JTA環境調和製品が切り拓く、機械工具業界の未来 ~日本機械工具工業会の認定制度~ 『TAS14021:2025 JTA環境調和製品基準(JTA ECO PRODUCT Standard)』
(一社)日本機械工具工業会(以下JTA:Japan Cutting & Wear-resistant Tool Association)は、業界独自のエコラベリング制度として長年にわたり運用してきたJTA環境調和製品の認定基準、申請手続き、評価方法、及び環境ラベルの表示方法等を体系的に整理・定義し、日本機械工具工業会規格(TAS:Tool Association Standard)TAS14021:2024 JTA環境調和製品基準(JTA ECO PRODUCT Standard)の名称で2024年12月6日に制定・業界内外に公表した。その後、2025年11月21日には一部改正が行われ、最新版は「TAS14021:2025」である。TAS14021は、環境視点に基づく最初のTASであると同時に、機械工具カテゴリにおける唯一の環境配慮型製品の認定制度であり、他の主要国においても類例を見ない。本稿では、TAS14021制定の経緯、評価基準の構成、及び今後の制度的展望について概観する。
〈文:(一社)日本機械工業会 環境調和製品基準評価委員会 浅井純(エフ・ピー・ツール(株)〉
環境ラベルの国際的文脈
国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)では1993年に環境マネジメント分野の規格制定を目的として、207技術委員会(TC 207:Technical Committee 207)が組織された。TC 207が所管するISO規格群には14000番台の番号が付与されており、その中でも、「環境ラベルおよび宣言(Environmental labels and declarations)」シリーズには14020番台が割り当てられている。JTAが制定した「TAS14021」の規格番号もこの分類体系に由来している。参考としてISOの標準化で採用されている環境ラベルの種類と性格を表1に示す。なお、JTAは制度運営において独自の評価体制を有しているが、資金面および構成要員の独立性の観点から、ISOに基づく「第三者」には該当しない。
表1-ISO標準化における各種の環境ラベル
制度の履歴
TAS14021は、JTAの前身団体の一つである超硬工具協会(JCTMA:Japan Cemented Carbide Tool Manufacturer's Association)によって創設された「環境調和製品認定制度」を母体としている。2000年代初頭、JCTMA環境委員会では、地球温暖化対策の要請、希少資源の枯渇リスク、新たな化学物質規制への対応など国際的な情勢変化を背景に、業界の持続可能な発展を支える制度の構築が必要であるとの認識を深めていった。そして2004年より本制度の構想が始動した。制度設計に際しては、前述のISO14021を参照しつつも、生産材である機械工具固有の特性を考慮した独自の評価指標が導入された。2007年6月15日には第一回認定会議が開催され、これを皮切りに制度の正式な運用が開始された。
その後、JCTMAは日本工具工業界(JSCTA:Japan Solid Cutting Tools' Association)と統合し、2015年6月3日にJTAが設立された。この組織再編に伴い、当該認定制度はJTA環境委員会に継承され、現在に至るまで定常的に運用されている。すなわち本制度は、構想段階から数えて20年以上の歴史を有しており、JTAへの移行後も10年を経過する中で制度的成熟を遂げてきた。
評価基準および環境ラベル
TAS14021による認定方式は、「製品基準」及び「企業基準」の二層評価に基づくフレームワークを採用し、総得点に応じた認定ランク(環境ラベル)が付与される。評価項目および配点を表2に示し、評価結果に基づくランク区分を表3に示す。また、ランクに応じた環境ラベルを図1に示す。
表2-AS14021の評価項目及び配点

表3-TAS14021の環境マーク評価基準

図1-環境ラベル

設計思想
表2の通り、製品自体の環境負荷低減の特性に着目した「製品基準」に加え、企業の事業活動全般を対象とする「企業基準」の両面からの評価が求められる。これは、機械工具製造業のビジネスモデルに起因する。機械工具製品の環境影響は、顧客の使用段階に限定されるものではなく、原材料の調達、製造工程、物流、さらには廃棄およびリサイクルに至るまで、バリューチェーン全体にわたって発現する。従って、機械工具固有の価値提供と、その背景にある環境外部性との両立を図ることが、製品の地球環境保全への総貢献度を評価する指標となると考えた。さらに、事業活動の各プロセスを「地球環境保全」という視点で有機的に連携させることで、環境調和製品の創出に向けて、各部門が主体的に取り組むべきであるという認識が明瞭になることを意図している。なお、本制度はJTA会員以外の企業でもエントリー可能である。
将来の展望
これまで述べてきた通り、JTA環境調和製品は、機械工具業界における環境配慮の取り組みを制度的に支援するものであり、持続可能な社会への貢献を可視化したものと位置づけられている。しかしながら、環境マーケティングの観点から注目を集めてきたとは言い難い。
その背景には、機械工具は実用本位のカテゴリであることから、化学物質の含有情報など法規制に関わる事項を除けば、環境要素が製品選定の市場メカニズムの中で優先されてこなかった事情がある。とはいえ、ここ数年で情勢は様変わりした。カーボンフットプリント(CFP:Carbon Footprint of Products)やプラスチック製ケースの環境負荷低減など、業界に対する社会からの要求はますます多様化し、JTAでは環境対応がビジネス要件となるのは既定路線として受け止められている。
こうした潮流もあり、JTAでは環境ラベルの認知拡大の一施策として、2023年に環境省(大臣官房環境経済課)が所管するwebサイト「環境ラベル等データベース」にJTA環境調和製品の情報を掲載した。こうした見直しを契機として、認定制度はJTAの内部手順書としての位置づけから、公式に規格化して会員外にも公開する方針へと転換した。情報へのアクセス解放は、市場理解を深める試金石となる。今後は多方面からより多くのフィードバックを把握し、それを制度設計に反映することで、双方向の環境コミュニケーションが促進され、JTA環境調和製品及び環境ラベルの付加価値がさらに高まり、新たなステージへと進化していくと思われる。



