製品ひとつに妥協はない! 一品から量産品までたしかな技術で対応する相和シボリ工業

「“かわさきマイスター”に認定された優秀なシボリ屋さんがいる」――――という噂を聞き付けたのは先月のことだった。金型を自社内で製作し、急ぎの案件も迅速な対応をしてくれる。なにより評価が高いのはその仕事っぷりである。加工材質はSUS、アルミ、鉄、真鍮、銅はもちろんのこと、難削材といわれているモリブデン、インコネル、タンタル、チタンの絞り加工にも対応しており、製品径は10φから1000φまでと幅広い。

横浜スタジアムの照明用反射板も手掛けたという相和シボリ工業(川崎市高津区新作3-3-2)の大浪忠社長を訪ねた。

技術は父から子へ 世代間で継承中!

大浪 忠 社長
大浪 忠 社長
相和シボリ工場はいわゆる家族経営である。父、母、息子で工場を運営している。
中学を卒業してからこの道一筋でやってきた大浪社長が独立したのは21歳の時だった。昭和40年代前半はまさに高度成長期。仕事がたくさんあって断るのも一苦労の時代を過ごした。奥様の美津江さんは、元看護師。美津江さんの兄と同じ職場環境にあった大浪社長と縁があり結婚した。そうして3人の子供が生まれた。工場長の友和さんは3人兄弟の真ん中で、「この子は、幼稚園に通っているときに先生が『将来なんになりたいの』って聞いたら『相和シボリの社長です』って答えたくらいなんですよ」と笑顔の美津江さん。

友和さんは、「物心ついた時から働いている父の姿を見て育ってきました。どんな時も油にまみれて働いている父の姿に憧れがあった。父とともに働いている母は腕を挟まれて骨折してもひとつも愚痴を言わない性格で、極端な話、なんでも“ツバつけてれば治る”と日頃から気合が入っています(笑)。私の中では家族が一緒になって働くことはすでに当たり前であり、父のような大人になるんだ、とずっと思っていました」と話す。

友和 工場長
友和 工場長
相和シボリ工業がある地域は住宅地ではないので騒音を気にせず仕事に没頭できる。両親が仕事で夜遅くまで働いてクタクタになったときも、「ビールが冷えてます。グラスも冷やしてあります」とメモを残していた子供たち。そんなメモを見ては大浪社長も美津枝さんも疲れが吹っ飛んだという。そうして友和さんは成長し、現在工場長として現場で活躍し、技術は父から息子へと世代間で継承している。

「いや~、親父として働いている姿しか見せたことがないってのもねぇ・・・どうだかねぇ」と照れる大浪社長。工場と住居が一体になった町工場の良さは働いている両親の姿を子どもたちが見て育つことだろう。学校では教えてくれない情緒的な教育材料が町工場にはあるのだ。


絞り加工は人間が持つ微細な差異が必要不可欠

美津江さん
美津江さん
昨年日本に大きな爪痕を残した東日本大震災は大浪社長に深い悲しみをもたらせた。石巻出身の大浪社長の実家が流されてしまったのだ。
「現場を見に行きましたが、建物が跡形もなく無くなっていました。兄も亡くなり、身内が多くなくなってしまいました」(大浪社長)

震災で身内を多く亡くしてしまったショックは大きく、落ち込んでいた大浪社長だが、いつまでも落ち込んではいられない。
「生きているわれわれが元気を出さなきゃならないと感じていた昨年11月、『かわさきマイスター』に認定されたんです」と大浪社長。

へら絞り加工とは、回転する金属板にへら棒を押しつけて加工する手法だ。船舶などの燃料タンク部品などを製造している同社では、手絞り加工に必要なへら棒やロールなども最適な状態で加工しやすいよう自社で加工・製作している。切削加工に必要な刃物や金型も自社製品のため、短納期を実現している。

簡単に説明すると、①専用の機械で薄板(アルミやステンレス等)を丸くカットする、②品質のよい加工をするため、不揃いになった端の部分を旋盤にかける、③キレイになった薄板を絞る――。ちょうど工作機械のチャックにあたる部分に丸い金型が装着されており、その金型に薄板をへら棒で押しつけ回転させると、茶碗をつくるためのろくろを彷彿させる動きで加工品が出来あがった。

丸くカットして旋盤にかける

丸い金型に装着した薄板をへら棒を押し付け加工し、できあがり

手絞りの熟練した技術は深い絞りや難形状に対応し、導入している自動絞り機では、安定した品質で量産できるメリットがある。

大きなものも絞ります! 
大きなものも絞ります! 
特筆しなければならないのは、へら絞り機が汎用旋盤を改造して作られていることだろう。機械のベースは汎用旋盤であり、それにへらを支える台を後付けしているのだ。さらに同社の“NCへら絞り機”が、通常のNCマシンと違うことを知った。

通常、NCマシンといえば工具の位置や運動などを数値化し、機械に命令して加工する。すなわちプログラムをして機械を動かして使うものだが、同社のNC絞り機は、最初に人が加工した動きをコンピュータに覚えさせるのだ。コンピュータに熟練の技を持つ職人と同一の動きをとらせる――――ということは、絞り加工が人間の持つ微細な差異を必要し、数値化しにくい加工だからだろう。


設備を強化し、家族の力で生産効率をアップ!

モリブデン加工用の石鹸 乾燥させてから使用する
モリブデン加工用の石鹸 乾燥させてから使用する
さて、町工場をよーく見ると、不思議なモノが転がっていることがある。
この工場の片隅に置かれていたのは石鹸だった。「この石鹸はなんに使うのですか?」と尋ねたところ、「モリブデンを加工するのに石鹸が一番なんです。モリブデンは油で加工すると燃えちゃうからもう大変。この石鹸が熱で溶けるといい具合に加工ができるんです」と大浪社長。愛用の石鹸の種類も決まっているらしいのだが、スーパーでは見かけることはないというなかなかレトロな石鹸である。

独自の手法で製造時間を短縮し、低コスト化を実現している相和シボリ工業。「家族が一緒にいられて幸せです」と美津江さんは言う。昨年は設備を強化し、生産効率をあげ、不良品も激減した。

一品ものから量産まで信頼の技術で応えてくれる力の源は家族にあった。
「家族が頑張って生きて行けばなんとかなる」
この言葉が印象的でした。

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