第59回(令和6年度)機械振興賞受賞者が決定 「経済産業大臣賞」にJFEスチール

 機械振興協会(会長=釡和明氏)がこのほど、令和6年度の機械振興賞の受賞者を決定した。今年度は23件(大企業8件/中小企業9件/小規模事業者6件/支援事業0件)の応募の中から、研究開発では、経済産業大臣賞1件、中小企業庁長官賞1件、機械振興協会会長賞4件、奨励賞3件を表彰する。なお、表彰式は令和7年2月20日(木)、東京プリンスホテル マグノリアホールにて行う。

 機械振興賞の表彰対象は、研究開発では、独創性、革新性及び経済性に優れた機械工業技術に係る研究開発及びその成果の実用化により新製品の製造、製品の品質・性能の改善または生産の合理化に顕著な業績をあげたと認められる企業等及び研究開発担当者、支援事業では、支援効果及び継続性に優れた支援事業により、機械産業技術に関わる中小企業が優れた成果を上げたと認められる支援機関及び支援担当者。

第59回機械振興賞は、機械振興賞審査委員会(委員長 中島 尚正 東京大学 名誉教授)において厳正な審査の上、決定した。

【研究開発】


経済産業大臣賞
「厚鋼板の高品質化を実現した連続鋳造の凝固完了位置自動計測装置」
●JFEスチール(推薦:日本鉄鋼協会)
 

 

 天然ガスの需要増加に伴い、パイプライン用鋼材の品質向上が求められている。パイプライン用鋼材は連続鋳造で製造される際、外側から徐々に固まる過程で、中心部に鋼材に加えられた添加物が集まる「中心偏析」が発生する場合がある。中心偏析が生じると、天然ガス中に含まれる硫化水素が鋼材内部に侵入し、中心偏析部に集まった水素ガスの圧力で鋼材の割れが発生する危険が高まる。

 本業績では鋳造中の鋼材に電磁力により非接触で超音波を発生させ、超音波の縦波と横波の伝播状況で凝固完了位置を正確に把握する測定装置を開発した。センサー部には特殊な配列でネオジム磁石を並べて強力な磁力を発生させ、かつコイルに大電流を印可することで、鋼材に超音波を発生させている。また、超音波には周波数変調を掛けた波形を使用し、レーダーに用いられるデジタル信号処理を用いて、S/N比と時間分解能を向上させている。これ等の技術により凝固完了位置の計測と、所定の場所で鋼材を凝固させる制御が可能となり、鋳片引き抜きローラーの圧力を適切に付与することで、凝固直前の添加物が濃くなった溶鋼の中心部への流入を防ぎ、中心偏析を改善した点を高く評価した。

中小企業庁長官賞
「校正不要で超高精度制御を実現する産業ロボット制御ソフトの開発」
●チトセロボティクス

 

 産業用ロボットと画像認識カメラを連携させて、人手に頼っていた作業をロボットに置き換える自動化が進んでいる。しかし、カメラの位置合わせやロボットのキャリブレーションに多くの時間を要し、把持した物の重量によるロボットアームの撓み方の変化や、移動式ロボットの停止位置誤差などに対応できない問題があった。本業績では、カメラによる位置合わせに積分要素を加え、カメラが認識した位置のずれに対する補正量が時間とともに累積され、幾何学的な誤差の影響を受けにくい制御方法を開発した。これにより、キャリブレーションなしで高精度制御が可能となり、位置合わせが難しい車輪付きの移動型ロボットでも正確な作業が行えるようになった。また、従来はキャリブレーションが困難であった複数の異なるメーカーのロボットを、容易に協調させて働かせることが出来るようになった点なども高く評価した。

機械振興協会会長賞(企業名50音順)
「セルロースナノファイバー連続脱水シート化装置の開発」
●川之江造機、愛媛大学、(推薦:四国産業・技術振興センター)

 セルロースナノファイバー(CNF)は、軽量・高強度・低線熱膨張などを特長とする植物由来の環境に優しい素材で、自動車や建材などの工業分野から食品や医療分野に至るまで幅広い用途で実用化が進んでいる。しかし、CNFは90%以上水を含んだ状態で提供されることが多く、高い輸送コストが課題となっている。この課題解決のために水分の除去が必要となるが、CNFは極めて微細な繊維状物質で、フィルターろ過による固液分離が難しく、加熱による脱水はエネルギー消費が大きい。本業績では、抄紙技術を応用した吸引脱水機構により、連続的な脱水を可能とした。また、加圧脱水機構を組み合わせることで、加熱脱水にかかるエネルギー消費を極力抑えた低コスト・低環境負荷のCNF連続脱水シート化装置を産学連携で共同開発した。CNFシートはレースカーの石油系素材部品の一部代替として活用されており、環境貢献や軽量化、燃費向上によるCO2排出量削減にも期待できる。

「マグネットの磁力を活用し鉄粉をフィルターにする精密2次ろ過装置の実現」
●ショウナンエンジニアリング(推薦:日本産業洗浄協議会)

