3Dプリンターの現状 ブーム去り実用域へ、一部でサービス淘汰も JIMTOF南館で考えた金属3Dプリンターの現在地
第32回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2024)が11月5-10日の6日間、東京都江東区の東京ビッグサイトで開催され、およそ13万人が来場した。今回は増設された南館を全館使用したことで、東京ビッグサイト全てがJIMTOF会場となった。その南館の1、2ホールでメインとなったのが、前回展に続き開設された「Additive manufacturing(AM)エリア」で、金属や樹脂などを原料とする各社の3Dプリンターが勢ぞろいした。今回はこのAMエリアで、金属3Dプリンターの現状とこれからについて考えてみた。(文・写真=是州煩太)
展示会の枠を超えた業界祭り
このページをご覧の方に、今さらJIMTOFの解説は不要だろう。しかし、今日初めてページを訪れた人もいるかもしれないので若干の説明を。JIMTOFはその名の通り工作機械と関連製品の見本市で2年に一度、東京で開催される。第1回は1962年に大阪で開催され、その後は東京との交互開催が長く続いたが、2000年から東京での開催に一本化された。初開催から60年を超える業界の一大イベントであって、もはや展示会の枠を超えた2年に一度のものづくり業界のお祭りの位置づけなのだ。話がそれた。前回の2022年展から、増設された南館もJIMTOF会場の一つとなった。その南館のメインとなったのが、前回展に続き開設された「AMエリア」で、金属や樹脂などを原料とする各社の3Dプリンターが勢ぞろいした。
SLM式新型3Dプリンターを初披露
DMG森精機はパウダーベッド方式(SLM)のレーザー金属3Dプリンター「LASERTEC(レーザーテック) 30 SLM 3rd Generation(ジェネレーション)」を国内で初披露した。同社の社内では「(森雅彦)社長からは工作機械の新機種開発では金属AM機で内製した部品を最低一つ採用するよう社内で徹底されている」(説明員)という。AMエリアの同社ブースでも、ボールねじを構成する駆動部品の一部のワークが展示されていたが、あいにく写真撮影は断られた。東館の同社ブースではパウダーノズル方式(DED)による積層造形と切削加工のハイブリッド機「レーザーテック3000 DED hybrid(ハイブリッド)」による実演加工が見られた。金型の補修やコーティングなどを想定しているという。
マツウラのルーメックスが機能強化
こちらもJIMTOF常連の松浦機械製作所は、すっかりおなじみとなった「LUMEX Avance(ルーメックス・アバンセ)-25」を出展。2017年に販売開始した高速化対応の第5世代ハイブリッド金属3Dプリンターを、今回展に合わせて機能を強化した。機能強化で長時間の連続運転が可能となった。生産性に直結する加工時間を短縮するため、ソフトウェアのデータ処理方法を全面的に見直し、各動作間の待ち時間を削減。従来比17.3%造形時間を短縮した。造形するワークサイズは最大で256×256×300mm、質量は150kgまで対応できる。
三菱電機はDED方式採用機を出展
三菱電機はワイヤ・レーザ金属3Dプリンター「AZ600」シリーズを出展。世界初の空間同時5軸制御と加工条件を協調制御するデジタル造形技術で、安定的で高品質な3次元造形を実現した。自動車や船舶、航空機の部品製造でのニアネットシェイプ化や肉盛り補修などで、消費エネルギー削減や省資源での高効率な工法で、脱炭素化時代のモノづくりができるという。DED(指向性エネルギー堆積)方式の採用で高速制御に適したレーザー光を熱源に、造形状態に応じて正確に熱エネルギーを制御し、高速な積層造形を実現した。供給する材料に市販の溶接ワイヤが使用できるのも特徴で、粉末に比べて材料の利用効率が高く、人と環境に配慮した造形方式とも言える。ワイヤとレーザーの組み合わせで、高い緻密度で空孔が少ない造形が可能。きめ細かな入熱制御が加わり、高品位な積層造形を実現した。
ニデック入りした旧三菱も
ニデックマシンツールはパウダーDED方式金属3Dプリンター「LAMDA(ラムダ)200」を出展した。新エネルギー・産業開発機構(NEDO)から技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構(TRAFAM)が受託した技術開発事業の成果を、旧・三菱重工工作機械が活用して開発したもの。大物部品や異種材の造形などを得意とするパウダーDED方式の金属3Dプリンターで、進化したローカルシールドノズルの採用で、よりシールド性能が向上した。さらにモニタリングシステムの導入で、インプロセスで造形条件を最適化できるのが強み。既存部品に肉盛りして形状を追加したり、補修したりもできる。
AMに必要なあらゆるものを
愛知産業はニコンが昨年買収したドイツ・SLMソリューションズのレーザー溶融方式の金属3Dプリンターを目玉に出展した。パウダーベッドフュージョン方式で、マルチレーザー技術による高い造形効率や、豊富な造形パラメーターなど、ユーザーが意のままに使える高い操作性が特徴で量産への拡張性も高い。「航空宇宙や自動車の部品製造で実績がある」(説明員)という。世界の3Dプリンターブランドを販売するBRULÉ(ブルレー)は、デスクトップから産業用3Dプリンター、3Dプリンター用マテリアル(材料素材)、3Dスキャナー、積層造形ソフトウェアなど、積層造形に必要なあらゆるものを販売する。今回展では、金属や樹脂などの各原料に対応する、大小さまざまなタイプの3Dプリンターを並べた。「3Dプリンターそのものの認知度は高まったが、ユーザーはまだまだ活用し切れていない。造形方式の長所と短所を理解した私たちに任せて相談して欲しい」(説明員)という。
今年8月にリニアモーター駆動の精密金属3Dプリンター「OPM250L+(プラス)」を発表し、11月から発売したソディックは今回のJIMTOFに実機を出展せず、横浜市都筑区の本社で11月5日に開催した自社のプライベートショーで初披露した。ソディックの意向とは思うが、来場者とすれば、JIMTOFのAMエリアでソディック最新の実機を見たかったであろう。ファンの一人として、記者も残念だった。ブースを設置したスギノマシンも実機は展示せず、ワークサンプルの欠陥確認結果を示してアピールした。
3Dプリンターでの部品量産は可能か?
