大澤科学技術振興財団 平成24年度助成課題②(国際交流助成)
大澤科学技術振興財団(理事長=大澤輝秀オーエスジー会長)が、9月28日オーエスジー グローバルテクノロジーセンター(愛知県豊川市一宮町)で、「平成24年度助成費贈呈式」を開いた。2012年(平成24)年度、トップ記事に続いて、国際交流助成11件をここに紹介する。
K-1 2012年MRS秋季学術講演会(アメリカ)
・松室 昭仁 愛知工業大学・工学部 教授
発表課題:Fabrication of Nanostructures of Low-Resistivity Silicon Wafer with High-Aspect-Ratio Using Carbon Nanotube Probe of Scanning Tunneling Microscope
ナノテクノロジー、新材料応用、半導体デバイス開発等の先端開発技術の国際会議として最も権威があり最大規模である当該会議において、カーボンナノチューブ(CNT)を加工工具として捜査型トンネル顕微鏡によるトンネル電流により応用上重要なシリコンウエハへ創成されたナノスケールかつ高アスペクト比を有する構造体の特徴と、さらに透過型電子顕微鏡を用いて加工部周辺の組織の時間経過に伴う原子レベルの変化を観察できるその場観察手法を確立し、本方法による加工原理の解明につながる重要なせいかについて発表を行う。発表の要点は以下である。従来のタングステン探針に、CNTを1本その先端に付着固定できる電気泳動と表面張力を利用した簡便な引き上げ法を開発しCNT加工工具の高い生産性を有する作製技術を確立した。本CNT工具を用いて従来の8倍程度の高アスペクト比のナノメートルスケール3次元加工(点、線、面加工の凹凸加工)を実現できた。加工原理として、凹加工に関しては電界蒸発、凸加工に関してはCNT工具の局所的温度上昇と電界に伴う原子拡散のマイグレーションが示唆された。
K-2 2012年機械産業工学に関する国際会議(ドイツ)
・和田 任弘 奈良工業高等専門学校 教授
発表課題:Tool Wear of Titanium/Tungsten/Silicon/Aluminum-based-coated End Mill Cutters in Milling Hardened Steel
本年9月にドイツのベルリンで開催されるInternational Conference on Mechanical and Industrial Engineering(ICMIE 2012)(機械・産業工学に関する国際会議(ICMIE 2012))は、今年で第33回目になります。本国際会議は、機械・産業工学のあらゆる部門についての研究者および技術者が有する研究、技術成果を交換し、実践的な課題について議論することが目的です。本年も表面のコーティング技術に関する分野で活躍している研究機関、学界などの研究者、科学者や産業界の技術者が出席し、情報交換が行われます。主なトピックの一つに、製造技術に関するテーマがあり、申請者は、このセッションで、Tool Wear of Titanium/Tungsten/Silicon/Aluminum-based-coated End Mill Cutters in Milling Hardened Steel(焼入れ鋼のフライス切削におけるTi/W/Si/Al基コーテッドエンドミルの工具摩耗)のテーマで発表するとともに、世界有数の研究者、科学者や産業界の技術者と意見交換をし、切削技術分野の先端科学技術に触れることを主目的とします。
K-3 2012年アジアの鉄鋼に関する国際会議(中国)
・長坂 明彦 長野工業高等専門学校 教授
発表課題:Effect of Carbon Content on Burring and Tapping in Ultrahigh Strength TRIP Sheet Seels
2012年アジアの鉄鋼に関する国際会議(Asia Steel 2012)は、、2012年9月24日~9月26日、中国北京市にある北京国際コンベンションセンターにおいて、中国金属学会等の共催により組織される。アジアの鉄鋼に関する国際会議は2000年に中国で開催されて以来、今回が第5回と続く国際会議である。発表者は『超高張力TRIP鋼板のバーリング・タッピングに及ぼす炭素添加量の影響』と題して口頭発表を行う。これまでに、自動車用超高張力TRIP鋼板の伸びフランジ性に関する研究報告はあるが、極めて成形の厳しい980MPa超級高張力TRIP鋼板のバーリングおよびタッピング加工に関する報告はほとんどない。
そこで本研究では、超高張力TRIP鋼板をフロードリル(Flowdrill)でバーリング加工することで、車体軽量化と部品点数を削減することを目的として、ナットレスを実用化し、その高サイクル疲労特性等を検証し、実用部位を検討した。
