「ロボット政策最前線」 経済産業省 石曽根ロボット政策室長に聞く
機械振興会館記者クラブが主催する「秋の共同取材」が昨年11月24日、東京都港区内の同クラブにて開かれ、経済産業省製造産業局産業機械課ロボット政策室室長の石曽根智昭氏を招いてお話を伺った。
今回のテーマは「ロボット政策の最前線を探る」。近年、少子高齢化や労働人口の減少からロボットを利活用する動きが加速していることを背景に、経済産業省では、ロボットによる社会変革推進計画を立てて2019年から①技術開発 ②人材育成 ③普及導入の促進 ④オープンイノベーションの4つの柱で事業を実施している。
ロボットが活躍する時代が到来
―ロボット政策と取り組みについて。
石曽根 ロボット政策について2019年にロボットによる社会変革推進計画を立てて「技術開発」「普及導入の促進」「人材育成」「オープンイノベーション」の4つの柱で事業を実施している。まず技術開発については、ロボットが普及しやすい技術を開発していくためにロボットメーカー各社にご協力いただいて技術研究組合『ROBOCIP』による研究開発を推進している。また、ロボットが普及しやすい環境を整備するため「ロボットフレンドリー」な環境の整備を進めている。
―具体的にはどういった取り組みか。
石曽根 ロボットメーカー各社に共通する技術課題を共同で解決することでロボット開発コストをどう抑えていくのかという観点から研究を進めている。また、ロボットの普及や導入促進については、ロボットフレンドリーな環境をつくる目的で施設や商業用複合ビルの中において配送ロボット、警備ロボット、清掃ロボットなど様々なロボットがフロアを超えて活躍できるような環境整備をしていくための規格作りを行っている。フロアをまたいで動くことになるので、エレベータと連携させることも必要になる。すでに存在しているビル自体が必ずしもロボットフレンドリーな構造となっていないところもあり、ロボット同士がしっかり運行できるルールを現在整備している。また、食品産業にもロボット化が必要であり、例えば弁当や惣菜の盛り付けについて、日本惣菜協会と一緒にロボット化が難しいとされていたポテトサラダなどの形のない食材をきちんと盛り付けられるロボットを開発し実装を後押ししている。
―実際に使われているか。
石曽根 昨年は成果としてスーパーのマックスバリュ東海の惣菜工場に実際に導入してきた。開発されたロボットは改良しながら他のスーパーにも入り始めている。非常にニーズの高いところにロボットが活躍し始めていると感じている。
―大手の物流・配送はすでにロボット化が始まっている。
石曽根 大手の倉庫ばかりではなく、中小企業の倉庫においてもロボットが活用されることが必要。倉庫内の制御システムとロボットの通信システムが連携できるよう検討している。また、コンビニなどの人手が不足している小売りの現場においても、ロボットによる商品の陳列や在庫管理ができる環境の整備も進めている。小売りの現場には様々なサイズの豊富な商品があるため、ロボットが容易に取り扱うことができるよう商品画像のデータベース化にも注力している。
―人材育成について。
石曽根 ロボットメーカーやSIerの協力を頂き、高専、工業高校、職業訓練施設のポリテクにも参加してもらい『CHERSI』の名称で取り組みを実施している。高専や工業高校の学生や生徒にロボットに関心持ってもらい、教育現場においてロボット教育を広めていくことが必要である。どのような教育をしたら学生や生徒に必要なロボットの知識を持っていただけるのか、ロボット教育に熱心な学校や先生と連携しながら教育プログラムを固めているところだ。
―技術を披露するオープンイノベーションについて。
石曽根 コロナの関係もあって2020年に予定していた『WRS(World Robot Summit)』を2021年に開催し、成功裏に第1回を終えることができた。第2回は2025年に向けて開催できないか検討している。国内外多くのチームに参加していただき、様々な技術を披露して頂く場になれば嬉しい。
キーワードは素早く市場投入すること
―ロボットを操作するための教育の必要性を感じた。
石曽根 ロボットを普及させていくため教育は喫緊の課題だ。地方都市は多くのものづくり企業を育んできた。地方の人材を確保しないと、ものづくりが成り立たない。我が国のものづくりを支えるため地元で就職ができる環境をつくっていく必要があると強く感じている。ロボットメーカーやSIerにより、ティーチレスの技術や遠隔操作の分野において新しい技術が開発され、文系の学生でも対応できるのではないかという思いがある。ものづくりは理系の仕事とのイメージも強いが、文系の学生であっても、ものづくりの現場に参加してもらえる環境の整備も今後の課題であると考えている。
―産業ロボットについて。
石曽根 現在、外国製のロボットによる追い上げが厳しくなってきていると感じているが、この分野は世界に対して日本がアドバンテージを持っている。アドバンテージを持っているからこそ、これまでとは全く異なる競争軸で勝負をすることができると考えている。そのためにはユーザーニーズに高いレベルで応えていく必要があり、新しいロボットのあり方も活発に検討できるような仕組みを作っていきたい。
―労働人口の減少で自動化・省力化のニーズが増加している。
石曽根 中小企業については、新卒者が採用できないといった声が数多く聞かれ、今までは様々な現場で外国人が活躍してきた。地域の中小企業からは、外国人材は非常に優秀で、貴重な戦力として高く評価する声を数多く聞いてきた。最近は円安の進行など、外国人材にとっては日本に来る旨味が少なくなってきていることが懸念され、人手不足は地域の中小企業にとって引き続きの重大な課題となっている。人材不足であっても持続可能な経営をしてもらうために、ロボットを始めとする自動機を導入してもらうことが重要だと考えている。ものづくり補助金の拡充はもちろん、カタログ型対策も揃えている。カタログ型というのは、省力化効果が期待できる製品を中小企業庁に登録していただき、その製品を購入するのであれば一定程度補助するというもの。どの程度の省力化効果を求めるのかを中小企業庁と産業機械課で検討している。
―カタログ型に自分たちの製品を申請する仕組みはロボット工業会と連携されるものか。
石曽根 しっかり省力化が認められないといけないので実績は必要になると考えている。中小企業の省力化のニーズに的確に応えられる機器であることが必要であり、省力化効果に加えて、動作も保証されているのか見ていく必要もあると考えている。詳細の制度設計については、業界団体とも調整しながら実行していきたい。先進国は軒並み少子高齢化が進んでいる。サービスロボットについては、諸外国の開発速度は極めて早い。開発競争で後れをとらぬよう、新たに開発されたロボットを素早く市場に投入することも必要である。導入支援により省力化ニーズが顕在化することから、こうしたニーズにいち早く応えられるような製品開発が進むことを期待するとともに、支援のあり方についても検討してまいりたい。
―ありがとうございました。