【令和6年 年頭所感】経済産業省製造産業局/産業機械課
「成長と所得向上の好循環をさらに推進」
■経済産業省製造産業局
製造産業局長 伊吹英明
〈はじめに〉
令和6年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。
昨年は、これまで3年間続いた長いコロナ禍が収束に向かい、ポストコロナの社会・経済に活気が戻った一方で、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化や中東紛争の激化など、我が国を取り巻く地政学リスクの厳しさが一段と増した年になりました。
こうした中、日本経済は、これまでのコストカット型のデフレ経済から、持続的な賃上げや活発な投資でけん引する成長型経済への転換局面を迎えています。昨年、国内投資見通しは名目100兆円と、過去最高を更新したほか、実に30年ぶりとなる高水準での賃上げが実現されました。
本年は、こうした成長軌道への変化を一過性のものにしないためにも、更なる投資の活発化と価格転嫁を促すことで、もう一段の賃上げを実現し、成長と所得向上の好循環をさらに進める一年にしたいと思います。
その実現に当たって、政策の重点は、「GX(グリーントランスフォーメーション)」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「経済安全保障」の3軸による投資の促進だと考えています。本年も産業界の皆様と緊密に連携しつつ、この3つを政策軸として、我が国製造業の成長のために全力を尽くしてまいります。
〈GX〉
昨年末のCOP28の成果文書では、「化石燃料からの移行を進める」という文言が盛り込まれるなど、一層の取組強化の必要性が確認されました。脱炭素の世界的な潮流は想像を超えて速く、産業界にも変革を迫る圧力は年々高まっており、官も民も一歩前に出た取組が求められています。
世界各国では、米インフレ削減法やEUグリーンディール産業計画に代表されるように、したたかに自国に投資を誘導する投資促進策を加速させています。我が国は、エネルギー安定供給、産業競争力強化と排出削減の同時実現に向けて、昨年5月に「GX推進法」「GX脱炭素電源法」を成立させ、7月にはGX推進戦略を策定しました。その中では、「成長志向型カーボンプライシング構想」を掲げ、投資促進策と規制・制度の両輪で様々な施策を進めているところです。
特に、排出削減に効果が大きく、我が国産業の競争力強化に資する取組のうち、企業だけで取組むには負担が大きいものには、官も前に出て支援していくこととしています。
既に、脱炭素化に向けた研究開発・実証を支援している「グリーンイノベーション(GI)基金」では、水素還元製鉄技術や、CO2を用いたプラスチック、コンクリートの製造技術等を開発するプロジェクトを進めています。
また、昨年末には、「分野別投資戦略」として鉄鋼、化学、紙パルプ、セメントといった”Hard-to-abate”産業、すなわち製造過程での排出削減が困難なセクターや、自動車、航空機等を含めた16分野でのGX実現に向けた方向性と投資促進策を策定し、今後、プロジェクトの具体化を進めることとしています。
加えて、GXに関する取組のうち生産段階でのコストが大きい戦略分野の投資については、初期投資支援の他に、生産・販売量に応じたインセンティブを受けられる減税措置を新設しました。
GXの実現には、こうした投資促進策だけでなく、規制・制度による取組も重要です。カーボンプライシングにより炭素排出に価格を付け、GX関連製品・事業の付加価値を向上させる取り組みを進めます。また、多くの企業にご参画頂いているGXリーグにおいて、排出量取引を実施していくとともに、グリーン市場創造に向けたルールメイキングを進めております。
また、GXだけでなくサーキュラーエコノミーの実現という観点から、金属、蓄電池材料、繊維などの分野で資源循環の取組も進めてまいります。
こうした施策に基づき、国内にGX市場を確立し、サプライチェーンをGX型に革新するなど、GX実現に向けた取組を政府としても後押ししてまいります。
自動車業界でもカーボンニュートラルの実現が大きな課題となっていますが、足下では「EVシフトの加速」と「中国の台頭」という2つの潮流が状況を大きく変えています。我が国は、EVに加えて水素、合成燃料など「多様な選択肢」によってカーボンニュートラルを実現する方針ですが、その中でも日系メーカーが「EVでも勝てる」競争力を獲得することが重要です。EVにとってコアな技術である蓄電池やモーターをはじめとしたe-Axleの開発や投資への支援、EV等の生産・販売量に応じた減税措置、国内のEV市場の立ち上げに向けた電動車の購入補助や充電インフラの整備など、総合的に取り組んでまいります。