供試鋼には、600MPaから1100MPaと強度レベルの異なる(0.1-0.4)C-1.5Si-1.5Mn(Mass%)を有するTRIP鋼板(板厚1.2mm)を用いた。バーリングにはWC合金製のフロードリルを、タッピングにはOSG製の転造タップをMCにそれぞれ装着し、加工した。また、バーリング後およびタッピング後の高サイクル疲労試験(応力被:0.1、引張り-引張りの片振荷重制御)を行い、TRIP鋼板の疲労特性に及ぼすタッピングのメカニズムを解明した。
K-4 第15回先端的材料と処理技術に関する国際会議(オーストラリア)
・古谷 克司 豊田工業大学・工学部 教授
発表課題:Prototype Design of Wire-sawing Machine for Preliminary Experiments to Lunar and Planetary Exploration(月惑星探査を目指した予備実験のためのワイヤソー切断装置の背計・試作)
本口頭発表では、まず、次世代月惑星科学探査で、岩石のその場観察の前処理として試料表面を平滑化する方法としてワイヤソー切断法の適用を提案する。次に、高真空環境における加工実験を行うための加工装置構成および加工結果の例について紹介する。
真空である月では、加工中に発生する熱や凝着などによる工具損傷が大きいため、ソーワイヤのように新しい切刃が常に供給される工具が有効であると期待できる。長尺ワイヤが搭載できるように、2つのボビン間でソーワイヤを往復させる構成とした。玄武岩を試料として切断した結果、真空中の方が加工量が少なかった。ソーワイヤ表面に静電気により切りくずが付着したことが原因の一つと考えられる。本会議は、機械加工以外の、たとえば材料物性やトライボロジー等の様々な分野の研究者が集まるため、多方面からの活発な討論が行えることが期待できる。これを基にして、本研究をさらに発展させる。
K-5 第13回プラズマ表面工学国際会議(ドイツ)
・野瀬 正照 富山大学・芸術文化学部 教授
発表課題:A Nobel Technique of Fabricating Nitride/Oxide Nanocomposite Coatings(Using Differential Pumping Co-Sputtering System)
プラズマを利用した表面改質技術、薄膜、表面・界面の分析など、プラズマ利用技術と表面全般に関した伝統ある当会議において、窒化物と酸化物からなるナノコンポジット膜の新しい成膜技術について発表を行う。
切削工具に用いられる従来の硬質膜は、窒化物膜が主流であるが、耐酸化正は不十分である。窒化物微結晶を非晶質酸化物が覆う構造のナノコンポジット膜ができれば耐酸化製に優れた保護膜が実現するのではないかと考えられる。このために、窒素雰囲気と酸素雰囲気の異なる成膜雰囲気が互いに混合せずに成膜できる差動排気型同時成膜装置を開発した。本装置では左右のチャンバー間の雰囲気相互流入は無視できる程度に小さいことを明らかにした。また、AlNとSiO2やAl2O3などとの複合膜では、一定割合の複合化で硬度がピークを示すことが分かった。またこれらの膜では、窒化物を取り囲む酸化物のネットワーク構造が成形されていることを高分解能電子顕微鏡で確認した。大学や研究所だけでなく、成膜装置・工具等の企業研究者・技術者も多数参加する本会議で発表し、上記成果について真摯な議論を行うとともに関連分野の最新知見を得る。
K-6 加工プロセスと工作機械の相互作用に関する第3回国際生産加工アカデミー会議(日本)
・社本 英二 名古屋大学・大学院 教授
助成対象の国際会議の概要
本国際会議は、CIRP(国際生産加工アカデミー)に正式に認められた会議であり、びびり振動や熱変形など、加工プロセスと工作機械との相互作用が重要となる研究トピックスに焦点を絞って、ドイツのハノーバー大学Denkena教授2008年に組織したものである。
第1回会議を2008年にハノーバーで開催し、その後、カナダのブリティッシュコロンビア大学Altintas教授が委員長となってバンクーバーで第2回会議を開催した。これらの会議には、両氏を初めとして、ドイツのアーヘン工科大学Brecher教授およびKlocks教授、カリフォルニア大学Dornfeld教授、ノースカロライナ大学Smith教授など、工作機械と機械加工プロセスの分野において世界を代表する研究者の多くが参画しており、極めて質が高い会議である。第3回目となる今回は、日本で開催したいとの要望が多く、名古屋大学において計画するに至っている。具体的には、2012年10月29-30日に名古屋大学豊田講堂の会議室にて開催する計画である。主催団体が本分野の国際的な権威であるCIRPであることから、前回までと同様に、質の高い研究発表と技術交流が行われるものと期待できる。
