茂木敏充 経済産業大臣就任メッセージ 「日本経済再生に向けた三本の矢」

1.新政権の基本方針と緊急経済対策

(1)新政権の基本方針
安倍政権が発足してから、1ヶ月あまりで、株価は1万1400円を超えてリーマンショック後の最高値を記録するまでに上昇しました。円も2年9ヶ月ぶりに一時94円台をつけ、歴史的な円高によって停滞する日本経済に回復の兆しが見え始めました。 

こういったことは、新政権が経済再生のための基本方針を明確に示すとともに、機動的な財政政策として、緊急経済対策を決定し、速やかな実行に移そうとしていることに対して、市場が高い評価や期待感を示していることの現れです。

国民が新政権に期待しているのは、何よりも景気の回復、経済の再生です。やるべきことは3つであり、これが日本経済再生に向けた「三本の矢」です。
第一に、デフレ・円高から早期に脱却するため、明確な物価目標を設定し大胆な金融緩和を行うこと。

第二に、有効需要を創出するための機動的な財政政策として、大型経済対策(補正予算)と本予算の「切れ目ない対策」により景気底割れを回避し、景気の反転を図ること。

第三に、成長戦略の実現により、民間投資を喚起すること。

(2)緊急経済対策、平成25年度予算、税制改正
今回、緊急経済対策、補正予算を閣議決定いたしました。これまでとは次元の異なる対策であり、経済産業省関係の予算は、成長戦略として1.2兆円であり、過去最大規模の対策となっています。

この経済産業省関連の平成24年度補正予算には、5つの柱があります。①まず、民間投資を喚起し企業の国際競争力を強化し、省エネを進めるという観点から最新の設備投資への補助金を計上(3490億円)しております。②2つ目に研究開発、技術開発投資の促進策としてリスクマネー供給の強化などを図ります。③3番目に中小企業・小規模事業者支援として、こうした企業が持つ高度な技術に光を当て、商品化につなげるための試作品作成費用の補助制度(1007億円、全国約1万社対象)を創設します。④さらにはクールジャパンの海外展開を促進する事業、そして⑤防災、復興関係で全国のコンビナート等の耐震性の総点検のための予算も計上しています。

補正予算と合わせて「15ヶ月予算」の考え方のもと、平成25年度予算においても、切れ目のない経済対策を実行します。

例えば、産業再興のため、複合素材技術をはじめ先端技術の開発支援に手厚い予算計上を行っています。また、医療・介護産業やクール・ジャパン戦略など、付加価値の高いサービス産業の育成にも、補正予算に引き続き、重点を置いています。こうした予算措置によって、景気回復、経済再生の流れをより強固なものとしていきます。

また、税制改正においても、永年の懸案であった自動車取得税の廃止や研究開発税制の大幅拡充、事業承継税制の見直しなど、需要や民間投資の喚起を促し、経済活性化に資する大胆な措置をとり、予算・税制両面から経済再生に取り組みます。

2.経済政策の司令塔と成長戦略

(1)経済政策の司令塔
経済再生に取り組む組織体制も新しくしました。まず、3年半ぶりに復活した「経済財政諮問会議」が今後の経済財政運営の基本設計を行います。デフレ・円高からの脱却のため、明確な物価目標を2%に設定し、大胆な金融緩和を進めます。

もう1つの司令塔として「日本経済再生本部」を新たに創設しました。ここが経済政策の実施設計を行いますが、再生本部のもとには「産業競争力会議」が置かれ、    関係閣僚に企業経営者や民間有識者も加え、今後の成長戦略として「戦略市場創造プラン」や日本の国際展開戦略などを立案していきます。

(2)戦略市場創造プラン
今後、成長戦略の立案に当たっては、最初にまずどういう社会を作っていくのか、どういう個人のライフスタイルを求めていくのか、という定義から始まり、それに必要な事業や、それを支えるコア技術を重層的に組み込んでいくという新しいアプローチで、政策立案を進めたいと考えています。

例えば、目指すべき社会の姿の一つとして、単に長生きではなく、日本が「健康長寿世界一」を目指すとすると、iPS細胞も研究だけでなく実用化をさらに進めること、先端医療機器、介護ロボットの開発、医療情報の電子化など幅広い事業分野、技術分野の戦略的育成が必要となってきます。

こうした戦略分野の策定を産業競争力会議の場で行い、ターゲットを決めたら産官学を挙げてあらゆる政策資源(予算、税制、金融、規制改革)を投入していきたいと思います。これこそが「戦略市場創造プラン」であります。

3.日本企業を取り巻く“企業の4重苦”の解消

 

このように、最先端の産業を育てていく一方で、既存の産業についても再生に向けた対策が必要です。今、日本企業が置かれている環境は、国際競争上、非常に不利であることは間違いありません。三重苦であるとか六重苦であるという言われ方もしますが、日本企業を取り巻く環境は、大きく分ければ“4重苦”と言えます。すなわち、①円高・為替問題、②関税などの国境措置、③法人税などの税制や国内の規制、④資源・エネルギーや電力価格など国内コストの4つです。