 研削・研磨加工に使用するクーラント(加工液)は、加工中に発生する熱を除去し、切り屑を加工エリアから運び出す重要な役割を担う。しかし、鉄系材料の研削・研磨加工においては、クーラントタンクのろ過機能は約40年間大きな進化はしておらず、クーラントの品質を維持する性能も大きくは向上していない。本業績では、マグネットセパレーターで切り屑の1次除去を行ったクーラントを、対向配置された強力な磁石の間を通すことで、微細な切り屑を補足集積して三次元的なフィルターとして機能させている。これにより目詰まりがし難く、砥粒等の磁力で捕捉できない微細なごみも除去可能とした。さらに、対向する磁石を移動させることで、フィルターとして使用された切り屑や砥粒を自動的に回収・洗浄する仕組みを開発した。これらの機能により、クーラントの品質を長期間にわたって維持することが出来るシステムを実現した。

 

「大規模地震発生時の水道管破断対策用革新的伸縮可とう管の開発」
●日本ニューロン(推薦:大阪大学)

 水道管の継手として、季節変化による管路の熱収縮や地盤沈下による破断を防ぐために、伸縮や曲げに強い伸縮可とう管が使用されている。この継手は、管路の屈曲部や直線部分に適切な間隔で配置されることで、その機能を果たす。特に近年大規模地震による水道管の破断が原因で、被災地における飲料水の供給が長期間途絶える事例が発生しており、伸縮可とう管のさらなる性能向上が求められている。本業績では、耐久性が高く大変位への許容度が大きいステンレス製ベローズ(蛇腹)カップリングを改良している。隣り合う山の高さを変えることで、ベローズ部に大きな曲げが発生した際、内側部分で山の頂点同士が干渉するのを回避し、より大きな変位に対応可能とした。さらに、FEM(有限要素法)解析を用いた強度計算で設計の妥当性を検証するとともに、自社開発の大型試験機を用いた強度試験および破断試験により、性能を確認した。

「麺類をほぐし、分割、盛り付けをする機械の開発」
●不二精機

コンビニやスーパー等で販売されている弁当のパスタなどの麺類は、種類が豊富で人気が高い商品である。これらの製造では、長くて柔らかい麺を切れないようにほぐし、見栄え良く容器に定量を盛り付ける必要がある。そのため、多くの工場では手作業が採用されている。しかし、茹でたての麺は約80℃の高温で、冷却後では約5℃の低温となり、いずれの段階で取り分けたとしても、作業者の手への負担が大きかった。本業績では、加熱又は冷却された麺を調理過程で絡まった状態から、櫛状の器具で髪をとかすようにほぐす機構を2段階設け、後工程で取り分けやすくしている。また、ほぐしを行うことで、麺を揃えやすくして盛り付けの見栄えを良くしている。さらに、定量に取り分ける際に麺を切断してしまうと、長さが極端に短いものが発生して商品価値を下げてしまうが、フォーク状のシャッターで麺を定量に分離することで、麺を切断せず自動で容器に盛り付けることを可能とした。

〈審査員特別賞〉
 中小企業庁長官賞および会長賞への繰り上りがあったため該当なし。

〈奨励賞〉
「生産設備の待機状態を判断し自動で低圧制御する省エネ機器」
●SMC

 製造業におけるエネルギー消費の約20%はエアコンプレッサーによるものとされており、供給される圧縮エアはエアシリンダーの動力源や清掃用エアとして使用されている。しかし、個々の機械のエアユニットはそれぞれ独立して動作しており、休止状態の機械装置にも稼働時と同じエア圧で供給されている。このため、シリンダーからのエアリークや、特定が難しい空気漏れ箇所からの流出が生じ、エアの消費管理が困難となっている。特に、EUにおいてはCO2排出削減の要求が厳しく、人手を介さずに圧縮空気の使用量を削減する技術が求められている。これに対応するため、本業績では機械装置へのエア供給を制御する圧力調整装置に、供給エアの流量・圧力・温度を検知するセンシング機能を搭載した。これにより、機械の休止を自動的に判断し、安全性を損なわない範囲で供給圧を低下させることで、エア消費量の削減を可能とした。また、親機となる装置には、上位システムへの接続が可能な通信機能と、最大10台の子機を接続できる無線機能を備えて、煩わしいケーブル配線を削減しつつ上位システムへの接続を可能としている。

「内製DXによる工程ビッグデータのリアルタイム分析と無人制御の実現」
●サンシード(推薦:関西文化学術研究都市推進機構)

 中小企業においてもDXによる省力化・自動化が求められるが、製造業では多種多様な機械装置があり、市販のDXツールでは対応が難しく、高価であった。本業績では、製造業で扱いなれている制御用のPLCをデータ収集の核として、自動生産管理データベースを構築。また、不良品の自動判別、データ化システムも内製化し、不良品の削減にも成功した。

「デジタル船上スケールの研究開発」
●田中衡機工業所(推薦:日本計量機器工業連合会)

 電子秤は揺れの影響を受けるため、漁船上で魚を正確に計量することが出来なかった。本業績では、秤の内部に設置した基準重りの測定値を用いて、被測定物の測定値を校正して船上でも正確に計量できる秤を開発した。また、漁船上ではエンジンによる振動や複雑な揺れの影響が出易いため、共振を防ぐ構造や揺れの影響が出にくい計算方法を開発した。

【支援事業】
〈中小企業基盤整備機構理事長賞〉
 該当なし

〈奨励賞〉
 該当なし

 

moldino_banner

 

GTJ2025バナー3