中部最大の産ロボ展に4.6万人が来場 240超の企業・団体が出展、最新技術を愛知で披露
産業用ロボットの展示会「ロボットテクノロジージャパン2024」が7月4日から6日までの3日間、愛知県常滑市の愛知県国際展示場で開催された。開催は2022年に次ぐ2度目で、前回から2割増の240を超える企業や団体が出展し、国内外から4万6,000人が来場した。産業用ロボットの展示会としては中部地区最大で、東京で隔年開催される国際ロボット展に次ぐ規模。製造業や物流の現場で人手不足が課題となるなか、各社が省人化につながるロボットや周辺機器を披露した。(文・写真=是州煩太)
ロボット各社が最新技術を披露
展示会には産業用ロボットメーカー各社の展示のほか、ロボットのシステム構築などを担うシステムインテグレーター(SIer)のブースや、自動化システムを構成する機器、ソフトウェアなどが出展された。ロボットメーカーの“東の雄”ファナックは年内に発売予定の塗装現場で使用する世界初の防爆協働ロボットを目玉に据え、来場者の注目を集めた。対する“西の雄”安川電機は生産現場の複数のロボットが作業に応じて場所や作業内容を変えながら、製品を組み立てる自動化コンセプト「i³(アイキューブ)メカトロニクス」の実演に人だかりができた。
ヤマハのブースではロボットはもちろん、モビリティーメーカーとしての本領を発揮し、自動運転技術を持つティアフォーとの合弁会社イヴ・オートノミーが開発した自動搬送サービス「eve auto」を出展して実際に走行させた。工場の敷地内を自動運転で資材などを無人搬送できる。デンソーウェーブは、工場で使われる「通い箱」にカンバンを挿入するデモを披露。特許出願中のロボットハンドで通い箱を搬送し、その通い箱のカンバンを差し替え、上ぶたをかぶせる作業を協働ロボット「COBOTTA PRO」1台で担う。Mujinは工場内の物流業務をテーマにシステムを展示した。
工作機械各社は現場想定の実演
ロボットテクノロジージャパンは生産現場や物流拠点の自動化や省人化をテーマ掲げており、工作機械メーカーの大規模な出展が目を引く。DMG森精機は自律走行ロボット「WH-AMR10」を出展。変種変量生産への対応や、既存の工場や設備への対応をアピールした。
ヤマザキマザックは協働ロボットセル「Ez LOADER 30」と複合加工機「INTEGREX i-200H S」と組み合わせ、多品種少量生産向けの自動化ソリューションを提案し、径が違う大小2種類のワークの加工を実演した。自社製コントローラー「MAZATROL」からロボットの動作設定ができるソフトウェア「イージーローダー アプリケーション」の使い勝手も来場者に訴えた。オークマは5軸制御立型マシニングセンタ(MC)「mu-500VⅢ」と移動式協働ロボット「omr20」と組み合わせ、工程集約とフレキシブルに対応できる自動化システムを実演した。omr20はプログラミングが不要で必要な時に最大10台まで加工機を自動化できる。幅広いワークに対応したストッカーを採用したのも特徴だ。
牧野フライス製作所は5軸制御立形MC「DA300」と同社エディションのツールプリセッターとの間を製造支援モバイルロボット「iAssist」が行き来し、ツールやワークの交換を実演した。またiAssistの体験コーナーを設けて使いやすさをアピールした。
芝浦機械は双腕の協働ロボット「RIDRSシリーズ」を出展。ヒト型のRIDRS-Hは全16軸あり、前かがみの姿勢が可能で既存の双腕ロボットに対し作業の自由度を高めた。ブースでは2台のロボットが共同で作業する実演を披露した。最新型のロボットと比べ動作性を高め、作業の一連の動作にかかる時間を3分の1程度にまで短縮したという。
安田工業は実機を展示せず、大型モニターを使ったプレゼンテーション方式で、金型向けでは同社の微細加工向けマイクロセンターとジグボーラー、部品加工向けには同社のプレシジョンセンターを例に、現場の自動化に向けた解決方法を紹介した。
機器メーカーは自動化と省人化を訴求
ロボットを使った自動化システムの構築には、用途に応じた機器や装置も欠かせない。周辺機器メーカーのブースを周ってみた。北川鉄工所はロボットを使った自動ジョー交換システム「BR-AJCシステム」を今回展の目玉にした。旋盤のチャックで、実際にワークをつかむジョー(爪)部分を自動交換するというもの。標準のBRチャックと標準タイプのジョーがそのまま使え、従来の人の手による脱着では装着後の精度調整が必要だったが、システムでは把握精度を0.01mmT.I.R.以下に抑え、ジョーの再成形も不要になった。時間とコストの削減になり、長時間の無人運転にも対応できる。