K-7 第62回国際生産加工アカデミー総会(中国)
・細川 晃 金沢大学・理工研究域 教授
発表課題:Cutting Characteristics of PVD-coated Tools Deposited by Unbalances Magnetron Sputtering Method(UBMS法によるPVDコーティング工具の切削特性)
生産加工技術研究の分野では唯一の国際的な組織であるCIRP(国際生産加工アカデミー)において、「UBMS法によるPVDコーティング工具の切削特性」に関する研究の口頭発表を行う。現在、ほとんどの切削工具に用いられているPVDコーティングは、アークイオン・プレーティング法(AIP法)によるものである。これは母材に耐熱性を付与することを主眼においている。本研究では発想を変え、潤滑性を付与することを目的として、フリーカーボンを含有させたコーティング膜の開発に挑戦した。本研究は、アンバランスド・マグネトロン・スパッタ法(UBMS法)によるコーティング技術を高度化し、耐熱性を確保した上で潤滑性を有するフリーカーボンを含有させたPVDコーティング工具の開発を目的としている。開発したUBMS法による工具、特にUBMS-TiCNコーティング膜は摩擦係数が極めて小さく、代表的な難削材であるSUS304ならびにTi合金のエンドミル加工において切削抵抗および切削温度が低く、かつ、平滑な仕上げ面が得られ、工具逃げ面への被削材の凝着も抑制されることを明らかにしている。
K-8 材料と加工に関するアジアンシンポジウム(インド)
・越水 重臣 首都大学東京・産業技術大学院大学 准教授
発表課題:Micro-grooving of Glass Using Small-Diameter Diamond Grinding Stone with Ultrasonic Vibration(超音波振動を援用した小計ダイヤモンド砥石によるガラスの微細溝加工)
マイクロチャネルデバイスと呼ばれるガラス基板上の小型リアクターを製造するためには、ガラス基板上に微細な溝(流路)を加工する必要がある。本研究では、小径のダイヤモンド砥石(直径0.6mm~1.8mm)を用いてガラス板上に高能率かつ高精度な溝研削加工を実現することを目的としている。研削による機械的な材料除去加工は能率がよく複雑形状の加工制御ができるものの、脆性材料であるガラスの加工面にチッピングを生じさせてしまうといった問題点がある。そこで本研究では、回転する小径ダイヤモンド砥石のスラスト方向に超音波振動(20kHz、10µm)を援用しながら研削加工を行うことで、高能率かつ高精度なガラスの微細溝加工を実演した。
The 3rd Asian Symposium on Materials & Processing(ASMP2012)は、2006年に第1回をタイで開催して以来、新素材とその加工プロセスに関する先端的研究の発表・議論の場として、アジアで開催され、今回3回目を迎える。各国の技術者/研究者たちと意見・情報の交換を行いたい。
K-9 材料と加工に関するアジアンシンポジウム(インド)
・廣田 健治 九州工業大学・工学部 准教授
発表課題:Accuracy of Multiple Micro-holes Pierced by Using Press Indenting and Chemical Etching
機械材料・加工・評価等に関する研究者との討論とよび国際交流を目的とした当該会議において、発表者はプレス成形とエッチングを併用した多数微細孔加工の加工精度について口頭発表を行う。
微細孔はノズルやフィルターなどの高機能化に不可欠で、効率的かつ高精度な加工技術が求められている。発表者は塑性加工により金属薄板に微細な圧痕を成形し、裏面をエッチングにより一様に溶解除去して圧痕の横断面形状に沿った微細孔を加工する手法について検討を行っている。本研究では複数の孔を近接させて加工した場合の加工精度に関して検討した。板厚100µmの銅合金箔に本工法で30µm程度の寸法の丸孔と矩形孔が得られたが、圧痕の隣接距離に関しては丸孔では圧痕縁が接するまで近接させても孔寸法に影響しなかったのに対し、矩形圧痕では圧痕幅の2倍程度の間隔でも加工後の孔が隣接方向にゆがんでしまった。その要因について圧痕成形時の材料流動から考察した。また、エッチング量の誤差による孔寸法のばらつきについても明らかにした。
当該会議では広く研究成果を周知するとともに、関連分野の最新の研究発表を聴講しアジア諸国の研究者との交流をはかりたい。
K-10 国際先端砥粒加工シンポジウム2012(シンガポール)
鈴木 清 日本工業大学・工学部 教授
