世界一高い自立式電波塔、東京スカイツリー展望台の構造部品を手がけた麻布成形のココがスゴイ!


東京都内の名所であるスカイツリーは、世界一高い自立式電波塔として有名だが、その展望台の構造部品を手がけた麻布成形(社長=中村義人氏 本社:千葉県浦安市鉄鋼通り1-9-3)は、鉄鋼をとおした社会への貢献を経営理念として掲げ、画期的な「流通加工」機能を高めている。

同社は、2005年に業界ではじめて長尺鋼管加工が可能な3次元レーザー加工設備を導入し、今年7月には最新鋭の『3D FABRI GEAR 220 Mk Ⅱ』(いずれもヤマザキマザック)も加わり、素材から完成品までの工程が完結する生産を実現している。

中村社長を訪ねお話を伺った。

残る仕事には夢がある

地図に残るような構造・建築物に携わる企業や人がいる―――。
「大きな建造物を指して、“あの仕事はオレがやったんだ”といえるって夢があるじゃないですか」と話す中村社長。
仕事人としての誇りと夢をこう語る。

「出来上がったモノを指して、あれはオレが携わったんだ、でもいいし、爺さんが携わったんだ、でもいい。私が携わった、あるいは母ちゃんが携わったでもいい。地図に残る仕事に携われることは誇らしいことで、営業であっても工場勤務であっても仕事への想いが如実に出てきます。そしてそんな誇らしい仕事を追い求める。それが麻布成形です」(中村社長)


さて、麻布成形のある浦安鐵鋼団地は、敷地面積32万6000坪、東京ドーム22個分の広さを持つ。ここに270の工場があり、およそ4200人が働いていると聞いた。
扱う鋼材は年間600万トン、全国の出荷量の8.5%に相当するという大変な量なのだ。
多くの種類の鋼材がこの鐵鋼団地に入荷し、様々な形に加工されて出荷される。

麻布成形は1980年に卸業として設立された会社だが、近年の日本経済の不安定さから事業を見直し、今では素材から加工までの一貫生産を展開している。浦安倉庫には各種在庫を取り揃えており、特に表面処理角型鋼管の品揃えは業界トップを誇る。

「産業構造が変わり、業態が徐々に変化していきました。お客様からの要求が変化していったのです。これは事業の見直しへのキッカケとなり、われわれもお客様の高度なニーズに応えるために付加価値を高めるべく、お客様の設計にまで踏み込むという取引へ変化していきました。構成比率は車産業が50%、建材が50%ですが、問屋でありながら加工をするということを目指しました。目指すには下請けという概念は払拭したい。狭間産業の中で、付加価値の高い商売をしたいと考えるようになりました。品物は流れるとどこにいっているか分からない。儲かったかどうかという数字しかみなくなる。だけど自分が売った品物がどこに使われているか分からないのは嫌じゃないですか。私は人生を振り返ったときに自分に何も残っていなかったら嫌だ。これは私のものづくりの始まりでもあるんです」(中村社長)

もともと問屋業だった中村社長だが、現場のリサーチを含めてユーザーを回っていた。歩いているうちに、ものをつくる側の気持ちが分かってくる。また、問屋だったからこそ分かることもできた。まさに足で情報を掴んでいったというバイタリティ溢れる人物でもあるのだ。

中村社長は、「優れた加工技術がありながら売る技術がなくて縮小してしまった会社もみてきましたが、私も問屋の延線上の加工だけではいけないと思いました。そこで3次元加工レーザー加工設備を導入し、精緻な複雑形状加工を開始することにしたんです。アプリケーションの事例を積み上げ、つい最近、最新鋭機であるヤマザキマザック『3D FABRI GEAR 220 Mk Ⅱ』を導入したばかりなんですよ」と、未来を見据えた力強い設備投資欲をみせてくれた。

開拓しよう挑戦しよう! という気持ちのもと、5年も東京ビッグサイトに通った理由

ヤマザキマザックのレーザー加工機を買うのになんと5年も東京ビッグサイトに通ったという中村社長。狙うは最新鋭工作機械の展示会である。ヤマザキマザックの3次元レーザ加工機に狙いをつけていた。

当時の様子を中村社長は、「欲しくてずーっとみていましたね。マザックさんの担当者さんも「あ、また来てる」と思ったかもしれません(笑)。2次元レーザーは皆さん使いはじめていましたから、3次元レーザーがどうしても欲しかった。お客さんが要求していることはすでに3次元の世界でしたから、どうしても欲しくなったのです。欲しくて欲しくて5年ほど通いましたね」と笑う。

折しも時はリーマンショックで日本経済が揺らいでいた時期である。こんな時期に大きな設備投資を決断した中村社長。価格は1億5000万円ほど。

「不景気のときに、そんな大きな設備投資をして、周囲から“バカじゃ無いか”って思われていたかもしれませんね。当時はリーマンに東日本大震災と日本経済は辛い目にあったけれど、実は皆が困っていたときに設備投資をしたこの3次元レーザー加工機が動いたんです。私は設備投資をしたからお陰で皆の手助けをすることができました。投資をしたことは大変でしたが、それ以上に、皆様のアイデアを具体化するためのマシンが動いてくれたのですからありがたいことでした」(中村社長)

