三井精機工業が工場見学会を開く
三井精機工業(社長=川上博之氏)が去る2月16日から17日の2日間、午前の部(10:00~12:00)、午後の部(13:00~16:00)にて同社本社工場精機棟内(埼玉県比企郡川島町)で工場見学会を開いた。今回は工場内に長尺なストローク(X軸25mm、Y軸1600mm)でありながら、ミクロン台の加工精度を実現した精密大型のジグボーラーに初のクイルヘッドを搭載した『J1625』も見学でき、普段は見ることのできない工場内の様子など、見どころが豊富だった。
Vertexがさらに進化した!
「実際に機械をつくっているところを見て頂いて、三井の機械の良さを納得していただきたい。」と今回の工場見学会について意気込みを話す川上社長。同社では、顧客に安心して工作機械を活用してもらうため、精度規格値を〝5年保証〟としているが、今回の工場見学会は、単にマシンを展示するだけでなく、機械の作り込みの様子を今回見学することができる特別イベントだ。来場者も興味津々の様子。
注目したのは長尺なストロークにもかかわらず、高精度を実現した大型ジグボーラー『J1625』をベースにジグボーラーのクイル主軸を搭載したマシン。同社の精機販売推進室 下村氏は、「クイルをちゃんとつくれば真っ直ぐ動く。ボーリング穴を正確に加工したいお客様の要望です。この機械は米国のお客様に納入されるものです。重量のあるヘッドに比べて軽量なクイル主軸は特にボーリング穴の高精度加工に最適なのです。」と説明してくれた。
人気の『Vertexシリーズ』に今回、研削仕様のものがあった。ガラスを削っているという。クーラントシステムがガラス専用とのこと。さらに今回、Vertexが進化を遂げているという。従来Vertex55および同75の主軸はBT40クラスだったが、チタンをバリバリ削りたいという顧客のニーズを満たすため、『Vertex75X Ⅲ』が今回HSK80にパワーアップしていた。この件について下村氏は、「軽自動車に2000ccのエンジンを載せても車体が付いていかないのと同じで機械も主軸のみ強くしても好ましくないので、スピンドルを支えるヘッドも強化しました。また、これを強化すると重くなるので、ヘッドを支えるコラムの剛性をアップしました。高速で動かす場合は重いと大変なのでできるだけ軽量化して剛性は保つよう設計しています。」と説明してくれた。ちょうどこのマシンが工場内で組立されていた。ここまで改良されたのならば、Vertexに新たなバージョンが出るのではないか? と期待してしまう筆者。
信頼の証がここにある
工場内では顧客のオーバーホール用のマシンを見ることができた。20年もの間、活躍しているねじ研削盤で、5メートルのねじが削れるという。三井精機でつくっている一番長い研削盤だ。長すぎて撮影するのに苦労したほど長い。ベッドだけで13メートルの長さがあるという。
「この13メートルの長さの摺動面の全てをキサゲで出すのです。たとえ真直度13mのものであっても1/100mm以下の精度を出さなければならず、機械でこの精度を出すのはキサゲしかありません。20年もの間、機械を活用しても土台がしっかりしているので、キサゲをしなおして摩耗しているところは取り替えると新品同様になります。」と下村氏。
さらに注目したい点は、5メートルのねじが削れるマシンのねじは7mほどなので、これを精度よくつくるのは非常に難しいことである。1メートルの鉄は1℃温度が違えば1/100mmほど伸び縮みする。ということは、置かれている7mのねじは1℃違えばもう、使いモノにならなくなるということだ。精度を保つためにはねじの真ん中に穴をあけて温度管理をした油を流しているというが、これだけ長いものだと穴をあけるにも技術がものをいう。
下村氏は、「実は、技術的にもっと長いものもつくれるのですが、これが限界です。」という。理由を尋ねると、「輸送の問題で、運べないのです。」と返答があった。なるほど! 日本の道路ではこんなに長いものを運ぶことはできない。
製缶の金型をつくるために活用されているマシンを見ることができた。缶でいうとジグ研で削ってるのは、ステイオンタブ(缶の飲み口)とのこと。指で引っ張ってあけるこの箇所には金型の高い精度が必要になるのだ。ちなみに「ペットボトルのキャップの金型も精度が高い。」と下村氏。プラスチックは熱を加えて成型するが、冷えたときにいびつにならぬよう、いびつさ加減も考慮して金型をつくっているという。
「まっすぐ動く」、「直角に交わる」、「平面が出ている」などの工作機械に求められる基本精度をしっかりとつくり込むことに注力している三井精機工業。今回の工場見学会では、同社の機械精度が長時間安定して保持するためのヒントを知ることができた。高度な品質が要求される分野で高い評価を博しているのもうなずける。