共連れに注意

 最近、ショッキングなニュースに、女性がオートロックを解除したタイミングに合わせて一緒にマンション内に侵入した男にエレベータの中で刺殺されるという痛ましい事件があった。これって人ごとじゃないわ、と震え上がったわよ。

 久々に更新した今回のコラムは、アポなしでマンション住人の後にくっついてオートロックを突破し、建物内に侵入してくる輩にマトモなヤツはいない、という話ね。

 今から大昔に事務所兼でセキュリティがしっかりしているマンションに住んでいたことがあったんだけど、そこに勝手に侵入してくるフトドキモノがいたのよ。思い出すのもキモチワルイのだけど、記述することにしたわ。

 このフトドキモノ(男)の名前は仮にAとしましょう。
 この男と知り合ったのは、某大学の先生主催の会だった。大学の先生といえば、よほどのことが無い限り、誰でもWELCOMEな方が多い。出席する方の目的は〝学び〟ですからね。

 その会に見慣れない30代半ばの男がいたわけ。それがAだった。AはNGOの代表だといった。一見、人の良さそうな素朴な好印象を与える容姿をしていたけれど、プレゼンの場でもないのに、学歴を鼻にかけるのと、いかに自分が凄い人物であるか、ということを上から目線で延々と話す、ま、身もフタもない言い方をすれば、嫌な奴だったわけよ。そのくせ、清潔感がまるでないので、違和感があったのね。ま、わたしも人に会うのが商売ですからね、危険を察知するセンサーも、鬼太郎の髪の毛のごとくビンビンに反応してさ、(近づくな)と脳内から指令をしているわけだけど、清潔感のなさも、飾り気がない、と思えばそれはそれでメリットに思えたのは当時、わたしがまだ未熟だったせいね。

 時代はレイアウトの完成度はともかく、どんどん会社のホームページが立ち上がった時代。Aはわたしの事務所のHPに目を付けた。

 「僕はホームページの専門家なので、無料でやってあげますよ。」と。

 タダより怖いものはないので、その場でお断りしたにもかかわらず、これがしつこいのなんのって。トゲがささらぬよう、のらりくらりと交わしていても、大量のメールを送りつけてくる。いかにHPが大切かを力説し、あまりにもしつこいので結局、根負けした形になり「じゃあお願いします。」と返信してしまったのね。

 ここがわたしの甘さだったわけでもあるんだけど、これがとんでもないことに発展するワケよ。

 2~3度会ったうち、Aは住人にくっついてオートロックのマンション内に断りもなく侵入してくるようになった。しかも、アポなしで。住人にくっついてオートロックを突破することを「共連れ」というんだけど、この手法で昼夜のみならず、深夜0時など、常識を逸脱した時間にやってくる。夜中に電話が来たと思えば「いま、仕事の話いいですか? 現在、建物内にいるのでドアを開けてください!」と、夜中にアポなしでやってくる非常識をなんとも思わないとなると、めちゃくちゃ怖い。

 つか、こちらは親しくもないAと夜中にしなければない仕事は1ミクロンもないわけだ。ドア越しに、「どうやってオートロックのマンションに侵入してきたの?」と尋ねると、「住人にくっついてきた。」と悪びれもなくサラッと言う点が怖い。悪気がないから非常識なことをしているという自覚がないのでもっと怖い。

 「アポなしで夜中にオートロックを突破しマンション内に侵入することは非常識なことで迷惑だ。」と、本当は怒鳴りつけてやりたいところ、逆上されても怖いのでグッと堪えて、刺激しないようやんわり注意をしても、「あなたが困ってるっていうから来てあげたんです。なにが悪いんですか?」と、驚くような返事に、膝から崩れそうなほど驚いたわたし。そもそも親しくもないAに「夜中に来てくれ。困っている。」と相談したことは一度もない。Aの脳内の中では、わたしが夜中に助けを求めているという、勝手な思い込みによる物語が出来ていたようだ。

 追い返しても、また数日後、共連れ法でオートロックを突破してやってくる。あるときは、「食事が不規則でしょ。僕がつくってあげるよ。食料を買ってきたんだ。」ということもあった。オマエ、いつからわたしの彼氏になったんだよ、距離感、バグってるだろ! 

写真は筆者所有のフィギュアによるイメージです

 いつやってくるか予測不能な危険にさらされ、深夜に玄関のチャイムが鳴ったときの恐怖は、まるでシャイニングのジャック・ニコルソンに遭遇した感じといえばお分かり頂けるだろうか。

 あまりにもしつこいので、「一連の行動を受け入れることはできない。」と強めに示してみたところ、今度はメールで怒りの感情を1日中、大量に送りつけてきたではないか。非常識で困っていることを、いくら説明してもAは都合良く事実を脳内変換するので説得ができない。これは困った。

 しまいにゃ、「親切心で教えてやってるのに僕のいうことがなぜ分からない? 僕は大手企業とも繋がりがあるんし、暇じゃないんだ。」と小規模事業主のこちらを見下して恩着せがましく言ってくるので非常に気分が悪いうえ、「僕は共同経営者の気持ちでいる。」とこれまた気持ちの悪い主張をしてくる始末。

 ふぁっ!? どんな思考してんだよ。つか、親しくもないAの飛躍した思考に論理性はみじんも感じられず、困り果て、面会を拒否した。面会を拒否したのは、Aの気持ちの悪さはもちろんのこと、業務についてもこちらの望んだことはほとんど無視され、仕事として成り立たないと判断したためだ。

 仕事の関係上、メールのやり取りは必要なものであり、メールの量は相当のものになる。業務に追われているときに、Aからのなんの役にも立たない膨大な悪口とともに面会を求めるメールを受信しなければならず、精神的にも非常に苦痛を味わうことになったわたし。1日に何度も役に立たない大量の悪口メールを送りつけてくるヤリ手なんて見たことがないぞ。この嘘つきめ!(←心の声)とイライラして作業中、キーボードのENTERもついつい強めにぶっ叩いてしまう日々が続いた。

 そうしてこの一連の騒ぎにとうとう終止符を打つ日がやってきた。友人や身内に来てもらい見守りをしてもらうハメになったあと、最後に身内がうまくAを退治してくれ、その後、Aとは接触することなく引っ越しをすることができたのだ。

 Aのようなヤツの怖さは、現実を見ず、想像の中で関係を作り上げている点が異様で気持ちが悪く、相手の意思を無視したうえで一方的に事実を脳内で変換、都合の良い物語をつくって粘着質にやってくる点だ。

 こういうAのような人間に遭遇した場合、残念ながら話が通じないので、個人同士で話し合っても良い結論はほぼ出ないだろう。現実の証拠を残したうえで、警察や信頼できる知識人に相談するのが、絶対とは言い切れないものの、個人で解決するよりも安全だと感じた次第。とまあ、大昔に体験した話でした。

 

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