発表課題:Surface Finishing of Electrically Conductive Diamond Tools by Electrolytic Machining
ISAAT(先端砥粒加工国際シンポジウム)は最先端の砥粒加工技術を専門に扱う世界で唯一の研究会議であり、世界中の砥粒加工関連研究者や技術者が最新の砥粒加工技術を発表し、意見を交換し合っている。申請者は当該シンポジウムの設立者(Emeritus Chairman)として出席するとともに、財団の平成23年度研究助成に採択された。「電解加工による伝導性ダイヤモンド工具の表面仕上げ法」の研究成果について発表する。伝導性ダイヤモンドの電解仕上げは世界初の試みであり、航空機部品に用いられるCFRP加工陽ダイヤモンドコーティング工具の表面仕上げへの適用が期待できる。世界的な会議で論文を発表し、各国の技術者、研究者と討論することで、日本初の新たなダイヤモンド工具の加工技術を世界に広めることができる。
(発表論文要約)
This Paper deals with a new surface finishing method of electrically conductive diamond materials by making efficient use of an electrically conductive nature of the workpiece material, instead of mechanical methods. The authors focused on the electrolytic chemical finishing method for the two advantageous features such as a better surface roughness and only a slight increase of heat at the machining point. This can eliminate a risk of the film delamination in the case where a workpiece is the CVD diamond coated tool. The other is that a wider machining gap is available between an electrode and a workpiece. This was thought to allow the electrolytic machining to be applied to a tool with a complex shape such as a drill and an endmill. Based on these concepts, electrolytic machining experiments were conducted on the electrically conductive diamond materials. From the results, it was found that the surface of the electrically conductive diamond could be smoothened enough by electrolytic machining though relatively long period of time was required.
K-11 国際先端砥粒加工シンポジウム2012(シンガポール)
・二ノ宮 進一 日本工業大学・工学部 准教授
砥粒加工技術発展のために日本の(社)砥粒加工学会が幹事団体となって創設したISAAT(International Symposium on Advances in Abrasive Technology)は、今年で第15回目を数え、世界中の砥石加工技術に携わる謙従者が集い、技術交流を行う学会に発展している。申請者らは研削か工事に循環利用する水溶性加工液中に浮遊する微細な遊離砥粒粉や切屑を浄化するため、少量のポリグルタミン酸凝集剤とマイクロバブルを利用した新しい清浄化技術を提案した。既存の加工液の浄化法と比較して、ペーパーフィルタを使用せずに遊離砥粒、切屑および腐敗要因である細菌類の高精度浄化が可能である。マグネットセパレータや遠心分離機などの効果な付帯装置を必要としないため経済的である。本研究によって、この技術は日本(軟水地域)だけでなく、硬水地域での適用が可能であることを明らかにしている。この研究成果を国際会議で論文発表し、各国の技術者、研究者と討論することで、日本の新しい環境対応加工技術を世界に広め、国内外の技術発展に寄与できると期待できる。