【令和8年 年頭所感】 赤沢亮正 経済産業大臣

〈はじめに〉
令和8年の新春を迎え、謹んで新年の御挨拶を申し上げます。昨年は、岩手県大船渡市で発生した林野火災や度重なる豪雨・台風、青森県東方沖を震源とする地震をはじめとして、多くの自然災害が発生した一年でした。被災されたすべての皆様にお見舞いを申し上げるとともに、なりわいの再建に全力を尽くします。防災は私のライフワークであり、国家の生命線に関わる課題と考え、心血を注いで取り組んできました。天災は忘れる間もなくやってくるものであり、次の災害に十分に備えていきます。
我が国経済がおかれた状況
世界では、米国の関税措置や、米中欧をはじめ各国による自国優先の大規模な産業政策の展開など、自由主義経済に代わる新たな国際秩序が生まれようとしています。国内に目を向けると、賃上げや国内投資が約30年ぶりの高水準となり、名目GDPも600兆円の大台を超えるなど、日本経済に明るい兆しが現れています。
他方で、我が国は人口減少や少子高齢化という構造的要因に直面しております。労働力人口の縮小は、生産能力の低下を通じて供給面に制約をもたらします。加えて、世界的な資源価格の変動など、外部要因も重なり、インフレ圧力が高まる懸念があります。
こうした状況の中では、官民の投資により、日本経済の供給力を高めることが、需要と供給のバランスや物価の安定に繋がっていきます。米国の関税措置などの国際秩序の変化に対応しつつ、現下のマクロ経済環境認識を踏まえて、高市内閣が目指す「強い経済」を実現していくために、供給力の強化や輸出拡大も含めた経済産業政策、成長戦略の重要性がますます高まっています。
物価高対策
まずは、高市内閣の最優先課題である、物価高対策に取り組みます。物価高に苦しむ多くの国民、事業者の皆様に、一日も早く物価高対策の効果をお届けできるよう、令和7年度補正予算の迅速な執行に努めてまいります。
高市総理からの極めて強い思いがこもった補正予算の早期執行の指示を受け、私は昨年12月19日に経済産業省の会議を緊急で開催し、関係局長に対して直々に、例年にないスピードで予算執行を急ぐとともに、施策を周知徹底するよう、指示を出しました。この1月にも、補正予算の執行状況を関係部署から報告させ、フォローアップするとともに、進捗状況を私自ら発信していきます。
具体的には、寒さの厳しい冬の間の電気・ガス代支援として、標準的な家庭で1月から3月までの3か月で7,300円程度、特に、寒さの厳しい1月と2月は、それぞれ3,000円を超える支援を行ってまいります。ガソリンについては、補助金を段階的に拡充し、昨年末に暫定税率を廃止いたしました。軽油については、本年4月1日に暫定税率を廃止する方向です。
物価高を乗り越えて「強い経済」を実現するためには、物価上昇を上回る賃上げを実現しなければなりません。中小企業・小規模事業者が、最低賃金の引上げへの対応を含む賃上げの原資を確保できるよう、従来から、価格転嫁対策・取引適正化やデジタル化・省力化による生産性向上、事業承継・M&A等による事業再編を支援してまいりました。今般成立した令和7年度補正予算も活用し、こうした取組をさらに力強く支援していくことにより、労働供給制約社会において、「稼ぐ力」を高め「強い中小企業・小規模事業者」を目指して経営を行っている中小企業・小規模事業者を全力で応援してまいります。
具体的には、価格転嫁対策については、中小企業等が事業の正当な対価を得て投資や賃上げの原資を確保するために、官公需も含めた取引適正化を徹底します。特に、1月1日に施行された中小受託取引適正化法(取適法)に基づき、新たに規制対象とされた、協議に応じない一方的な代金決定の禁止等を徹底するとともに、受託中小企業振興法(振興法)に基づき、サプライチェーンにおける多段階の事業者が連携する取組を支援してまいります。
さらに、労働供給制約社会における、中堅・中小企業の「稼ぐ力」の強化に向けて、昨年よりも3,000億円増額した8,364億の補正予算と既存基金を併せ、総額1兆1,300億円規模の支援を実施します。中堅企業や売上高100億円を目指す中小企業の成長投資や、中小企業・小規模事業者の生産性向上に向けた取組、事業承継・M&A等による事業再編を徹底的に支援するとともに、伴走支援体制も強化します。「強い中小企業・小規模事業者」への行動変容を促し、張り切った人が報われる社会、現状維持ではなく、変化に挑む企業や人が報われる方向に軸足を移していきたいと考えています。
危機管理投資・成長投資による強い経済の実現
「危機管理投資・成長投資」は、高市内閣の成長戦略の肝です。強い経済を実現するため、AI・半導体や量子、バイオ、航空・宇宙、エネルギー・GXなど戦略分野を中心に、大胆な設備投資や研究開発の促進など、総合的な支援措置策を早急に検討し、官民の積極的な投資を引き出します。
具体的には、AI・半導体については、今後Rapidus株式会社に対して1,000億円を出資する考えです。こうした取組を通じて先端半導体の国内生産基盤を整備してまいります。また、AIを活用したロボットについても、新しい市場を開拓し、社会実装を進めるための取組を進めてまいります。