(1)為替
最初にあげられるのが円高・為替問題です。対ドルでの円高は注目されますが、対韓国ウォンでも、昨年までの4年間でなんと円は2倍の円高になっています。これでは日本企業は、競合相手の韓国企業ととても競争できません。

デフレ・円高からの脱却が新政権の最優先課題です。このため、すでに述べたように明確な物価目標の設定と大胆な金融緩和を行い、他の主要国と同レベルの物価目標2%を実現していきます。

(2)国境措置(関税、FTA、経済連携)
二つ目は国境措置です。経済、企業活動のグローバル化の中で経済連携の面でも、FTA、EPAの締結など、日本は主要国に後れを取っています。私が外務副大臣に就任した10年前には、日本が結んでいるFTA、EPAはシンガポールとの間だけでした。そのため在任中には、優先順位をつけ経済連携協定を加速化させなければならないと指示を出して様々な国との交渉を進めました。
アジア太平洋地域の成長を取り込んでいくことが、これからの日本の成長にとって必要不可欠で、より一層、経済連携の加速化をはからなくてはなりません。こうした意識のもと、日中韓FTA、RCEP、さらに日EU・EPAといった各地域等との経済連携協定の交渉は、迅速かつ精力的に進めていきます。

TPPについては、自民党の政権公約(「聖域なき関税撤廃」を前提とする限り交渉参加に反対等)や連立政権合意を踏まえつつ、まずは、民主党政権の事前協議について検証し、国益にかなう最善の道を求めていくというのが基本スタンスです。先日、スイスでのダボス会議に出張した際も、米国のカークUSTR代表と会談しました。今後もTPPの国内への影響の試算や米国との協議を進める中で、国益にかなう最善の方策を検討していきます。

(3)国内制度(規制改革)
三つ目は国内制度です。我が国の産業競争力強化に向け、規制の改革を行うことは待ったなしです。そのポイントは、①新規参入を促し健全な競争環境を作ること(例えば電力システム改革)、②事業化までのスピードアップ(例えばiPS研究の早期の実用化)、③制度の国際化、日本の制度だけガラパゴスにならないことの3つです。これらについては、新たに立ち上げた「規制改革会議」が「日本経済再生本部」とも連携して検討していくことになります。
日本の制度が海外の制度と異なっている場合(ガラパゴス化の懸念)には、合理的な理由が無い限り3年以内に国際水準に合わせる「国際先端テスト」という新たな手法も導入したいと思います。

(4)国内コスト(資源、エネルギー)
①資源確保の多角化・多様化
そして、最後の問題が資源、エネルギーといった国内コストです。
とりわけ、資源の安定かつ安価な供給確保は、我が国経済・産業にとっての生命線です。資源外交の積極的な展開により、資源国との関係強化を図るとともに、JOGMECによるリスクマネー供給等により、我が国企業による海外権益獲得を支援し、資源調達先の「多角化」、LNG・シェールガスなどエネルギー源の「多様化」という両面から資源戦略を展開していくべきと考えております。

②再生可能エネルギー
エネルギー源の多様化、国内自給率の向上によるエネルギー安全保障の観点からも、再生可能エネルギーの導入拡大は極めて重要です。当面の優先課題として、今後3年間、再生可能エネルギーの最大限の導入を図ってまいります。そのうえで、固定価格買取制度を着実に運用することは不可欠です。家計の負担と導入促進のためのインセンティブのバランスをとり、買取価格について不断の見直しを行っていきます。
 
③原子力
先日、私は福島を訪問し、現職大臣として初めて東京電力福島第一原発4号機の屋内に入りました。そこで実感したことは、世界でも経験したことのない極めて困難な廃炉を進めるに当たって必要な研究開発など、国としてやるべきことが多いということです。

一方、今回の事故の教訓、反省に立って、原発の再稼働に当たっては「安全第一」が大原則です。この原発の「安全性」については、原子力規制委員会の専門的な判断に委ね、安全と認められない限りは原発の再稼働はありません。一方、規制委員会で安全と認められた場合には、その判断を尊重し再稼働を進めます。

④電力システム改革の取組
国内コストを考える上で、もう一つの大きな課題が電力システム改革です。改革の方向性は明確です。そのポイントは、①電力自由化の推進、②送配電部門の中立性・独立性を高めること、③広域系統運用の拡大、ということになります。電力システム改革については「改革は大胆に」「実施は確実に」を基本に、近々改革案をまとめ、今国会に電気事業法改正案を提出します。

4.まとめ

ここまで述べたとおり、日本経済再生のために、まず「三本の矢」を一気に放ち、そのうえで新しい成長戦略や国際展開戦略を立案・実行します。そして日本企業を取り巻く“4重苦”を解消することによって“世界で一番企業と個人が活動しやすい国”を実現していきます。

その新しい経済環境の中に、新しい成長産業を埋め込むことにより、すそ野が厚く広く、頂上がいくつもあり、それぞれが高い「プログレッシオ・ジャポニカ(新次元の日本経済)」を構築していく。今年をその元年にしたいと思います。 

平成25年 2月
経済産業大臣 茂木敏充

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