古河電工と東京大学 宇宙空間での実証実験衛星「ふなで」打ち上げ

写真左:東京大学 大学院 工学研究科 中須賀教授 右:古河電工 枡谷常務

 

 古河電気工業(社長=森平英也氏 以下古河電工)と東京大学大学院工学系研究科(研究科長:加藤泰浩氏)は、このほど、2023年に同大学内に開設した社会連携講座「小型・超小型衛星におけるビジネスエコシステムの創成」(講座長:中須賀真一 航空宇宙工学専攻教授)を通じて設計開発した実証衛星「ふなで」を2026年10月に打ち上げ、古河電工製人工衛星用コンポーネントの起動実証と、東京大学が県境を進めるフォーメーションフライトの基礎運用実証を行うと発表し、古河電工本社で会見を開いた。

 同社では、「近年、世界の宇宙産業の市場規模は約54兆円に拡大しており、今後も様々な分野や用途での医療に伴う市場拡大が期待されている。人工衛星市場では大型衛星に比べて低コストかつ短期間で開発が可能な小型・超小型衛星の利用拡大が期待されている。」とし、特に地球観測や通信インフラの構築などのミッションで多数の衛星を利用する小型衛星コンステレーションにより、衛星開発数が爆発的に拡大すると見ており、「迅速な設計対応や安定的な製造技術は今後の宇宙産業の重要な競争力の源泉となる。」と述べている。

 古河電工と東京大学は2023年4月に同大学内に社会連携講座を開設し、今後大量に製造が必要になる小型・超小型衛星および搭載する各種コンポーネントの設計・開発を中心とする技術習得、より効果的で付加価値の高い人工衛星製造・供給体制の構築に向けた諸課題の検討に取り組んでいた。

「ふなで」 ネーミングの由来と仕様

 衛星名「ふなで」に込めるコンセプトは、「船出」を想起し、社会連携講座の成果とパートナーシップを示すだけでなく、古河電工の人工衛星初号機として宇宙での実験成功と今後の事業発展を祈念して命名したもので、古河電工のFUrukawa、中須賀デモンストレーションサテライトのNAkasuka DEmonstration satellitesの頭文字をとっている。

 「ふなで」のサイズは、4UCubeSat(110mm×123mm×499mm)。質量は16kg以下。軌道は太陽同期軌道で軌道高度は500km。これを2機、2026年10月にアメリカから飛ばす予定だ。ミッションは次の通り。

(1)    自社開発コンポーネントの起動実証
(2)    超小型衛星の製造技術、運用技術の習得
(3)    フォーメーションフライトの基礎実証

 会見の席で、古河電工の枡谷義雄常務は、自社開発のコンポーネントについて「サーマル技術を用いた『ヒートパイプモジュール』、メタル技術を用いた高耐久性アルミ電線『EFDURAL®』、高周波エレクトロニクス技術で『Sbanndo 送受信機(S-TRAx)』と『On-Boare Computer』の4つを搭載する予定となっている」と説明した。

 今までは宇宙開発分野は公的機関が主導してきたイメージが強かったが、枡谷常務は、「民間企業がイニシアチブを取る形で現在、急速にビジネスとして生まれ変わりつつあると考えている。今や宇宙は特別なものではなく身近な存在である。」と新たな産業の創出が手を伸ばせば届くところに来ていることを示し、方針として、「宇宙を身近な社会インフラにするため、国産小型、超小型衛星の供給力強化と利用機会の促進が重要になる。」との認識を述べた。

 衛星搭載のコンポーネントについては、地上に用いた民生部品を用いて、高信頼性で量産可能なものであるものを搭載し、衛星製造の領域では、高品質かつ大量に製造できる量産製造技術が重要だと考え、地上の社会課題を宇宙から解決するなど新たな価値創造に向け、社会実装をしていく方針。また、小型衛星と超小型衛星の量産供給を整え、地上サービス、要素技術を衛星技術と組み合わせて新たな価値である衛星観測データを用いた社会インフラの維持管理領域にも踏み込み、構築していくことを現在検討中だという。

 東京大学の中須賀教授は会見で、「宇宙産業の新しい潮流と狙い目で、現在、政府を中心に宇宙は非常に大きな産業の伸びる時期にある。それは政府の様々なプロジェクトだけでなく、民間、特にスタートアップや大企業、これまで宇宙産業に参入していない企業がたくさん宇宙に参入し、それらによって新しい宇宙開発利用の世界から産業が展開されようとしている。」と述べたあと日本政府の宇宙開発利用の全体像を説明した。具体的には、「輸送系の基幹ロケットH3は7号機の打ち上げに成功し、測位衛星は、日本版GPSはすでに3センチから4センチほどの精度で位置が分かる。また、地球観測、通信放送、日本が非常に強い宇宙科学探査など、令和7年度も宇宙予算は1兆円近い。政府が宇宙利用の強化と基幹産業化に向け、本気になっている。」と意気込みを示した。

古河電工による人工衛星向けコンポーネントの軌道実証 
 

■ヒートパイプモジュール
 氷点下でも作動し、勝逆作動(トップヒート)条件下でも優れた熱伝導性能を持つヒートパイプモジュール。空気対流による放熱ができない宇宙空間での熱マネジメントに最適。

■Sバンド送受信機(S-TRx)
 超小型衛星にも搭載可能なサイズと重量で、複数の変復調方式に対応し、かつ高速通信可能な高いビットレートを備えたSバンド送受信機。地上からの迅速な指令や高度なミッションの達成に貢献。

■On-Boare Computer(OBC)
 軌道上での書き換えも想定した高い信号・計算処理能力を持つ。多彩な構成・ミッションの衛星の迅速な開発を支援。

■高耐久性アルミ電線『EFDURAL®(エフジュラル)』
 古河電工独自のメタル技術により、微細な結晶粒を持つ新たなアルミニウム合金線材。強度を純アルミニウムの2倍以上、耐振動性・繰り返し屈曲性を100枚以上まで高めつつ、曲げや撚り加工などの成形性を両立。
 

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