日本機械工具工業会が「2024年度秋季総会」並びに「2024年度日本機械工具工業会賞」授賞式を開く

 

 日本機械工具工業会(会長=松本克洋 不二越 執行役員工具事業部長)が去る10月23日、大磯プリンスホテル(神奈川県中郡大磯町)で「2024年度秋季総会」並びに「2024年度日本機械工具工業会賞」の授賞式を開いた。また、翌24日は、牧野フライス精機、牧野フライス製作所の工場見学を行った。

 浦本総務委員長が所用のため欠席した松本会長のあいさつを代読した。それによると、「昨年度から秋の総会は地方での開催となり、金沢に続き今年は大磯での開催となった。大磯は江戸時代に東海道の宿場町として栄えてきた。明治時代に入り、大磯駅ができると、駅前の高台には多くの政財界人の要人の別荘が立ち並んだ。大磯プリンスホテルは1964年、東京オリンピックのヨット競技の選手村として建設された。」と述べ、工業会の生産額に触れ、「当工業会の生産額は月平均で約386億円である。このまま進むと単純計算で生産額は約4630億円に留まり、当初見込みの4,950億円に届きません。このため、遺憾ながら改訂見通しを4,703億円とさせていただいた。今年の前半は半導体などのハイテク株の高騰で、半導体関連企業を中心に景気が上向いてきたとの情報がありましたが、工具メーカーとしては、その景気上昇の恩恵がいまだ受けることができていないと思えてなりません。」と切削工具業界を取り巻く環境について感想を述べた。

 来賓を代表して経済産業省製造産業局産業機械課の川内課長補佐がオンラインであいさつをしたあと、「日本機械工具工業会賞」(業界功労賞、技術功績賞、環境賞)の発表があった。なお、今年度の技術大賞は該当製品がなかった。

総務委員会、技術委員会、環境委員会、国際委員会からそれぞれ委員会活動報告があった。(日本機械工具工業会賞の受賞内容の詳細は下記に記載)

 続いて、「最近のインド事情とインドとの付き合い方10ヶ条 Do‘s&Dont’s」をテーマに元シャープ・インディア社長の磯貝富夫氏が後援した。

秋季総会総括を寺島誠人副会長(東鋼社長)が述べた。寺島副会長は、「業界にかかわる皆様のお陰で業界が成り立ち、発展して環境問題を解決するので感慨深いものがある。」と日頃の感謝の意を表した。

 懇親会が開かれ、参会者は親睦を深め、1日目は終了し、2日目は、牧野フライス精機と牧野フライス製作所の工場見学が行われ、通常は見ることができない生産ラインや、新製品についての知識を深めた。

写真左:牧野フライス精機前 右:牧野フライス製作所 厚木事業所前 

 

業界功労賞
■牛島 望 氏

住友電気工業(株)
(株)アライドマテリアル

〈業界経歴〉
 2013年6月~2015年6月 理事(超硬工具協会)
 2015年6月~2017年6月 副会長
 2017年6月~2019年6月 会長
 2019年6月~2020年6月 理事

〈企業経歴〉
 2013年6月 住友電気工業㈱ 常務取締役
 2017年6月 同社 専務取締役(代表取締役)
 2019年6月 同社 副社長(代表取締役)
 2021年6月 ㈱アライドマテリアル 代表取締役会長(現職)

【功績の概要】
 牛島氏は日本機械工具工業会(以降、当工業会)設立の2015年6月に副会長に就任。翌年5月に米国で開催された世界切削工具会議(WCTC2016)では、同工業会を代表し、日本の機械工具業界の動向について報告を行った。2017年6月に第2代会長に就任。米中貿易摩擦や中国と欧米の自動車需要が減速する状況下にありながら2018年度は業界史上最高の生産額5,000億円の大台を突破するなど上昇期の機械工具業界を牽引した。また、グローバルな競争のもとで、日本の機械加工が発展していくためには、技術や製品開発における同工業会会員相互の切磋琢磨が不可欠であることから、技術功績賞の位置づけ等の見直しや当工業会の運営に関する規程類の制定等、体制整備を推進した。

技術功績賞

「均粒・高結晶性WC粉の開発」
■(株)アライドマテリアル
本棒深也 氏

 【新規性】本開発品WC粉「WC-U015S」は、微粒WC粉末を原料とする超硬合金の機械特性および熱特性改善を目的として、従来粉末と比較して粉末粒度の均粒化および粉末一次粒子の高結晶化を実現している。