2020年には東京オリンピック開催される。中村社長も意欲満々だ。
「今度のオリンピックね、この仕事もスカイツリーと一緒で、世の中に残る仕事です。どこか携わることで、“こういう仕事をやった”と思える。この気持ちが“この仕事をとりたい!” という強い原動力になっています。生きて仕事をした証ですからね。その気持ちはとても強いですよ」(中村社長)

加工業でありながらサービス業的な視点を持つ女性の活用

中村有美子鉄管加工センターセンター長代理
中村有美子鉄管加工センターセンター長代理
逆提案ができる人材育成を心がけているという中村社長。
同社の女性陣は優秀である。重たい荷物は持てないが細かいことに気付くうえ、「図面がおかしいよ」と実に軟らかく先方に指摘する。確かにイカツイ男性が指摘するより女性が優しくいうと角もたたないというものだ。

「加工業でありながらサービス業的な視点は重要です。流通の立場からだと俯瞰でものが見えます。技術だけじゃものが売れない時代ですからね。必要とされるものを的確に把握するのはとても大切なことで、笑顔のあるところは仕事が入ってくる。これは実感しています」(中村社長)

ちょうど赤いツナギが素敵な女性2名にお会いすることができた。
中村有美子鉄管加工センターセンター長代理は、「仕事をやっていくうえでは皆さんの仕事が進めやすいようにと常に心がけています」と話してくれた。

今風にいうと、この“カッコ可愛い”ツナギにも女性陣のこだわりが詰まっているという。
たしかに女性はいくつになっても、服装でモチベーションが左右されることがある。その女性の細やかな気持ちを組んだ中村社長、さすがである。
余談だが、中村センター長代理と中村社長は同じ名字だが、血縁関係はないとのこと。

「会社の工場に入る服ですが男性が着ているようなものではなくて、ちょっと可愛く見えるようなこだわりがあったほうがいいかな、と考えていました。作業着が青なんで、それじゃあ面白くないし男性陣と同じだと思って思い切って赤にしましたんですよ。ちなみに男性は社名の刺繍が漢字ですが、勝手にアルファベットにしちゃった(笑)そのへんはある程度自由にやらせて下さったので、社長に感謝しています。前例がなかったものですから好きにして良いっていわれたので思い切ってやってみたんです」(中村有美子さん)

関野理佐さん
関野理佐さん
浦安鉄鋼団地は最近、女性も多くなってきたという。プレゼンもする、今の仕事に携わっているものはなんでもするという意欲に溢れた社員たちの感性がキラリと光る。

CADオペレータの関野理佐さんも「まだまだ勉強中ですが頑張ります!」と意欲を見せた。

素材から加工、そして流通と一貫して事業展開をしているという考え方はまさに中村社長イズムである。これだけやってればいい・・・・ということはここにはなかった。

工場長はマザックオタク! 最新設備の導入で経済効果とともにテンションもアップ!

 

最新マシンヤマザキマザック社製『3D FABRI GEAR 220 MkⅡ』で得意としている高速で素早い加工がさらにパワーアップした。
最新マシンヤマザキマザック社製『3D FABRI GEAR 220 MkⅡ』で得意としている高速で素早い加工がさらにパワーアップした。
小ロットの製品を短納期で精度よく仕上げる体制を整えた中村社長が、欲しくて欲しくてたまらなかったという惚れ込んだマシンは、ヤマザキマザック社製『3D FABRI GEAR 300』。

このマシンの最大のメリットは、1台のマシンで全ての工程が完結することだ。段取り工程削減による生産リードタイムの大幅短縮、高精度化、取付け治具費用の削減など経済的にも大きな効果をもたらしてくれる。

訪れた人々を魅了する東京スカイツリーの展望台の構造部品や東京・赤坂の地下街からTBSに通じるエリアの照明灯にもこのマシンは威力を発揮した。取引先や仕事量も増え、前期比25%の売上高を確保した(2012年7月期決算)というから驚きである。

そうしてこの7月、同社に新たなマシンが加わった。ヤマザキマザック社製『3D FABRI GEAR 220 MkⅡ』である。得意としている高速で素早い加工がこの設備の導入により、さらにパワーアップしたのだ。

熊谷稔鉄管加工センター事業部工場長は自他とも認める“マザックおたく”とのこと。
熊谷稔鉄管加工センター事業部工場長は自他とも認める“マザックおたく”とのこと。
さらに速い加工をしたい、さらに大きな径の加工をしたい、という欲張りなニーズを叶えてくれるこのマシンは、従来のシリーズを大きく進化させている。新型発振器搭載でランニングコストが低減されただけでなく、人間工学や環境対応を考慮した機械設計により操作性も大きく向上しているという。パイプ・形鋼の長尺材をローディングステーションに載せるだけで素材の搬入から3次元レーザ加工、切断部材の搬出まで自動的に行ううえ、タップユニット(オプション)を搭載すれば3次元レーザ加工からタップ加工まで一台で完結する魅力のマシンだ。

「鐵鋼団地の中でも、ここまで大物を素早く加工できるのはウチだけ」と話すのは熊谷稔鉄管加工センター事業部工場長である。「マザックのこのマシンをオレに使わせたら一番といわれるほどのマザックおたくかもしれない」と笑う。

「人の目に触れ残る仕事をする喜びを社員と共有する」という中村社長が率いる麻布成形は、他にも次世代エネルギー関連などを含めて、現代社会の必要とされているものに必要不可欠な仕事を請け負い、今日も日本の成長を支えている。
日本の加工現場は実に奥が深い――――。

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