今後とも、適正価格での取引の実現やサプライチェーン全体での共存共栄関係の構築を目指し、「パートナーシップ構築宣言」の取組の更なる拡大、実効性の向上に向けて、皆様と連携させていただきながら取り組んでまいりたいと思います。

 ■福島
 福島の復興は経済産業省の最重要課題です。一昨年開所した福島ロボットテストフィールドは、「福島イノベーション・コースト構想」の中核となる施設であり、ロボットに加えて、ドローン、空飛ぶクルマといった次世代の空モビリティの研究開発・実証や制度整備等を推進する上で極めて重要な拠点となっています。

 さらに、新型コロナウイルス感染症の影響により延期となっていた「World Robot Summit 2020」を9月に愛知県、そして10月には福島ロボットテストフィールドにて開催いたしました。これはロボットの研究開発及び社会実装を加速するための国際大会であり、福島では3日間で4000名近くの来場者数を記録、盛況のうちに終了いたしました。今後、同大会の成果も活用しつつ、日本のロボット研究開発拠点としての福島の存在感を国内外に発信してまいりたいと考えています。

 また、福島の復興に向け、経済産業省や復興庁では、福島浜通りへの企業立地や福島浜通りでの実用化開発への補助金、税制等の支援策を用意しています。こうした支援策を活用し、新たなロボット、ドローン、空飛ぶクルマ、更にはスマートモビリティの開発などが進んでいます。皆様におかれましても、御活用とともに、福島浜通りへの進出を御検討いただければ幸いです。

■おわりに
 新型コロナウイルスの感染拡大についてはまだまだ注視が必要な状況ではありますが、経済産業省としては、これまでに述べたような様々な施策を総動員し、産業界の皆様とも連携しながら、我が国製造業の成長のために全力を尽くしていく所存です。

 最後に、産業界の皆様の益々の御発展と、本年が素晴らしい年となることを祈念して、年頭の御挨拶とさせていただきます。

「ポストコロナの時代に向けた取組を皆様と進めていく」
●経済産業省 製造産業局産業機械課 課長 安田 篤

220101経産省安田課長 令和4年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。

 昨年は、新型コロナウイルスとの厳しい戦いを余儀なくされた1年でした。新型コロナウイルスにより健康面や生活面などで影響を受けておられる方々に心よりお見舞い申し上げます。足下では、新たに報告されたオミクロン株が多くの国で確認されるなど、新型コロナウイルスとの戦いは続いておりますが、2050年カーボンニュートラル、経済安全保障、人権デュー・ディリジェンスなど、ポストコロナの時代に向けた取組を、引き続き皆様と進めてまいりたいと思います。

 昨年10月には、第6次エネルギー基本計画を閣議決定し、2050年カーボンニュートラル、2030年度の新たな温室効果ガス排出削減目標の実現に向けたエネルギー政策の道筋を示しました。徹底した省エネルギーの推進や、再生可能エネルギーの最大限の導入、非効率石炭火力のフェードアウト、水素・アンモニア、CCUS等を活用した脱炭素型の火力への置き換えを進めるなど、この計画を実行していきます。

 新型コロナウイルスの影響もあり、リモートワーク等日常生活におけるデジタル化が幅広く浸透しました。従来の工場の人手不足や生産性向上に対応したロボット等のデジタル技術の活用のみならず、物流や小売業等でのロボット導入や、インフラ点検や離島物流、災害対応でのドローン活用など、新たな技術の活用の場が拡大しています。昨年11月には、ユーザー側がロボットを導入しやすい環境、いわゆる「ロボットフレンドリー(ロボフレ)」を実現するための取組の一つとして、経済産業省内においても、コンビニエンスストアのバックヤード作業を行うロボットを導入しました。こうした成果も活用しながら、引き続き、更なる環境整備に努めてまいります。

 米中対立の激化や新型コロナウイルスの影響で明らかになったサプライチェーン上の脆弱性に対処するため、重要な生産・技術基盤の強靱化等を通じて、我が国の自律性・技術優位性の確保を強力に進めます。特に、「産業の脳」とも言われる先端半導体の製造拠点の、我が国への立地促進に向けて、「半導体産業基盤緊急強化パッケージ」を打ち出し、他国に匹敵する形で、複数年度にわたる支援の枠組みを構築します。

 サプライチェーン全体での競争力強化を図る上では、企業間の取引適正化も重要な課題です。産業機械業界では、約束手形の利用等廃止も盛り込んだ業種別の自主行動計画の改定に御協力いただきました。この場をお借りして業界の皆様の御尽力に深く感謝を申し上げます。引き続きサプライチェーン全体で付加価値を生み出せるよう、望ましい取引習慣の遵守を宣言する「パートナーシップ構築宣言」の拡大に御協力いただくとともに、取引の適正化に向けて、幅広い業界の方々との議論を深めながら取り組んでまいりたいと思います。

 また、福島の復興は、経済産業省の最重要課題です。経済産業省では、福島県とともに、「福島イノベーション・コースト構想」の中核となる「福島ロボットテストフィールド」を拠点として、ロボットに加えて、ドローン、空飛ぶクルマといった次世代空モビリティの研究開発・実証や制度整備等を推進しております。昨年は、新型コロナウイルスの影響により延期となっていた「World Robot Summit 2020」を9月に愛知、10月に福島ロボットテストフィールドで開催いたしました。引き続き福島をロボットや次世代の空モビリティのイノベーションの中核地とすべく、取り組んでまいります。

 2025年には大阪・関西万博を迎えます。「未来社会の実験場」をコンセプトに、空飛ぶクルマの飛行実現も含めた最新の技術や、その技術を活用した、様々な課題解決の具体的事例を集めて、世界中に発信していきます。日本の、そして、世界の課題解決につながる万博のレガシーを作ることができるよう、政府のみならず、自治体や経済界と一致団結して取り組んでまいります。

 これからも皆様の現場の声をお伺いし、それを産業政策に生かしていきたいと考えております。何かお困りごとや御提案などがございましたら、どうぞお気軽にお声を掛けてください。

 本年が、皆様にとって更なる飛躍の1年となることを祈念いたしまして、新年の御挨拶とさせていただきます。
 

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