「センシングツールおよびKKDX加工サポート」
■住友電工ハードメタル(株)
 

アプリケーション開発部 吉田高太 氏
アプリケーション開発部 土屋和馬 氏
住友電気工業(株) アドバンストマテリアル研究所 原田真志 氏

 【新規性】切削加工は微小かつ高速な変形現象で、切削液の使用もあり加工点の現象可視化は容易ではなく、現実には切削負荷や振動などから現象を把握し、適切な加工条件の設定や異常原因の究明に活用することが有効である。同社では、より加工点に近い位置で現象を捉えるため工具(旋削バイトや転削ホルダ)内にセンサ、無線通信装置、電池を搭載したセンシングツールを開発し、同ツールにより顧客の課題を効率的に解決するKKDX加工サポートを開始した。

「鋳鉄旋削用コーテッド材種『AC4125K』の開発」
■住友電工ハードメタル(株)
 

合金開発部 合金開発グループ 深江恒佑 氏
住友電気工業(株) ハードメタル事業部 グローバルマーケティング部 小野 聡 氏
北海道住電精密(株) 技術部 寺村 浩 氏

 【新規性】自動車をはじめとする幅広い産業で用いられる鋳鉄部品は、軽量化を目的に薄肉、複雑形状化している。また、薄肉化した場合でも十分な強度を確保する観点から、鋳鉄素材は高強度化が進み、難削化が進展している。一方で加工現場では、コスト削減要求の高まりや工作機械の性能向上を背景に、高速・高能率加工への要求が以前にも増して高まっている。そこで、そのような市場ニーズに対応する鋳鉄旋削用新材種「AC4125K」を開発した。

「ステンレス鋼旋削用材種AH6200シリーズの開発」
■(株)タンガロイ
 

技術本部材料開発部 PVD開発グループ 主任 片桐隆雄 氏

 【新規性】ステンレス鋼は熱伝導率が低く、工具の刃先温度が上がりやすいため、クレータ摩耗が拡大して刃先強度が低下すると、刃先の塑性変形が急激に進行する。これに加えて、オーステナイト系ステンレス鋼では、加工硬化に伴う境界損傷や欠損が原因で工具寿命が不安定になりやすい傾向がある。AH6200シリーズは、従来材種から耐摩耗性と耐境界損傷性、耐欠損性を改善することで、工具寿命の延長と汎用性の向上を目的として開発した。AH6200シリーズでは、耐熱性に優れる厚膜Tiリッチコーティングがクレータ摩耗を抑制し、特徴的な2つの耐摩耗層によって従来弱点であった境界損傷を克服、さらに高次元の耐摩耗性と耐欠損性を両立した高硬度Tiリッチナノ積層を組み合わせることで、工具性能とともに汎用性が大幅に向上した。

「内径溝入れ工具ADDInternalCutの開発」
■(株)タンガロイ
 

技術本部 切削工具開発部 旋削工具開発グループ 主務 近藤佑磨 氏
技術本部 切削工具開発部 旋削工具開発グループ 課長 大塚 潤 氏
マーケティング本部 プロダクトグループ ノンローテティングツール担当 主任 比留川 亮 氏

 【新規性】継ぎ手やシャフトと小径軸物部品などの内径溝入れ加工は、1,2コーナーの刃先交換式工具を使用する事が主流である。近年、経済性の向上を期待して4コーナー仕様の刃先交換式工具が登場しているが、加工中に刃先が動くことによる加工精度不良やインサート欠損時に取付け不良が発生するなど、クランプ性能に関する問題が発生している。この問題を解決する為、クランプ性能を改善した4コーナー小内径溝入れ工具の開発を行った。同開発品は、優れた位置決め精度と切削力を受け止め刃先の動きを抑制するクランプ機構により、クランプ性能を向上させた。また、このクランプ機構は切れ刃が欠損した際にインサートの取付けが可能で、全てのコーナーを使用できることから、経済性にも優れている。

「『アクアREVOドリル バリレス』の開発」
(株)不二越
 

工具事業部 工具技術部 ドリル商品開発  野城淳一 氏
工具事業部 工具技術部 ドリル商品開発  山田 雄大 氏

 【新規性】同製品は、穴あけ時の困りごとである抜け側に発生するバリや陣笠の発生を抑制することで、バリ取り工程縮減や工程内のトラブル削減を提供するものである。一般的な汎用ドリルでは、バリ抑制のために送りや切削速度を下げて加工能率を落とす必要があったが、本開発により最適化された刃先形状により、汎用ドリルと同等の切削条件、同等の工具寿命で加工できる点に特長がある。

