【令和7年 年頭所感】経済産業省製造産業局/産業機械課
「『GX』『DX』『経済安全保障』の3軸に基づく取組が重要」
■経済産業省製造産業局
製造産業局長 伊吹英明
令和7年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。
いま、世界は大きな転換期を迎えています。保護主義の台頭やウクライナ侵攻の長期化等による地政学リスクの高まりや、AI等の技術革新の加速化、気候変動をはじめとした地球規模課題に対する各国政府の関与の強まりなど、様々な構造的変化が生まれています。
こうした中、日本経済も、これまでのコストカット型のデフレ経済から、持続的な賃上げや活発な投資でけん引する成長型経済への転換局面を迎えています。昨年は、1991年以来の高水準の賃上げや、過去最高の設備投資が実現するなど、日本経済に明るい兆しが見られました。他方、足下の物価高を背景に、消費は未だ力強さを欠いています。
本年は、この成長型経済への転換を確実なものとするため、物価高に負けない持続的な賃上げを実現し、これを更なる投資の拡大へと繋げていかなければなりません。そのためには、「GX(グリーントランスフォーメーション)」「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「経済安全保障」の3軸に基づく取組が重要であり、経済産業省製造産業局は、製造業の皆様のこれらの取組を支援してまいります。
脱炭素社会への移行は「待ったなし」の状況であり、産業界にも変革が求められています。昨年末に案が示されたGX2040ビジョンでは、「GX産業構造」、「GX産業立地」、「GX加速に向けたエネルギー分野」などの取組を総合的に検討し、事業環境の変化が激しい中でも企業の予見可能性を高めてGX投資につなげるべく、より長期的視点に立ち、GX実現に向けた見通しを示しました。
日本全体のCO2排出量の20%以上を占める鉄鋼・化学・紙パルプ・セメントといった産業部門は、“Hard-to-abate”、すなわち排出削減が困難なセクターと言われているように、GXの実現は容易ではありません。そこで、令和2年度補正予算にて造成した「グリーンイノベーション(GI)基金」では、水素還元製鉄技術や、CO2を用いたプラスチック、コンクリートの製造技術等を開発するプロジェクトを進めています。
また、Hard-to-abate 産業だけでなく、自動車や航空機などを含んだ重点16分野についても、GX経済移行債を活用した先行投資支援の方針を示すとともに、個別分野ごとの支援を進めています。既に、大型革新電炉の設備投資支援に向けたプロジェクト選定や電動車普及に向けた車両導入支援、充電インフラの整備支援などが進んでいます。我が国が世界に先駆けて支援を実施してきた水素についても、技術開発から社会実装まで、引き続き推進してまいります。
グリーン市場の創造のための取組も加速しています。電動建機の購入補助を公共調達の場面で推進する取組が進んでいます。さらに、すでに多くの企業にご参画頂いているGXリーグのもとで試行的に実施してきたGX-ETS(排出量取引制度)の本格稼働やGX製品の価値の「見える化」の取組を契機として、グリーン市場の創造が加速することを期待しています。
昨年に開催された第2回AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)首脳会合では、日本のリーダーシップのもとで、脱炭素化、経済成長、エネルギー安全保障の同時達成や、多様な道筋によるネット・ゼロの実現というAZEC原則が合意されたところです。今後も、昨年末に素案が提示されたエネルギー基本計画や地球温暖化対策計画に基づき、必要な政策措置を講じつつ、業界の取組を後押ししてまいります。
近年の生成AIの技術革新と社会受容の加速、そして半導体の高性能化による産業界への影響はより一層大きなものとなり、企業経営や産業構造までもが変化する可能性が開かれています。
政府全体としては、世界市場の大きな成長が見込まれるAI・半導体分野について、今後2030年度までに10兆円以上の公的支援を行うこととしています。今後、ターゲット材やPFA樹脂等、半導体を形づくる部素材の製造基盤強化支援をさらに進めてまいります。
現状、我が国製造事業者のDXは個別工程の最適化が中心となっていますが、より一層競争力を高めていくには、企業全体、さらにはサプライチェーンや産業全体での最適化を志向する必要があります。こうした課題を踏まえ、各企業が経営課題起点で全社最適なDXを推進するための手引きとして、NEDO・経済産業省は昨年6月、「スマートマニュファクチャリング構築ガイドライン」を公表しました。本年は、企業・業界を横断したデータの利活用を促進し、産学官が連携して企業・産業競争力の強化を目指す「ウラノス・エコシステム」の推進等に取り組んでいきます。
