【レポート】三井精機工業「工場見学会2024」で省エネトレンドを発見
三井精機工業(社長=川上博之氏 本社:埼玉県比企郡川島町八幡)が、2月8日~9日の2日間、同社本社工場精機棟内で「工場見学会2024」を開いた。プレシジョンセンタ「PJ303X」、プレシジョン・プロファイル・センタ「PJ812」、5軸制御立形マシニングセンタ「Vertex55X Ⅲ」、インバータコンプレッサ「ZV22AX3-R」などが展示され、工場内に足を入れるとレアなマシンがズラリと並ぶ壮観な眺めがあった。川上社長は「お客様に機械作りを間近で見て頂くことで、弊社が一台一台丁寧に機械を作っている理由がお分かりになると思います。」とコメントしており、同社の精度へのこだわりを来場者に見せつけた。
「工場見学会2024」をレポートする。
これぞ三井精機ならでは! コンプレッサ×工作機械のタッグで省エネ
まずは受付を済まし、展示会場へ。ここでは同社の一押し製品がズラリと並んでいる。近年、製造業は循環型社会への実現に向けて関連性も深いこともあり、省エネへの改善努力も必要とされるようになった。
今回、注目すべきはコンプレッサを製造している同社の強みを活かした省エネの提案を行っていたことだ。工作機械とコンプレッサの〝一体型製品〟の開発が展開されていたのだ。
コンプレッサの小型分散化、低圧化への対応を可能にした提案である。工作機械の加工プログラムを読み込み使用状況に応じたエアー最適制御ができるという。
コンプレッサ側は低圧圧力化すると省エネになるが、エアーを使用している工作機械側は単に低圧化してしまうと、エアーブローなど大量にエアーを使用するときにエアーダウンを起こしてアラームが鳴るという課題があったが、これを解決するため、同社ではコンプレッサ部隊と工作機械部隊とタッグを組んで解決法を導き出したという。
工作機械のプログラムでエアーを使用する前に工作機械からコンプレッサに指令を出し、指令を受けてからコンプレッサ側から圧力を上げれば全体的には低圧化して省エネを図るという仕組みである。この工作機械とコンプレッサのコラボレーションで、コンプレッサはインバータによる省エネで約28%(電力)、大型集中から小型分散化で約5%(電力)、工作機械は、エラー消費量低減による省エネ約15%(電力)、工作機械に合わせたコンプレッサの運転最適化と隣接設置での圧力損失低減による省エネ約7%(電力)でカーボンニュートラルに貢献できる。なお、電力はコンプレッサ、工作機械の稼働状況により効果数値は変化する。
同社では、省エネ提案チームを設置しており、顧客規模に応じた最適な空気圧量(圧)について配管を含めた総合的な提案ができるサービスを提供している点も強みであった。
えっ!? マニアックな旋盤に注目!
今回、旋盤メーカーではない同社が、旋盤をつくっていたことには驚いた。ちょうど出荷直前なのでカバーも外されていた。この件について、精機販売推進室の下村氏は、「お客様のご要望により旋盤をつくりました。海外のお客様ですが、もう40年ほど同じ機械を使って部品を加工しており、この機械に替わる機械が世の中にはもうないらしく、一般の旋盤ではやっぱり駄目だと。旋盤なので旋盤メーカーに作って頂いても良いとは思うのですが、そのお客様は、弊社の精度に惚れ込んだようで、強い要望がありました。機械は、超高精度マシニングセンタ『Jidic』シリーズのベッドをそのまま使い、エアーベアリングの主軸を搭載しています。おそらくこのようなマニアックな機械はないと思います。お客様のニーズを満たしたこの機械は、すでに複数台の注文を頂いているんですよ。」と話した。X、Z軸摺動面はV-Fきさげ+精密ローラでできている。「とにかくものすごい精度を要求しているので、真直度など、極限まで追い込んでいる。」と説明をしてくれた。
同社は測定器からスタートし、位置決めの基準となる親ねじやスタンダード・スケールなど多くの〝基準〟を生産してきた歴史を持つことから、顧客のニーズに合わせた高精度工作機械を生産することが可能なことがよく分かる逸話である。
ところで、きさげといえば、同社の強みのひとつだが、工場内ではキサゲ作業も見学することができた。この作業はセンスを必要とするので、訓練すれば誰もができる作業ではない、難しい作業であるが、若者も多く活躍し、しっかり技能が伝承されている。
工場内は秘密が多いため撮影が限られているが、歩いていると、完成して納入直前の最終チェックをしているジグ研削盤「J350G」があった。この顧客も要求精度が非常に高いと聞いた。
さて、同社の精機棟はマザーマシンを生み出す恒温組立工場でもある。徹底した温度管理について、営業部の宮脇氏は、「二重構造の天井には穴がたくさんあいており、天井から床面に向けて大量の空調空気を送るために極めて温度の安定性が高いのが特長です。」と説明してくれた。
航空機が復活の兆し ~将来大きな市場に化けそうな電動飛行機体にも注目~
ところで工作機械の販売・開発状況をみれば産業のトレンドが見えてくるものだが、航空機産業は、一時、コロナ禍の影響を受け暗い影を落としていたものの、年率3~4%で旅客需要の増加が見込まれており、伸びしろが期待されている分野だ。
下村氏は、「アメリカのブーム・スーパーソニック社が開発中の超音速旅客機の商談を開始しました。具体的には2024年に生産を開始、2030年の就航を予定しています。2003年にコンコルドが退役しましたが、超音速旅客機は燃費が悪くて騒音も激しい。飛行機が音速を超えるときは空気の壁を突き破って衝撃波が出るのですが、それがものすごい音で非常に不評だったのです。ですが、現在、技術の進歩により機体の形状など見直されてきました。ブーム社には日本航空が1000万ドルを出資し、優先発注権を20機確保しています。」と最新トレンドを教えてくれた。
近年、垂直に離着陸ができる電動の飛行機体〝eVTOL〟(Electronic Vertical Take-Off and Landing aircraft)についても、「空飛ぶクルマ」や「エアタクシー」として認知されているが、下村氏は、「2025年に開催の大阪・関西万博でもエアタクシーとして運用を予定しており、将来大きな市場に成長する可能性もあります。」とし、「現在航空機分野でもカーボン・ニュートラル実現に向け、燃費の良い機体の導入や将来的な省燃費機材への更新が見込まれています。エアバスは2035年までに水素を電力源とする民間機の実証機を飛ばすとしており、いずれもハイブリッド電動推進システムの導入が考えられています。ボーイングはNASAとの共同開発を行っており、2028年に試験飛行をするとしています。」と航空機産業の伸びしろに期待している旨を話した。もちろんこうした分野に同社のマシン群が活躍するとして期待がかかる。
なお、同社では「三井精機のものづくり」について動画を配信している。