宇都宮製作所がコバルト問題をクリアする! 業界初の循環式濃度低減装置に注目!
人体に悪影響があることを懸念して、2012年、労働安全衛生法施行令等一部改正により特定化学物質の第2類物質として「コバルト及びその無機化合物」が新たに追加指定された。
切削(超硬)工具に必要な超硬合金はタングステンにコバルトが結合材として使用される。コバルトを含有した高速度鋼(コバルト・ハイス)、も、加工中の熱に強く硬さが維持できるとして加工現場で重宝されている。つまり、コバルトは切削工具に欠かせない材料なのだ。このような時流を背景に工具業界は健康障害防止装置を講じているが、宇都宮製作所(社長=宇都宮周太郎氏)が業界で初めて循環式濃度低減装置を開発した。
宇都宮社長は自社の強みについて、「創業から90年という永い歴史の中でドリルを始めとする各種切削工具と、これらの製造ノウハウを活かして開発したCNC工具研削盤を始めとする各種切削機械技術の融合がなせる製品群です」と話す。
切削工具の国産化を目指して90年前に創業
自動車・エレクトロニクス・航空宇宙などあらゆる産業に貢献している宇都宮製作所の歴史は古く、大正12年に初代社長宇都宮徳太郎氏が東京府荏原郡袖ヶ崎町(現在の東京都品川区内)に創業したのが始まりだった。当時の日本は切削工具類の大半を輸入に頼っており、作業中における工具の欠け、折れ等のアクシデントが起こるたび、海外へ発注しなければならなかった。「創業者の徳太郎は私の祖父で、呉海軍工廠に工長として勤めていました。当時、作業中にドリルやミーリングカッタ等が折れたり欠けたりすると、アメリカへ工具を注文しなければならず、届くのに半年もかかり、さらなる作業の遅延に悩んでいたそうです。そこで、“この工具なら今までの経験でつくれる!”と考え、工具の国産化を目指して独立したと聞いています」(宇都宮社長)
日本の工廠や民間工場の需要があるといち早く目をつけた創業者の徳太郎氏は独立し、ドリル製造用の機械加工に専念したという。その後、紆余曲折しつつも、知人の紹介で神奈川県川崎市に移り住んだ。ところがその1年後の大正12年9月1日、関東大震災が起こる。東京・横浜中が大火災となり、この大きな出来事は徳太郎氏が東京へ出るきっかけとなった。
「祖父は火災が収まったころ、被害状況を見て回ったそうです。すると工作機械輸入業者の倉庫が焼けていて機械が見えた。よく見ると機械はそんなに焼けてはおらず、長年機械を扱ってきた目から見て、“メンテナンスをすれば使える!”と思い、この輸入業者に機械を譲って欲しいと申し出たところ、安価で譲っていただいたとのことでした。そうして今でいう東京都品川区内に工場を構えたのです」(宇都宮社長)今では切削工具から治具、専用機、NC工具研削盤と幅広く製造している宇都宮製作所は、工具の国産化に寄与したという偉業を成し遂げた企業だったのだ!
法改正によりコバルトが特化物の対象となった現在、画期的な循環式濃度低減装置『霧隠れ再造くん』の開発に成功、これも永年に亘り蓄積されたノウハウと工具にかける情熱が結合した結果であろう。
業界初! 循環式濃度低減装置が現場を救う!
さて、法改正によりコバルトが特化物の対象となったが、ここで困るのは工場の局排である。従来から局所排気装置は室内放出が不可であり、特定化学物質障害予防規則の改訂で、さらに規制が厳しくなった。切削工具にはコバルトが付きものであり、なんとかできないものかと考えた。そこは意志決定が早い宇都宮製作所。社員のアイデアに社長と工場長が「よし、やるぞ!」と言えば、即、現場は動く。コバルトの抑制濃度は0.02mg/㎤。
局排装置からの室内排気は法的に0mg/㎤でなければならない。
そこで考案したのはダブル循環機能の搭載だった。
桑原浩之管理部次長は、「通常だとミストが出てくるので工場の床がベタついたりするんですが、『霧隠れ再造くん』は、ミストが出ないので工場を清潔に保つことができます。また、加工独特のニオイが出ないのもメリットのひとつ」と話す。
「循環式だからコストも低減できます。現在、循環式濃度低減装置は宇都宮製作所がつくるものしかありません」(桑原次長)
近年、アメリカではカビ系の悪影響で訴訟が起きていると聞いた。
そのうち日本もミストそのものの規制が厳しくなるかもしれない。
この循環式濃度低減装置『霧隠れ再造くん』は、さらにコンパクト化し、同社製品に標準化する予定だ。
工具やさんがつくったマシンだからこそ付加価値が高い!
コストダウン約30%のエコ型マシン『TGR-016α』も絶好調!
さ
て、宇都宮製作所は顧客の要望に合わせたマシンをつくっており、要望は配線ひとつとっても仕様は異なるがユーザーニーズに細かく対応している。そこが高く評価され、現在、製造しているNC工具研削盤『TGR-016α』も絶好調だ。このマシンは圧縮エアーや油圧ユニットが不要であり、従来比の約30%もコストダウンに成功している。高い経済効果と省エネ・エコを兼ね備えた工具研削盤なのだ。
ドリルでは刃先形状をセンサーで測定し、ネガランド加工をするソフトも標準装備、砥石スピンドルモーターをよりパワフルに変更し高負荷研削に対応。対話型のデータ入力ができる加工ソフト(工具加工CAM ITPS)を標準装備している。コンパクトで低価格であるこの製品も、工具メーカーがつくるマシンだからこそ出来た一品だ。
「先述の局排装置『霧隠れ再造くん』と組み合わせて前面に出していきたい」と語る渡辺信行取締役工場長。
「われわれは、お客様の要望に合わせる形をとっており、それにはフォローが重要で、決して売りっぱなしにはしません。弊社は工具も工具研削盤も製造しており、機械は工具メーカーがつくった機械だからこそ細かい所まで気を配ることができると自負しています。ありがたいことに、“工具が分かっているから加工ソフトが優れている”と自動車関連や金型メーカー、工具メーカーからも高い評価も頂いております」(渡辺工場長)宇都宮製作所はこの90年間、戦争もオイルショックもバブル崩壊もリーマンショックも乗り越え、いつの時代も日本のものづくりの底力として貢献し、生き抜いてきたというドラマチックな企業だ。工具にかける情熱はどんなに時代が変わろうと消えることはない。
渡辺工場長は「工具メーカーである弊社は、メカのオートドリルポインターの製造を永年やってきました。培った工具形状の幾何学解析力はまさに遺産。この遺産をベースとする加工ソフト作成の技術力は最大の強みです。さらに低価格で使いやすく、高精度機械の開発が求められている今こそ、これらをさらに発展させていくのがわれわれの役目だと思っています」としめくくった。