ドローンや空飛ぶクルマといった先進技術導入による「事業機会の拡大」も重要です。ドローンについては、1対多運航技術、運航管理システム(UTM)等への支援により、物流問題や災害対応など様々な分野での利活用を推進しています。空飛ぶクルマについては、機体OEMや部品サプライヤーの技術開発を支援することにより、新たな市場獲得を目指しています。
省力化や生産性向上の切り札となるロボットについては、スタートアップ等の多様な主体による開発を促すオープンな開発環境の構築に取り組み、人手不足という社会課題への対応や産業DXを推進してまいります。また同様に、DXを活用した建材・住宅設備のサプライチェーンの物流効率化や、3Dプリンタの活用による「ものづくり」の変革にも取り組んでいきます。
宇宙は日本が潜在的な強みを持つ産業分野の一つです。2040年までに約140兆円規模の成長が予測される宇宙ビジネス市場での国際的な競争力を獲得するため、昨年、経済産業省は宇宙産業室を「宇宙産業課」に改組し、宇宙関連政策を実施する体制を強化しました。宇宙戦略基金の活用を通じて、衛星・ロケットの打上げや、そこから得られるデータの利活用を加速する技術開発を強力に後押ししてまいります。
GXとDXが競争力を規定する製造業分野の一つに、自動車産業があります。GX分野に関しては、日系メーカーが多様な選択肢を持ちつつも、「EVでも勝つ」競争力を獲得するために、充電インフラの整備や電動車の購入補助、蓄電池やモーターの開発を支援していきます。DX分野に関しては、昨年5月に策定された「モビリティDX戦略」にて、SDV(Software Defined Vehicle)の2030~2035年グローバル販売台数における「日系シェア3割」実現を目指し、民間の技術研究組合の取組やOEM横断のAPI標準化推進、ロボットタクシーの早期実装等を支援してまいります。
また、極めて高い複雑性を有し、高度な安全認証試験を要求される航空機産業も、そうした分野の一つであり、機体・エンジン・MROの領域で取組を進めています。機体については、機体軽量化に資する複合材の開発支援を実施することで、次期単通路航空機事業への参画を目指しています。エンジンについては、電池やモーターといった次世代電動航空機のコア技術の開発支援を推進しています。さらに、MRO、すなわち製造以外の整備(Maintenance)、修理(Repair)、分解して清掃し新品時の状態に戻すオーバーホール(Overhaul)については、海外主要OEMの動向も踏まえつつ、MRO拠点の整備や整備データの製品開発への反映等を推進してまいります。
GXやDXに不可欠な蓄電池やAI、半導体、ロボット及びこれらの製造に使われる部素材や装置は、世界的に覇権争いが激化しており、経済安全保障の観点からも重視されています。政府としては、2022年に成立した経済安全保障推進法を踏まえ、重視すべき物資・技術を「破壊的技術革新が進む領域」、「我が国が技術優位性を持つ領域」、「対外依存の領域」の3つに整理し、それぞれに対して取組の方向性を規定しています。
破壊的な技術革新が進む領域、すなわち先端半導体や量子コンピュータ等に対しては、産業基盤強化策による技術優位性の確保が必要です。また、企業経営の戦略においても、これまでにないサプライチェーン全体を意識した競争優位性・不可欠性と自律性を強化する取組が求められており、企業間の連携がカギとなっています。経済産業省では、こうした企業間の連携を促すため、産業界との戦略的対話の深化・拡大を図っています。
我が国が技術的優位性を持つ領域、すなわち製造装置や部素材等に対しては、包括的な技術流出対策を講じる必要があります。経済産業省では、安全保障の観点から管理を強化すべき重要技術の移転に際して、事前報告を義務づける制度を構築することにより、官民の対話の機会を確保し、国益を損なう技術流出やそれによる予期せぬ軍事転用の防止を図っています。制度を施行した昨年末時点で、他国の関心や我が国の優位性を踏まえながら10の技術を告示しました。今後、事前報告を義務づける対象技術を適時追加していく方針です。
対外依存の領域、すなわちレアメタルや銅といった重要鉱物に対しては、過剰依存構造の是正を図る必要があります。経済産業省では、昨年7月、鉱物課を製造産業局に移管することで、資源戦略と産業戦略を統合させた施策を講じるための体制を構築しました。今後、代替輸入先の確保や、輸入措置への備えとしての備蓄確保、既製品からのリサイクル等を通じて、産業界にとって必要な資源の確保に努めてまいります。特に銅については、導電性や熱伝導性、加工性に優れており、GX・DXの進展により世界的な需要が増大しています。今後、製造産業局としては、アフリカなどのフロンティア地域を中心に、新たな上流権益確保を通じた供給源多様化を支援していく方針です。また、国産海洋資源の資源量調査や生産技術開発等の取組もより加速してまいります。
