精密機械好きにはたまらない! 世界最高峰の時計師が東京・渋谷に集結 ~国内初「時の技巧展」~

 

匠たちのデモンストレーションにしびれる

世界最高水準の技巧を前に興味津々の来場者

 

緻密な部品を組み上げる川内谷氏

 このイベント最大の見どころは、世界最高水準の技巧をデモンストレーションとして間近で見学できる点だ。セイコーウオッチに在籍するグランドセイコーの時計師・川内谷氏が手掛けた「Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨン」は、GPHG2022クロノメトリー賞を受賞している。さらに川内谷氏は2023年に「現代の名工」にも選ばれている。

 会場では、その「Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨン」の組立実演が行われ、精緻な部品を組み上げていく一連の工程を、来場者は至近距離から見学できた。世界的評価を受けた時計が形になっていく瞬間を共有できる体験は、このイベントならでは。

限られた厚みの中で金属を削る小川氏

 クレドールのエングレービング・マイスターである小川氏は、「立体感を伴う彫金技術」に定評のある彫金師だ。手彫り技術で金属表面に緻密な彫刻を施していく。ムーブメントの中でも彫金が施される最薄部は、わずか0.25mmしかないという。その薄さを前に来場者からは驚きの声が上がっていた。この限られた厚みの中で、奥行きを感じさせる表現を成立させる点が、小川氏ならではの技術のキモである。

 使用する工具は市販品では対応できないらしく、「全て独自で開発した専用品」と小川氏。素材の抵抗を指先で感じ取りながら少しずつ金属を削り出していく。もちろん加工はやり直しが許されない。印象的だったのは筆者の質問に応じながらも、加工のリズムを崩すことなく作業を続けている点だ。これこそ彫金技術の成熟度を如実に物語っていると言っても過言ではないだろう。

 「大塚ローテック」の創業者の片山氏は24年に現代の名工に選定されており、GPHG2024において、3000スイスフラン以下の時計を対象としたチャレンジ部門では、「6号」がグランプリを受賞、片山氏が手掛ける独創的なデザインは世界中の時計愛好家が注目しており、現在、最も入手困難な時計として話題を集めている。

竜頭を加工する片山氏

 会場では片山氏が竜頭を加工する様子が披露された。その手元に迷いはなく、寸法や仕上がりを意識しながら無駄のない動きで加工を進めていく。竜頭は操作性と耐久性の双方が求められる重要な部品であるため、わずかな加工精度の差が時計の完成度に左右する。そうした重要部品を安定した所作で加工する姿から、力加減が身体ですでに覚えているのだろうと感じた。来場者は手慣れた動きの奥にある経験の積み重ねに引き込まれ、片山氏のものづくりへの想いを間近に感じ取っていた。

 今回レポートした国内初の『時の技巧展』は、完成された腕時計を単に並べる場ではなく、腕時計という最小の精密機械に内包された高度な技術と思想を、実演と展示を通して立体的に訴求しており、世界で活躍する時計師たちの設計思想や加工技術を知ることができた。腕時計という完成品だけでなく、その背後にある工程にも光を当てたことに意義は大きく、ものづくりの可能性を静かに示していた。
 

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