今回のJIMTOFのAMエリアで、出展各社に共通の質問として聞いたことがある。「金属3Dプリンターで部品の量産実績はあるか?」だ。ポリプロピレンやナイロンなど樹脂系原料の3Dプリンターメーカーの一部で、近年盛んに「自動車部品の量産」を前面に押し出す会社が現れ始めたからだ。断っておくが、記者は3Dプリンターを使った量産部品の製造そのものを否定するつもりはなく、部品の品質を目利きする能力もない。せっかくなので、会場にいる出展各社の“プロたち”に、金属3Dプリンターでの量産の可否について聞いてみた。
「試作や小ロットはあるけど……」「金属(3Dプリンター)で量産ですか? ないですね」
「(しばらく考えて)どれほどのロットを量産と呼ぶかによるね」
「台数限定の高級スポーツカーに使われれば、量産部品と呼べなくもないですが…」
などと否定的な回答が圧倒的に多かった。製造にかかる時間とコスト、それと製造した部品の品質保証がネックになるという。米国で航空機のエンジン部品などでの導入をアピールする3Dプリンターのメーカーもあるが、機体の型式認証を管理するFAA(米国航空宇宙局)とボーイングなどの機体やエンジンメーカーとの人的交流などでの連携が進み、ともに基準をまとめ上げる関係性があるからともいえる。日本の製造業で、そこまでの関係性を官民で構築するのは難しいだろう。
医療や軍事では導入進む?
その中で、記者の質問の意をくみ、肯定的な意見をくれた方もいる。「医療用機器やインプラントでは既に量産は進んでいる。弊社もその一社です」。そう語るのはエイチ・ティー・エル営業本部3DP事業部の井上克紀課長代理だ。同社は各国の金属3Dプリンターを扱う商社で、プリント加工受託サービスの日本での営業窓口としても機能する。井上さんは、医療用では量産を始めているが、医療以外の分野での量産はあまり例がないという。しかし、「軍需では使われている。米軍のヘリコプターを含む軍用機で、交換時期が定まった部品がある。特殊な金属材料が使われており、使用済みの部品はこれまで倉庫で保管し、管理されてきた。これを3Dプリンターで肉盛りして補修し、再利用するものがある」(井上さん)。広大な国土と、世界に展開する米軍であれば、一部の機体にせよ、総数はまとまる。型式認証が不要な軍用機の事例で、今すぐに民間機への技術転用は難しいかもしれないが、近い将来はこうした技術の民間への転用が始まるかもしれない。
参入過多で一部廃業も
一方で気になる意見も。3Dプリントを手掛けるJ・3Dの営業部長で日本AM協会監事を勤める高田真さんは「金型や金型部品の製作や補修では、既に3Dプリンターが実用されている」と語る。同社は3Dプリンターで美術品の製作も手掛けるほどの技術力を持ち、社内でフルに使いこなす。3Dプリントサービスの現状について、興味深い話を聞かせてくれた。2013年に米国のバラク・オバマ大統領(当時)が一般教書演説で「3Dプリンターは、あらゆるものづくりに革命をもたらす」と言及し、一気に世界中に広まった3Dプリンターだが、一部でブームの陰りも見えるという。「日本でも、樹脂を中心に3Dプリントの加工受託サービス会社が増えたが、ここにきて事業の行きづまりや廃業の声を聞くようになった」と高田さんは話す。中古機の買い取りを持ちかけられることも増えたという。
各社のブースでの展示を通じて、世界と比べ、日本における金属3Dプリンターの導入や実製品への活用はやや出遅れた感はあるものの、今回のJIMTOF取材を通じて、技術そのものは着実に日々進歩していると感じた。その一方で、ブームに乗り参入が増えたものの、技術や営業力で劣る、もしくは特徴をアピールできないサービス会社は、市場からの退去を迫られる動きも出始めたと言える。(文・写真=是州煩太)