〈経済安全保障〉
GXと並び世界的な課題となっているのが経済安全保障です。資源に制約のある我が国は、従来より米中をはじめとする諸外国と活発な貿易関係を築くことで経済発展を進めてきました。しかしながら、米中の厳しい対峙、コロナ危機、ロシアによるウクライナ侵略など国際情勢が厳しさを増す中で、サプライチェーン上のリスクが顕在化しており、改めて日本の国際的な立ち位置を確認しながら経済安全保障の取り組みを進めなければなりません。
政府としては、特定の国や地域に過度に依存しない、自立性の高い経済構造を実現すると同時に、研究開発強化等による技術・産業競争力の向上や技術流出の防止により優位性を確保するため、産業界との対話・協力の下、あらゆる施策を総動員して取組を進めてまいります。
具体的には、「経済安全保障推進法」に基づき指定した11の「特定重要物資」のうち、製造業の関連では、永久磁石や工作機械・産業用ロボット、航空機の部品、半導体素材などの我が国の生産基盤を支える物資について、安定供給の確保に資する民間企業の設備投資や、これらに不可欠な重要鉱物の備蓄、研究開発の取組を後押ししてまいります。
また、2022年から始まった経済安全保障重要技術育成プログラムを活用し、宇宙・航空、海洋、サイバー等特定の先端的な重要技術について官民による研究開発を推進していきます。
〈DX〉
GXや経済安全保障の課題に対応するに当たり、また、企業の競争力の基盤という意味でも、デジタル化への対応は不可避です。デジタルによる既存のビジネスモデルの変革や、生成AIの登場による付加価値の源泉の変化など、DXによる産業構造の変化を捉え、先を見据えて手を打っていくことが求められています。
政府としては、デジタル社会の基盤を支え、GXや経済安保の観点からも重要な物資である半導体・蓄電池の投資に対して、大胆な政策措置を講じてきました。こうした支援に加え、国民生活や経済社会を支えるデジタル時代の社会インフラ、すなわち、「デジタルライフライン」の整備についても取り組んでいます。移動・物流課題の解決手法とすべく、「レベル4」の自動運転技術を活用したサービスの実現に向け、自動運転タクシー・トラックの社会実装を支援していきます。
さらに、我が国製造業の競争力強化に向けて、DX投資を後押します。DX投資促進税制等の既存の政策に加えて、経営課題に立脚した、自社にとっての最適なものづくりを考えることが必要であるという認識の下、製造事業者のDXの目指すべき姿をお示しできるよう、スマートマニュファクチャリングのガイドラインの策定を進めています。足元の人手不足に悩む中小企業等には、ロボット導入などの省力化支援も進めてまいります。
また、デジタル技術やデータを用いて新たな産業構造における競争力を獲得するため、航空機産業におけるモデルベースシステムズエンジニアリング等の技術を活用した新たな開発手法や、3Dプリンターによる「ものづくり」の変革、自動車産業におけるサプライチェーンデータの連携にも取り組んでいきます。
事業者の皆様には、こうした施策を積極的に御活用いただくとともに、経営や組織のあり方を根底から変えていくような強い意思を持ってデジタル化に取り組み、企業の競争力強化に繋げて頂くことを期待しています。
〈宇宙産業〉
人類初の月面着陸から半世紀余り、かつては国の威信をかけ各国が開発競争を繰り広げた宇宙分野に、2000年代以降、民間企業が相次いで参入しました。今や安全保障上も極めて重要な宇宙分野において、我が国が一定のプレゼンスを確保できるかの分水嶺にいると考えています。
政府としては、これまで研究開発のみを行ってきたJAXAにファンディング機能を持たせるという歴史的な転換を図るべく、昨年の臨時国会において改正JAXA法を成立させるとともに、1兆円規模の「宇宙戦略基金」の設置を決定しました。経済産業省としても、本年、宇宙産業室を「宇宙産業課」として強化し、小型衛星コンステレーションの構築やそれを用いたデータビジネスといった、宇宙分野でのビジネスを強力に後押しする体制を整えるとともに、JAXAとの連携を抜本的に強化してまいります。
我が国には、小型SAR衛星や光通信衛星、宇宙輸送技術などの分野で、世界でも有数の優れた技術を有する企業がいます。こうした技術をビジネスにつなげ、我が国宇宙産業の発展と、宇宙活動の自立性の強化に貢献できるよう取り組んでまいります。
〈おわりに〉
産業界が今直面する課題は、官も民も一歩前に出て取り組まないと解決できないため、国内外で活躍されている産業界の皆様との日々の対話を通じ、将来につながる日本の経済基盤をともに形作っていきたいと考えております。