このような3つの取組を円滑に進めるために、同志国との連携による国際経済秩序の維持にも取り組んでまいります。あり得る経済的威圧に対する備えとして、G7各国をはじめとする同志国と個別プロジェクトを進めるとともに、実際に威圧を受けた場合は、その影響を緩和するための措置や国際ルールに沿った対応を進めてまいります。
産業界が今直面する課題は、官も民も一歩前に出て取り組まないと解決できないため、国内外で活躍されている産業界の皆様との日々の対話を通じ、将来につながる日本の経済基盤をともに形作っていきたいと考えております。
本年は大阪・関西万博の開催年であり、開催まで約3ヶ月となりました。「未来社会の実験場」として、最先端の技術が集結し、新たな産業の誕生・成長の機会になることを期待しています。ぜひ、ご家族やご友人と一緒に足を運んでいただきますようお願い申し上げます。
最後に、皆様の益々の御発展と、本年が素晴らしい年となることを祈念して、年頭の御挨拶とさせていただきます。
「我が国の製品や技術力の優位性を確保」
■経済産業省製造産業局 産業機械課
課長 須賀千鶴
令和7年の新春を迎え、謹んでお慶び申し上げます。
昨年は、年始の能登半島地震をはじめとして、台風や豪雨など、多くの予期せぬ自然災害が発生した一年でした。被災された方々に、改めて心よりお見舞いを申し上げます。特に能登半島地震で被害を受けた地域では、復旧・復興はいまだ半ばです。経済産業省として、引き続き復旧・復興に全力を尽くしてまいります。
世界が激動する中で、我が国の経済と社会の安定をいかに守り抜くかが問われた一年でもありました。依然として中東やウクライナにおける戦争は収束の兆しを見せず、我が国のエネルギー政策や産業政策も大きな影響を受けています。また、アメリカではトランプ新政権が発足しようとしており、経済・外交政策がどう変化するか、その一挙一動に世界が注目しています。
こうした中、産業政策については、近年のDXやGXなどの成長分野への積極的な国内投資が実を結び始めています。実際、30年ぶりとなる水準の賃上げ、100兆円を超える積極的な設備投資、史上最高水準の株価、そして名目GDPが初めて600兆円を超えるなど、顕著な成果が現れました。しかし、現在の物価高の影響を受け、消費は依然として力強さを欠いています。このような状況を踏まえ、長年続いたコストカット型経済から「賃上げと投資が牽引する成長型経済」への確実な転換を実現するためには、物価高に負けない持続的な賃上げの実現と、これをさらなる消費と投資へと結びつけていく必要があると考えています。
大企業だけではなく、地元の中小企業においても「稼ぐ力」をつけるため、イノベーション促進のための量子や宇宙分野への大規模投資や、スタートアップの事業化、海外展開への支援をしていきます。また、人手不足という社会的課題に対処するため、ロボット等で省力化や生産性向上を実現する技術の開発を促進するオープンな環境を整備し、産業のDXを推進していきます。
取引適正化に向けて、「価格交渉促進月間」における取組をはじめ、産業界の皆様には多大な御協力を賜り、感謝申し上げます。今後もサプライチェーン全体で適正な価格転嫁を定着させるため、様々な取組を進めてまいります。
GXでは、昨年末にとりまとめた「GX2040ビジョン」と「エネルギー基本計画」にもありますように、電力需要が増加する中、徹底した省エネに加え、再エネや原子力などの脱炭素電源の最大限の活用を進めてまいります。GXの推進にあたっては、アジアの同志国との連携も強化していきます。昨年の第2回AZEC首脳会合では、日本のリーダーシップのもとで「今後10年のためのアクションプラン」が合意され、今後、ルール形成を含む政策協調とプロジェクトの実施が進んでいきます。
経済安全保障の確保に向け、技術革新への投資や需要側の取組を含めたサプライチェーンの強靱化といった政策により、我が国の製品や技術力の優位性を確保してまいります。そのために、技術流出対策や重要物資の安定供給のための支援にも引き続き取り組んでまいります。
日本の製造業は、急速に変化し続ける環境の中で、複雑で困難な課題に多く直面しています。しかし、それらに果敢に取り組みイノベーションを続けることで、成長を続けられると確信しています。引き続き、皆様の現場の生の声をお伺いし、それらを政策に活かしてまいります。
福島復興と東京電力福島第一原子力発電所の安全かつ着実な廃炉は、引き続き経済産業省の最重要課題であり、今後もこれらに全力で取り組みます。
さて、大阪・関西万博の開催までいよいよ3ヶ月を切りました。「未来社会の実験場」のコンセプトにふさわしい最先端分野の技術が国内外から集結いたします。ぜひ、会場まで足を運んでいただき、新たな産業の誕生と成長の可能性とそれがもたらす未来社会を間近で感じていただきたいと思っています。
本年が、皆様方にとって実りの多い一年となりますよう祈念して、新年の挨拶とさせていただきます。