日本機械工具工業会 技術委員会 工具デジタルデータ活用に関する講演会を開催

 

 日本機械工具工業会(会長=佐橋 稔 住友電気工業常務)の技術委員会が7月25日、UDX秋葉原(東京都千代田区外神田)で、ドイツの工具デジタルデータ専門家でありシムソース社のマネージングディレクターのBoris Kaiser氏(以下カイザー氏)を招き、欧州の現状や標準化の状況について講演会を開いた(リアル/WEBハイブリッド)。

 カイザー氏は、10年以上ISO13399コミッティーのメンバーであり、アーヘン工科大学で情報工学を学んだ後、シムソースへ入社した。

髙橋技術委員長

 髙橋技術委員長(三菱マテリアル)があいさつをした。この中で髙橋技術委員長は、「工具デジタルデータ活用に関する講演会はⅢ回目を迎えた。最近の日本工具メーカーのホームページやカタログを拝見するとかなりISOの表記が増えてきた印象がある。徐々にISOの浸透ができてると感じている。実はISOの規格は表面、パラメーターなど細かい規格があるので、そこを理解しなければなかなかISOに対応できているのか見えない実状がある。」と標準化への課題を述べた。

 続いて司会を務めた沖田副委員長(住友電工ハードメタル)が、カイザー氏の略歴を説明し、「工具製品データのデジタル化などに大変興味を持たれていると思うのでぜひ質問していただきたい。」と活発な議論を促した。

 通訳はシムソースジャパンの永田ディレクターが行った。

工具データの必要性

Boris Kaiser氏

 シムソースは、1987年にベンチャー企業としてアーヘン工科大学で産声を挙げた企業であり2001年からウェブサイトが運営されている。現在『Tools  United』(ツールズユナイテッド)世界50社の切削工具メーカーより120万点以上の切削工具データを掲載しており、その数も増加している。

 3回目にあたる今回の講演ではカイザー氏は工具データの必要性についてスポットを当て、ISOのクラス階層に関してのほか、DIN、ISOの協力関係について説明があった。

 顧客が工具データを必要とする場合の多くは、「おそらく5,000から2万点の工具データを20社から100社以上のメーカーから仕入れ使用しているのではないか。」とカイザー氏。

 そこで必要になるのは2DのDXFや3DのSTEPファイル、パラメーター、切削条件などの情報だが、「それは品質が信頼できるものでなければならない。データを入手してユーザー側で変更などの必要の無いデータを求めているのだと思う。ユーザーが活用しているシステムに使えるデータが欲しいという点が重要で、私たちの目的はクリックしてダウンロードをしてそのまま使える、そういったデータを目指している。」と述べた。

 また、現在、工具メーカーでは、例えばD、D1は似たような情報が入っていたり、表現の仕方が違ってるという課題を挙げ、「ここに統一性がなければデータとしてCAMのほうで受け取る際に何を使ったら良いか分からなくなる。」と言及したうえで、「正しい情報をユーザーに渡し、メンテナンスを分類ごとにできるようにして作成したデータを出力するのが目的になる。」と課題を述べた。

 『Tools  United』は経験値の多いデータベースになっており、どこからも干渉されない独立したシステムでクラウドベースになっている。インターネットにつながるところであれば「どこでもアクセスできる。」とのこと。

DINとISOで未来が変わる

 カイザー氏が切削工具に関して活動しているのは、ISO13399を扱っているワーキンググループ34。約15人から20人のメンバーで構成されている。さらにDIN4000のメンバーには20年以上在籍しており、その中で「切削条件に関するアドホックグループのリーダーをしている。」と話した。

 カイザー氏は本年9月にフランクフルトで開催されるISOとDINの会議に参加するという。ちなみにDINとISOでの会議は初めて行われるとのことで、「DINとISOの将来が変わる可能性がある。」と示唆した。

 「工具データをどのように使いたいのかユーザー側の意見は大切だ。CAMで使いたいのか、それ以外で使いたいのか、さまざまニーズがある。」とし、ISOが抱える課題を次のように話した。

 「ISO13399は、約250種類のパラメーターでできているデータセットになっている。クラスはなく、必要なパラメーターを使用し工具の表現をする。とても簡単に必要なパラメーターを取って、それで工具の表現をしたらよいというもの。メリットは全てのデータは必要なパラメーターが入っているという点だ。そしてフレキシブルに特殊工具もマルチツールも表現することができる。」とした。

 一方のデメリットについては、「何がパラメーターとして登録されてくるかが分からないのが欠点。CAM側の求めてるものが入ってこない可能性も出てくる点であり、パラメーターの内容を理解するのが難しい。これが誤解を生む要因になる。」とした。

 DIN4000は既に、CAMのシステムでDIN4000のパラメーター、工具分類は、うまく使われていることが検証されているとのこと。DINのほうのパラメーターの名前、その横にISOの関連したパラメーターとシンボルが載っているという点において、既にマッピングができており、「今後は、DINの記号とISOの記号が定義として一致しているか、を検証していく必要がある。多くのソフト、システムが既にISOのユニークなシンボルを使っているっていうところもあり、このDINとISOの関連性と協力について私たちもとても楽しみにしているところだ。」と期待を込めた。

将来的なことについてカイザー氏は次のように話した。

「DINでもう既に制定していったもの、これから制定するものはISOのほうに反映されやすくなるのではないか。その一例は切削条件になるかと思う。日本側の意見もどんどん話して頂きたい。ドイツに拠点がある企業も多くいらっしゃるが、ドイツの法人からはDIN4000が欲しいと言われているが、国内のほうは国際規格のISOでやりたいのにDINをやるという苦労もあるのではないか。その辺りは将来的に変わってくると感じている。」と示唆した。

 「日本とドイツは構造が似ている。ドイツも工具メーカーが多く存在している。何かを提案・決議をする時は、話し合って決めていく。」とカイザー氏。国内外ともに切削工具メーカーはユーザーの使い勝手が良いよう常に注力している。

 

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