量子についても、約1,000億円の補正予算を確保し、次世代量子コンピュータの開発を加速させ、国際競争力ある産業化を目指します。
エネルギー分野では、DXやGXの進展で電力需要が増加する中で、安全性確保と地域理解を大前提として、原子力を最大限活用します。ペロブスカイト太陽電池、洋上風力、地熱等の再生可能エネルギーは、エネルギー自給率の向上に寄与するエネルギーであり、地域共生を前提として導入を進めます。一方で、安全、景観、自然環境等の観点から、環境アセスメントの対象拡大や電気事業法の執行強化など厳格な対応を検討するとともに、2027年度以降の新たなメガソーラーへの支援は廃止を含めて検討するなど、経済産業省として適切に対応してまいります。
資源調達先の多角化にも注力しつつ、国産資源開発も進めます。日本のエネルギー制約を抜本的に変えうるフュージョンエネルギーや、次世代革新炉の早期の社会実装も目指します。
コンテンツ産業は、既に半導体を上回る海外売上5.8兆円を実現していますが、2033年には20兆円に拡大すべく、コンテンツ産業の海外展開を支援してまいります。
「新技術立国・競争力強化」の担当大臣として、昨年末の税制改正大綱に盛り込まれた、即時償却等の大胆な投資促進税制の創設や戦略的に重要な技術領域における研究開発税制の重点強化、官公庁による新技術の調達等、日本に強みがある技術の社会実装の推進や日本の勝ち筋となる産業分野の国際競争力強化に資する取組を進めてまいります。
さらに、ディープテックスタートアップの研究開発・事業化の支援や政府による調達の拡大、地方大学発・高専発スタートアップの育成強化に取り組みます。
対外経済政策・経済安全保障
昨年7月22日に成立し、9月4日に関連する大統領令等が発出された日米間の合意について、昨年の高市総理とトランプ大統領の会談結果も踏まえ、引き続き誠実かつ速やかに実施します。
国内への影響については、日米関税交渉を通じて、5兆円超毎年課されるはずの関税を2兆円超削減したこと、そして他国に負けない交易条件や予見可能性を確保したことについて、一定の評価を頂いています。
しかしながら、一定の税率が残っているのも厳然たる事実であり、自動車をはじめ様々な産業への影響に適切に対応する必要があります。中小企業向けの資金繰り支援や国内市場の活性化を進めます。
5,500億ドルの戦略的投資イニシアティブの具体化を通じた米国市場の開拓に取り組みます。日本政府が主導する米国への戦略的投資に係る融資保証を実施するための手当として、株式会社日本貿易保険(NEXI)に対して約1,000億円の出資を行い、さらに交付国債の措置も講じることで、財務基盤を強化します。
日米は特別なパートナーであり、両国が協力して、経済安全保障上、重要な分野のサプライチェーンを構築することで、日米両国の経済を力強く成長させ、我が国の国益を最大化します。
米国関税対応など米国との調整を進めていくのと同時に、CPTPPやAPEC、AZEC等の様々な枠組みを通じて、有志国と連携した自由貿易と法の支配の取組を進める、ハイブリッドな通商戦略を展開します。グローバルサウスを含む新市場の開拓を一層推進していきます。
経済安全保障の観点では、レアアースや半導体等の重要な物資について、特定の国に過度に依存することのない強靱なサプライチェーンを構築することが重要です。官民が一体となった国内生産力の強化や供給源の多角化、国家備蓄の強化等を強力に進めます。
福島の復興
本年は、東日本大震災から15年を迎えるとともに、第3期復興・創生期間が始まる節目の年です。
福島の復興なくして東北の復興なし、東北の復興なくして日本の再生なしとの思いは変わりません。
福島の復興と東京電力福島第一原子力発電所の安全かつ着実な廃炉は、経済産業省の最重要課題であり、着任後すぐに福島県に足を運びました。廃炉の進捗を確認するとともに、知事や被災自治体の首長の皆様とお会いして、私自身が先頭に立って、現場主義を徹底し、福島の復興に最後まで責任を持って取り組んでいく決意をお伝えしました。
引き続き、安全かつ着実な廃炉とALPS処理水の海洋放出や、避難指示解除に向けた取組、事業・なりわいの再生や新産業の創出などに、全力で取り組んでいきます。能登半島地震と豪雨災害からの復興についても、伝統産業を含めて被災した事業者のなりわいの再建を支援します。
おわりに
私の信念は「力を合わせて世界を変えよう!」です。経済産業省が掲げるミッション・ビジョン・バリュー(MVV)には「未来に誇れる日本をつくる。」とあり、私の信念に通ずる部分があります。
今年の干支である「午(うま)」はスピード感や力強さの象徴です。高市総理も、総裁就任時に「働いて ×5 まいります」と仰っていましたが、干支にちなんで、私も「馬車馬」のように働き、全身全霊で職務に取り組んでまいります。
本年も、経済産業政策に対して、より一層の御理解と御協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。


