機械振興協会「第58回(令和5年度)機械振興賞受賞者」決まる
機械振興協会(会長 釡 和明 氏)が、このほど令和5年度の機械振興賞の受賞者を決定したと発表した。今年度は26件(大企業12件/中小企業4件/小規模事業者6件/支援事業4件)の応募の中から、研究開発では、経済産業大臣賞1件、中小企業庁長官賞1件、機械振興協会会長賞4件、審査委員長特別賞1件、奨励賞1件、支援事業では、中小企業基盤整備機構理事長賞1件、奨励賞2件を表彰する。表彰式は令和6年2月16日(金)、東京プリンスホテル マグノリアホールにて行う。
機械振興賞の表彰対象は、研究開発では、独創性、革新性及び経済性に優れた機械工業技術に係る研究開発及びその成果の実用化により新製品の製造、製品の品質・性能の改善または生産の合理化に顕著な業績をあげたと認められる企業等及び研究開発担当者、支援事業では、支援効果及び継続性に優れた支援事業により、機械産業技術に関わる中小企業が優れた成果を上げたと認められる支援機関及び支援担当者。第58回機械振興賞は、機械振興賞審査委員会(委員長 中島 尚正 東京大学 名誉教授)において厳正な審査の上、決定した。
経済産業大臣賞
「安心降車アシスト(ドアオープン制御付き)システムの開発」
●トヨタ自動車(推薦:日本自動車工業会)
【選定理由】日本での停車中の四輪車事故の約半数は、ドア開けに起因するものであり、これまでにも後方からの自転車等の接近をブザーや光等で警告するものや、ごく短時間だけドアが開かないようにするものは存在した。しかし、接近を感知するセンサーが自動車などを対象としたもので、人や自転車などでは感度が低く、検出位置精度も良くなかった。また、ドアを開けるのはドライバーだけではなく、同乗する子供が警報音の意味を知らずに開けてしまうこともあり、事故防止には不十分であった。本業績では、世界中の降車シーンを63パターンに分類し、安全が確認されるまでドアをロックするようにしている。また、接近する自転車が十分に離れた場所を通過するにもかかわらず、ドアが開かずに閉じ込められてしまうことも防いでいる。さらに、将来的には同社の他の車種への導入が検討されている点を高く評価した。
中小企業庁長官賞
「プラズマによる自己組織化単分子表面改質技術と装置の開発」
●魁半導体(推薦:関西文化学術研究都市推進機構 新産業創出交流センター)
【選定理由】物体表面を親水化や撥水化、親油化、撥油化することを可能とする、プラズマを用いた自己組織化単分子膜を形成する技術を開発した。撥水技術では、スポイトなどで薬液を計量する際、スポイトへの液滴の回り込みを防ぐことができ、液滴の微細化や分量の安定化が図れ、撥水処理面のはく離なども無いことから、液滴の高純度化が実現できる。また、溶媒や触媒を使用せず、乾式で加工できることから、残留不純物の心配がなく、食品や化粧品、医薬品など広範な用途に採用可能である。さらに、単分子膜の組成などを細かくコントロールすることにより、ユーザの要望に応じて付加価値の高い様々な対応ができる点を高く評価した。
「機械振興協会会長賞」 (企業名 50音順)
「バー材とビレット材の両方を使用できる熱間フォーマー」
●阪村ホットアート(推薦:日本鍛圧機械工業会)
【選定理由】横型の鍛造機は、金型面が縦方向になることから、直接、金型面に水をかけても水はけに問題が出にくく金型の冷却が早い。また、プレス動作に連動して材料の棒材を必要な長さに切断しながら加工することができ、縦型の鍛造機と比べて大幅な高速化が可能である。しかし、材料の切断時に発生するバリが製品の鍛造面に傷を付けることがあり、歯車の様に鍛造面を残す部品には、不向きであった。本業績では、従来の棒材の予熱・供給装置に加え、切断済み材料(ビレット材)を予熱しながら同期供給する装置を別方向に設けることで、世界で初めて両対応とした点を評価した。
「油中の粒子と気泡を瞬時に識別する世界初の設備診断センサの開発」
●トライボテックス(推薦:大府商工会議所)
【選定理由】発電所の発電機などの大型回転機器は、ベアリングの劣化を直接確認することが難しく、発電機を停止することも困難である。そのため、機器から採取した潤滑油に含まれる金属微粒子の濃度を測定することで、潤滑状態の良否を判断している。しかし、潤滑油にはビールの泡のような気泡が大量に含まれており、消泡するまでの時間も掛かるため、迅速な金属微粒子の識別が困難であった。本業績では気泡の対称性を利用して水平な帯状のレーザ光を気泡に照射し、レーザ光が左右に均等に反射するものを気泡とし、均等に反射しないものを金属片とすることで識別を可能とした。この技術により簡便かつ遠隔からのベアリング劣化監視を実現した点を評価した。
「長尺アルミクラッチドラムの塑性加工化技術の開発」
●マツダ