大昭和精機は切削工具やゲージなどの在庫と寿命の管理システムを搭載した工具収納棚「Tool Cellar GENESIS/SWEEP」を展示した。一見するとごく普通の工具収納棚だが、棚のロック機能はもちろん、棚の上に設置したモニター画面を操作し、必要な工具を指定すれば、該当する工具が収納された引き出しだけロックが解除される仕組み。モニター画面に搭載されたカメラで、引き出しのロックを解除した人物を録画するため、誤って別の工具を取り出した場合にも、誰がどの工具と間違えたのかが特定できる。操作法はシンプルで、収納棚内の工具やゲージの在庫管理も可能で、在庫が少なくなったものの発注や棚卸し機能も備える。データを一元管理することで、現場の自動化や効率化につながる。
工具各社も提案さまざま
工具メーカーからもシステムの提案があった。イワタツールとトライエンジニアリングのブースでは、ロボットを使った複数の切削加工を実演した。一つはロボットで付加製造したワークを、もう一台のロボットで切削加工して仕上げるシステムで、宇宙産業での導入事例もあり、サンプルワークも展示した。もう一つは切削工具を交換しながら複数の切削加工を可能にしたシステムで、ロボットの先端軸を回転させてワークに穴開けやねじ山を切るタップ加工など、複数の加工ができる。両社は開幕日の7月4日に記者会見し、ロボット加工技術研究会の発足を発表した。
オーエスジーはめねじの合否判定をする協業ロボットを参考出品した。
新東工業との協業により搭載した力覚センサーはワーク形状に合わせてねじ穴位置を検知し、ねじゲージを挿入する。今後、製品化につなげられるか実証実験を重ねていく。
MOLDINOは、高性能な工具を使う事で加工能率を高め、長寿命の特徴を生かし、加工コストの削減や短納期化、コスト削減によるユーザーの競争力強化を掲げる。ロボットを使った自動化システムを導入した加工現場でこそ、MOLDINOの切削工具の強みが発揮できるとして、来場者にアピールした。
愛知での開催に納得の理由
ロボットテクノロジージャパンの会場となった愛知県国際展示場は、人工島の中部国際空港島内にある。知多半島の中ほどに位置する常滑市からは鉄道と自動車の連絡橋で結ばれており、一部の船便を除き、連絡橋を使わなければ島内に入れない。その連絡橋で会期中、普段では見られない異様な光景を見た。連絡橋を通行するための自動車道料金所のひとつが、来場者が運転するクルマで埋まったのだ。
つまり、愛知県国際展示場の駐車場への入場を待つクルマが、信号のある交差点を超え、セントレア東インターチェンジ(IC)を超え、長さ1.4kmの連絡橋をも超え、料金所を超えるまでの5kmほどで、数珠つなぎの渋滞が発生したのだ。一部の来場者はこの渋滞に業を煮やし、空港の駐車場を利用する来場者もみられた。同展示場ではこれまでにも多くの展示会を取材したが、これほどまでの渋滞は初めて目にした。いかに多くの来場者が詰めかけたのかが分かる。会期3日で4.6万人の来場者の多くが、作業着姿でやって来た。
意外に思われるだろうが、自動車産業や鉄鋼業など、第2次産業の印象が強い東海地方だが、第1次産業(農林漁業)も盛ん。愛知県の農業産出額は全国8位(農林水産省2021年農業産出額と生産農業所得)。愛知県は、自動車産業を中心とした工業県のイメージが強くあるが、農業でも全国有数の地域で、産出額が毎年トップ10に入る農業県でもある。仮に、東京で開催される国際ロボット展のように、出展の対象を製造業に絞らなかったら、空港島と連絡橋の渋滞は、この程度では済まなかったはずだ。
日本ロボット工業会は今年6月、2024年の受注額と生産額の見通しを今年1月の公表値から400億円引き下げ、いずれも8,600億円とした。設備投資の環境は、一部で回復の兆しを見せているものの、未だ調整局面にある。しかし、生産現場での自動化と省人化への要望は強く、冷めていないのが、今回の取材でも垣間見えた。
昼どきに立ち寄った会場内のフードコートでは、2台の券売機で食券を買い求める長蛇の列があった。食券を買うと次は注文の列、番号が印字された半券を持って次は調理を待つ列に並ぶ。注文した料理を受け取り、空席を探す…と、ここまで20分ほどかかった。厨房では10人ほどが調理し、カウンターでは女性が血相を変え、大声で番号を呼ぶ。「あそことあそこにロボットを入れて、配膳をこう。ドリンクはセルフに変えて、モニター画面で番号を表示したら、最低限必要な人員は……」と、自動化と省人化に向けたプランを妄想する自分がいた。