「汎用ミーリング材種『MV1030』の開発」
■三菱マテリアル(株)
 

筑波製作所 材料開発部 杉山 醇 氏
筑波製作所 インサート製造部 浅利翔太 氏
筑波製作所 材料開発部 打田雄一 氏

 【新規性】本開発は鋼・鋳鉄・ステンレス向けの汎用ミーリング材種として、PVD製品並みの耐欠損性をもち、CVD製品以上の耐摩耗性を備えた工具の開発を狙ったものである。本製品は耐欠損性の向上を目的として、従来技術の約半分の膜厚を生産レベルで均一に形成するできるように改良した結果、P/K/M種と汎用化を実現し、従来技術に対して大幅な性能向上を果たした点に特徴がある。

「高硬度鋼加工用高送り小径複合ラジアスエンドミル」
■(株) MOLDINO
 

野洲工場 開発技術部 部長補佐 田牧賢史朗 氏
野洲工場 開発技術部 技師 坂本 誠 氏

【新規性】同開発は、高硬度鋼における小径エンドミルを使用した精密金型の荒加工において、工具寿命と加工能率改善を狙った多刃ソリッドエンドミルである。近年増加している燃料電池セパレータ金型やコネクタ金型の精密金型材料は、SKD11やその改良鋼が用いられることが多く、高硬度鋼の直彫り荒加工は工具の短寿命化と能率の低さが悩みであった。特に、市販されている正ラジアスエンドミルを荒加工に使用した際、底刃とコーナR刃の繋ぎ部にチッピングが発生し、寿命に至ることが多い。同開発品は当社刃先交換式式高送り工具の設計思想を継承し、底刃を複合ラジアス形状とした。高送り工具は一般的な正ラジアス形状と比較し、底刃の切れ刃長さを長くし、応力を分散させ、局所的な工具損傷を抑制す
ることが可能である。高硬度鋼の荒加工において、工具寿命と加工能率を改善することで、使用する工具本数や加工時間を削減し、環境負荷についても低減が見込める。

「2枚刃ボールエンドミル『CWLB』の開発」
■ユニオンツール(株)
 

第二工具技術部 エンドミル工具開発課 係長 吉村翔太 氏
第二工具技術部 エンドミル工具開発課 課長 渡邉昌英 氏

【新規性】同開発はプラスチック金型業界において使用量の多いプリハードン鋼を材料に用いた金型の品質向上を狙ったボールエンドミルである。工具先端部に微小なフラット面を設けることにより、工具先端部を使用した仕上げ加工において、加工面の面粗度と鏡面性を改善した。このフラット面は、ボールRの形状精度を高精度に維持可能なレベルに微小であり、仕上げ加工において効果を発揮する適当な範囲に制御して設けられている。

技術奨励賞

「低抵抗高速加工ヘリカルエンドミル『ドリミル』」
■(株)イワタツール
岩田 昌尚氏

【新規性】同製品は高能率・低抵抗の切削加工を目的として、従来製品のヘリカル加工用エンドミルにはない底刃の中低角を増大させた独自の刃型としたことに特徴がある。

環境大賞

■三菱マテリアル(株)
 【受賞理由】昨年に続き第1位を獲得された。前年比で良化していないと加点されない設問が数多くある中、昨年と同じ点数を維持されていることには驚きを覚える。最高レベルに到達した自社の環境活動に満足することなく、更なる改善に全社一丸となって取り組まれた結果であることが容易に推察される。

■(株)タンガロイ
 【受賞理由】ここ数年徐々に点数が上がってきており、ついに同点一位に到達した。特に改善活動関係の得点は3割以上も上がっている。社内の継続的な環境への取り組みが、大きな成果として表れている。

環境特別賞

■(株)MOLDINO
■ニデックマシンツール(株)
 【受賞理由】二酸化炭素排出量削減や、廃棄物削減などで、顕著な成果をあげている。生産高原単位二酸化炭素排出量を複数年連続で削減されている、99%以上の高い再資源化率を維持しつつ総廃棄物量を複数年連続で削減されているなど、これらは他社の模範になるものである。
 

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