【選定理由】FR車の車内にはセンタートンネルが設置されることが多く、運転者の足元を狭くし、理想的な運転姿勢を取りにくくしている。FR車のセンタートンネル内には、ミッションとクラッチが設置されているため、これらを小径化する必要があった。本業績では、センタートンネル内に設置されているクラッチドラムを、鉄やアルミ鋳造品からアルミ塑性加工品にすることで、軽量化および小径化し、センタートンネルを小径化するとともにイナーシャーを低減している。さらに、新たに開発した転造ローラーを用いることで、塑性変形時のアルミの流動を制御してスプリングバックを抑制した点を評価した。
「船速に依存せず正確に方位制御可能な操船システムの開発」
●三菱電機/ヤマハ発動機
【選定理由】船外機メーカーは、自社の船外機がどのようなボートに、何台取り付けられるかわからないため、自動操舵システムを組み込むためには、ボートや取り付けられる船外機の数に応じて制御装置を調整する必要があった。本業績では船外機が取り付けられる代表的な4種類のボートと船外機のセットに対し、周波数応答を解析して独自の制御理論を確立している。同制御理論ではボートの方位運動に関わる制御特性は船速に依存し、ボートの違いや船外機の数による差が小さいことを見出し、どのようなボートに取り付けても初期調整不要の自動操舵システムを実現した点を評価した。
審査委員長特別賞
「自動化と接合品質を追求したフープ材供給装置」
●ムラタ溶研(推薦:ネオマテリアル研究会)
【選定理由】半導体用のリードフレームを加工するプレス加工機は、高速化が非常に進んでいる一方、材料となる薄板材(フープ材)のロール交換には、プレス加工機へのフープ材の通し直しが必要となり、14~29分程度の交換時間と13mほどの材料ロスが生じていた。同社の従来型の手動フープウェルダーを使用すると、材料の通し直し無しで先行材料に新しい材料を突合せ溶接して、材料ロスを20cm程度まで少なくできるものの、停止時間は1分程度掛かっていた。本業績では、熟練が必要となる材料の切断や突合せ溶接工程を自動化し、プレス機停止時間を約15秒と大幅に短縮した点を評価した。
「奨励賞」
「内外径研削を可能としたシューセンタレス加工機」
●トーヨーエイテック(推薦:日本工作機械工業会)
【選定理由】ベアリングの内外径研削では、シューセンタレスという外径基準で加工物を回転させながら、内外径とも研削する方法が用いられている。この際、基準となるシューへの押し付け力は、シューに沿って回転する加工物の中心と、加工物を回転させるための主軸中心とのオフセット量で発生させている。しかし、加工物の回転方向が内外径の加工で異なり、オフセット方向も内外径で異なるため、従来は別々の研削盤で行っていた。本業績では、NCでオフセット量を制御可能な独自のオフセット機構を開発し、1台の研削盤で内外径を連続して加工できるようにした点を評価した。
支援事業
〈中小企業基盤整備機構理事長賞〉
「石川県の次世代産業の一翼を担う炭素繊維複合材料への支援活動」
●石川県産業創出支援機構
【選定理由】炭素繊維産業は、大手メーカーが素材メーカーから素材を仕入れ、社内で繊維の積層や成形を行い、後工程で塗装などを行って完成させている。そのため、多岐にわたる中間工程を社内で行える体制を整えなくてはならず、効率的な生産を難しくしていた。本業績では、多岐にわたる中間工程を石川県内の企業が得意分野を活かして請け負うクラスターを構成するとともに、全国から炭素繊維分野の産学官のトップランナーを招聘して、連携して課題解決に取り組む体制を整えている。また、県内に本店がある金融機関とも連携し、国内最大規模の産業創造ファンドを創設し、多くの成果を出している点を高く評価した。
奨励賞
「公設試験研究機関における新ビジネス創出支援の取組み」
●茨城県産業技術イノベーションセンター
【選定理由】県内の新事業創出を支援するため、試験研究機関の技術職員が、ビジネスモデルなどコンサルティングの学習をしながら、外部のコンサルティングの専門家を統括プロデューサに招いて、ビジネス支援のノウハウを実務を通して習得している。また、職員の交代により個々の企業の支援体制に切れ目が生じないよう、支援活動をシステム化して組織で行い、継続的な伴走支援を実現している。さらに、ビジネス研修を受けた企業のうち約3割が製品化を行っている点も評価した。
「産学コーディネータの伴走支援を核とする中小企業の研究開発支援」
●福岡県産業・科学技術振興財団(推薦:福岡県工業技術センター 機械電子研究所)
【選定理由】県内企業からの依頼を受け、県内の経験豊富な産学コーディネータを派遣するとともに、異業種他社や大学、試験機関等を紹介して最適な研究パートナーのマッチング支援を行っている。また、コーディネート会議を年5回開催し、産学コーディネータ同士のノウハウの共有を図るとともに、スキルアップに努めている。さらに、研究開発プロジェクトの「芽出し」から立ち上げ、可能性調査を経て、実用化研究に至るまでの各ステップにおいて適切なサポートを行うことで、公募型研究開発事業を毎年20件前後を獲得している点を評価した。