GX、DX、経済安全保障といった新しい経済の軸に合わせ、成長につながる投資の形や事業分野の中身も変わっていきます。このように、外部環境が大きく変化する時代において、次の世代に世界で勝負できる成長産業を残し、また創っていけるかは、現役世代の我々に懸かっています。こうした覚悟をもって、本年も全力で取り組んでまいります。
最後に、皆様の益々の御発展と、本年が素晴らしい年となることを祈念して、年頭の御挨拶とさせていただきます。
「国内投資の加速と成長力強化に全力を尽くす」
■経済産業省製造産業局産業機械課
産業機械課長 安田 篤
令和6年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。
昨年は、コロナ禍が収束に向かい活気が戻った一方で、国際経済秩序が変化した年でした。こうした新たな経済構造の転換の時期において、産業界の皆様には、高水準の賃上げ実現や国内投資の促進等に、ご尽力いただきましたこと改めて感謝申し上げます。経済界の皆様のご尽力もあり、日本史上最高を更新する国内投資見通し、実に30年ぶりとなる高水準の賃上げの実現など、成長と改革の方向に向かう「潮目の変化」が生じています。経済産業省では、物価高に負けない賃上げを実現できるよう、引き続き賃上げのカギとなる取引適正化・価格転嫁対策の推進や事業再構築への支援、省力化や生産性向上の取組、中堅企業の大規模投資支援等を通じた、国内投資の加速と成長力強化に全力を尽くしてまいります。
産業界では物価高やエネルギー高の影響で様々な課題に直面していると存じます。経済産業省では、足元のエネルギー高への対策として、燃料油価格、電気・ガス料金にかかる激変緩和措置を本年春まで継続するとともに、省エネ型の経済・社会構造への転換を実現すべく、企業・家庭向けの支援を実施します。そして、昨年に続きGXやDXも進めていきます。GXについては、昨年末に、エネルギー分野、くらし分野、産業分野それぞれにおいて分野別投資戦略を取りまとめました。これら各分野の戦略に基づき、20兆円規模のGX経済移行債を活用した投資促進策を実行していきます。DXについては、DXを実現した設備導入だけでなく、DXに資する人材の育成の支援も行ってまいります。
また、産業界の皆様には、本年4月から適用されるトラックドライバーの時間外労働上限規制等により、輸送力の不足が懸念される「物流の2024年問題」の解決に向け、対策を講じていただいております。深刻な人手不足の中、産業界における物流の適正化や生産性向上のため、荷主企業の物流施設の自動化、機械化などに向けた支援策等を進めてまいります。
1年後に迫った大阪・関西万博では、ポストコロナの新たな世界、次世代技術・社会システムが形作る未来社会の風景観を示し、我が国のイノベーションの可能性を世界に発信していきます。経済産業省として、世界中から来訪する様々な人達が刺激を与え合えるような万博にできるよう、準備に邁進してまいります。是非、産業界の皆様にも「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマに沿って一緒に盛り上げていただければ幸いです。
我が国を取り巻く外的環境は日に日に厳しさを増しています。今後の経済成長の鍵となる戦略分野については国内投資、研究開発、人材育成等への支援にさらに力を入れ、安定的な供給に向けた取組を進めていきます。そして、経済安全保障に関する産業・技術基盤に影響が及ぶ脅威やリスクをいち早く捉えるために「経済安全保障に関する産業技術基盤強化アクションプラン」にまとめておりますように、産業界の皆様との戦略的対話を行って参りたいと存じます。また、イノベーションを支えるスタートアップのグローバル展開や人材育成等に対し幅広い支援を行うとともに、G7広島サミットで合意された、グローバルサウスとの連携強化の推進も進めてまいります。
昨年12月には、「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想の下での初のAZEC首脳会合を開催いたしました。経済産業省からMOU等の協力について報告を行ったところですが、引き続き官民連携してエネルギートランジションを進めていきたいと思いますので、ご協力のほどよろしくお願いいたします。
こうした経済成長のチャンスを逃さぬよう、流動的な経済構造の変化を捉え、自由で公平な通商・貿易環境の構築、新たなイノベーションモデルを支える基盤の整備、加えて、日本経済の土台となる投資への支援等に重点を置いて政策を推進することで、日本経済の更なる成長に貢献してまいります。
結びになりますが、本年が、皆様方にとって更なる飛躍の1年となりますよう祈念いたしまして、新年の挨拶とさせていただきます。