【対談】『つくるの先をつくる』日進工具社長 後藤弘治氏×『感性と技術で世界を虜にする』独立時計師 浅岡 肇氏
供給責任を果たすということ
後藤 浅岡さんが「こんな工具があったらいいな。」と思う工具ってありますか。
浅岡 時計の部品は浅彫りのものが多いので、小径工具で刃長の短い首逃げのものが欲しいです。無駄に長いシャンクも不要なので、自分で切断したことがあります。ダイヤモンドのヤスリでゴリゴリと(笑)スイスのメーカーって、よくSwiss Madeと書いてあるけれど、実は工具も機械もスイス製じゃないといけないという決まりがありますが、ひっそり日本製を活用しているという話も・・・・(笑)
後藤 だから設備は見せられないのかもしれませんね(笑)。メーカー側も国内外の販売に関しては、商社とタッグを組んでいますので、エンドユーザーまで追いかけられない点もあるのですが、だからこそ、在庫に関しては即納を意識しています。浅岡さんも工具のオーダーをしたのに翌日に来なかったら不愉快になるでしょう?
浅岡 日進さんは前日頼むと翌日のお昼には到着しますからすごく助かっています。
後藤 本音を言えば、在庫を持つということは大変なことなのです。数字だけ追いかけると〝在庫の罪悪説〟が浮上します。一時、社内でも在庫を持つことについて議論したことがありました。資金がなかったらリスクを回避するため、しょうがないとは思いますが、弊社はキャッシュをしっかり持っています。お客様が買うのはお金ではなく品物です。供給責任を果たすことはメーカーの使命ですから、3.11に起きた大地震の前に在庫をしっかり持つように方針を変えたのです。リスクを恐れていては販売チャンスや信用を失うことにもつながります。災害に直面し、1カ月ほど工場の稼働が止まりましたが、在庫があるので営業ができました。お陰で稼働が止まっても売上が落ちなかったのです。「ほらみろ! だから在庫は必要なんだ。」といって、そこからまた在庫の確保を進めました。今のご時世、天災や地政学リスクなど様々な難場が予測されます。必ず言えることは生産が止まると供給も止まるので、メーカーとして供給責任を果たすということは、しっかり在庫を持つことであり、現在、会社のポリシーとして根付いています。
浅岡 素晴らしいです。日本の製造業で、ここまでしっかりされているとは極めて希有なことだと思います。高級時計は極めて切削比率が高いので、まだまだ切削工具メーカーも拾いきれていないニーズがあると思います。時計業界のニーズを満たすようなツールが出てくることを楽しみにしています。日進さんの工具が優れた工具だということは、使っている僕が良く分かっています。この工具の良さを世界中に認知してもらいたい!
後藤 ありがとうございます。われわれ〝NS―TOOLブランド〟としても機能的にも優れた美術品ともいえる高級時計に携わることは非常に嬉しいことです。今後ともよろしくお願いいたします。